04認知症コラム

遂行機能障害(実行機能障害)について│
認知症との関係性やリハビリも解説

2024.08.23

遂行機能障害(実行機能障害)について│認知症との関係性やリハビリも解説イメージ

遂行機能障害は、計画を立てて実行することが困難になる状態を指します。初期段階では些細な変化のため、気づかないことも少なくありません。この記事では、遂行機能障害の症状や原因、認知症との関係性、そしてリハビリ方法について詳しく解説します。遂行機能障害の基本を押さえて、身近な人が発症した場合に対応できるようにしましょう。

遂行機能障害(実行機能障害)とは

遂行機能障害とは、計画を立てたり、その計画通りに物事を進めたりすることが困難になる障害です。実行機能障害とも呼ばれます。言語、記憶、行動に問題は見られませんが、物事を計画的に遂行する判断力と思考力に問題があることが特徴です。

遂行機能障害は、認知症の中核症状の一つであるほか、高次脳機能障害でも見られる場合があります。動作のそれぞれができても、効率よく遂行することが難しいため、日常生活に支障をきたすでしょう。

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遂行機能障害(実行機能障害とは)イメージ

遂行機能とは

遂行機能は、目の前の課題を解決しながら目標に向かって道筋を進んでいくための脳の機能です。

目標達成のためには右記下記のように、計画を立て、状況を判断し、臨機応変に対応しながら行動していく必要があります。これらの過程がうまくいかない、途中で投げ出してしまうといった場合に、遂行機能障害が疑われるでしょう。

物事の遂行に必要な過程
  • 目標設定…目標を定める
  • プランニング…目標を実現させるための計画を立てる
  • 計画の実行…目標に向かって計画に沿いながら行動を続ける
  • 効果的な行動…実際の状況を確認して計画を調整しつつ目標に向かう

遂行機能障害の原因

遂行機能障害を発症しているときは、脳に何かしらの異常があると考えてよいでしょう。ここでは、遂行機能障害の原因を解説します。

前頭葉部位の損傷 脳に酸素が届かない状況の持続 神経伝達物質、脳内化学伝達物質の不均衡

前頭葉部位の損傷

外傷や脳卒中などによる前頭葉部位の損傷によって、遂行機能障害を発症する可能性があります。前頭葉は思考、判断、行動計画など、高次の認知機能を司る重要な領域です。この部位が損傷を受けると、言語能力や記憶、行動には問題がないのにもかかわらず、遂行機能に顕著な変化がみられることがあります。

脳に酸素が届かない状況の持続

遂行機能障害は、脳に酸素が十分に届かない状況が続くことで引き起こされることもあります。細菌やウイルス感染、水に溺れて長時間窒息状態になるなど、脳への酸素供給が絶たれる原因はさまざまです。酸素不足の状態が続くと、脳細胞がダメージを受け、前頭葉だけでなく、ほかの部位にも障害が発生する可能性があります。

神経伝達物質、脳内化学伝達物質の不均衡

遂行機能障害は、ノルアドレナリンやドーパミン、セロトニンなどの神経伝達物質や脳内化学伝達物質の不均衡によっても引き起こされることがあります。うつ病、統合失調症、注意欠如・多動性障害(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)などの精神疾患や発達障害で発症することがあるようです。

また、認知症でも発症します。認知症の場合は、脳の神経細胞が徐々に破壊されていくため神経伝達物質のバランスが崩れやすく、遂行機能障害も進行していく傾向があります。

認知症と遂行機能障害の関係

認知症の中核症状の一つとして、遂行機能障害が挙げられます。これは、認知症によって脳の前頭連合野が障害を受けることが原因です。

遂行機能障害を発症すると、計画を立てたり、状況に応じて適切な判断をしたりすることが難しくなります。また、想定外のことに対応するのが難しく、パニックを起こしてしまうことも少なくありません。突然出かけてしまうのも、遂行機能障害によるものです。

実行機能障害について詳しくはこちら

【4分類】遂行機能障害の症状

遂行機能障害は、症状によって4つに大別されます。それぞれの症状を詳しくみていきましょう。

目標設定に関する障害

遂行機能障害の症状として、目標設定に関する障害があります。何をしたらどうなるのかイメージがつかず、目標を定められないため、気の向くままに衝動的な行動をとってしまいます。周囲からは無気力で自発性が欠如していると思われるかもしれませんが、実際には目標を達成するための思考が困難になっているのです。

