04認知症コラム

認知症の方との接し方・話し方のポイント―尊厳を保って接するための基本姿勢―

2024.11.05

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認知症の方への接し方・話し方にはルールがあります。基本的なルールを抑えることで、円滑にコミュニケーションが取れるようになり、お互いにストレスを溜めにくくなるでしょう。基本ルールや、やってはいけない接し方について詳しく解説。また、症状別の接し方の具体例も紹介します。

認知症の方と接する際の基本的な心得

家族や知人、近隣住民など、認知症の方と接する機会が多い方もいるでしょう。認知症の方との接し方の基本ルールを紹介するので、ぜひ実践してみてください。

本人のペースに合わせる 信頼関係を大切にする よい感情を残す 無理しない

認知症の方と接する際の基本的な心得イメージ

本人のペースに合わせる

認知症の方は理解力が低下していることも多く、会話や返事、作業に時間がかかるケースも少なくありません。しかし、時間をかければ会話や作業ができることも多いため、急かさないように根気よく接してください。

認知症の方は強い不安の中にいることが多いです。急かしてしまうと焦ってしまい、パニックに陥ることもあるので注意しましょう。

信頼関係を大切にする

認知症の初期段階では、生活動作がスムーズに行えなくなっていることを認知症の方自身が自覚していることも多いです。

そのため、家族や周囲にうまくできない様子を見せたくないと感じつつも、サポートを必要とし、複雑な気持ちを抱えます。

よい感情を残す

認知症の症状は進行しても、感情面は保たれています。優しく、笑顔で、心地良さを与えるような接し方が理想です。

命令形で話したり高圧的な態度を取ったりすると、認知症の方に嫌な記憶が残り、円滑なコミュニケーションを取れなくなるかもしれません。また、認知症の方が気持ちを閉ざしてしまうと、人とのかかわりが減り、症状が悪化する可能性もあります。

無理しない

無理をして介護を継続することで、接し方にもつらさや疲労が表れるようになり、認知症の方も負の感情を感じる可能性があります。

認知症の症状の種類や進行度によっては、接するのがつらいと感じることもあるかもしれません。一人で介護を背負い込まず、周囲の人々や専門機関に早めに相談するようにしてください。

認知症の方との接し方の基本

認知症の方と話すときは、話す位置や声量、言葉遣いなどに注意が必要です。押さえておきたい基本の話し方・接し方を紹介します。

正面から近づき、視界に入ってから声かけをする

想定外のことが起こると、認知症の方がパニックを起こす可能性があります。驚かせないためにも、正面から視界に入り、声をかけるようにしてください。また、認知症の方が何かをしているときは、ペースを乱さないように注意することも大切です。

ゆっくり大きな声で耳元に話す

ゆっくりと大きな声で話す、耳元に近づくようにするなど、聞き取りやすくする工夫が必要です。認知症の方に限らず、高齢者は聴力が衰えていることがあります。それにもかかわらず「理解力が低下している」と思って接してしまうと、自尊心を傷つける話し方・接し方をしてしまいかねないので注意しましょう。

短く、分かりやすい言葉で話す

認知症により認知能力が低下し、長い文章や複雑な関係の理解が難しくなることもあります。自尊心を傷つけないように配慮しつつ、はい/いいえで答えられるように工夫したり、シンプルで分かりやすい単語を選んだりするようにしましょう。

目を見て会話する

認知症の方が「会話をしている」「他者と接している」と実感できるように、目をしっかりと見て会話することも大切です。「〇〇さん」のように名前を呼びながら会話をすると、より認知症の方の感情に働きかけやすくなります。

認知症の方にやってはいけない接し方

接し方によっては、認知症の方との信頼関係が失われることもあるため注意が必要です。認知症の方に対して、してはいけない接し方をみていきましょう。

相手を無視・放置する 細かい指示や命令をする もの忘れを強く指摘する 叱る・否定する 行動の範囲、行動自体を制限する

相手を無視・放置する

認知症の方の自尊心を傷つける接し方は、絶対にしてはいけません。コミュニケーションが取りにくくなり、話が支離滅裂になったとしても、無視や放置、子ども扱いをしないでください。根気良く丁寧に接することで、信頼関係を構築しましょう。

細かい指示や命令をする

認知機能が衰えていることを考慮し、細かい指示や命令は避けましょう。わかりやすく細かく伝えたつもりが、かえって認知症の方の混乱を招き、マイナスの感情を生むこともあります。

指示通りにできないときは、認知症の方の気持ちが落ち込み、不安感が残るかもしれません。また、命令口調で話すことも、認知症の方の恐怖感をあおり、今まで築いた信頼関係を損ねる恐れがあるため避けてください。

