04認知症コラム
認知症は遺伝する?
家族にいる場合のリスクや軽減する方法を解説
2026.07.17
ご家族に認知症の方がおられる場合、「遺伝するのだろうか?」と心配される方も多いものです。本記事では、認知症が遺伝する可能性があるかどうか、認知症の家族がいる場合のリスクや、今日からできる対策のポイントを紹介します。また、気になる遺伝子検査についても触れていますので、ぜひ参考にしてください。
認知症は遺伝する?
認知症は、ほとんどが遺伝とは関係なく発症します。家族に認知症の人がいても、自分が必ず発症するわけではありません。発症には生活習慣や環境など、複数の要因が関わっています。そのため、たとえ認知症と関連する遺伝子を持っていても、その他の要因によってリスクは大きく変わります。
遺伝しやすい認知症はある?
種類別のリスクと特徴の違い
認知症にはいくつかのタイプがあり、種類によって遺伝のかかわり方が異なります。ここでは代表的な3つの認知症について、遺伝リスクと症状の違いを紹介します。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、遺伝的要因で発症する代表的なタイプです。アルツハイマー型認知症には、遺伝とは関係ない「孤発性」と遺伝が関係する「家族性」の2種類があります。「家族性アルツハイマー型認知症」は、アルツハイマー型認知症全体の5%以下とされています。
家族性アルツハイマー型認知症の大半は若年性であることが特徴です。家族性アルツハイマー型認知症は40~50代で発症することが多く、30代で発症することも珍しくありません。
若年性アルツハイマーの特徴は、高齢者と比べて症状の進行が早いことです。両親のどちらかが家族性アルツハイマー型認知症を発症した場合、50%の確率で子どももアルツハイマー型認知症を発症するといわれています。
出典:厚生労働省「若年性認知症支援ガイドブック 」
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症とは、レビー小体という異常なタンパク質が脳内に蓄積し、神経細胞がダメージを受けることで発症するとされる認知症です。代表的な症状として、幻視やレム睡眠行動障害などがあります。レビー小体型認知症についても、発症リスクを高める可能性がある遺伝子変異についての研究が進められています。現在では、この遺伝子変異は東アジア人特有の遺伝子変異だと考えられています。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症とは、脳の前部で萎縮が起こることで発症するとされる認知症です。同じ行為を繰り返す「常同行動」といった特徴的な症状が現れるとされています。ただし、家族性の前頭側頭型認知症が発症する例は、日本においては稀です。
認知症の遺伝に関わる遺伝子の種類
アルツハイマー型認知症の遺伝には、原因遺伝子と感受性遺伝子の影響が考えられています。それぞれの遺伝子について解説していきます。
発症に直結する「原因遺伝子」
原因遺伝子とは、特定の病気の原因となる遺伝子のことです。
原因遺伝子に変異が生じると、特定の病気を引き起こす可能性があります。アルツハイマー型認知症の発症には、右記下記の3つの遺伝子変異が関与していることが確認されています。
- アミロイド前駆体タンパク質(APP)
- プレセニリン1遺伝子(PSEN1)
- プレセニリン2遺伝子(PSEN2)
これらの遺伝子変異があると、アルツハイマー型認知症を発症する可能性が高まるでしょう。しかし、これら3つの遺伝子変異をもっているからといって、必ずしも認知症を発症するわけではありません。
リスクを左右する「感受性遺伝子」
感受性遺伝子とは、特定の病気の発症リスクを高める影響力をもった遺伝子のことを指します。
アルツハイマー型認知症の発症については、「アミロイドβ」というタンパク質が脳に蓄積し、神経細胞の機能が低下することが原因とする説が有力です。この「アミロイドβ」の蓄積や凝集に関与する物質として「アポリポタンパク質E(APOE)」があり、これがアルツハイマー型認知症の発症リスクを高める感受性遺伝子です。
APOE遺伝子には、ε2、ε3、ε4の3種類があり、これらが二つ一組になって遺伝子型を構成します。その組み合わせは、「ε2/ε2」「ε3/ε2」「ε3/ε3」「ε4/ε2」「ε4/ε3」「ε4/ε4」の6パターンです。
