04認知症コラム
認知症とは?予防は可能?症状や対処法について解説
2024.02.22
年齢を重ねると、誰でももの忘れを経験するでしょう。しかし、認知症と加齢によるもの忘れは違います。この記事では、認知症の種類や症状、予防方法、対処法について詳しく解説します。ご自身やご家族のもの忘れが気になる方は参考にしてみてください。
認知症とは?
認知症とは、脳の細胞が死んだり機能が低下したりすることで、記憶や判断力などに障害が生じ、日常生活に支障をきたす期間が6カ月以上続く状態を指します。
認知症は進行性の疾患で、症状が進むにつれて一人での生活が困難になるため、家族や介護者の支援が必要です。現在、認知症を根本から治す治療法は存在せず、症状の進行を遅らせたり、症状を和らげたりすることしかできません。
65歳未満で発症する認知症は「若年性認知症」と呼ばれ、高齢者の認知症とは異なる特徴があります。また、認知症と正常な状態の中間に位置する認知症を「軽度認知障害(MCI)」と呼び、認知機能の低下がみられるものの、日常生活に大きな支障はきたしていない状態です。
認知症と「もの忘れ」の違い
認知症 | 加齢による 「もの忘れ」 |
|
---|---|---|
脳で起きて いる現象 |
脳細胞が病気によって減少・変性している。脳委縮が起きている |
加齢に伴い脳細胞が減少している。生理的な変化 |
記憶の忘れ方 | 体験したこと自体を忘れる |
体験したことの一部を忘れる |
忘れている自覚 | なし | あり |
新たに記憶する | できない | 可能 |
日常生活への 支障 |
支障あり | 軽度またはない |
妄想 | 可能性あり | なし |
性格の変化 | 可能性あり | 基本的にはない |
症状の進行 | 進行する | あまり進行しない、または極めてゆっくりと進行する |
認知症による症状と、加齢によるもの忘れの大きな違いは、体験したこと自体を忘れるか、一部を忘れるかです。加齢によるもの忘れと違い、認知症は脳細胞の大幅な減少や変性、脳萎縮が起きて認知機能が低下するため、忘れ方や自覚症状に違いが生じます。場合によっては、記憶やコミュニケーションなどを司る前頭葉、言語や記憶、物事の理解に関わる側頭葉が萎縮し、病状が進行すると性格が変化することもあります。
認知症の種類
認知症には種類があり、代表的なものは上記の4つです。なかでも「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」の3つは3大認知症と呼ばれています。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、脳に「アミロイドβ」というタンパク質が蓄積することで神経細胞が破壊されて発症する認知症です。これにより、脳が萎縮し認知症の症状が現れてきます。アミロイドβが脳に蓄積するはっきりとした原因はわかっていませんが、糖尿病や高脂血症、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病と関連が示唆されています。
血管性認知症
血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因で、脳の神経細胞が障害されて発症する認知症です。脳血管障害はアルツハイマー型と同様に糖尿病や高血圧症、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病と関連があるとされています。特に、血管性認知症は高血圧症との関連性が高いという研究結果が出ています。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、特殊なタンパク質「レビー小体」が神経細胞に増加し発症する認知症です。アルツハイマー型に次いで多くみられる認知症で、認知症全体の約20%を占めます。男性に多い傾向にあり、幻視や妄想、パーキンソン症状、認知機能の変動などの症状が特徴です。治療は薬物療法が中心ですが、薬剤に過敏な反応を示す場合があります。進行が速いため、早期診断と治療が重要です。
