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04認知症コラム

アルコールの過剰摂取で認知症に?
アルコール性認知症の原因や症状、
改善方法まで徹底解説

2025.05.30

アルコールの過剰摂取で認知症に?アルコール性認知症の原因や症状、改善方法まで徹底解説イメージ

アルコールの過剰摂取は認知症のリスクを高め、アルコール性認知症を引き起こす可能性があります。アルコール性認知症は早期に対応すれば回復が期待できるため、認知症とアルコールの関係を理解し、予防に努めることが重要です。この記事では、アルコール性認知症の原因や症状、治療法について詳しく解説します。

アルコール性認知症とは?

アルコール性認知症は、長期間にわたる過剰なアルコール摂取によって引き起こされる認知症の一種です。脳血管障害やビタミンB1の欠乏による栄養障害が主な原因となり、記憶障害や見当識障害などの症状が現れます。

アルコール性認知症は若い世代でも発症するリスクがありますが、高齢者の発症が顕著です。過去に5年間以上にわたりアルコール乱用または大量飲酒をしている高齢男性は、そのような経験のない人に比べて認知症の危険性が4.6倍に上ることが報告されています。

アルコール性認知症とは?イメージ
出典:厚生労働省 健康づくりサポートネット「アルコールと認知症

アルコール性認知症の原因

アルコール性認知症の原因は多岐にわたります。アルコールを大量に摂取すると、脳が萎縮するだけでなく、さまざまな病気を引き起こし、結果として認知症になる可能性が高まります。

アルコールが関係する認知症の主な原因

脳血管障害 頭部外傷 肝硬変 糖尿病 ウェルニッケ・コルサコフ症候群

出典:厚生労働省 健康づくりサポートネット「アルコール性認知症

なかでも、「ウェルニッケ脳症」と、その後遺症である「コルサコフ症候群」には注意が必要です。ウェルニッケ脳症の原因の約半分はアルコール依存症であるとされています。コルサコフ症候群に陥ると回復は困難なため、ウェルニッケ脳症の段階で早期に対応することが重要です。

ウェルニッケ脳症とは?
ビタミンB1不足により脳に出血が起こり、眼の動きの異常、意識障害、ふらつきなどが急激に現れる病気です。アルコール依存症が原因の大半を占めています。
コルサコフ症候群とは?
ウェルニッケ脳症が進行し、記憶障害や作話、時間や場所の認識障害が起こる状態です。一度発症すると回復が難しいとされています。

出典:厚生労働省 健康づくりサポートネット「ウェルニッケ・コルサコフ症候群

アルコール性認知症にみられる症状

アルコール性認知症が進行すると、ほかの認知症と同様にさまざまな症状が現れます。アルコール性認知症の具体的な症状をみていきましょう。

アルコール性認知症にみられる症状イメージ

記憶障害記憶が抜け落ちてしまう

アルコール性認知症では、新しい情報を記憶に留めることが困難になったり、過去の記憶が失われたりする記憶障害が顕著に現れます。たとえば、直前の会話内容を忘れてしまったり、以前は問題なくできていた日常的な作業ができなくなったりすることがあります。

作話体験していないことを本当のように話す

作話とは、実際には経験していない出来事をあたかも事実であるかのように語る症状です。これは、記憶の欠落を無意識に補おうとする脳の働きによるもので、嘘をついているわけではありません。ただし、全く経験のない空想的な内容を語るケースもあります。

見当識障害日時や場所がわからなくなる

見当識障害とは、時間、場所、人物などの認識が正確にできなくなってしまう状態のことです。今日の日付や現在いる場所のほか、家族のこともわからなくなってしまいます。症状の進行に伴い、日常生活や社会生活に支障をきたすこともあるでしょう。

精神症状理性的な行動ができなくなる

感情や行動の制御が効かなくなる「脱抑制」と呼ばれる症状も顕著に現れます。具体的には、暴言や自分本位の極端な行動、攻撃性の増加、社会的規範の無視などです。また、アルコール依存症を併発している場合は、うつ状態になったり、幻覚症状が現れたりすることもあります。

運動失調思うように歩けなくなる

運動失調とは、体の動きをスムーズにコントロールできなくなる状態です。主に歩行が不安定になったり、手足が震えたりする症状が現れることがあります。とくに歩行障害が顕著に現れ、何かにつかまらないと歩けなくなり、転倒のリスクが高まります。

アルコールの過剰摂取は認知症以外にも
病気のリスクを高める

アルコールの過剰摂取は、認知症のリスクを高めるだけでなく、さまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。とくに、アルコール性肝障害は高頻度かつ重篤化しやすい疾患です。また、うつ、がんの発症リスクも高まります。

さらに、循環器疾患、高血圧、膵炎、糖尿病などの生活習慣病のリスクも増加し、全身の臓器に悪影響を及ぼす可能性があります。

アルコール摂取によってリスクが増大する病気

肝障害 高血圧 睡眠障害 アルコール依存症

アルコール性認知症の改善・治療法

アルコール性認知症は、早期に適切な治療を行うことで改善が期待できる認知症です。ここでは、アルコール性認知症の主要な治療法とその効果について解説します。

断酒をする

アルコール性認知症の治療の基本は断酒です。アルコールの摂取を完全に断つことで、症状の改善が期待できます。ただし、アルコール依存症を伴っている場合は、離脱症状が出ることもあるため、医師に相談しながら行うことが大切です。自制が困難な場合は、入院治療や断酒会への参加が必要となることもあります。