ε4はアルツハイマー型認知症のリスク因子とされています。ε4をまったくもたない遺伝子型に比べて、ε4を1つもっている場合は発症リスクが3.2倍、ε4を2つもっている場合は発症リスクが11.6倍と報告されています。ただし、ε4をもっているからといって必ず発症するわけではありません。
一方、ε2はアルツハイマー型認知症の防御因子として考えられています。
認知症関連の遺伝子を持っていても
必ず発症するわけではない理由
認知症に関連する遺伝子を持っていても、必ず発症するわけではありません。遺伝子の働き方には個人差があり、生活習慣や環境によってリスクが大きく変わるためです。
遺伝子だけでは発症が決まらないため
認知症は、遺伝子だけで発症が決まる病気ではありません。多くの認知症は「多因子疾患」です。遺伝要因はその一部にすぎず、生活習慣や環境、年齢など複数の要因が重なって発症します。実際、同じ遺伝子を持つ人でも、発症する人としない人がいることが研究で示されています。
つまり遺伝子は「発症の可能性」を示す指標であるだけで、発症そのものを決定づけるものではありません。そのため、家族歴があっても必ず発症するわけではないのです。認知症だけに限らず、高血圧症や糖尿病、一般的ながんなども多因子疾患であるといえます。
生活習慣が遺伝子の働きを変えるため
生活習慣は脳の状態に大きく影響し、遺伝的リスクの現れ方を左右します。食事・運動・睡眠といった日々の習慣は、脳の血流や代謝に関わることが分かっており、不健康な生活が続くと、脳内に原因物質が蓄積しやすくなるなど、もともと遺伝的に弱い部分が強く現れやすくなることがあります。
一方で、生活環境が整っている場合には、遺伝的リスクが現れにくくなることもあります。このように、生活習慣が遺伝子の影響の出方を変えるため、関連する遺伝子を持っていても発症が決まるわけではないのです。
遺伝子の発現には個人差があるため
同じ遺伝子を持っていても、その遺伝子がどの程度働くかには大きな個人差があります。遺伝子の働き方(発現)は年齢・ストレス・生活環境などの影響を受けて変化し、この「発現の違い」を生む仕組みは「エピジェネティクス」と呼ばれています。
つまり、遺伝子そのものを持っていることよりも、遺伝子のスイッチのオン・オフであるエピジェネティクスの変化、すなわち「使われ方」が発症に影響するケースが多いのです。この個人差が、家族内で同じ遺伝子を持っていても発症する人としない人がいる理由のひとつとされています。
認知症の発症リスクを調べる方法ーAPOE遺伝子検査
遺伝子検査を行うことで、アルツハイマー型認知症の発症リスクを知ることができます。なかでも近年、アポリポタンパク質E(APOE)の遺伝子型を調べる「APOE遺伝子検査」が広く利用されるようになってきています。
検査でわかること
APOE遺伝子検査は、アルツハイマー型認知症の発症リスクに関わる遺伝的傾向を調べる検査です。APOE遺伝子の組み合わせには6つのタイプがあり、自分がどれに当てはまるかを知ることで、将来アルツハイマー型認知症を発症するリスクの高さを把握できます。
検査の流れと費用
検査は簡単な血液検査で行われ、医療機関で5ml程度の採血を行います。採血後2~3週間後に結果がわかり、検査結果は医療機関で受け取ることができます。
現時点ではAPOE遺伝子検査は健康保険適用外であり、費用相場は15,000円~20,000円程度です。自費で受ける必要があるので注意しましょう。
検査を受ける前に知っておきたい注意点
APOE遺伝子検査で発症の有無は判定できません。この検査は、認知症を発症するリスクを知り予防につなげることを目的としています。あくまで発症リスクを知るための検査であることを理解しておきましょう。
認知症の発症リスクを軽減させるためにできること
認知症の発症リスクは、日々の生活習慣や脳の使い方の工夫などで下げられることが分かっています。ここでは、今日から取り入れられる予防のポイントを紹介します。
生活習慣を見直す
生活習慣を整えることは、認知症リスクを下げる最も基本的な対策です。認知症の発症には、高血圧症・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病が深く関わっています。食事・運動・睡眠といった日々の習慣は脳の血流や代謝に直接影響し、不健康な生活が続くと脳の萎縮や血管のダメージにつながり、発症リスクが高まることが知られています。