レビー小体型認知症について詳しくはこちら前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、前頭葉と側頭葉が萎縮して発症する認知症です。特定のタンパク質が脳内に異常蓄積して、神経細胞の変性や脱落が起こることが原因とされていますが、まだはっきりとは解明されていません。周囲の目を気にしない自分本位の行動がみられるようになりますが、ほかの認知症によくみられるもの忘れなどの症状は目立ちにくいです。ほかの認知症に比べ若い年齢で発症する傾向にあり、ほとんどが70歳までに発症します。
認知症の症状
認知症の症状には大きく分けて中核症状と、その症状に伴う行動・心理症状(BPSD)の2種類があります。ここでは、それぞれの症状の特徴を解説します。
中核症状
障害の種類 | 症状 |
---|---|
記憶障害 | ・同じことを何度も言う ・聞く |
理解・判断力 の障害 |
・考えるのに時間がかかる |
実行機能障害 | ・仕事や家事の段取りができない |
見当識障害 | ・場所や時間がわからない |
中核症状とは、脳細胞の損傷や機能低下によって起こる直接的な症状です。主に記憶障害、理解・判断力の低下、実行機能の障害、見当識の障害がみられます。これらの症状は認知症の代表的な初期症状で、早期発見と適切な対応が重要です。 初期の段階ではまず記憶障害が現れ、同じことを繰り返し言う・聞く、少し前の出来事を忘れるなどの症状がみられるようになり、日常生活に支障が出始めます。進行とともに、記憶障害が強くなり、理解・判断力の低下や実行機能障害、見当識障害など今までできたことが上手くできなくなるでしょう。重度になると、中核症状によって寝たきりになる場合もあります。
認知症の初期症状について詳しくはこちら行動・心理症状(BPSD)
障害の種類 | 症状 |
---|---|
障害の種 | ・徘徊 ・暴力 ・排泄の失敗 など |
心理症状 | ・怒りっぽくなりイライラする |
中核症状の出現に付随して起こる症状を行動・心理症状(BPSD)と呼びます。BPSDは「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の略で、中核症状に対して周辺症状といわれることもあります。
具体的には、徘徊や暴力を振るうようになるといった行動の変化や、怒りっぽくなる、強い不安感を抱き鬱状態になるなどの心理的な変化です。中核症状の出現による本人の戸惑いや不安感などから現れます。本人の性格や心理状態、環境などの要因が絡み合って出現し、個人差が大きくみられます。
認知症の予防
予防法 | 内容 |
---|---|
身体活動 | 身体活動は、認知機能正常の成人に対して認知機能低下のリスクを低減するために推奨される。 |
禁煙 | 禁煙介入は、認知機能低下と認知症のリスクを低減する可能性があるため、喫煙している成人に対して行われるべきである。 |
健康なバランスのとれた食事 | 健康なバランスのとれた食事は、すべての成人に対して推奨される。 |
アルコールの減量 | 危険で有害な飲酒を減量または中断することは、認知機能正常または軽度認知障害の成人に対して認知機能低下や認知症のリスクを低減するために行われるべきである。 |
認知トレーニング | 認知トレーニングは、認知機能正常または軽度認知障害の高齢者に対して認知機能低下や認知症のリスクを低減するために行ってもよい。 |
認知症は完全に予防できるものではありません。ただし、規則正しい生活習慣や運動、禁煙、アルコールの減量、認知トレーニングなどがリスクを低減することに効果的であるとWHOのガイドラインで示唆されています。
脳の神経細胞を健康に保つためには、上記の習慣を継続することが大切です。運動としてウォーキングを習慣づけたり、認知トレーニングとして社会活動に参加したりするのもよいでしょう。認知症は一度発症してしまうと完治が難しいとされているため、何よりも予防が大切です。
認知症予防について詳しくはこちら認知症の対処法・支援
現在のところ、認知症を完全に抑える治療法はなく、症状を遅らせる方法しかありません。ただし、一部で「治療可能な認知症」と呼ばれる特殊な病気があり、硬膜下血腫や水頭症、脳腫瘍などの脳の病気や、甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症などの体の病気、うつ病、せん妄、てんかんなどの精神神経系の病気が含まれます。
これらの病気は認知症に似た症状が出現するものの、原因疾患の治療によって改善する可能性があります。
一般的な認知症に対してはどのような対処法や支援があるのか見ていきましょう。
