04認知症コラム
認知症の周辺症状(BPSD)とは?
種類や対応のポイントを解説
2024.06.28
認知症の周辺症状(BPSD)とは、本人の元々の性格や人間関係などの要因をもとに、認知症の症状として生じる精神症状や行動上の問題のことです。個人差が大きく、生活が困難になる程度に現れることもありますが、ほとんどみられないこともあります。認知症の周辺症状にはどのような種類があるのか、また、治療方法や周囲の人々が実施すべき対応についても解説します。
目次
認知症の周辺症状(BPSD)とは?
認知症の症状は、中核症状と周辺症状に分けられます。中核症状とは、脳細胞が損傷を受けることで直接起こる症状です。中核症状には記憶障害や見当識障害、実行機能障害、理解力・判断力の低下などがあります。
一方、周辺症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)は中核症状に付随して二次的に発生する症状です。なお、BPSDを直訳すると「認知症の行動・心理症状」となります。
周辺症状は、本人の性格や人間関係、環境などのさまざまな要因が絡み合い、精神症状や行動障害となって現れたものです。周辺症状の現れ方には個人差が大きく、生活に支障をきたす程度の症状が現れることもあれば、ほとんど症状がみられないこともあります。
認知症の主な周辺症状(BPSD)の種類
認知症の周辺症状は個人差が大きく、現れ方もさまざまです。
比較的よくみられる周辺症状について解説します。
抑うつ、不安
認知機能の低下により、今までできていたことができなくなると、不安を感じたり気分が落ち込んだりすることがあります。また、不安から焦燥感が強まり、うつ状態になることも少なくありません。
認知症のなかでも患者数が多いアルツハイマー型認知症では、抑うつや不安は比較的早期にみられます。また、認知症と判断される一歩前の段階である軽度認知障害の時点で不安がみられると、アルツハイマー型認知症に進行しやすいこともわかっています。
妄想、幻覚
現実的ではないことを信じ込んでしまう妄想や、実在しないものが実在しているかのように認識・体験する幻覚が現れることもあります。いずれも物忘れや誤認などがベースとなり、心理的要因などが加わって現れる周辺症状です。
アルツハイマー型認知症では、失くしたものに対して誰かに盗られたと確信してしまう、もの盗られ妄想や被害妄想がみられることがあります。一方で、レビー小体型認知症では幻視や誤認などを背景とした嫉妬妄想、存在しない同居人が見えるなどの幻覚がみられることがあります。
睡眠障害
認知症患者は一般的に睡眠が浅く、睡眠障害がみられるようになることがあります。たとえば、1時間程度の短時間でも連続して眠れなかったり、昼寝が増えて昼夜逆転が起こったりすることもあるようです。
また、しっかりと覚醒できない「せん妄」状態になるときは、不安が強まり、攻撃的になることがあります。とりわけ夕方から就寝までの時間帯は、徘徊や奇声などの異常行動が出やすくなるとされています。
徘徊
徘徊は、認知症の中核症状として位置関係の見当識障害や、自宅を忘れるなどの認知機能障害を背景に、目的もわからないままにどこへともなく歩き続けるという周辺症状です。
徘徊者に対する捜索願や警察への通報は多く、2005年度の調査では1年間に23,668件にものぼったことが報告されています。
また、発見が遅れ、死亡や行方不明に至るケースもあり、注意が必要な症状の一つです。
暴言、暴力
自分の言いたいことを正確に伝えられないもどかしさから、感情がコントロールできなくなり、暴言を吐いたり、暴力をふるったりすることもあります。
周囲にとっては唐突な暴言・暴力であっても、本人にとっては確固とした理由があるケースも少なくありません。頭ごなしに暴言・暴力を否定するのではなく、相手の立場や感覚を想像しながら、対話を心がけることが大切です。
不潔行為
不潔行為は、風呂に入らない、尿をまき散らす、排泄物を触るなどの行為を指します。とくに排泄物を触る行為は「弄便」と呼ばれ、認知症の進行に伴って現れることがあります。また、トイレの水を流さない、ひげや髪を切らない・整えないなどの行為をする場合もあるでしょう。
不潔行為の原因は、認知症の患者の自己の身体や周囲の環境に対する認識が低下することによる、自己管理能力の喪失です。
また、排泄の失敗がきっかけとなって不潔行為が始まることもあります。
帰宅願望
