04認知症コラム

認知症の方に最後まで残る記憶は?
忘れる
順番や原因、対応方法を知って適切なケアを

2024.11.29

認知症の方に最後まで残る記憶は?忘れる順番や原因、対応方法を知って適切なケアをイメージ

認知症になると、過去の記憶が失われることがあります。しかし、いくつかの記憶は最後まで残り、認知症の方に安心感や幸福感を与えることもあるようです。この記事では、最後まで残る記憶の種類や、反対に忘れやすい記憶の種類について解説します。また、認知症を進行させる原因も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

認知症になっても最後まで残る記憶の種類

幼少期の思い出 繰り返し行う日常動作 感情的な出来事・強く印象に残った体験

認知症になっても最後まで残る記憶の種類イメージ

認知症の基本的な症状の一つに記憶障害があります。記憶障害とはもの忘れや身近な人の顔を忘れるなど、記憶関連の症状です。

認知症になるとさまざまな事柄を忘れていきますが、感情や習慣に深く結びついた記憶は最後まで残りやすいといわれています。たとえば、幼少期の思い出や、何度も繰り返してきた日常動作などは残りやすい記憶です。

また、家族との楽しい時間や、印象的だったイベントの記憶も保持される傾向にあります。これらの過去の記憶は、認知症の方に安心感や幸福感をもたらす重要な要素となるでしょう。

認知症で記憶が失われる2つの原因

認知症には中核症状と呼ばれる、認知症の方すべてにみられる症状があります。そのうち、記憶が失われる原因として「記憶障害」と「見当識障害」が挙げられます。記憶を失ってしまう原因をみていきましょう。

中核症状とは?
すべの認知症患者にみられる症状。徐々に進行し、改善を見込めない。記憶障害や見当識障害、判断の障害、実行機能の障害などの種類がある。

中核症状について詳しくはこちら

認知症で記憶が失われる2つの原因イメージ

記憶障害

記憶障害は、認知症の症状の中でも早い段階から現れるといわれています。自分が体験した出来事や過去についての記憶が抜け落ちてしまう症状です。

また、記憶障害になると、覚えていたことを忘れるだけでなく、覚えることが難しくなることがあります。時間経過とともに症状が進行し、忘れてしまう事柄も増えていくことが一般的です。

記憶障害について詳しくはこちら

見当識障害

認知症で記憶を失うのは、記憶障害だけでなく見当識障害も関わっています。見当識障害とは時間や場所の感覚などが薄らぐことを指し、記憶障害と並んで比較的早期から現れる症状です。

見当識障害により場所の感覚が薄らぐと、慣れ親しんだ場所に行く道がわからなくなったり、自宅の近辺や自宅内で迷子になったりすることもあります。さらに症状が進むと、人との関係に対する記憶が薄らぎ、家族や友人を認識できなくなる場合もあるのです。

見当識障害について詳しくはこちら

記憶障害で忘れることと順番

認知症になると、近い記憶から忘れる傾向にあります。数秒から数分の間だけ保持される記憶(即時記憶)から忘れていき、その後、過去の大きなイベントや言葉の意味、体が覚え込んでいる記憶を忘れることが一般的です。

記憶障害の順番 概要
1.即時記憶 数秒から数分の間の記憶
2.近時記憶 数分から数日の間の記憶
3.遠隔記憶 数十年内の記憶
4.エピソード記憶 過去に経験した出来事に関する記憶
5.意味記憶 言葉の意味や概念に関する記憶
6.手続き記憶 体が覚え込んでいる記憶や、無意識で行動できる記憶

1.即時記憶

即時記憶は、数秒から数分の間だけ保持される記憶です。即時記憶が失われると直近の出来事が思い出せなくなるため、生活に支障をきたすことがあります。認知症の最初の症状として、即時記憶に対する障害が生じることも少なくありません。

具体例
  • 今日の日付が思い出せない
  • 同じ行為や質問を何度も繰り返す
  • 物を置いた場所がわからなくなる ……など

2.近時記憶

近時記憶には明確な定義はありませんが、数分から数日の間だけ保持される記憶を指すことが一般的です。近時記憶に障害が生じると、今朝や昨日のことを忘れたり、時系列があやふやになったりすることがあります。また、昔に体験したことはすぐに思い出せるのに、最近のことがわからないときも近時記憶に障害が生じていると判断できるでしょう。

