04認知症コラム
せん妄とは―原因や症状、認知症との
関連についても解説―
2025.10.31
せん妄は意識障害の一種で、突然発生する意識障害のことです。認知症と似た症状がみられ、場合によっては同時に発症することもあります。この記事では、せん妄の原因や症状、治療などについて紹介します。また、認知症との違いや予防法についても紹介しますので、身の回りの方のケアにぜひ役立てください。
せん妄とは
- せん妄とは
- さまざまな要因により、
突然発生する「精神機能の障害」のこと
「せん妄」は、病名ではなく医学的な定義の名称です。何かしらの原因により、脳が機能不全を起こし、精神状態が正常でなくなり錯乱状態になる意識障害のことを指します。
突然発症し、症状が一日のなかでコロコロ変わるのが特徴です。せん妄のタイプによっては興奮が強くみられたり、低活動になったりするため、認知症の周辺症状やうつ病の症状と見分けることは容易ではありません。
多くの場合は、原因を特定し対処することで完治します。しかし、放置し重症化すると昏迷に陥り、昏睡や死につながる危険性もあるため、注意が必要です。
せん妄と認知症の違い
| せん妄 | 認知症 | |
|---|---|---|
| 発症 スピード |
突然 | 徐々 |
| 経過 |
|
|
| 主な症状 | 注意障害、睡眠障害 | 記憶障害、見当識障害 |
高齢者になって初めて現れる精神病的行動は、せん妄か認知症のどちらかであることがほとんどです。この2つは症状が非常に似ているため、見分けがつきにくいでしょう。
せん妄では注意障害が目立つ一方で、認知症では記憶障害が目立つのが特徴です。また、症状の現れ方にも違いがあり、せん妄の発症は突然起こるのに対して、認知症の場合は比較的ゆっくりと進行していくパターンが多いです。
ただし、せん妄と認知症を併発している可能性も考えられます。このような症状がみられたら、発症のスピードや経過、本人の言動などをもとに医師に相談しましょう。
せん妄の症状
せん妄にはさまざまな症状があり、認知症と似たような精神面の症状も多いですが、せん妄に特徴的な症状もあります。どのようなものがあるのか、詳しくみてみましょう。
注意障害
注意障害は、せん妄で最も出現頻度が高い症状とされています。せん妄状態の方は、注意力が散漫になり物事に集中できなくなります。そのため、身の回りのことに注意が払えなくなり、転倒やケガにつながるケースも少なくありません。
視線がたびたび逸れたり、そわそわと歩き回ったりと、落ち着きが無くなることも多くみられるでしょう。
睡眠障害
せん妄状態の方は昼夜逆転しやすく、興奮状態になったり睡眠中に落ち着きなく動いたりする状態を行き来するため、睡眠障害を起こしやすいです。さらにせん妄状態が重症化すると、眠気が強く外部刺激に鈍感になる昏迷状態に陥ってしまうことがあります。昏迷は非常に強い刺激を与えないと覚醒せず、そのまま昏睡状態や死につながることもあります。
見当識障害
せん妄状態の方は、時間や場所などがわからなくなり、自分の周りで何が起こっているのかを理解できなくなることがあります。突然現在の時刻や場所がわからなくなるような状態があれば、せん妄の初期症状が出ている可能性があるでしょう。入院中にせん妄が発症すると、自分が治療中であることが理解できず、点滴チューブを抜いてしまうこともあります。
記憶障害
せん妄状態の方は、注意障害の影響で新たな情報を処理することが難しくなるため、新しいことを覚えられなくなります。重度のせん妄である場合は、自分が誰なのかわからなかったり、家族の顔がわからなかったりと、認知症の記憶障害に似た症状も現れるでしょう。せん妄の記憶障害は突然発症しますが、認知症の場合は発症が緩やかな点が主な違いです。
幻覚、妄想
せん妄状態の方は、現実にはないものや周囲の人が認識できないものが見えてしまう幻視をはじめとした幻覚や、それに伴う妄想が現れる場合があります。なかには、「パラノイア」といわれる自分の権利が侵害された、迫害されていると思い込むような妄想がみられる方もいるでしょう。その場合は、躁うつ病や統合失調症などの精神病との鑑別が必要です。
人格や気分の変化
せん妄状態の方は、普段ならみられないようなイライラや錯乱、興奮状態に陥り、人格が変化したように感じられることがあります。このように過活発になるタイプのせん妄もあれば、四六時中眠気に襲われて無気力になるような低活動タイプのせん妄もあります。感情や活動性の変化が激しく、状態がコロコロ変わりやすいのもせん妄の特徴の一つです。
神経症状
せん妄状態の方には、手が小刻みに震えるなどの神経症状がみられることもあります。この症状は、アルコールが原因でせん妄を起こしている「アルコール離脱せん妄」の方によく見られる特徴です。アルコール離脱せん妄は、長期間にわたる過度のアルコール摂取を急に止めたときに起こる可能性があります。
せん妄が発症する原因となる3つの要素