帰宅願望は、患者が「自宅に戻りたい」という強い欲求を示し、時には自身の住まいやケア施設などから出ようとする行動のことです。この願望は、不安感や焦燥感、孤立感などから生じ、患者の心情が不安定になることで引き起こされます。
また、夕方になると帰宅願望が増大する「夕暮れ症候群」という現象がみられる場合もあるでしょう。はっきりと原因はわかっていませんが、体内時計の乱れ、感覚能力の衰え、疲労、または薬物の副作用などが作用してると考えられています。
介護拒否
介護拒否とは、本人が介護を拒否することです。さまざまな原因が考えられますが、記憶障害がきっかけになることもあるようです。
たとえば、尋ねた内容をすぐに忘れてしまい、何度も同じことを尋ねたとしましょう。何度も繰り返しているうちに、「何度も同じことを言わないで」と介護者が怒るかもしれません。このようなことを何度か繰り返すうちに、介護者を「困っているときに怒る人」と認識し、介護を拒否するようになることがあります。
異食
異食とは、食べ物以外を口に入れる行為です。認知症が進行することで、食べ物と食べ物以外の区別がつかなくなったり、満腹感を認識する脳の部分が損傷し、食欲の抑制が効かなくなったりすることがあります。また、寂しさを解消するために、手当たり次第に口に入れることもあるようです。
異食によって喉を詰めたり、命に関わる危険な事態が生じたりすることもあります。介護者は、異食行為をしないように目配りをすることが大切です。
認知症の周辺症状が現れる原因
認知症の周辺症状が現れる原因として、中核症状に対する周囲の人々の反応により精神的に不安定になることが挙げられます。
たとえば、認知症によって生じた見当識障害や理解力・判断力の低下から、周囲の人々が本人を否定したり叱責・無視などの反応をされたりすることもあるでしょう。そのような状況におかれると、本人は不安を強く感じるようになります。
結果として、不安を紛らわそうと暴言を吐いたり、食べ物以外を口に入れたりすることも少なくありません。周辺症状の出現を回避するためにも、周囲の人々は認知症の症状について理解し、不安をあおらないように対応することが大切です。
認知症の周辺症状(BPSD)が現れる時期
認知症の進行段階によって、出現する周辺症状が異なります。
よくある周辺症状の出現時期を、時期別に解説します。
前兆期(軽度認知障害)
軽度認知障害(MCI)とは、本人や周囲も認知機能に問題があることに気づくものの、認知症とは診断されない状態です。そのまま放置すると認知症に進行することもありますが、適切に対応すれば健常な状態に戻ることもあります。
軽度認知障害の時期には、認知症の中核症状がはっきりと現れるわけではありません。したがって、周辺症状もみられないことが一般的です。
初期(軽度)
認知症の初期段階とは、認知症を発症してから1~3年程度の時期です。ただし、認知症の進行は個人差があるため、初期段階が長引くこともあります。
初期段階では、中核症状として記憶障害や理解力・判断力の低下が目立ちます。これらの中核症状に伴い、環境や本人の気質などがあいまって、妄想や無気力などの周辺症状がみられることもあるようです。
中期(中度)
認知症の中期段階とは、認知症を発症してから2~10年程度の時期です。記憶障害が進み、見当識障害が現れることもあります。
日常生活が困難になるため、介護が必要になるのも中期の特徴です。一般的に、認知症の段階のなかでも、介護がもっとも大変な時期とされています。中期には妄想や幻覚、徘徊、不潔行為などの周辺症状がみられることがあります。
末期(重度)
認知症の末期段階とは、認知症を発症してから8~12年程度の時期です。個人差があるため、さらに早く末期段階に進行することもあります。
コミュニケーションを取ることや歩行・移動が難しくなり、寝たきりの状態になって日常生活全般に介護が必要になることも多いです。末期には、失禁や異食などの周辺症状がみられることがあります。
認知症の周辺症状の治療方法
認知症の周辺症状には、非薬物療法と薬物療法の2つの治療方法があります。まずは非薬物療法で対応し、症状の軽減がみられないときに薬物療法を検討するのが一般的です。
非薬物療法
薬を用いない非薬物療法としては、心理療法やリハビリテーションなどが挙げられます。心理療法には、回想法やバリデーション療法などがあります。
回想法とは昔の写真や音楽、家庭用品などを見ながら、思い出や経験を語り合う療法です。今までの人生を振り返ることで、自己肯定感を高めやすくなります。また、バリデーション療法とは、問題行動もすべて意味のある行動と捉え、どのような理由でその行動に至ったのか本人の意見を聞いて共感する療法です。適切な行動は褒め、次回も適切に行動できるように導きます。