目立つ症状の例
  • 衝動的な行動が多い

プランニングに関する障害

遂行機能障害の症状として、プランニングに関する障害があります。目標達成のための行動順序を考えられないため、計画を立てられず、締め切りも設定できません。結果として、行動を開始できなかったり、目標達成とは無関係な目についたことを始めてしまったりします。周囲からは、非効率的で注意力散漫な人に思われてしまうかもしれません。

目立つ症状の例
  • 計画を立てられない
  • 行動を開始できない

計画実行に関する障害

遂行機能障害の症状として、計画実行に関する障害があります。正しい手順で計画を実行できないため、計画に沿って作業を始めても、途中で気が向いた順に手をつけてしまうことがあります。一つひとつの指示には従えるため、周囲からは受動的な人に思われることもあるでしょう。

目立つ症状の例
  • 受動的な行動が多い
  • 指示がないと動けない

効果的な行動に関する障害

遂行機能障害の症状として、効果的な行動に関する障害があります。目標達成のために、現状や自分の行動を見直したり修正したりすることが難しいため、臨機応変な対応ができません。そのため、失敗を繰り返す傾向にあります。また、同時進行の作業や優先順位をつけることも困難です。周囲からは、失敗が多くタスクが停滞しがちなイメージを持たれやすいでしょう。

目立つ症状の例
  • 臨機応変な対応ができない
  • 自身の行動を客観視できない
  • 複数同時並行作業ができない

遂行機能障害に関連する検査方法

ここでは、遂行機能障害を検査する4つの方法を解説します。とくに、高齢化にともなう認知機能の低下が疑われる場合を含めた検査方法です。

BADS(遂行機能障害症候群の行動評価) WCST(ウィスコンシンカード分類課題) MoCA(モントリオール認知評価) MMSE(ミニ・メンタル・スタート・テスト)

遂行機能障害に関連する検査方法イメージ

BADS(遂行機能障害症候群の行動評価)

BADSは、目標設定、計画立案、プランニング、効果的な行動という4つの遂行機能を評価するテストです。カードを使用した6種類のテストと質問紙から構成され、日常生活における遂行機能障害の程度を測ります。

WCST(ウィスコンシンカード分類課題)

WCSTは、丸、星、三角形などの図形を4種類の色で表現した48枚のカードを、被験者がさまざまなルールで分類するテストです。この課題を通して、思考の柔軟性や問題解決能力などを評価し、前頭葉の機能検査にも用いられます。

MoCA(モントリオール認知評価)

WMoCAは、遂行機能、記憶、注意力、抽象概念、見当識など、認知機能の広範な領域を評価するテストです。30点満点で採点され、点数の高さで判断します。とくに軽度認知障害(MCI)のスクリーニングに有効とされています。

MMSE(ミニ・メンタル・スタート・テスト)

MMSE(ミニ・メンタル・ステート検査)は、時間や場所の見当識、即時記憶、時間経過後の記憶力、計算能力などを評価する11項目のテストからなる認知機能検査です。MoMCと同様に30点満点で採点され、軽度認知障害(MCI)や認知症のスクリーニングに広く用いられています。

認知症の検査について詳しくはこちら

遂行機能障害のリハビリテーション

遂行機能障害にアプローチするリハビリテーションとして、主に2つ挙げられます。それぞれ詳しくみていきましょう。

問題解決訓練

問題解決訓練は、遂行機能障害を含む前頭葉障害のある方が、問題に対して体系的かつ効果的にアプローチできるよう支援する認知訓練です。この訓練では、解決法を言葉で説明することで自身の思考過程を客観的に把握し、改善点を見つけることを目指します。解決策を実行した結果を意識的に評価することで、効果的な解決策を選択する能力を高められるでしょう。

さらに、誤った解決策から学び、次のステップにつなげる能力を養うことも目標の一つです。課題に対して細かく過程を分けた分析を行い、段階的に解決するアプローチを学習します。

ゴールマネジメント訓練

ゴールマネジメント訓練は、遂行機能障害を持つ方が目標達成に向けて計画的に行動できるよう支援する手法です。複雑な目標を達成する過程で、ワーキングメモリ(短期記憶)と持続性注意を活性化させ、目標から逸脱しないように行動を調整することを目指します。

具体的には、ワーキングメモリの感度を上げるために、目標を常に意識できるよう視覚的なリマインダーやチェックリストを活用します。また、達成したい目標を具体的に言語化し書き出すことで、目標を明確化。さらに、手抜きや不注意がもたらす結果を具体的にイメージすることで、目標達成への意欲を高められるでしょう。

