04認知症コラム

認知症のためのリハビリテーション―日常生活を支えるストレスのない作業療法を―

2024.11.05

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リハビリテーションは認知症の方にとって、認知機能・身体機能を維持するだけでなく、症状が進む不安を軽減する役割も果たします。とくに日常的な動きを中心とした作業療法は、拒否感が少なく、自信や安心感を得やすい手法です。リハビリテーションとして作業療法を行うメリットや注意点について解説します。

【基本知識】認知症の症状

認知症には中核症状と周辺症状があります。中核症状とは、すべての認知症患者に見られる症状です。進行性で、改善は見込めないとされています。一方、周辺症状は一部の患者に見られる症状です。症状の種類や程度には個人差があり、適切に治療をすれば改善することがあります。

【基本知識】認知症の症状イメージ

中核症状は神経障害などによって引き起こされますが、周辺症状は患者個人の性格や環境、人間関係などの複合的な要素が作用して出現する症状です。そのため、周辺症状は残存する機能の外界への反応と考えられています。

認知症の中核症状について詳しくはこちら

認知症の周辺症状について詳しくはこちら

症状 症状の例
中核症状
  • 記憶障害
  • 見当識障害
  • 判断力・
    理解力の低下
  • 同じことを何度も言う
  • 同じことを何度も聞く
  • 大切な物を失くしてしまう
  • 自分がどこにいるのか分からなくなる
  • 同時に2つのことが出来なくなる
周辺症状
  • 妄想
  • 幻覚
  • 徘徊
  • 暴力
  • 暴言
など
  • 物を盗られたと思い込む
  • 小さなゴミが虫に見えてしまう
  • 近くのスーパーへ買い物に行った
    はずが何時間も帰ってこない
  • 家族に対して攻撃的な言動をする

認知症の症状とリハビリの関係

認知症の方にとってのリハビリは、残った機能の能力を見極め、最大限に活かしつつ日常生活や趣味活動を行うための訓練です。認知症では、今までできていたことができなくなっていることに患者本人も自覚していることが多いといわれています。そのため、リハビリによって不安を和らげ、患者の自信を維持する心理的な効果も期待できるでしょう。

認知症に治療法はある?

現在の医学では、認知症は完治できる病気ではないと考えられています。しかし、進行を遅らせることは可能なため、薬物療法と非薬物療法により治療が実施されることが一般的です。

薬物療法では、中核症状の進行を遅らせる効果のあるものや、周辺症状に効果があるとされる向精神薬や漢方薬などが処方されます。また、非薬物療法では、基本的な動作の回復を目指す理学療法や、応用的動作や社会適応能力の回復を目指す作業療法、言語能力・聴覚の回復を目指す言語聴覚療法などが実施されることが多いです。

認知症の薬について詳しくはこちら

認知症ケアにおけるリハビリテーション(作業療法)の目的

認知症の非薬物療法の中でも、作業療法は自立した生活を継続するために必要な訓練です。作業療法の主な実施目的について解説します。

残存機能・能力の維持向上

認知症患者の作業療法では、残存機能・能力を正確に見極めることが重要です。見極めた機能・能力を積極的に活用できるよう、適切なリハビリをプランニングします。

また、残存機能・能力の維持だけでなく、向上を図るのもリハビリの目的です。機能・能力が高まると、自立した生活を継続できるようになり、患者の自己肯定感や尊厳も保たれます。

活動性の維持向上

活動量の維持・向上は、作業療法の目的の一つです。作業療法に取り組むことで活動量を維持・向上し、体力や身体機能の低下を予防します。

認知症になると、機能・能力の衰えにより「失敗するのではないだろうか」「周囲に迷惑をかけてしまうかもしれない」などの不安や恐怖感が高まることもあるでしょう。リハビリでは、その不安や恐怖感を起因とした行動範囲の狭まりや活動量の低下を防ぎます。

周辺症状の軽減

作業療法では、動作や機能ごとのアプローチが可能です。周辺症状の原因となり得る要素を洗い出し、作業療法を通して各要素にアプローチすることで、症状の悪化予防と軽減を目指します。

認知症の周辺症状の出現や深刻化は、患者本人の精神状態や環境と無関係ではありません。周辺症状には暴力や暴言、抑うつなど、患者本人だけでなく周囲にもネガティブな影響を与えるさまざまな症状があるため、予防・軽減を目指すことが必要になります。

日常生活リズムの構築

作業療法を一日のルーティンに組み込むと、生活リズムを構築しやすくなります。時間ごと、曜日ごとにスケジュールを決めておくと、食事や睡眠などの時間も固定しやすくなるでしょう。

