04認知症コラム
見当識障害とは?症状の特徴や原因、
せん妄との違いを解説
2024.08.23
見当識障害は、時間、場所、人などに関する認識が困難になる症状で、認知症の中核症状の一つです。この記事では、見当識障害の症状や原因、認知症との関係、そして見当識障害と似た症状である「せん妄」との違いについて解説します。適切な対応を知ることで、見当識障害の進行を遅らせ、穏やかな生活をサポートできるでしょう。
見当識障害とは
見当識障害とは、時間、場所、人などに関する感覚が薄れていく障害です。たとえば、「今日は何月何日?」「ここはどこ?」「あなたは誰?」といった質問に答えられなくなったり、季節に合わない服装をしたり、家族の顔を忘れてしまったりすることがあります。
見当識障害は、認知症の中核症状として現れることが多く、記憶障害と同様に比較的初期からみられる症状の一つです。進行すると、日常生活に支障をきたすだけでなく、徘徊や事故のリスクも高まります。
症状 | 症状の例 | |
---|---|---|
中核症状 |
|
|
周辺症状 |
|
|
認知症の中核症状は、認知機能の低下から起こるもので、認知症の方のほとんどにみられる症状です。一方で、周辺症状は中核症状に伴って現れる症状を指します。本人の置かれた環境や人間関係などが強く影響するため、適切に対応すれば症状を緩和することも可能です。
認知症の見当識障害と「せん妄」の違い
見当識障害とせん妄の違いとして、発症するスピードと、意識障害が症状の中心かどうかという2点が挙げられます。
見当識障害は徐々に発症し、認知や記憶に関する障害が中心で、意識自体ははっきりしているのが特徴です。一方で、せん妄は突然発症し、意識障害を中心とした症状がみられます。
症状で見分けが付きにくい場合は、一日の中で症状に変動があるか、発症にサイクルがあるか(症状がひどくなる数時間がある等)で判断できます。
見当識障害 | せん妄 | |
---|---|---|
発症スピード | 徐々に発症 | 急激、突然の発症 |
主な症状 | 時間や場所が わからなくなる |
注意力、集中力欠如が 目立つ意識障害 |
一日の中の 変動 |
大きな変化は 見られない |
夕方から夜間にかけての 悪化が多い |
症状の持続 | 継続する | 数時間~数日 (原因の特定、治療に伴い改善) |
見当識障害が起きる原因
見当識障害は、脳の特定の部位が損傷したり、何らかの原因で機能が低下したりすることによって発症します。その原因は、脳の物理的な損傷や精神的なストレスなどさまざまです。
物理的な損傷として、頭部外傷や脳卒中などが挙げられます。脳の特定の部位が損傷を受けることで、時間や場所、自分自身や他人に関する認識が乱れるケースがあるのです。
また、精神的な要因としては、重度のストレスやトラウマなどが挙げられます。これらが脳機能に影響を及ぼし、見当識障害を引き起こすことがあります。
見当識障害の症状
先述した通り、見当識障害の症状として、時間、場所、人物の認識に関する混乱が現れます。つまり、今がいつであるのか、自分がどこにいるのか、そして目の前にいる人が誰であるかを理解するのが難しくなるのです。
症状は軽度から重度までさまざまで、社会生活や日常生活に大きな支障をきたすでしょう。とくに、新しい環境や変化に富んだ場所では、このような症状が顕著になることがあります。
認知症の場合、記憶障害と並行して進行していくことが多く、早期発見・早期対応が重要です。
症状の現れ方の特徴
認知症における見当識障害の症状は、時間、場所、人の順に段階的に現れる傾向があります。初期には、約束の時間に間に合わなくなったり、時間の経過がわからなくなったりするなど、周囲からはわかりにくい症状から始まります。
その後、自分の年齢や現在の年がわからなくなったり、季節に合わない服装をしたりするなど、時間に関する認識が困難に。さらに進行すると、慣れ親しんだ場所で迷子になったり、家族や親しい友人の顔がわからなくなったりするなど、場所や人物に関する認識も困難になります。
- 段階1.時間の感覚が薄れる
-
- 季節に合わない服装をする
- 昼間に眠り夜中に活動的になる
- 段階2.場所の感覚が薄れる
-
- 慣れた道で迷子になる
- 自分の家と他人の家を間違えて上がり込む
- 段階3.人の感覚が薄れる
-
- 家族や友人に「あなたは誰ですか?」と尋ねる
