04認知症コラム

認知症の中核症状とは-
症状の詳細やケアについてわかりやすく解説

2024.06.24

認知症の中核症状とはイメージ

認知症の症状には、中核症状と周辺症状があります。認知症の中核症状とは脳の損傷により引き起こされる認知機能障害のことで、記憶障害や見当識障害、実行機能障害などを指すことが一般的です。中核症状にはどのような症状があるのか、また、どのような段階を経て進行するのか、どのように治療するのか解説します。

認知症の中核症状とは

認知症の中核症状とは、脳細胞の機能が低下することによって直接引き起こされる症状のことです。たとえば、記憶障害や見当識障害、実行機能障害、理解力・判断力の低下は、いずれも中核症状に分類されます。また、失語や失認、失行などの症状も認知症の中核症状として現れることがあります。

脳血管性認知症とはイメージ

中核症状と周辺症状(BPSD)との違い

認知症の中核症状は、脳細胞の直接的な損傷による認知機能障害が引き起こす症状全体を指します。一方、周辺症状(BPSD)は、中核症状をもとにして患者本人の元々の性格や人間関係、環境、そのときの精神状態なども絡み合って生じる症状のことです。

たとえば、不安やうつ状態、幻覚、暴力などが周辺症状の一例です。これらの周辺症状は本人の性格や周辺環境、周囲の人々の対応によっても影響を受けるため、患者によっては現れないケースもあります。

認知症における中核症状の内容

認知症の中核症状は、記憶障害や見当識障害、実行機能障害などに分けられます。それぞれの症状についてみていきましょう。

記憶障害

記憶障害とは、物覚えが悪くなったり、必要なときに必要なことを思い出せなくなったりすることです。

認知症の記憶障害は、年齢を重ねることによるもの忘れとは異なります。加齢による記憶力の衰えで、一度にたくさんの事柄を覚えられなくなったり、記憶として留めておくことが難しくなったりすることもあるでしょう。しかし認知症と異なり、単なる加齢によるもの忘れの場合であれば、何度か記憶する作業を繰り返せば大切な情報を覚えることは可能です。

認知症になり記憶障害が生じると、何度繰り返しても新しいことを覚えられなくなったり、少し前に聞いたことすら思い出せなくなったりすることがあります。症状が進行すると、すでに覚えたはずの記憶も失われる場合があるでしょう。

見当識障害

見当識障害とは、現在の日時や自分がどこにいるかなどの基本的な状況を把握することができなくなる障害です。たとえば、予定に合わせて準備をしたり、約束の時間に待ち合わせたりできなくなることがあります。また、季節感のない服装をしたり、自分の年齢がわからなくなったりすることもあるでしょう。

見当識障害が進行すると、慣れているはずの場所で迷子になったり、徒歩で行けなさそうな遠くに歩いて行こうとしたりすることも少なくありません。さらに進行すると、知り合いの生死についての記憶がなくなったり、身近な人々との関係がわからなくなったりすることもあります。

理解・判断能力の低下

理解力や判断力の低下とは、ものを考える能力や情報を処理する能力が衰えることです。認知症になると、考える速度が遅くなったり、2つ以上のことを同時に処理できなくなったり、イレギュラーな事態に対応できなくなったりすることがあります。

認知症患者の理解・判断能力が低下したときは、周囲のサポートが必要です。たとえば、考えているときに急かせないようにしたり、話をシンプルにまとめたりすることで、認知症患者が混乱する場面を減らすことができます。

実行機能障害

実行機能障害とは、計画を立てて行動したり、予想外の変化に適切に対応したりできなくなる障害のことです。たとえば、冷蔵庫に入っているものを忘れてしまい、スーパーで同じものを買ったり、主菜とスープを同時進行で作れなくなったりすることがあります。

ただし、実行機能障害になっても、買い物や料理などの作業ができなくなるわけではありません。冷蔵庫のなかのものをメモしたり、調理手順を書いておいたりすることで、計画的な行動ができます。

失語

失語とは、言葉の理解や表現が難しくなることです。言語障害と呼ぶこともあります。たとえば、言葉を聞いても話として理解できなかったり、考えていることを相手に伝わるように話せなくなったりします。

軽度の場合は、一時的に言葉を思い出せないだけかもしれません。しかし、重度の場合は、会話や読み書きがほとんど不可能になることもあります。

失認

失認とは、自分や目の前にあるものの認識を正しくできない状態のことです。たとえば、自分と目の前のものとの位置関係や、自分の身体の状態、目の前に置かれているものなどを正しく認識できなくなります。

また、体の半分側の空間が認識できないこともあり、右側に置かれた食事だけを残す、左袖だけを通さないなどの様子がみられる場合もあるようです。

失行

失行とは、日常的な動作や、普段からよく使っていた機械やものの操作ができなくなることです。服を着たりお箸でご飯を食べたりといった日常的な動作が、急にできなくなることがあります。ただし、手や足などに身体的な運動機能の障害が生じて日常的な動作ができないケースは失行とは呼びません。

軽度の場合は、一時的に特定の動作が難しくなるだけかもしれません。しかし、重度の場合は、日常生活が困難になることもあります。

認知症における中核症状の内容イメージ

認知症の中核症状を中心とした進行の4段階

認知症の中核症状は、徐々に進行していきます。軽度認知障害・初期・中期・末期の4つの段階に分けて解説します。

軽度認知障害

軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)とは、認知症と診断される一歩前の状態です。そのまま放置すると1年で5~15%の人が認知症に進行しますが、適切な予防をすれば健常な状態に戻る可能性があります。