具体例
  • 朝食に何を食べたか思い出せない
  • 昨夜立てた予定が思い出せない
  • 一昨日、誰と会ったかわからない ……など

3.遠隔記憶

遠隔記憶は近時記憶よりも長い記憶で、数十年の間の事柄や数ヶ月単位の事柄に関する記憶を指します。遠隔記憶に障害が生じると、自分自身が結婚していることや子どもがいたことさえ忘れることがあるようです。また、最近起こった出来事を長く覚えていることが困難になります。

具体例
  • 家族や自分の名前を忘れる
  • 自分自身が結婚していることを忘れる
  • 自分自身に子どもがいることを忘れる ……など

4.エピソード記憶

エピソード記憶とは、過去に経験した出来事に関する記憶です。何をしたかを忘れてしまうもの忘れとは異なり、出来事そのものを忘れてしまいます。リハビリをしても、リハビリをしたこと自体を忘れるため、効果を得にくくなることもあるようです。

具体例
  • 朝ご飯を食べたことを忘れる
  • 新しい家に引っ越したことを忘れ、現在住んでいる家が自分の家ではないと言う
  • 昨日、友人と会ったこと自体を忘れてしまう ……など

5.意味記憶

意味記憶とは、言葉の意味や概念に関する記憶のことです。意味記憶に障害が生じると、ものの名前が出てこなくなるため、会話が通じにくくなります。とくにアルツハイマー型認知症でみられる症状です。

具体例
  • ものの名前が出てこないため、「あれ」や「それ」が増える
  • 知っているはずの言葉の意味を説明できない
  • 知っているはずの外国の都市名が出てこない ……など

6.手続き記憶

手続き記憶とは、無意識に体が覚えている記憶です。手続き記憶に障害が生じると、習慣的にできていた行為が困難になってしまいます。日常生活に支障が生じ、介護が必要になることも少なくありません。

具体例
  • 自転車の乗り方がわからなくなる
  • トイレに行った後、流すのを忘れる
  • 自分の名前を書けなくなる ……など

見当識障害で忘れることと順番

見当識障害が生じると、時間や場所に対する認識が曖昧になり、その後、人物認識も曖昧になることが一般的です。忘れる順番を把握しておくことで見当識障害の進行度を理解しやすくなるため、事前に確認しておくようにしましょう。

見当識障害の順番 概要
1.時間 日時や季節についての感覚が薄れる
2.場所 今いる場所や道順がわからなくなる
3. 身近な人の名前や顔、自分の存在がわからなくなる

1.時間

最初に時間の感覚がわからなくなるといわれています。現在の時刻や日付がわからなくなったり、適切な時間に準備を始めないため約束に間に合わないなどのトラブルが起こったりすることもあるでしょう。時間の見当識障害が進行すると、季節の感覚がなくなり、気候に適さない衣類を選ぶこともあります。

具体例
  • 今日の曜日がわからない
  • 真冬なのに軽装で出かけようとする
  • 出かける時間を逆算できず、約束の時間に間に合わなくなる ……など

2.場所

次に場所の感覚が薄れるといわれています。今どこにいるのかわからなくなったり、近所や家の中で迷子になったりすることも少なくありません。場所の見当識障害が生じると、徘徊が起こりやすくなります。

具体例
  • 道順がわからず、慣れ親しんだ場所に到着できない
  • 目覚めたときに、ここが自宅であることが認識できない
  • 遠い場所に歩いて行こうとする ……など

3.

見当識障害が進行すると、人物の認識が困難になるでしょう。家族や親しい人の顔・名前がわからなくなったり、自分自身が認識できなくなったりします。また、存在しない人を作り出し、エピソードを語ることもあるようです。

具体例
  • 家族の顔を忘れ、初対面のように接する
  • 家族に対して「勝手に人の家に上がり込んで!」と攻撃する
  • 自分が誰かわからず、不安が強まる ……など

認知症が進行しやすくなる原因

記憶障害や見当識障害などの認知症の中核症状は、徐々に進行していきます。しかし、誰もが同じように進行するのではありません。進行速度を速める原因について解説します。

ストレスの増大 運動や思考機会の低下 生活習慣病

ストレスの増大

ストレスは認知症の進行を促進する原因の一つです。過剰なストレスを受けるとコルチゾールというホルモンが分泌され、注意力や記憶力が低下したり、不安感が高まったりといった影響が生じます。また、慢性的なストレスも、脳の健康を損ない、記憶機能を低下させる要因です。

認知症を発症すると、日常生活でミスをしてしまうことが増えます。周囲がミスを責め立てたり失望感をあらわにしたりすると、認知症の方のストレスが増大しかねません。症状が進行させる可能性があるため注意が必要です。

