04認知症コラム

弄便(ろうべん)とは?原因と対応方法について解説

2024.07.26

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弄便は、認知症の患者にみられる周辺症状の一つです。便を直接手で触る異常行動を示すため、理解できないと感じるかもしれません。しかし、弄便に至るにはその人なりの理由があります。この記事では、弄便の理由について解説します。また、予防と対応策も紹介するので、悩んでいる方は参考にしてください。

弄便(ろうべん)とは?

弄便とは、排泄した便を直接手で触ったり、周囲に擦り付けたりする行為のことです。認知症の周辺症状の一つであり、「不潔行為」と呼ばれるものの一種にあたります。認知症が中等症以上進行している場合で起こる場合が多いです。

弄便に至るには本人なりの理由があり、悪意があってしていることではありません。ただし、弄便は衛生面の問題のほか、介護者に大きな精神的負担が伴う行為でもあります。弄便が起こってしまったときの適切な対応を知り、負担をなるべく軽減させましょう。

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弄便が起こる4つの理由

前述の通り、弄便が起こってしまうのには理由があり、決して悪気があってのものではありません。ここでは、弄便が起こる主な理由を4つ紹介します。

自分で片付けようとしている

漏らしてしまった便を自分で片付けようとした結果、弄便につながってしまう場合があります。このケースでは、便を「不衛生なもの」と認識ができている患者に起こります。早く片づけたいとは思っているものの、適切な方法がわからずパニックになり、おむつを破いてしまったり、手についた便を取ろうとして服や壁にこすりつけてしまったりします。

失禁を隠そうとしている

失禁してしまったことを隠すための行動が弄便につながることもあります。失禁してしまった恥ずかしさから、汚れた下着をタンスなどに隠そうとしてしまうのです。この場合、その行動を責めてしまうと、かえって弄便や周辺症状がエスカレートするおそれがあるため、本人のプライドを傷つけるような声掛けや叱責は避けましょう。

便を認識できない・誤認している

認知機能の低下により便を認識できず、他の物と勘違いしている場合があります。具体的には、美容クリームと勘違いして顔に便を塗ったり、食べ物と勘違いして食べてしまったりなどです。また、便を大切なものと勘違いし、丁寧に包んでしまってあることもあります。

おむつの中の不快感を解消しようとしている

進行した認知症のため便を認識できない場合であっても、おむつの中で排便をすると蒸れや違和感などの不快感が生じます。認知症になると便意や排便感覚が低下し、自分でも排便に気がつかなくなる場合もあるでしょう。この不快感の原因を取り除こうとしておむつの中に手を入れ、汚れた手をぬぐおうと弄便に至ることもあります。

弄便が起きたときの3つの対応方法

弄便を発見した場合、ショックを受けるかもしれません。弄便による被害を最小限に抑え、今後も介助を続けていくために、介助者として正しい対応方法を知っておきましょう。

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叱らず落ち着いて声掛けをする

弄便を見つけたときは落ち着いて、可能な限り優しく声掛けをしましょう。弄便は悪意で行うものではありません。汚してしまったことで本人もショックを受けている可能性があります。

この際に叱責してしまうと、介護者との信頼関係にひびが入り、その後の介護拒否につながりかねません。相手の自尊心を傷つけないような声掛けを意識しましょう。

手の汚れをとり消毒する

弄便を見つけたら、まず手についた便を拭き取りましょう。そうすることで、現状以上に汚れが拡がることを防げるでしょう。

もし便がついたままの手で目を擦ってしまったり、口に入れてしまったりすると感染症に罹患するリスクもあります。感染症を予防するためにも、手の便を拭き取ったら消毒も行ってください。

お風呂場で汚れを落とす

手や足などの汚れを取り除いたら、そのままお風呂に誘導しましょう。温かいお湯できれいに洗い流し、手早く不快感を取り除くことがポイントです。

ただし、本人が嫌がっているのに無理にお風呂に連れて行ったり、お湯になる前のシャワーで洗い流したりしないよう注意してください。お風呂に恐怖心や嫌なイメージを抱かせないよう、やさしく丁寧な入浴介助を心掛けましょう。

弄便の予防と対策

弄便をできる限り予防する方法と、弄便が起きてしまった場合でも被害を最小限に食い止める対策について解説します。実践が大変な面もありますが、無理のない範囲で取り組んでみましょう。

自然な排便を促す トイレでの排を促す おむつをこまめに替える 手指の汚れをすぐ落とせるようにする 壁や床などを掃除しやすい仕様にする

自然な排便を促す

できるだけ下剤を使わず、自然な排便を促しましょう。認知症になると腸の機能が低下し便秘になりやくなるため、下剤が処方される場合があります。しかし、下剤を使用すると便が緩くなるため排便に気づきにくく、弄便を引き起こす可能性があります。