患者本人が以前から習慣としていた作業や楽しさを感じられる活動を組み込むことで、生活に張りが生まれるのも作業療法の効果の一つです。また、適度な疲労感や空腹感を得る助けにもなり、睡眠の質向上にもつながります。

環境調整

デイサービスのように集団でリハビリを受けられる場で作業療法を行うなら、人との繋がりが得られるようになります。気の合う仲間を見つければ、より一層、生活を楽しめるようになるでしょう。

また、認知症により機能・能力が衰え、今までとは違う状態になった自分を受け入れるためにも、作業療法は意義のある活動です。作業療法の場も通して、認知症患者の周辺環境を新しく整備します。

本人と介護者の休養

作業療法は、通常、デイサービス施設などの自宅外施設で実施されます。生活の場とは異なる場で活動することで、患者本人だけでなく介護者にとってもリフレッシュの機会になるでしょう。

常に同じ場所・人と関わることは安心感の獲得につながりますが、気分が落ち込み、体調不良を招くことにもなりかねません。適度に気分転換するためにも、作業療法を生活に組み込むことが役立ちます。

認知症のリハビリで「作業療法」を行うメリット

認知症のリハビリでは、作業療法を実施することが少なくありません。作業療法のメリットについて解説します。

認知症のリハビリで「作業療法」を行うメリットイメージ

拒否感が少ない

作業療法の「作業」とは日常生活に関わる活動すべてを指します。日常的な動作を行うため、初めての方も拒否感なく取り組める点がメリットです。

難しい動きや、達成しなくてはいけない課題などは、認知症の方にとってはストレスになるかもしれません。作業療法なら簡単な動きや活動のみのため、ストレスを感じずに取り組めるでしょう。

自信や安心感を取り戻しやすい

作業療法は日常生活の動作のため、難易度は高くありません。そのため、「できる」感覚を蓄積でき、認知症の症状により失った自信や安心感を取り戻しやすいと考えられています。

認知症を発症すると、できなくなることやわからないことが増え、知らず知らずのうちに自信を喪失し、精神的な安定を欠くことも少なくありません。作業療法を通して「できる」感覚を日常的につかむことは、精神的な安定を獲得するためにも必要といえます。

過去の記憶と繋がりやすい

作業療法の日常的な動作・作業を通して、過去の習慣や記憶を取り戻せる可能性があります。仮に一時的であっても過去の記憶を引き出すことで、楽しかった経験を思い出せるかもしれません。

過去の記憶を思い出すことは、脳の活性化にもつながります。認知機能の低下を遅らせ、精神状態を落ち着かせる効果も期待できるでしょう。

認知症の方のリハビリ(作業療法)を
する際の注意点

認知症患者に効果があるとされている作業療法ですが、注意すべき点も少なくありません。主な注意点を解説します。

認知症の方のリハビリ(作業療法)をする際の注意点イメージ

強制しない

日常的な動作をベースとするため、作業療法は比較的拒否感を生みにくいとされています。しかし、強制的に作業を行わせるのは逆効果です。

認知症の方は脳が疲労を感じやすいとされていますが、患者本人の意思が伴わないリハビリはさらに疲労が溜まりやすく、集中力も持続しにくくなります。無理強いさせたことで次回のリハビリに対しても抵抗感を生むでしょう。また、疲労から一時的に認知機能が低下することもあるため注意が必要です。

難しくしすぎない

認知症の方は、難しい課題に取り組むことが苦手な傾向にあります。そのため、作業内容の難易度が高いと、かえって無力感を強めてしまうかもしれません。

単純な作業や過去に関わっていた仕事内容と関連する作業など、患者本人が取り組みやすい訓練や難易度に調節することが大切です。

期待しすぎない

作業療法などのリハビリを行うことで、機能低下を遅らせることや、残存機能の維持・向上を図ることは可能です。しかし、効果があったとしても、認知症そのものが治るわけではありません。

作業を通じて、患者が自信を取り戻したり、安心感を得たりすることが大切です。患者にプレッシャーをかけないためにも、機能回復効果を期待しすぎることがないように注意しましょう。

疲れすぎに注意する

認知症の方は脳が疲れやすい傾向にあるため、無理強いは禁物です。脳が疲労すると集中力が低下するだけでなく、精神的な安定を欠き、いら立ちを感じることもあります。休憩をはさみ、適度な時間で切り上げるようにしてください。

様子をこまめに見て、疲れていないかをチェックすることが大切です。さらに静かで落ち着いた環境にすれば、余計な脳の疲労を軽減できます。

専門家に相談しながら行う

作業療法によるリハビリは、自宅でも実施可能です。しかし、あまり変化が見られないときは、専門家に相談するようにしてください。介護者にとって最善と思われる作業内容であっても、患者本人のストレスになっている可能性があります。