中核症状には薬物療法
アルツハイマー型認知症に対する薬物療法には、コリンエステラーゼ阻害薬(塩酸ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)とNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)が使用されます。軽度から中等度の症状に対して脳の働きを活性化させ、意欲を高める効果が期待できるでしょう。また、レビー小体型認知症にもコリンエステラーゼ阻害薬(塩酸ドネペジル)が処方される場合があります。
しかし、これらの薬剤の効果は一時的で、症状を遅らせる効果が期待できる程度です。また、副作用が出現する場合もあり、使用に際しては注意が必要です。血管性認知症に対して明確な効果がある薬剤は今のところありませんが、生活習慣を改めることが症状の進行を遅らせるうえで重要であるといえます。
行動・心理症状(BPSD)には適切なケアや環境調整、リハビリテーション
行動・心理症状(BPSD)にはパーソンセンタードケアや環境調整、リハビリテーションが特に有効とされています。パーソンセンタードケアとは、認知症を持つ人を一人の人間として尊重したケアを提供しようとする考え方です。
ほかにも、デイサービスや介護サービスを利用して、本人が快適に暮らせるように環境を調整することも大切です。こうした取り組みは介護する家族の負担を減らすことにもつながります。リハビリとしては家事や買い物など日常生活に関わる動作が有効でしょう。
認知症の方との接し方
コミュニケーションの原則
- 話題を直接関係があることに集中する
- 指示を簡単なものにする
- 情報の量を減らして、要点を絞る
- 小さな情報に分ける
- その情報をゆっくりとひとつずつ提示する
- 時間をとって注意をじっくり払うようにする
- その人の自身の言葉で復唱させる(書いてもらう)
- 注意を喚起する
- 周りの騒音を少なくする
- 手振り身振りを使う
- 落ち着いた調子で話す
- 沈黙しても急かさず、待つ
- よく耳を傾けて何を言おうとしているのか聴き取る
困った行動への対応の原則
- 日頃からいい家族関係を作っておく
- 非難や説得は効果がない。誉める、嬉しがる、感謝する
- 楽しいこと、興味のあることができるように話しかけ、一緒に行動する
- 困った行動のパターンをしっかり観察する
- 困った行動の原因を考え、それを取り除くように努力する
- できるだけ制止せず、冷静に収まるのを待つ
認知症は、初期段階(軽度認知障害の段階)では本人が最も早く気付く場合が多いです。不安や悲しみ、周囲への疑念など、さまざまな感情に苛まれることもあるでしょう。家族や支援者は、認知症の方の感情を理解し、驚かせたり焦らせたりせず、否定的な言動で自尊心を傷つけないよう配慮が必要です。そのためには、コミュニケーションの原則、困った行動への対応の原則を理解しておきましょう。
ただし、家族にも自分の人生があるので、信頼できる介護サービスを見つけ、適度に利用することも大切です。認知症の方を支えるには、単に介護するだけでなく、その人の尊厳を守り、可能な限り自立した生活を送れるようサポートすることを心がけてください。
認知症に対するこれからの意識の持ち方
総務省の調査では、2023年9月時点で、日本の高齢者人口(65歳以上)は3,623万人です。総人口に占める高齢者人口の割合は29.0%と過去最高に達し、今後も高齢者の割合は増加するでしょう。内閣府の調査によると、2025年には高齢者人口は3,677万人に達すると見込まれています。
65歳以上の認知症患者は高齢者人口とともに今後も増え続けることが予想され、2030年には800万人以上、2060年には1,200万人弱にまで到達することが予想されています。認知症は社会問題であり、若い人も正しい知識を持ち、みんなで支える社会をつくることが必要です。
そのためにも、正しい認知症の予防方法、遅らせる方法を理解し、実行する意識が大切でしょう。
認知症の理解は正しい知識を持つことから
認知症は予防することが大切ですが、現在の医学では完全に予防することは難しいとされています。ただし、もし認知症になったとしても薬物療法で進行を遅らせることや、個人を尊重したケアやリハビリテーションを行うことで症状の緩和が期待できます。正しい知識を持って、機能を維持しながら穏やかな生活を目指しましょう。