また、肥満や飲酒・喫煙もリスクを高める一因です。一方で、生活習慣を改善することで脳への負担が減り、遺伝リスクがある人でも発症を遅らせられる可能性が研究で示されています。
脳の健康を保つ行動を続ける
脳を使い続けることは、認知機能の低下を遅らせるうえで大きな鍵となります。読書・会話・学習などの認知刺激は、日常的に取り入れることで神経ネットワークの維持に役立ちます。
また、人とのつながりはストレスを軽減するだけでなく、脳を活性化する効果もあることが分かっています。
さらに、運動は脳血流を改善し、認知機能の維持に効果があります。このように「脳を使う」「体を動かす」「人と関わる」の3つを組み合わせることで、相乗効果が生まれ、より効果的に脳の健康を保つことができます。
定期的にチェックを受けて早期発見を目指す
認知症は気づく時期が早いほど、治療やサポートの選択肢が広がり、進行を遅らせやすくなります。しかし初期症状は自分では気づきにくいため、定期的なチェックを受けることがとても重要です。健康診断や認知機能テストを受けることで、リスク因子を早めに把握でき、必要な対策を早期に始められます。
また、家族が気づいた小さな変化を専門家につなげることも早期発見に大きく役立ちます。早い段階で診断されることで、治療や生活支援、予防的な介入が行いやすくなり、より質の高い生活を維持しやすくなります。
認知症を発症しているご家族がいる場合に自分に対してできること
身近なご家族に認知症の方がおられる場合、自身も発症するのでは?と不安になられる方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、不安を抱えている場合にできる具体的なステップを紹介します。
自分のリスクを正しく把握する
自分のリスクを正しく把握することは、必要以上の不安を抱えずに備えるためにとても重要です。前述したように、認知症の発症は遺伝だけで決まるのではなく、生活習慣や環境による影響も大きいものです。家族歴があると一定のリスク上昇は見られるものの、必ず発症するわけではありません。
また、年齢・生活習慣・持病など、自分自身の要因もリスクに関わります。こうした点を理解することで、今後の生活で何を意識すべきかが明確になり、前向きに対策を進めやすくなります。いわば、「備えのヒント」というふうに考えておくとよいでしょう。
気になる変化があれば早めに相談する
リスクを知っておくことで、自分の変化に早く気づけることはメリットとなります。発症から早い段階で医療機関に相談することで、認知症の進行を遅らせられる可能性が高まります。初期症状は自分では気づきにくいものですが、「最近もの忘れが増えた」「生活のミスが続く」などの違和感を放置しないことが大切です。
また、家族に認知症の方がいると、自分の変化に敏感になりすぎて不安を抱えるかもしれません。そのような場合にも、専門家の判断を受けることが安心につながります。早めに相談することで、治療や生活改善の選択肢が広がるでしょう。
専門医に相談して適切なサポートを受ける
あらかじめ専門医とつながっておくことで、自分の健康状態を客観的に把握でき、必要な対策を適切に選べるようになります。専門医は認知症のリスク評価や認知機能のチェックを専門的に行えるため、気になる症状がある場合でも正確な判断が得られます。
また、必要に応じて生活習慣の改善や予防的なアドバイスを受けられるため、日常生活での不安を軽減しやすくなります。さらに、不安や疑問を相談できる場があることで精神的な負担が軽くなり、将来の変化に備えて継続的にフォローしてもらえる体制を整えやすくなるでしょう。
リスクがあるからこそ、前向きな備えを
認知症になりやすくなる遺伝子は確かに存在しますが、発症はそれだけで決まるものではありません。認知症のリスクは、日々の生活や環境によって大きく変わります。だからこそ、身近な家族に認知症の方がいる場合には、必要なときに専門家へ相談できる体制を整えておくなど、前向きな備えが将来の安心につながります。
認知症のリスクは、正しい知識と早めの備えで大きく変えられます。当サイト「認知機能ケアプロジェクト」では予防や研究に関するガンマ波の最新研究資料もご用意しています。また、その他にも役立つ認知症コラムを多数掲載しております。今後の備えにぜひお役立てください。