ポイント
自力では難しい場合は、自助グループへの参加や、治療施設へ入院も勧められている

生活スタイルを改善する

生活スタイルの改善も重要です。早寝早起きの習慣をつけ、規則正しい生活を心がけましょう。適度な運動やボランティアへの参加など、アルコール以外の楽しみを見つけることも大切です。さらに、家にアルコールを置かないなど、できる限りアルコールに手が伸びない環境をつくりましょう。

ポイント
習い事やボランティアに参加するなど外出を増やし、アルコールを接種する機会を減らすことも大切

食事療法を行う

アルコール性認知症は、ビタミンB1の不足による栄養障害が発症の一因とされています。ビタミンB1を多く含む豚肉やレバーに加え、ビタミンB2やB12が豊富な乳製品や卵、葉酸を含むホウレン草やブロッコリーなどを積極的に摂取しましょう。

また、これらの栄養素だけでなく、そのほかの栄養素も含んだ、バランスの良い食事を心がけることが大切です。

ポイント
特定の食品ばかりを摂取するのではなく、バランスを意識した食事を心がけよう

薬物療法を行う

自力での断酒が難しい場合は、飲酒欲求を抑える薬や、ジスルフィラムなどアルコールの分解を阻害する薬を用いた薬物療法を行います。アルコールの分解を阻害する抗酒薬は、飲酒時に不快な症状を引き起こすため、体がアルコールを受けつけなくなって断酒を継続しやすくなります。

ただし、これらの薬には副作用があるため、医師の指示に従って慎重に検討することが重要です。

ポイント
アルコール依存症に用いられる薬は慎重に投与する必要があるため、医師と相談しながら服用しよう

適切なアルコールの摂取量は?

厚生労働省では、1日あたり純アルコールで20g以下を適切なアルコール摂取量としています。これは日本酒約1合、ビール中瓶1本、ワイン約180mlに相当します。ただし、あくまで目安量であり、認知症のリスクが下がるわけではありません。

2017年にオックスフォード大学とロンドン大学の研究チームが発表した調査によると、適量飲酒のグループでも、アルコールを飲まないグループと比べて海馬の萎縮リスクが3.4倍に高まることが確認されています。

個人の体格や健康状態、年齢によっても変わってくるため、自分に合った適量を知っておくことが大切です。

出典:厚生労働省 「アルコール

アルコール性認知症の疑いが
あるときの対応のポイント

アルコール性認知症は早期発見と適切な対応が重要です。とくにウェルニッケ脳症からコルサコフ症候群に移行すると症状の改善が困難になるため、少しでも不安がある場合は医療機関を受診しましょう。

アルコール性認知症の疑いがあるときの対応のポイントイメージ

「アルコール性認知症かも?」と思ったら早めに受診する

アルコール性認知症は、早期発見により症状が改善される可能性があります。疑いがある場合は早めに受診し、症状の悪化を防ぐことが重要です。受診前に飲酒の頻度や量を把握したうえでかかりつけ医に相談し、必要に応じて専門医療機関を紹介してもらいましょう。

家族と協力をして断酒をする

アルコールの過剰摂取の背景には、寂しさなど精神的な要素が影響している場合もあります。家族は本人が責任を持って自分の過剰飲酒と向き合えるよう、毅然とした態度で接することが大切です。ただし、家族だけで対処しようとすると問題が余計に大きくなるケースもあるため、外部の力を借りることも検討しましょう。

認知症の接し方のポイントについて詳しくはこちら

アルコール性認知症に関するよくある質問

「もしアルコール性認知症になってしまったら……」と不安に感じている方も多いでしょう。ここでは、アルコール性認知症に関するよくある質問をまとめましたので、参考にしてみてください。

Qアルコール性認知症には保険が
適用されますか?

アルコール性認知症でも保険に加入できる可能性はあります。最近では、引受基準緩和型保険など、持病や疾患がある方でも加入できる保険商品が増えています。ただし、保険会社や商品によって条件が異なるため、個別に確認が必要です。

Qアルコールの摂取で認知症が悪化することはありますか?

アルコールの過剰摂取は、認知症を悪化させる可能性があります。脳は摂取したアルコールの量に比例して萎縮するといわれており、これにより認知機能が低下したり、脳梗塞のリスクが高まったりする可能性があります。適切な飲酒量を守ることが重要です。

Qアルコールで低下した認知機能は
回復しますか?

アルコール性認知症は、早期に適切な治療を行うことで改善が期待できます。断酒を基本とし、薬物療法、食事療法、生活スタイルの改善などの治療で、認知機能の回復が可能です。ただし、完全な回復には個人差があり、脳萎縮が進行した場合は元の状態に戻ることは難しいため、早期発見・早期治療が重要です。

アルコール性認知症は早期発見と
適切な対応が回復への鍵

アルコール性認知症は、長期間にわたる過剰飲酒で脳が萎縮することによって発症します。ほかの認知症と同様に記憶障害や見当識障害などの症状が現れ、日常生活に支障を及ぼす可能性があるため、早期発見が重要です。

治療には断酒を基本とし、薬物療法や食事療法も効果的です。完全な回復は個人差がありますが、早期に適切な対応をすることで症状改善の可能性が高まります。適度な飲酒と栄養バランスの良い食生活を心がけ予防に努めましょう。

認知機能の低下を未然に防ぎたいと思うこともあるかもしれません。認知機能障害になると、健常な状態に戻ることは困難を極めます。最新研究から認知機能の維持・改善におけるヒントが見つかる可能性があるので、ぜひチェックしてみてくださいね。

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