04認知症コラム

認知症の薬について解説-主に使用される薬剤、副作用などについても紹介-

2024.06.24

認知症の薬について解説イメージ

認知症治療薬の役割は、主に認知症の進行を遅らせることです。認知症治療においては、軽度のうちから認知症治療薬を使用することが重要といえるでしょう。主要な認知症治療薬は4種類存在します。本記事では、認知症治療薬についての解説のほか、副作用についても解説します。

認知症の薬についてまず知っておきたいこと

現在ある認知症の薬は…
病状の進行を遅らせたり、気持ちを
落ち着かせたりすることを目的とした薬
です

現在ある認知症治療薬は、認知症の進行を緩やかにするものや、神経活動のバランスを調整することで症状を和らげることを目的としています。

一般的に認知症といわれる疾患には、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症が存在し、高齢者の認知症の7割近くを占めています。しかし残念なことに、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症など認知症を根治させる治療薬は見つかっていません。

患者ごとにどんな症状が組み合わさって、どの症状が強く出ているかは個人差があるため、複数の薬を組み合わせて服用する必要があります。

軽度のうちの認知症薬の服用を

認知症が軽度のうちに認知症治療薬を服用することで、症状が軽いままの状態を保ち続けられる可能性があります。

現在行われている認知症治療は、できるだけ認知症の進行を遅らせることが目的です。前述の通り、現時点では認知症を根治させる方法はありません。ですが、早めに認知症薬を服用することで、認知症の進行を遅らせられる可能性があります。気になることがある場合は、早めに受診することも検討しましょう。

認知症の薬一覧【4種の抗認知症薬】

現在、広く医療の現場で使われている認知症治療薬には4種類あります。いずれの認知症治療薬も軽度のうちから少量ずつ使用することが、症状の進行を遅らせるためにも大切です。

アリセプト®(塩酸ドネペジル) レミニール®(ガランタミン) イクセロン・リバスタッチ®(リバスチグミン) メマリー®(メマンチン)

認知症の薬一覧【4種の抗認知症薬】イメージ

アリセプト®(塩酸ドネペジル)

アリセプトは、アルツハイマー型認知症の初期~中期に服用することで、進行を遅らせられるとされる薬です。アルツハイマー型認知症のほかレビー小体型認知症にも適応があり、レビー小体型認知症の薬として現在唯一認証されている薬です。

脳には「アセチルコリン」という神経伝達物質があり、これが減少すると認知症に影響するといわれています。アリセプトは、アセチルコリンの働きを助けることで、認知障害を緩和する効果があるとされている薬です。

アリセプトは錠剤タイプ以外にも、口腔崩壊錠(OD錠)、細粒、ゼリーなどが販売されており、飲み込む力が低下している患者でも服用しやすいというメリットがあります。

レミニール®(ガランタミン)

レミニールもアルツハイマー型認知症の進行を抑える薬で、アルツハイマー型認知症の軽度~中程度の段階で使われます。

レミニールには、脳内のアセチルコリンの分解を抑制して増やす働きに加え、アセチルコリンを受け取る受容体の感受性を高める、という2つの効果があります。服用を継続することで、記憶障害や見当識障害などの症状の抑制につながるとされる薬です。

イクセロン®パッチ・リバスタッチ®パッチ(リバスチグミン)

イクセロンパッチやリバスタッチパッチも、アリセプトやレミニールと同様に脳内のアセチルコリンの量を増やし認知症の進行を遅らせることができるといわれています。

アリセプトやレミニールは飲み薬なのに対して、イクセロンパッチやリバスタッチパッチは貼り薬であり、皮膚を通して薬剤が体内に吸収されます。飲み込むことが難しい患者にも、使いやすいのがメリットです。

メマリー®(メマンチン)

アリセプトやレミニール、イクセロンパッチ・リバスタッチパッチが脳内のアセチルコリンを増やす働きの薬剤であるのに対して、メマリーは脳内のグルタミン酸という興奮性の神経伝達物質の働きを抑制する効果がある薬です。

脳内のグルタミン酸が過剰になると、物忘れや思考力、判断力の低下につながるといわれています。メマリーは、グルタミン酸による悪影響を軽減させ、アルツハイマー型認知症の症状を軽くするのと同時に、行動異常や心理症状の抑制にも効果が期待できる薬です。

