04認知症コラム

脳血管性認知症とは?
症状や特徴、治療やケアについても解説

2024.06.24

脳血管性認知症とは?イメージ

脳血管性認知症はアルツハイマー型認知症に次いで多い認知症で、認知症患者のうち約2割を占めているといわれています。脳血管性認知症は、高血圧や糖尿病などのいわゆる生活習慣病が原因になることも多い病気です。この記事では、脳血管性認知症にみられる特徴や主な症状、治療方法やケアについて紹介します。

脳血管性認知症とは

脳血管性認知症とは、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって引き起こされる疾病です。なお、脳梗塞とは脳の血管が詰まって脳内の一部に血が流れなくなること、脳出血とは脳の血管が破れて出血することを指します。いずれも脳の組織が死滅するため、正常に働かなくなることがあります。

認知症のなかでもっとも多いのは、全体の約7割を占めるアルツハイマー型認知症です。その次に多いのが脳血管性認知症で、約2割を占めます。脳血管性認知症は、女性より男性が多い傾向にあるようです。

脳血管性認知症とはイメージ

脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症の違い

アルツハイマー型認知症は比較的症状が緩やかに進行するのに対し、脳血管性認知症は脳梗塞や脳出血がきっかけとなって起こるため、はっきりと段階的に進行するという点で異なります。

アルツハイマー型認知症は、脳が萎縮することで起こる疾病です。脳内にアミロイドβやリン酸化タウと呼ばれるタンパク質が溜まることなどによって病変が生じると考えられています。

アルツハイマー型認知症について詳しくはこちら

脳血管性認知症の原因

脳血管性認知症は、脳血管の詰まりや出血などの脳血管障害(脳卒中)により引き起こされる疾病です。病気を引き起こす根本原因も脳卒中と基本的に同じで、高血圧や糖尿病、脂質異常症、肥満症などのいわゆる生活習慣病とされています。脳血管性認知症を予防するためにも、生活習慣病の予防に努めることが大切です。

脳卒中についての詳しい情報はこちら

脳血管性認知症の特徴

脳血管認知症は、特定のことはしっかりとできるのに、他のことはできないというように、できる・できないの差が大きくなる傾向があります。これは、脳血管障害によって脳の一部分だけが損傷を受けることが原因です。そのため、脳血管性認知症は「まだら認知症」と呼ばれることもあります。

また、時間帯によってもできる・できないの差が生じたり、歩行障害や感覚麻痺などの身体的な症状が伴ったりすることも脳血管性認知症の特徴です。脳梗塞や脳出血を繰り返すことで、できないことや新たな症状が加わることも少なくありません。症状が安定しにくく、改善・悪化を繰り返しながら進行していきます。

脳血管性認知症の主な症状

脳血管性認知症の症状は、認知機能障害と行動・心理症状、身体面の症状に分けられます。それぞれの症状についてみていきましょう。

認知機能障害(中核症状) 行動・心理症状 身体面の症状

認知機能障害(中核症状)

脳血管性認知症に罹患すると、他の認知症と同様、記憶障害や判断力の低下、計画を立てられないなどの認知機能の障害がみられるようになります。アルツハイマー型認知症と比較すると、記憶力や判断力の低下は軽微な傾向にあるようです。

また、主に環境の変化などを契機に意識が混乱し、注意力が失われる「せん妄」がみられることもあります。個人差はありますが、せん妄は夜間にみられることが多いようです。

行動・心理症状

損傷を受ける脳の領域によっても異なりますが、抑うつや感情失禁が強く現れることもあります。感情失禁とは、突然泣き出したり笑い出したりすることです。

一方で、感情や自己認識に関わる脳の領域に問題が生じていない場合は、自分で認知機能障害や身体面の症状を客観的に判断することができます。そのため、自分の変化にショックを受け、激しく落ち込んでしまうこともあるでしょう。

身体面の症状

脳血管障害と同じく、運動麻痺や歩行障害、嚥下障害、感覚障害などの神経障害による身体面の症状がみられることがあります。ただし身体面の症状も、行動・心理症状と同じく損傷を受けている脳の領域によって異なるため、個人差が大きくみられる場合も多いです。

脳血管性認知症の診断

脳卒中の有無によって該当の科が変わります

認知症の薬一覧【4種の抗認知症薬】イメージ

脳卒中になった経験があるかないかによって、最初に受診する診療科が変わります。脳卒中の経験がある場合は、脳卒中でかかっていた医療機関の担当医に相談してみましょう。

今までに脳卒中の経験がない場合は、もの忘れ外来や神経内科、脳神経外科などを受診します。医療機関によって診療科の呼び名が異なることもあるため、不安なときは総合案内で尋ねてみてください。