専門家の指導のもと、患者の状態や目標に合わせた適切な作業内容を選択し、無理のない範囲で進めることが大切です。

認知症のリハビリ(作業療法)の種類

作業療法にはさまざまな種類があります。認知症の方に効果的とされる方法をいくつか紹介します。

認知刺激療法 回想法 音楽療法 リアリティ・オリエンテーション アニマルセラピー 運動療法 その他レクリエーション療法

認知症のリハビリ(作業療法)の種類イメージ

認知刺激療法

認知刺激療法とは、触覚や視覚、聴覚などの五感を刺激する療法です。塗り絵や切り絵のような創作活動や、絵画や陶器などを鑑賞する芸術鑑賞を通して、認知機能の維持を目指します。

認知刺激療法の内容例
  • 塗り絵、切り絵
  • 芸術鑑賞

回想法

回想法は、過去の経験やエピソードを共有することで脳を活性化する療法です。認知機能の低下を期待できるだけでなく、楽しかった記憶を思い出すことで、精神的な安定を得る効果も期待できます。

回想法の内容例
  • アルバムを見ながら、過去の思い出をたどる
  • 思い出の品物を持ち寄り、エピソードを話す

音楽療法

音楽療法とは、音楽が持つリラックス効果や活力を得る効果を中核症状の治療に活かす療法です。また、曲にまつわる過去の記憶がよみがえることもあり、脳の活性化にも役立つと考えられています。

音楽療法の内容例
  • なじみのある曲をメドレー形式で聞く
  • 思い出の曲を歌う

リアリティ・オリエンテーション

リアリティ・オリエンテーションとは、時間や場所についての認識を深め、見当識障害の軽減を目的とする療法です。名前や住所などの個人情報や、現在いる場所、今日の日付などに関する質問を繰り返します。また、話し合うことで協調性を高める効果も期待できます。

リアリティ・オリエンテーションの内容例
  • 数人の患者が集まり、スタッフの進行の下で個人の基本的な情報を提供する
  • スタッフとのコミュニケーションの中で現実認識の機会を提供する

アニマルセラピー

アニマルセラピーとは、動物に触れることで精神的な安定を取り戻す療法です。積極性が生まれ、自発的行動の促進も期待できます。また、動物に話しかけることで、人とのコミュニケーションを取りやすくなることがあります。

アニマルセラピーのの内容例
  • 動物に触れる
  • 動物に話しかける

運動療法

運動療法とは、体を動かすことで、運動機能や心肺機能、認知機能などの維持・向上を目指す療法です。転倒予防や痛みの緩和も期待でき、身体的により健康な状態で生活できるようになります。

運動療法の内容例
  • ストレッチ
  • ウォーキングや水泳などの有酸素運動

その他レクリエーション療法

レクリエーション療法とは、楽しみながら身体機能や認知機能の改善を目指す療法です。他者と関わることで、社会性や幸福感を高める効果も期待できます。

その他のレクリエーション療法の内容例
  • 七夕やお正月の飾りを作る
  • カラオケ、クリスマス会などのイベントを実施する

認知症のリハビリに関するよくある質問

認知症の方に向けたリハビリに関して、よくある質問とその答えをまとめました。ぜひ参考にしてください。

Q認知症のリハビリはどこで受けられますか?

医師からリハビリを指示された場合は病院で、要支援・要介護認定を受けている場合は介護老人保健施設や介護付き有料老人ホームなどの介護施設で受けられます。また、通所リハビリテーションやデイサービスなどを利用して、リハビリを受けることも可能です。

Q在宅での認知症のリハビリについてどこで相談したらよいですか?

地域包括支援センターや保健福祉センターに相談してみましょう。また、認知症専門医療機関である認知症疾患医療センターでも相談できます。ただし、認知症疾患医療センターを受診する際に、医療機関からの紹介状が必要な場合が多いため注意が必要です。

個人のペースや能力に合わせたリハビリを実施しよう

作業療法などのリハビリを通して、認知症の中核症状の緩和や、残存機能の維持・向上を図れることがあります。また、リハビリを生活に組み込むことで、認知症患者の生活リズムを整え、より健康な生活を送ることも可能です。

認知症は一度発症したら完治が難しく、長く付き合っていくことになります。そのため、普段から認知症の予防やケアに取り組むことが大切です。また、認知機能を維持するための方法などについて、新しい情報を取り入れることも大切といえます。ぜひ最新研究をチェックしてみてください。

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