- 鏡に映った自分を他人と間違える
見当識障害によって引き起こされる周辺症状
徘徊
自分がどこにいるのかわからなくなってしまうため、徘徊につながるケースも少なくありません。たとえば、自宅にいるにもかかわらず「家に帰る」と言って外出してしまったり、目的もなく歩き回ったりするといった行動がみられます。徘徊は事故や行方不明のリスクを高めるため、注意が必要です。
脱水
時間感覚の喪失から季節がわからなくなり、脱水症につながる場合があります。たとえば、夏場なのにクーラーをつけなかったり、必要以上に着込んでしまったり、水分補給を自分で意識できなかったりすることがあります。脱水症は意識障害や痙攣を引き起こす可能性もあり、放置すると命にかかわる危険な状態になりかねません。
攻撃的言動
人を認識する能力の低下から、それまで会話していた人が誰かわからなくなり、混乱して攻撃的な言動をすることもあるでしょう。たとえば、家族が認識できずに「家に勝手に上がり込んでいる」と思い込み、興奮状態に陥ってしまうケースがあります。また、介護者に対して暴言を吐いたり、物を投げつけたりするなどの行動がみられることもあるようです。
生活リズムの乱れ
時間を認識する能力の低下によって、生活リズムの乱れにつながることがあります。昼夜を認識することが難しくなり、夜中に眠れずに活動してしまったり、逆に日中に起きていられずに寝てしまったりするなどの事態が起こりやすくなるためです。また、食事の時間や服薬の時間も守れなくなり、健康状態に悪影響を及ぼす可能性もあります。
見当識障害の症状別の対応例
介護者や家族にとって、見当識障害の症状をショックに思うこともあるでしょう。適切に対応して、少しでも症状を抑えることが大切です。
時間の認識への対応
時間に対する認知が低下している場合は、本人が時間や曜日を確認できる環境づくりが大切です。たとえば、文字が大きく読みやすいデジタル時計を置いたり、カレンダーには今日の日付に印をつけたりするなどが挙げられます。
人に伝えられるよりも、本人が見て確認できるような環境を整えると、本人も認識と現実の違いを受け入れやすいです。置かれている現在の情報を確認する習慣によって、見当識を高める助けにもなるでしょう。
- 対応案
- いつどこにいても時間を確認しやすい環境をつくる
場所の認識への対応
場所の認識が困難な場合は、目につく場所に案内図をつくるなど、場所の把握をサポートする環境づくりが大切です。たとえば、部屋の名前を書いた案内図や、トイレや浴室への矢印などを表示しておくことで、本人が安心して暮らせる環境を整えられます。
また、本人にとって印象深い写真や思い出の品、お気に入りの家具などを目につく場所に置くことも有効です。 これにより自宅であるという認識が深まり、安心感を得られます。
- 対応案
- 目につきやすい場所に自宅内の案内図をつくり、安心して暮らせる環境を整備する
人の認識への対応
人の認識が困難な場合は、本人の不安や恐怖を取り除くことを最優先に接しましょう。人が認識できず、本人は混乱や不安な気持ちが高まっていることが多いためです。
人に関する見当識障害の症状は、介護者にとっても辛い状況でしょう。しかし、無理に説明するのではなく、共有できる思い出の話などをすることで、本人が安心できる会話を引き出すことが大切です。また、本人が誰かと勘違いしている場合は、否定せず、できる範囲でその人に合わせて接してください。
- 対応案
- 無理矢理に理解させようとせず、本人が落ち着くことを最優先に傾聴・対話する
見当識障害の対応時の注意点
見当識障害に対応することは、介護者にとってストレスがかかるでしょう。しかし、イライラせず、認知症の方の気持ちも考えた行動が大切です。
失敗を責めない
失敗を責めるのではなく、温かく見守ることを心がけましょう。見当識障害のある方は、約束の時間を守れなかったり、道に迷ったりしてしまうかもしれません。しかし、そのことを責めると本人を傷つけてしまう可能性があります。
認知症の方は理解力も低下しているため、こちらが説明しているつもりでも「怒られた」「責められた」と感じやすいです。言葉遣いや口調に気をつけ、ゆっくりと穏やかに接するようにしましょう。
行動を無理に制限しない
見当識障害のある方が出歩きたがる場合、無理に引き止めることは避けましょう。見当識障害によって場所の認識が困難になり、不安や混乱を感じていることが原因である可能性があります。