もの忘れを強く指摘する

間違いを指摘することは、認知症の方に不快感を与えることになりかねません。また、認知機能の低下により、事実ではないことを事実だと思い込んでいる可能性があります。その場合は、なぜ指摘されたのか理解できず、パニックを起こすかもしれません

認知症の方の言動をなるべく受け入れるように心がけることが大切です。受け入れがたいときや対応が難しいときは、話題を反らし、別のことに認知症の方の興味が向くように誘導しましょう。

叱る・否定する

認知症の初期段階では認知機能の低下を自覚していることも多く、自分の変化や症状に対して強い不安を感じているケースも少なくありません。不安の高まりから、外部からの刺激に恐怖を覚えることもあるため、叱ったり否定したり大きな声を出したりすることは控えましょう。

また、大きな声で叱っても、認知症の方はなぜ叱られているのか理解できない可能性があります。「大きな声を出す怖い人」と認識されてしまい、以後のコミュニケーションに支障が出るかもしれません。

行動の範囲、行動自体を制限する

認知症の周辺症状の一つに徘徊があります。徘徊への不安から認知症の方を家に閉じ込めてしまうと、暴力的になるなど問題行動が深刻化することもあるため注意が必要です。

また、危険だからと家事をさせないようにしたり外出を禁じたりすると、認知症の方の役割を取り上げることになり、残存機能の低下につながることもあります。機能や能力を維持するためにも、認知症の方の行動を適切にサポートしたり、外出の際には一緒に出かけたりするようにしてください。

認知症の方にやってはいけない11のことについて
詳しくはこちら

【具体例】
ケース別の認知症の方との接し方

認知症にはさまざまな症状があります。症状別の接し方やNG例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

もの忘れに対応する例

食事をしたのに「食事はまだ?」と尋ねる

昨日友人と会って食事をしたこと自体を忘れている

NG対応例
「さっき食べましたよね?」「昨日のことを忘れたのですか?」と理詰めで追及する

認知症の症状により忘れやすくなっているため、責めたところで思い出せません。無理に思い出すように強いるのではなく、もの忘れしていることを受け入れることが大切です。

対応例
  • 「今から用意しますね」と台所に行き、しばらく経ってから戻る
  • 簡単なデザートを用意する

認知症の方の主張を受け入れて、気持ちに沿った行動をするのも一つの方法です。しばらく経つと、主張したこと自体を忘れてしまう可能性があります。しばらく経っても忘れていない場合はお腹に溜まらない簡単なものを渡せば、認知症の方の主張を頭ごなしに拒否することなく、食べ過ぎも回避できるでしょう。

見当識障害に対応する例

今日は何日?何曜日?と繰り返し尋ねる

家の中で迷子になる

NG対応例
「何度も同じことを尋ねないで」「そんなこともわからないの?」と叱る

認知症の方は「自分は正しく認識できているのだろうか」という不安から、時間や曜日などを何度も尋ねる傾向にあります。不安に寄り添うためにも、質問や間違いを叱ってはいけません。

対応例
  • 一緒にカレンダーで日付や曜日を確認する
  • トイレや食堂などの場所に目印をつける

認知症の方の不安を解消するためにも、一緒にカレンダーを見て、事実を確認するようにしてください。また、トイレや食堂などの家の中でよく行く場所には目印をつけることもおすすめです。人感センサー付きの照明もつけておくと、夜間も間違わずに移動できるようになります。

人物誤認に対応する例

家族や知人に対して「どちら様ですか?」と尋ねる

家族や知人を別の人物と間違える

NG対応例
「わたしがわからないの?」「いい加減にして!」と責める

冗談でわからないふりをしているわけではないため、責めたりふざけたりする反応はNGです。認知症の方の不安をあおらないためにも、頭ごなしに叱らないようにしてください。

対応例
  • 静かに去り、落ち着いたころに戻る
  • 間違えた相手のふりをして応対する

人物誤認をしたとしても、一時的なケースも少なくありません。少し時間を置くことで、正しい認識を取り戻すことがあります。また、特定の誰かに間違えているときは、その相手のふりをするのも一つの方法です。ただし、かえって認知症の方を混乱させる可能性もあるため、無理そうなときはやめておきましょう。

物盗られ妄想に対応する例

「財布を盗られた」と騒ぐ

特定の家族を指して、「〇〇が通帳を盗った」と騒ぐ

NG対応例
・「誰も盗っていないよ」と説明する
・家族が探して渡す

「盗っていない」と説明するだけでは、認知症の方の疑念を深めてしまいます。また、家族が財布や通帳を探して渡しても、「盗ったのを返したのでは?」と疑念は深まるばかりです。