自然な排便を促すには水分補給をこまめに行い、お腹のマッサージなどを取り入れるとよいでしょう。

トイレでの排を促す

弄便の原因の多くはおむつの中の不快感であるため、トイレで排便することで弄便を改善できる可能性があります。そのため、トイレで排便するための工夫が必要です。

たとえば、普段から排泄前の兆候やタイミングなどをチェックしておくとよいでしょう。寝る前など排泄の時間を決めて、おむつに出てしまう前に定期的にトイレに誘導します。部屋からトイレに行くのが難しい場合はポータブルトイレでも問題ありません。

おむつをこまめに替える

便で汚れた状態が長時間続かないように、おむつはこまめに替えるようにしましょう。便による不快感をすぐに取り除いてあげることで、弄便行為を抑制できるかもしれません。

また、おむつをこまめに交換することで肛門周りも清潔に保てるため、湿疹などの肌トラブルの予防にもつながります。さらに、おむつ交換の際にお尻周りにワセリンなどの保湿剤などを塗ってケアすることで、皮膚トラブルを軽減できるでしょう。

手指の汚れをすぐ落とせるようにする

認知症の方が寝ているベッドの近くに、ウェットティッシュや濡れタオルを置いておくのも一つの方法です。

弄便の原因として、便を触ってしまった手をきれいにぬぐおうとして周囲につけてしまうことが挙げられます。拭きとれるものを手が届く場所に用意しておくと、汚れが広がるのを最小限に留められる可能性があるので、試してみる価値はあるでしょう。

壁や床などを掃除しやすい仕様にする

弄便は繰り返し起こる可能性がある症状のため、部屋の床や壁、寝具などは汚れる前提で、掃除しやすい仕様に変えておくとよいでしょう。介護者の負担軽減につながります。

ベッドには防水シーツを敷いたり、壁には保護シートを張ったりするのも手段の一つです。また、畳は隙間に汚れが入り込みやすく、掃除しにくいのでフローリングに替えると便利です。

ミトン・つなぎ服の装着は慎重に検討する

どうしても弄便が改善しない場合、直接おむつや便を触らせない方法として、ミトンやつなぎ服の装着が検討される場合もあります。ただし、これらを装着させることは「身体拘束」にあたることを意識しましょう。

身体拘束は本人の身動きの自由を奪うため、強いストレスを与え、認知症の周辺症状を悪化させる可能性があります。介護者の負担を軽減するための最終手段であり、踏み切る前には担当医や介護職などの専門家に相談してください。

介護をつらく感じたらプロの手を借りよう

弄便は介護者に肉体的にも精神的にも大きな負担です。弄便への対応を含め、介護をつらいと感じたらケアマネージャーや担当医、介護職の専門家に相談しましょう。

プロのサービスを利用することで介護の負担は大きく軽減できます。また、家族の負担が減ることで、介護を受ける本人との関係も改善が見込め、結果的に本人の幸せにつながるでしょう。

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弄便に関するよくある質問

弄便について、よく聞かれる質問をまとめました。身近な方の弄便にお悩みの方はぜひ参考にしてみてください。

Q弄便はなぜ起こるのでしょうか?

弄便の原因は、認知症の進行により便を認識できなくなるケース、失禁を隠そうとしたり自分で片付けようとしたりするケース、おむつの中の不快感を解消しようとするケースがあります。原因によって対策はそれぞれ異なります。

Q弄便は治せますか?

弄便は、認知症の症状が進行するなかで現れる周辺症状の一つであるため、治すことは困難です。ただし、便が出る前にトイレ誘導したり、こまめにオムツ交換したりすることで弄便の頻度を減らせるでしょう。

Q弄便は発達障害などの子どもでも起こりますか?

知的障害や発達障害の子どもに弄便がみられることがあります。原因は子どもによってさまざまですが、対策は高齢者の場合と同様です。便が出る前にトイレで排泄させたり、こまめにオムツ交換したりするのがよいでしょう。

弄便に悩んだら相談しましょう

弄便は衛生的な問題もあり、介護者に大きなショックと負担を与えます。つい咎めたくなりますが、本人は決して悪気があってしているわけではありません。本人も対応に困って弄便に至るため、介護者は本人とともに問題解決をしていくつもりで予防に努めることが大切です。ただし、介護者に大きな負担が掛かるため介護サービスの活用も検討しましょう。

弄便などの周辺症状を含む認知症症状は一度発症すると治療が難しいため、発症前からの予防・ケアが肝心です。たとえ発症してしまっても、早期であれば認知機能が回復するあります。詳しい情報については以下の最新研究をチェックしてみてください。

認知症機能障害の改善に関する最新研究について詳しくはこちら

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