遂行機能障害に対応する際のポイント

遂行機能障害に対応する際には、まず本人の不安を取り除くことが大切です。ここでは、不安やストレスを軽減させるための対応のポイントを解説します。

手順を確認できるようにする 混乱時には周囲が助けて一緒に行う 時間のかかることは小分けにして休憩しつつ行う

遂行機能障害に対応する際のポイントイメージ

手順を確認できるようにする

作業手順を常に確認できる環境を整えることが重要です。わかりやすい手順書を作成し、作業中に見やすい場所に置きましょう。手順書は壁に貼ったり、デジタルツールで常に表示したりするなど、視覚的に工夫することも有効です。

遂行機能障害では、まず計画を立てること自体が困難であり、なおかつ計画を把握しても、いざ行動を開始すると流れから逸脱していく傾向にあります。そのため、手順を常に確認できるようにし、行動の逸脱を防ぎましょう。逸脱したとしてもそれに気が付ける環境にすれば、遂行機能を保つ訓練にもなります。

対策の例
  • 手順書を壁に貼る
  • ボイスレコーダーで手順を声で録音し、作業中に再生する

混乱時には周囲が助けて一緒に行う

混乱が予想される計画の実行時には、誰かがついてサポートすると、計画をスムーズに進められます。具体的には、計画の内容を一緒に確認して理解度を高めたり、定期的に進捗状況を確認して計画からの逸脱を早期に発見したりすることで、混乱を防げるでしょう。

遂行機能障害では、計画通りに進められず、予想外のことが起きてしまうと計画を修正できない傾向にあります。そのため、計画の実行にともない現状を振り返るタイミングを一緒に作る、計画外の事態が発生した場合に計画を修正するなどのサポート環境があるとよいでしょう。

対策の例
  • 洗濯や掃除などの家事を一緒に行い、
    手順を確認しながら進める
  • 買い物リストの作成を一緒に行い、
    店内でリストを見ながら一緒に商品を探す

時間のかかることは小分けにして休憩しつつ行う

時間のかかる作業は小分けにして、休憩を挟みながら行うことが大切です。長時間作業を短いタスクに分割し、達成可能な目標を設定することで、集中力を維持しやすくなります。また、各タスクの間に休憩時間を設けることで、疲弊することを防げるでしょう。

遂行機能障害では、行動が計画から逸脱しやすい傾向にあるため、作業時間が長引くとより集中力が必要で、疲労につながります。そのため、作業を小分けにし、休憩の際にその直前のターンで実行していた内容を振り返る時間にすると、自身の行動を客観視する訓練にもなるでしょう。

対策の例
  • 掃除場所を絞り、掃き掃除、水拭き、
    から拭きなど分けて、少しずつ進める
  • 料理をする際は、下ごしらえ、調理、
    盛り付けなどに分けて、少しずつ進める

遂行機能障害に関するよくある質問

ここでは、遂行機能障害に関してよく寄せられる質問に回答します。遂行機能障害についてさらに理解を深めるためにも、チェックしておきましょう。

Q遂行機能障害の初期症状はどんなものですか?

遂行機能障害の初期症状は、作業の効率が落ちた、ミスが増えた、スケジュールが管理できなくなったなどが挙げられます。初期段階では些細な変化のため、見分けがつきにくいでしょう。変化に気づくためにも日頃からのコミュニケーションが大切です。

Q遂行機能障害のリハビリの際は
何を意識して行えばよいですか?

個別性と段階性、反復性を意識しましょう。個別性は、一人ひとりの症状や生活背景に合わせてリハビリ計画を立てることを指します。段階性は簡単な課題から少しずつ難易度を上げること、反復性は同じ課題を繰り返し練習することです。

遂行機能障害には、その人に合ったサポートが大切

遂行機能障害は早期発見と適切な対応によって、進行を遅らせたり、生活の質を維持したりすることが可能です。身近な人が遂行機能障害の症状を示していると感じたら、まずは専門医に相談し、適切な診断と治療を受けましょう。そして、本人の状況に合わせたリハビリやサポート方法を試してみてください。

認知症による遂行機能障害は、現代の医学では進行を遅らせることしかできません。そのため、普段から認知症の予防とケアが大切です。また、実際に認知症になった際にも、認知機能を維持する取り組みが重要な役割を果たすでしょう。

認知機能を維持・向上させるための研究は進んでいます。下記よりチェックしてみてください。

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