脳卒中経験あり 脳卒中経験なし
  • ・神経内科
  • ・脳神経外科
  • ・もしくは担当医に相談
  • ・もの忘れ外来
  • ・神経内科
  • ・脳神経外科など
  • ・精神科

医療機関を受診し、検査を受けるまでの流れは以下の通りです。問診では、いつから症状がみられているか、また、どのような症状があるのか尋ねられるため、普段から気になる症状はすべて記録しておくようにしましょう。

診断までの主な流れ
  • 1問診
  • 2認知機能テスト
  • 3画像検査
  • 4生活習慣病関連の検査

まず行うのは、担当医による問診です。いつからどのような症状がみられているのか、詳しく尋ねられます。スムーズに答えられるように、普段から気になる症状についてのメモを取り、医療機関に持って行くようにするとよいでしょう。できれば、普段の生活をよく知る家族が同行されることをおすすめします。

次に、認知機能テストでは記憶力や判断力、計算力を調べます。医師が担当することもありますが、心理士などの専門家が担当することも多いです。

そのあとCTやMRIを使って脳血管の詰まりや出血の有無などをチェックし、最後に血液検査や心電図検査、骨密度検査などを通して、生活習慣病についても調べます。ただし、医療機関によっては各検査が前後することもあるため、注意が必要です。

脳血管性認知症の治療

脳血管性認知症の治療は、脳血管障害の再発予防と、認知症の症状への対症療法を中心に行います

脳血管性認知症は、脳の血流に障害が生じ、脳細胞が死滅することに起因する疾病です。現段階では根本的な治療方法は見つかっておらず、記憶障害や認知機能障害を改善する確実な方法も確立されていません。そのため、脳血管性認知症と診断されたときは、脳血管障害が生じる領域が拡大しないための再発予防や、認知症症状の対症療法をメインに治療を進めていきます。

たとえば、脳血管障害の危険因子である生活習慣病をコントロールするために、各個人の抱える危険因子に応じた薬剤を処方することがあります。また、意欲低下や突発的な興奮状態がみられるときは、脳循環代謝改善剤を処方されることもあるでしょう。

脳血管性認知症のケア

患者を傷つけない言葉がけと、こまめな通院心がけましょう

脳血管性認知症患者は、初期の段階では自分が認知症であると理解していることが多いため、落ち込みやすい状態にあります。そのため、「こんなこともできないの?」などの傷つけるような言葉がけにより、さらに気分が落ち込み、うつ傾向に陥ることも少なくありません。

脳血管性認知症では、「できること」と「できなくなったこと」の差がはっきりとしているため、できなくなったことに対して患者本人がつらさを感じないように、さりげなくサポートしましょう。また、介護者だけに負担をかけすぎないように、周囲の社会資源などから適切な支援を受けることも大切です。

脳血管性認知症は、脳血管障害の再発により一気に進行することもあります。そのようなことを避けるためにも、適切な治療を受けるようにしましょう。

脳血管性認知症に関するよくある質問

脳血管性認知症に関して、よくある質問とその答えをまとめました。ぜひ参考にしてください。

Q脳血管性認知症になってしまった場合、どのくらい生きられますか?

脳血管性認知症を発症してからの生存期間は、ある研究では男性は5.1年、女性は6.7年とされています。一方、アルツハイマー型認知症では、男性は5.0年、女性は7.8年です。ただし個人差のある話なので、あくまでも参考程度の情報だとご理解ください。

参考:一般社団法人 日本神経学会 「認知症疾患診療ガイドライン2017

Q脳血管性認知症はどのような方法で予防できますか?

生活習慣病を予防することで、脳血管性認知症の予防につなげられます。栄養バランスのよい食事を適切に摂り、運動習慣を身につけ、禁煙を心がけてください。

Q脳血管性認知症による歩行障害にリハビリは有効ですか?

リハビリは有効とされていますが、一方でリハビリ単独ではあまり症状が改善されないケースもあります。脳血管性認知症は認知機能にも障害を抱えていることが多いため、運動療法に加え、自己認識を高める心理的サポートも同時に実施することが推奨されます。

日常生活で「変だな」と感じたときはメモを取っておこう

脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血をきっかけとして段階的に進行する認知症です。できないことが増えたり、感情のコントロールが難しくなったりすることで、気づくこともあるかもしれません。

日常生活で「変だな」「いつもと違うな」と感じたときは、なるべくメモに取って残しておきましょう。医療機関での問診の際に役立つだけでなく、早く異変に気づき、早期治療を受けやすくなることもあります。

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