一方、リハビリテーションとは、作業や活動を通してケガのリスクを軽減したり、精神的な安定を図ったりすることです。たとえば、姿勢を整えることもリハビリテーションの一つで、体の痛みや転倒リスクの軽減を目指します。本人が自立した生活を続けるためにも、リハビリテーションを通して運動機能を維持・向上することは大切です。
その他にも、次の非薬物療法があります。
音楽療法 芸術療法 園芸療法 レクレーション療法 アニマルセラピー など
薬物療法
薬物療法は、その名の通り薬を使用する治療法です。周辺症状の種類によって、処方される薬が異なります。
過活動症状に対する薬
興奮や暴言などの過活動症状がみられるときは、抗精神病薬や抗てんかん薬を使用することがあります。ただし、高齢の認知症患者に抗精神病薬を投与すると、死亡率が高くなるというデータもあるため安易な使用は厳禁です。
また、転倒や骨折のリスクが高まること、眠気やふらつき、嚥下障害、歩行障害などの副作用がみられることもある点にも注意してください。まずは低用量で症状を見ながら調整することが大切です。
低活動症状に対する薬
意欲低下や抑うつなどの低活動症状がみられるときは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの抗うつ薬を投与することがあります。
ただし、抗うつ薬を投与することで、てんかん発作が発生しやすくなったり、緑内障や心血管疾患の悪化が副作用としてみられたりすることもあるため注意が必要です。
また、SSRIを投与するときは、下痢や吐き気などの消化器症状が副作用として現れることもあります。抗精神病薬・抗てんかん薬と同様、まずは低用量で症状を見ながら調整することが大切です。
認知症の周辺症状(BPSD)の対応のポイント
周囲の人々の対応により、周辺症状が改善することもあれば、深刻化することもあります。周辺症状の対応のポイントを紹介します。
本人の気持ちに配慮する
認知症になったからといって、自分の状況がすべてわからなくなったり、感情がなくなったりするわけではありません。まずは本人の気持ちや考え方を理解するように努め、精神状態が安定するようにサポートしましょう。
頭ごなしに怒ったり、人格を否定したりすることで、患者本人の不安が強まります。結果として、周辺症状が深刻化することもあるでしょう。まずは受け入れ、寄り添うことを意識してください。
症状が起こる原因を考える
周辺症状は、患者本人の気質や人間関係、環境、周囲の人々の対応などが絡み合って起こります。周辺症状がみられるときは、なぜ症状が現れているのか原因を探ってみましょう。
日頃から本人の行動を観察していると、周辺症状が起こる原因を突き止めやすくなります。普段から行動に注目し、気になる点は書き留め、担当医などに相談してみるのも一つの方法です。
なるべく生活環境を変えない
認知症の方にとって、生活環境の変化は強いストレスになるので注意が必要です。ストレスを感じることで精神状態が不安定になり、周辺症状が悪化することも珍しくありません。
たとえば、部屋の模様替えや日課を変更することなども、ストレスの一因となることがあります。入院や施設入所をきっかけに周辺症状が顕在化する場合もあります。なるべく生活環境を変えないように心がけてください。
不可解・不適切な言動があっても否定しない
不可解・不適切な言動であっても、決して否定することなく、まずは本人の話を聞いてみましょう。自尊心を傷つけないことで、周辺症状の悪化を回避できることもあります。
妄想や幻覚などにより、不可解・不適切な言動が生じることもあるでしょう。しかし、本人にとってはいずれも意味があり、理屈にかなった言葉や行動である可能性が想定されます。頭ごなしに否定せず、いったん受け入れて話を丁寧に聞く姿勢が大切です。
周辺症状への対応を理解しておこう
認知症の周辺症状は個人差が大きく、深刻な症状が現れることもあれば、ほとんど現れないこともあります。周辺症状が現れたときは、たとえ好ましいものでなくても、頭ごなしに否定するのではなく、どのような考えによる行動なのか耳を傾けてみてください。
理解しようと努めるだけでなく、適切な言動に対しては褒めることで、問題行動が減る場合もあります。認知症を自分ごととして捉え、適切な対応を理解しておきましょう。