01認知症の現状現状の概況

超高齢社会・日本において、認知症は確実に取り組んでいかなければならない課題の一つです。2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると推計。世界でも認知症者数は2050年に1億5300万人に増加すると予測されています。

日本および世界における認知症患者の概況

超高齢社会の到来で
認知症者数は増加の一途

日本では2012年時点の65歳以上の認知症の推定有病率は15%とされ、65歳以上の7人に1人、462万人が認知症です。その数は増加傾向にあり、2025年には5人に1人になると推計されています。全世界においては、医学雑誌「ランセット(Lancet)」に掲載された米国健康指標評価機構(Institute for Health Metrics and Evaluation(略称:IHME))の研究によると、2019年に世界で5700万人が認知症を患っており、2050年には1億5300万人に増加すると予測しています。

出典: 日本認知症国際交流プラットフォーム「世界のアルツハイマー病患者数が2050年までに3倍に増加するとの新研究結果を発表」

65歳以上の認知症患者の推定者と推定有病率
65歳以上の認知症患者の推定者と推定有病率
出典:内閣府「平成29年版高齢社会白書」第2節 高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向(3)3 高齢者の健康・福祉 ○認知症高齢者数の推計

認知症の中で約7割を占めるアルツハイマー病

認知症とは、「いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりしたためにさまざまな障害が起こり、生活する上で支障が出ている状態」を指します。名前などが思い出せない、もの覚えが悪くなるなどは脳の老化によるもので認知症とは異なります。認知症の場合は物事全体がすっぽりと抜け落ちるのが特徴で、進行すると理解力や判断力が低下して生活に支障が出るようになります。

認知症の症状は、記憶力や計算能力など認知機能そのものに障害が出る「中核症状」と、徘徊やイライラなどの「行動・心理症状」に分けられます。

認知症にはいくつか種類があります。最も多いのがアルツハイマー病で約7割を占めています。アルツハイマー病では、アミロイドβと呼ばれるタンパク質が脳に蓄積し、神経細胞の働きを妨げ死滅させるといわれています。

出典(参考文献):
・物忘れと認知症の違いは?物忘れから考えられる病気についても解説
・厚生労働省老健局「認知症施策の総合的な推進について(参考資料)」2019.6.20のp2
・平成28年版厚生労働白書-人口高齢化を乗り越える社会モデルを考える
図表1-1-15 血管性及び詳細不明の認知症、アルツハイマー病の患者数の推移

認知症の主な種類
  • アルツハイマー病

    脳内にたまった異常なタンパク質により神経細胞が破壊され、脳に萎縮が起こる。

  • 血管性認知症

    脳梗塞や脳出血によって脳細胞に十分な血液が送られずに、脳細胞が死んでしまう。

  • レビー小体型認知症

    脳内にたまったαシヌクレインという特殊なタンパク質により脳の神経細胞が破壊される。

  • 前頭側頭葉型認知症

    脳の前頭葉や側頭葉で神経細胞が減少して脳が萎縮する。

出典:厚生労働省老健局「認知症施策の総合的な推進について(参考資料)」 
2019.6.20 p7改変

認知症とは?予防は可能?症状や対処法について解説
主な認知症の種類別割合
主な認知症の種類別割合
出典:厚生労働省老健局「認知症施策の総合的な推進について(参考資料)」 
2019.6.20のp7

認知症は介護が必要となった
原因のトップ

認知症は発症した本人だけでなく、家族をはじめ周囲の人たちの生活にも大きな影響を及ぼします。進行するにつれて判断力の低下によるトラブルや徘徊など目を離すことができない状況が生じるためです。要介護者等について、介護が必要になった主な原因を見ると、「認知症」が18.7%と最も多くを占めます。特に女性は20.5%とその割合が高くなっています。

65歳以上の要介護者等の性別に見た介護が必要となった主原因
65歳以上の要介護者等の性別に見た介護が必要となった主な原因
出典:内閣府「令和4年版高齢社会白書」第2節 高齢期の暮らしの動向(2)2健康・福祉
(2)65歳以上の者の介護

増える家族介護家族や周囲を巻き込んで社会問題化

主な介護者をみると、要介護者等と「同居」が54.4%で最も多く、次いで「別居の家族等」が13.6%となっています。「同居」の主な介護者の要介護者等との続柄をみると、「配偶者」が23.8%で最も多く、次いで「子」が20.7%、「子の配偶者」が7.5%となっています。

記憶や深い判断力といった機能が失われていく認知症。進行すると病気であるという認識がなくなることも多いため、生活していく上でさまざまな混乱を招きやすいです。トラブルは家族や身近な人を巻き込むものから、まったくの他人や地域社会に影響を及ぼすものまで発展することもあり、場合によっては社会問題化することもあります。

要介護者等との続柄別主な介護者の構成割合
要介護者等との続柄別主な介護者の構成割合
出典:厚生労働省「国民生活基礎調査」2019年 Ⅳ 介護の状況 3 主な介護者の状況 のp27
(注)熊本県を除いたものである。

COLUMN コロナ禍で認知症者の4割が「症状悪化」

新型コロナウイルス感染症の流行は社会に甚大な影響を与えました。特に医療・介護施設では診察やサービスを受ける機会が減少し、面会の制限なども行われ、認知症の人の生活環境も大きく変わらざるを得ませんでした。2020年8月に日本認知症学会が発表した、認知症専門医対象のアンケート調査によると、認知症の人の症状悪化を認めるという回答は40%におよびました。

東京都健康長寿医療センターによると、健康な高齢者であっても、社会的孤立と閉じこもり傾向が重なっていると、どちらも該当しない者に比べて6年後の死亡率が2.2倍高まるとされています。コロナ禍で行動が制限される中、高齢者の健康を維持し、認知症の症状悪化を防ぐ工夫が求められます。

認知症患者において悪化した症状
認知症患者において悪化した症状
出典:日本認知症学会「日本認知症学会専門医を対象にした、新型コロナウイルス感染症蔓延による認知症の診療等への影響に関するアンケート調査結果」2020.8.14の3結果 「3.3.5 症状への影響」のp8