軽度認知障害では本人や周囲の人は認知機能の低下に気づくものの、日常生活はとくに問題なく送れることが多いです。早期に気づき対応するためにも、もの忘れが多いななど感じるときは、早めにもの忘れ外来へ受診することも検討が必要です。

初期

認知症と診断される段階になると、認知機能の低下が日常生活に支障をきたすようになります。同じことを何度も聞いたり、直前に記憶していた内容や行動を忘れたりすることもあるでしょう。本人としても「おかしい」と思うことが増え、イライラしたり不安を感じやすくなったりします。

また、見当識障害や理解力・判断力の低下など、認知症の中核症状が出現するのもこの時期です。疲れやすくなるため、こなせる仕事量が減ったり、不安が強まって認知症ではなくうつ病を疑われたりすることもあります。

中期

さらに認知症が進むと、認知症の中核症状の進行に加えて、周辺症状(BPSD)が頻出するようになります。わからないことが増え、パニックになることも少なくありません。

記憶障害が進行し、新しいことを覚えられなくなることもあります。食事をしたのに「食べていない」と主張したり、自宅の場所や今日の日付がわからなくなったりするため、自立した生活が困難になる時期です。

末期

できないことが増え、コミュニケーションを取ることが困難になる場合もあります。周辺症状も加わるほか、身体的な障害も出るようになり、個人差はあるものの転びやすくなったり寝たきりの状態になったりするケースもみられます。

認知症の末期になると、免疫力が低下し、床ずれや誤嚥からの肺炎などの感染症に罹患することも少なくありません。体温調節も難しくなるため、周囲のサポートが必要です。

認知症の中核症状に対する治療

認知症の中核症状により、生活に支障が生じることもあります。一般的な治療方法を、薬物治療と非薬物治療に分けてみていきましょう。

薬物治療 非薬物治療

イメージ

薬物治療

現段階で、認知症の中核症状を治せる治療はありません

現段階では、認知症の中核症状を完全に治せる治療方法はありません。しかし、抗認知症薬とされるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体阻害薬を用いることで、症状の進行をある程度抑制することができると考えられています。

主なアセチルコリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体阻害薬は以下をご覧ください。

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬

アリセプト レミニール イクセロン

NMDA受容体阻害薬

メマンチン(メマリー)

非薬物治療

非薬物治療は、主に脳のトレーニングや運動、作業などを行い、認知機能の改善や問題となる症状の抑制を目指す治療方法です。たとえば、患者本人の趣味や興味があること、得意だったことなどを実施することで、患者の能力を引き出し、日常生活への対応力を高めます。

また、活動を通して自己肯定感が得られるため、患者の問題行動が落ち着き、家族も穏やかに過ごせるようになることもあります。

認知症の中核症状に対応する際の4つのポイント

認知症の中核症状が現れたときは、家族などの周囲の方々にも適切な対応が求められます。押さえておきたい4つのポイントを紹介します。

「忘れてしまう」「できない」に対して責めない

認知症患者と接するときは、できないことや忘れてしまうことに対して、患者本人も気づいていたり、ショックを受けていたりすることを理解しておきましょう。

認知症になると、今までは簡単にできていたことができなくなったり、もの忘れが激しくなったりします。失敗することも増え、周囲がイライラして「なぜできないの?」と責めてしまうかもしれません。

責めることで本人の意欲を削いでしまい、思考や行動を諦めるようになり、さらに認知機能が低下することもあります。責めるのではなく、本人の気持ちを理解し、思考や行動に対する意欲を削がないように心がけましょう。

行動をよく観察し、本人の意思をくみ取る

認知症患者だからといって、本人の意思をないがしろにしてはいけません。

認知症の初期は、自分ができないこと・覚えられないことを強く自覚する時期でもあります。助けが必要な場合でも、「周囲に認知機能が低下していることを知られたくない」という思いが強く、助けを求められないことも多いです。

患者の意思を尊重するためにも、過剰なサポートは避けるようにしてください。必要な程度にさりげなくサポートをすることで、患者の自己肯定感を高め、できないことを増やさない効果も期待できます。

本人のペースに合わせる

周囲は必要以上にイライラしたり怒ったりせず、患者本人のペースに合わせるようにしてください。

認知機能が低下することで、今までよりも行動や判断に時間がかかることがあります。しかし、時間がかかるだけで、行動する力、判断する力が失われているわけではありません。

周囲がペースを合わせ、ゆっくりでも患者本人が行動や判断を完結させられるようにしましょう。そうすることで、今まで通りに行動できる力を保ち、新しいことに挑戦する意欲をもてるようになります。

無理のない介護を心がける

認知症の中核症状が現れると、本人だけでなく家族などの周辺の人々も大きなショックを受けることがあります。また、記憶障害や見当識障害などを目の当たりにすることで、介護者がサポートすることに対して困難を覚えることもあるでしょう。

認知症は根本的な治療方法が確立された疾病ではないため、介護も長く続くことが予想されます。家族が介護に対する不安を抱え込まないように、周囲の人や専門機関に相談するようにしてください。自宅での生活が難しいときは、グループホームなどの認知症ケアに特化した施設への入所も検討できます。

認知機能の低下に気づいたときは早めに専門機関に相談しよう

認知症は治療方法が確立された疾病ではありません。しかし、認知症と診断される前の軽度認知障害の時点で気づき、適切に治療を行うことで、認知症への進行を回避できることもあります。

普段から自分自身や家族の様子を観察し、認知機能の低下に気づいたときは早めに対応するようにしてください。もの忘れ外来などの専門機関に相談することで、適切な対応を受けやすくなります。

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