ただし、いずれの薬も過量投与になると副作用が出現する場合がありますので、本人にとっての最適量を決め、時間経過や症状に合わせて調整し続ける必要があります。薬を使用し始めてから気になる症状が出現した場合は、必ず医師へ相談しましょう。

認知症にみられる精神・行動に関する症状を緩和する薬

認知症の症状を遅らせる治療薬とは別に、認知症に伴う症状を改善する薬も併用することがあります。これらの薬の服用には見解が分かれているものも多いため、服用を希望するときは必ず医師と相談して検討するようにしましょう。

【妄想症状に】抗精神病薬

向精神薬(抗不安薬、抗うつ薬、睡眠導入剤など)の一つである抗精神病薬は、興奮性の神経伝達物質の働きを抑えることができるため、幻覚や妄想などの治療に使用される薬です。主に統合失調症の治療に用いられます。

認知症の症状の中には、幻覚や妄想などが伴うこともあり、抗精神病薬の使用が推奨される場合もあります。また幻覚や妄想以外にも、暴力や不穏、睡眠障害に対しても使用する場合もあるため、これらの症状が気になるときは医師に相談してみるのもよいでしょう。

しかし一部条件を除き、認知症に対する向精神病薬の使用は保険適応外になる可能性もあるため注意が必要です。

注意点
  • 症状が改善しても自己判断で服用を中止しない
  • 比較的早く効果が出現するが、副作用も出やすいので用量・用法に注意が必要
  • 副作用がつらい場合は相談する

【落ち込みに】抗うつ薬

認知症の症状による抑うつ状態、いわゆる落ち込んだ状態が継続している場合は、抗うつ薬を使用することで症状の改善が期待できるます。

抗うつ薬には、SSEI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)の使用が候補として挙げられます。しかし、無気力や無関心状態である「アパシー」の場合は、逆に症状が悪化する可能性もあるので注意が必要です。

抑うつ状態とアパシーの見分け方は非常に難しく、抗うつ薬を使用する場合は、必ず医師の指示に従い服用する必要があります。

注意点
  • 効果が発現するまで時間がかかる(2〜4週間)
  • 自己判断で中止しない
  • 症状が悪化する場合はすぐに相談する

【心の不安に】抗不安薬

認知症からくる軽度の心の不安に対して、抗不安薬を使用することで改善が可能です。

しかし、高齢者に抗不安薬を使用するとふらつきや眠気、運動失調などの副作用が強く出ることもあるため、基本的には使用しません。

どうしても不安の症状が強く、抗不安薬を使用する場合、本当に有効であるかどうかを常に観察し、副作用のデメリットの方が大きければ減量や中断を検討する必要があります。

注意点
  • ふらつきや転倒など注意する
  • 依存性が報告されているため、安易に薬に頼らず医師の指示に従って服用する

【眠れない方に】睡眠薬

認知症による睡眠不足に対して、睡眠薬の服用が必要になるかもしれません。睡眠不足が継続すると、生活リズムも崩れて健康にも問題が生じることもあるでしょう。

下記の症状が見られる場合は、医師に相談することで睡眠薬が処方される場合があります。

  • レム睡眠行動障害 夢の中の行動が現実世界にも反映され、突然大声で怒鳴ったり、手足をばたつかせて暴れたりするなど異常行動があらわれる障害です。
  • 深夜徘徊 家族が寝てしまった深夜に外出して、自分の居場所がわからなくなることがあります。
  • 不眠障害 夜眠れなくなり、昼夜が逆転してしまう症状です。食欲低下や体調不良など2次的症状があらわれることもあります。

ただし、あくまで対症療法であり、睡眠薬の長期的な服用は推奨されていません。睡眠障害を改善したい場合は、生活習慣の改善や日光浴などの非薬物療法が基本です。

注意点
  • 副作用や睡眠薬依存を引き起こす可能性があるので、安易に薬に頼ることのないよう医師の指導に従うこと
  • ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は認知症のリスクを高める可能性があることを知り、服用に際しては最小限の用量にするよう心がけること

【興奮状態に】漢方薬

漢方薬には、認知症による興奮状態をはじめとした、BPSD(認知症の行動・心理症状)を改善する効果が報告されているものがあります。

漢方薬は、複数の生薬を配合しているため、食欲不振や便秘といった身体症状の改善を手助けする可能性があります。気になる症状がある場合は、漢方薬の服用を検討してみるのもよいでしょう。