まずは、なぜ外に出たいのか、代替できる気持ちの落ち着かせ方を提案できないかなど、本人の気持ちに寄り添うことが大切です。どうしても外出への希望が強い場合は、一度一緒に外に出てみることも効果的といえます。
否定しない
見当識障害のある方が言ったことを頭ごなしに否定するのを避けましょう。見当識障害によって時間や場所、人に関する情報が混乱しているため、事実と異なる発言をすることがあります。そのようなとき、「それは違う」と否定したくなるかもしれません。
しかし、否定されると本人はさらに混乱し、不安や焦りが強まり、興奮状態に陥りやすくなります。たとえ事実と異なっていても、まずは本人の言葉に耳を傾け、共感する姿勢を示すことが大切です。
伝えるときにはさりげなく
見当識障害のある方に物事を伝えるときは、さりげなく伝えることを心がけましょう。面と向かって本人が置かれている状況について説明すると、余計な混乱を招きかねません。
それよりも、本人が認識しやすい情報を、さりげなく会話の中に織り交ぜていくことが大切です。たとえば、「今日はいい天気ですね」と語りかけたり、食事の際に「今日は〇〇ですね」とメニューの名前を伝えたりしましょう。さりげなく情報を伝えることで、本人の気づきを促し、見当識障害の緩やかな進行にもつながる可能性があります。
見当識障害の進行を緩やかにするためのリハビリテーション
見当識障害の進行を遅らせるためのリハビリテーションとして、リアリティ・オリエンテーションが挙げられます。主に2種類の方法に分けられ、それぞれに特長が異なります。
日常的に行う
24時間リアリティ・オリエンテーション
24時間リアリティ・オリエンテーションは、日常会話やケアの中で、時間、場所、人、季節などの情報を繰り返し伝えるリハビリテーションです。たとえば、「今日は何月何日ですか?」「ここはどこですか?」といったように、見当識の手掛かりとなる質問を繰り返します。
この方法は、特別な訓練や道具を必要とせず、日常生活の中で自然に行えるため、認知症の方への負担が少ないのが特長です。また、介護者や家族とのコミュニケーションを促進し、信頼関係を築くことにも役立ちます。見当識障害の初期段階にある方や、自宅で介護を受けている方におすすめです。
時間を区切って習慣化する
クラスルームリアリティ・オリエンテーション
クラスルームリアリティ・オリエンテーションは、少人数のグループで集中的に行われるリハビリテーションです。具体的には、ホワイトボードやカレンダーなどを使い、時間、場所、人、季節などの情報を視覚的に提示し、参加者と一緒に確認したり、思い出を語り合ったりします。
この方法は、24時間リアリティ・オリエンテーションよりも集中的に取り組めるため、見当識障害が中等度以上の方や、施設に入所している方におすすめです。また、他の参加者との交流を通じて、孤独感の解消や意欲の向上にもつながることが期待できます。
見当識障害に関するよくある質問
見当識障害という言葉に聞き馴染みのない方がほとんどでしょう。ここでは、さらに見当識障害について詳しく知るために、よくある質問に回答します。
Q見当識障害が現れた際、認知症以外の可能性はありますか?
あります。見当識障害は認知症以外でも、脳腫瘍や脳炎などの脳の病気、精神疾患、薬の副作用、アルコール依存症などによっても現れることがあるようです。また、高熱や脱水など、一時的な体調不良によっても見当識が混乱することがあります。
Q見当識障害のケアはどのように行えばよいですか?
まずは本人が安心できる環境を整え、混乱を減らすことが大切です。具体的には、見慣れた場所に時計やカレンダーを置いたり、話しかける際はゆっくりとわかりやすい言葉を使ったりするなどがよいでしょう。また、本人の言動を否定せず、受け入れることも大切です。
見当識障害には適切な対応を
見当識障害は、本人の生活の質を低下させるだけでなく、徘徊や脱水、攻撃的言動などのリスクも高めます。本人はもちろん、周囲の人々にとっても辛いでしょう。しかし、早期発見・早期対応によって、進行を遅らせられ、症状も緩和させられます。そのため、見当識障害には適切な対応が大切です。
認知症は一度発症すると治療が難しいため、進行を遅らせるための取り組みが大切です。現在、認知機能を維持・改善するための方法が研究されています。最新研究から認知症予防のヒントを得られる可能性があるので、ぜひチェックしてみてください。