対応例
  • 認知症の方が自分で探せるように誘導する

口頭で説明したり、探し物を見つけたりするだけでは、認知症の方の疑念は晴れません。それどころか、家族が自分をだまそうとしていると誤解する恐れもあります。「たんすを探してみましたか?」「キッチンに置いていませんか?」のように、認知症の方が自分で探せるように誘導し、家族は味方であることが分かるようにサポートしましょう。

徘徊に対応する例

自宅にいるのに「家に帰る」と外に出る

「〇〇(子どもの名前)をお迎えに行かなきゃ」と学校や駅に行こうとする

NG対応例
「ここが家でしょ!」「もう〇〇は大人だよ」と叱る

認知症の方が徘徊するのは、理由があります。理由を聞かずに頭ごなしに叱っても、認知症の方の理解を得られません。

対応例
  • 「一緒に出かけましょう」と認知症の方が
    納得するまで歩く
  • 話を聞く

一緒に出かけることで、認知症の方の中で気持ちに折り合いがつくこともあります。また、なぜ出かけようと思うのか丁寧に傾聴することで、矛盾点に気づいたり納得したりするかもしれません。

幻覚に対応する例

「〇〇(亡くなった人)が部屋にいる」という

「命を狙われている」と訴える

NG対応例
「そんなわけないでしょう?」と頭ごなしに否定する

介護者には理解ができなくても、認知症の方にとっては現実のことかもしれません。頭ごなしに否定すると、かえって不安をあおる可能性があります。

対応例
  • 一緒に部屋を確認する
  • 「わたしが守るから大丈夫」と安心させる

認知症の方が幻覚を訴えるときは、一緒に確認することで安心感を与えるようにしましょう。部屋の隅々まで確認し、「もういないようだね」と落ち着かせてください。また、「わたしが守る」と宣言し、安心させるのも一つの方法です。

暴力・暴言に対応する例

温厚だった人が暴力的になる

些細なことをきっかけとして暴言を吐く

NG対応例
「いい加減にして」と同じように暴力や暴言で対応する

認知症になると、周囲が自分を理解してくれないように感じることもあるようです。そのため、怒りの感情が高まり、暴力や暴言として表れることもあります。同じように暴力や暴言で対応しても解決にはつながりません。

対応例
  • 怒りの原因を探り、共感を示す

暴力や暴言が増えたときは、認知症の方が何に対して怒りを感じているのか丁寧に話を聞きましょう。共感を示したり、怒りの原因を解決したりすることで、暴力や暴言が軽減することもあります。

それでも暴力や暴言が収まらないときは、医師に相談してみましょう。薬を変更することで、症状が軽減することもあります。

失禁などに対応する例

失禁する

便などの不潔なものを触ろうとする

NG対応例
「トイレもうまくできないなんて!」と責める

認知症の方もプライドがあります。「トイレもできないの?」といった発言は認知症の方の自尊心を傷つけるだけで、問題行動の解決にはつながりません。

対応例
  • 「早く着替えようか」「清潔なほうが良いね」と
    穏やかに対応する

失禁や便いじりをしないよう、こまめにトイレに誘導するようにしてください。また、失敗したとしても頭ごなしに叱るのではなく、穏やかに対応することが大切です。

認知症の方との接し方に関するよくある質問

認知症の方の接し方について、よくある質問とその答えをまとめました。ぜひ参考にしてください。

認知症の方への接し方に困った際にはどこに相談すればよいですか?

地域包括支援センターやかかりつけ医に相談してください。また、医療機関の「もの忘れ外来」や、市区町村や認知症関連団体の電話相談も利用できます。

認知症の方と接する際の基本姿勢は何ですか?

ゆっくりとわかりやすい言葉で大きな声で話すことが基本です。また、目を見て話すことや、頭ごなしに否定しないこと、文章が長くなりすぎないようにすることも意識してください。

認知症の方の不安に寄り添う接し方を心がけよう

認知症の方は、できないことが増えていくことに対して強い不安を感じています。また、周囲が自分を理解してくれないように感じることでも、不安は高まるでしょう。

認知症の方に接するときは、不安に寄り添うように心がけてください。頭ごなしに否定をせず、丁寧に話を聞くことも大切といえます。

認知症は完治が難しい病気です。普段から予防やケアに取り組むだけでなく、家族や自分が認知症になったときに備えて、正しい知識を習得しておきましょう。ぜひ以下から、認知症の最新研究をチェックしてみてください。

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