しかし、漢方薬にも副作用があり、服用しているお薬によっては飲み合わせが悪いこともあるので注意が必要です。漢方治療を受けたい場合は、主治医に相談するか、日本東洋医学会 から漢方薬の専門医を検索してみてください。

注意点
  • 漢方薬にも副作用が存在する
  • 服用しているお薬がある場合は、医師や薬剤師に相談する

認知症の薬の副作用

認知症治療薬は比較的副作用の出やすい薬であるため、服用に際しては十分に注意する必要があります。

抗認知症薬の主な副作用として下記の症状がありますが、軽いものであれば服用を続けているうちに症状は治ることも多いです。どうしても症状が持続する場合は、服用をやめることで速やかに改善するため、別の方法について医師と相談しましょう。

飲み初めに見られるかもしれない身体症状

吐き気、下痢などの消化器症状 徐脈(まれに) 興奮

個人の判断で服用を中止すると、かえって認知症の症状が悪化してしまう場合もあります。薬について疑問がある場合は、必ず医師や薬剤師と相談したうえで、他の薬の選択肢など検討しましょう。

精神の状態変化は薬の副作用の可能性があります

深刻な副作用はありませんが、薬の服用によって「怒りっぽくなる」、「自己主張が強くなる」、「性格が変わってしまったように感じる」などの変化がみられる場合もあります。これらの変化は認知症の症状でもみられますが、薬の副作用の可能性もあるので注意が必要です。

複数の薬を組み合わせて飲んでいる場合、脳内の神経伝達物質のバランスが変化することで精神状態が変化することもあります。軽い症状であれば薬を飲み続けることで落ち着いてくることも多いですが、気になる場合は早めに医師へ相談することが大切です。

薬の組み合わせ方や量を調整してもらうことで、症状が改善されたケースもあります。

認知症の薬を服用する上で注意したいこと

認知症に伴う症状によっては、治療薬をうまく服用できないこともあるため、介護者がうまくサポートすることが重要です。認知症の進行を遅らせる抗認知症薬を使用するうえで、注意したいポイントを紹介します。

介護者が服用管理をしすぎない 偽薬を上手に活用する リハビリもあわせて行う

認知症の薬を服用する上で注意したいことイメージ

介護者が服用管理をしすぎない

介護者が全面的に服用管理をすると、認知症患者の自尊心を傷つける可能性があります。それによって本人の服薬拒否につながれば、認知症が悪化する可能性もあるでしょう。

認知症の症状によっては、薬の服用が難しい場合もありますが、本人がある程度の服用管理ができる場合は、本人ができない部分だけを軽くサポートすることが大切です。全面的に服用管理をサポートするのは、明らかに本人だけでは服用管理が難しくなってから検討するのでよいでしょう。

偽薬を上手に活用する

薬を過剰に服用する可能性がある場合は、偽薬を活用してみてください。

認知症患者には記憶障害があるため、薬を飲んだにもかかわらず忘れてしまうことがあります。どれだけ説得しても「飲んでいない」と訴えて譲らないこともあり、こういった場合に懸念される危険が、薬の過剰摂取です。

市販の偽薬には還元麦芽糖が用いられているため、人体に影響しません。本人が薬を飲まないことで不安を感じている場合は、偽薬を飲んでもらうことで安心を与えることができるかもしれません。

リハビリもあわせて行う

リハビリには、脳を活性化させることで認知症の進行を遅らせる効果が期待できます。リハビリには本人が楽しんで行えるものを選んでみましょう。

しかし、本人の興味がないものや不得意なものを無理にリハビリとして行うと、逆効果になることもあるので注意が必要です。認知症の人たちは日々「できない」と感じ、傷ついてしまう場面も少なくありません。リハビリの活動の中で「できない」を増やしてしまわないことが大切です。

認知症の薬の効果を最大限に得るには、早めの受診が大切

現在、認知症を根治させる治療法は確立しておらず、認知症の進行を遅らせることが認知症治療の中心です。認知症は軽度のうちから治療することで、症状が軽い状態を保ち続けることが期待されています。

そのため、健常者と認知症の中間にあたるグレーゾーンの段階で対処を検討していくことが重要です。気になることがあれば、専門の医療機関で相談してみてください。

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