運動や思考機会の低下

運動不足は脳の血流を悪化させ、認知機能の低下を招く原因となります。また、思考機会の減少も同様です。脳への刺激が減り、認知機能の低下を加速させる原因となります。

認知症を発症すると、徘徊やケガを回避するために家に閉じ込めたり、認知症の方を気遣って家事や雑事を周囲の人がしてあげたりすることがあるかもしれません。いずれも運動量や脳への刺激を減らすことになり、かえって認知症を進行させることにもなりかねないため注意してください。

生活習慣病

生活習慣病を併発すると、脳の血流が低下し、認知機能障害の進行が促進される(※)という研究報告もあります。高齢の認知症の方は、認知症だけでなく複数の疾患に罹患していることも多いです。具体的には、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病が挙げられます。

認知機能の低下を防ぐためにも、運動習慣や食事などに注意して生活習慣病の予防に努めることが必要です。

※出典:羽生春夫「生活習慣病と認知症」(日本老年医学会雑誌、50巻 6 号、2013)

認知症が一気に進む原因について詳しくはこちら

認知症が疑われる場合の対応

日常生活でのミスが増えた、今したばかりのことを忘れるなど、認知症の兆候に気づいたときは、本人や周囲の人が早めに対応することが必要です。「認知症かな?」と思ったときにすぐに実施したい対応を紹介します。

専門機関を受診する

専門医による診断は、認知症の症状の進行度や原因を特定するために必要です。認知症は早期発見することで、進行を遅らせられることもあります。まずは専門の医療機関を受診し、問診や検査などを受けるようにしてください。

なお、認知症は誤診が多い疾病としても知られています。誤った診断により適切ではない治療を受けると、症状をかえって進行させることにもなりかねません。また、認知症の原因疾患は70以上もあるといわれ、症状が発症する順番も個人差があります。正確に診断を受けるためにも、専門機関を受診後も定期的に検査を受けることが必要です。

認知症の検査について詳しくはこちら

家族のフォロー体制を整える

家族が一丸となってサポートすることで、認知症の方の生活の質を維持しやすくなります。ただし、家族自身も適切なサポートと休息が必要です。すべてを家族だけで背負うのではなく、介護サービスや地域のサービスなどを利用するようにしてください。

また、認知症に対する知識を深めることも大切です。認知症の家族への接し方や、抱えがちな問題・対処法などを知ることで、よりよいサポートを提供できるようになります。

認知症ケアで大切なことについて詳しくはこちら

認知症の治療は早期発見が何より重要

認知症の症状の進行を遅らせるためにも、早期発見・早期治療が重要です。早い時点で適切な治療を受けられるようになれば、介護計画を立てやすくなるだけでなく、認知症の方や家族の生活の質を維持しやすくなるでしょう。

たとえば、正常圧水頭症や甲状腺機能低下症などが原因となっている場合なら、早期に治療を開始することで症状改善が可能なこともあります。また、アルツハイマー型認知症が原因になっている場合なら、服薬やケアにより症状の進行を緩やかにできるかもしれません。

日常生活から認知症の兆候を見逃さず、早めに専門の医療機関を受診するようにしてください。

認知症の治療は早期発見が何より重要イメージ

もの忘れ症状は認知症を発見する重要なきっかけ

もの忘れは比較的早期からみられる症状のため、早期発見の手掛かりとなることがあります。加齢によるもの忘れか認知症によるもの忘れかを見極め、早期発見につなげていきましょう。

なお、約束したことを忘れたり、同じ質問を繰り返したりすることは、認知症によるもの忘れの可能性があります。「認知症かな?」と思われるときは早めに受診する、また、周囲も早めに受診をすすめるようにしてください。

認知症の早期発見について詳しくはこちら

もの忘れが気になったら医療機関に相談してみよう

もの忘れが気になったときは、まずは加齢によるもの忘れか認知症によるもの忘れかチェックしてみましょう。今したばかりのことを忘れることが増え、徐々に少し前のことや過去の大切なエピソードなどを忘れるようになってきたら、認知症によるもの忘れの可能性があります。気になったときは早めに医療機関を受診し、適切な治療を開始するようにしてください。

認知症は一度発症すると治療が難しいため、普段からの予防やケアが大切です。また、認知機能を維持するための方法などについて理解し、早期から取り組むことも有用とされています。ぜひ最新研究をチェックしてみてください。

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