準備因子
準備因子は、その人がもともと持っている、せん妄になりやすい要因のことです。たとえば、年齢や基礎疾患、認知機能の低下、視覚・聴覚障害などが含まれます。これらの因子は、その人がせん妄を発症するリスクを高めるだけでなく、新たなストレスや疾患に対する耐性の低さを示します。
- 準備因子の例
-
- 高齢者である
- 認知症を発症している
- 過去にせん妄を起こしている
- 普段のアルコールの摂取量が多い
直接因子
直接因子は、脳機能に直接影響を与える出来事や環境の大きな変化のことです。たとえば、手術をして身体に- 身体に直接的な負担が加わることや、中枢神経系に作用する薬剤の使用、身体疾患などが直接因子に当てはまります。主な身体疾患として、中枢神経系の疾患である脳出血や脳腫瘍、代謝・内分泌系の異常などが挙げられます。
- 直接因子の例
-
- 最近手術をした
- 副作用に「せん妄」を起こす可能性のある薬剤を服用した
- 脱水症を起こした
- 感染症にかかった
促進因子
促進因子は、その人が置かれている環境や状況を指します。普段とは異なる生活環境に移行したり、精神的にストレスがかかる状況にあったりすると、せん妄が促進される可能性が高まります。これは、新しい環境やストレスが脳に負担をかけ、せん妄の発症を引き起こす可能性があるためです。
- 促進因子の例
-
- 入院した
- 騒音が絶えない場所に長時間いる
- 痛みや苦痛が続いており、ストレスをためている
せん妄の症状がみられる場合の対処法
せん妄は突然発症し、本人が事実とは異なる話をし始めたり不穏な様子になったりするため、周囲の人は困惑してしまうかもしれません。適切な対処法を覚えて、いざという時に対応できるようにしましょう。
慌てずに落ち着いて話を聞く
まずは、本人の様子をうかがいながら、落ち着いて話を聞いてあげることが大切です。急に症状が現れると焦ってしまうこともありますが、慌てて抑え込んだり怒鳴ったりしてはなりません。
頭ごなしに否定したり叱ったりすると、本人の不安感や恐怖が増幅して症状が悪化してしまう可能性があります。ゆったりとした口調で、今何時か、どこにいるのかなどを教えて安心させるのも効果的でしょう。
周囲にある危険なものは遠ざける
せん妄の症状がみられた場合、とくに興奮状態などでは、近くにある危険物はなるべく排除するようにしましょう。
せん妄の症状があるときに近くに刃物などの危険なものがあると、手に取って普段では考えられないような行動をしてしまう可能性があります。本人や周囲の人が怪我をすることがないよう、注意が必要です。
医師に相談する
せん妄は、重篤な疾病の可能性が裏に隠れている可能性があるため、すぐに医師へ相談しましょう。
原因が脱水や薬によるものであればすぐに改善できます。
また、原因が重篤な疾病であっても早期に対応することで、改善が見込めるでしょう。せん妄は症状が変化しやすい特徴があるため、わずかな変化も見逃さないよう普段から注意して観察してください。
せん妄の予防法5選
せん妄を予防するためには、体調管理と生活環境に対する工夫が必要です。とくに高齢者にとっては少しの疲れや環境変化がせん妄の引き金になることがあるので、気をつけましょう。
生活リズムを整える
睡眠など生活のバランスを崩すとせん妄につながるため、生活リズムを整えることが重要です。体調を安定させるためにも、睡眠の質を守り、生活リズムを整えましょう。
さらに、脱水や便秘などもせん妄を引き起こす原因になります。こまめな水分補給を促すために声かけをしたり、便秘にならないようトイレを促したりするなどの対応も有効です。
住み慣れた環境を変えない
住み慣れた環境を急激に変化させないことが、精神的なストレスを減らすためにも大切です。住み慣れた環境を離れ、精神的なストレスや不安が増えると、それだけでも促進因子となります。
さらに、その影響で脱水症や睡眠不足、便秘などの体調不良がおこることもあるでしょう。
どうしても場所を変えなければならない場合は、本人が安心できる環境をできるだけ再現するなどの工夫と配慮をしてください。
日付・時間を意識させる
せん妄の予防には、日頃から自分が置かれている状況が理解できるような状況を作っておくことが大切です。
大きめのカレンダーや時計をリビングの壁や机、トイレなど見やすい場所に設置し、今の状況を把握しやすくするのがおすすめです。会話の中であえて日付や時間を出すようにするのも、意識するきっかけになるでしょう。
脱水対策を行う
脱水は脳機能への影響が強く、とくに高齢者の場合ではせん妄のリスクを高めます。1日1.5Lを目安に、こまめな水分補給を行うとよいでしょう。ただし、すでに脱水になりかけている場合、水やお茶だけの摂取では吸収されにくいです。経口補水液やミネラルを含んだ飲料などで補うようにしましょう。
薬を調整する
薬の副作用や飲み合わせが原因となっている場合、服薬量や薬剤の変更でせん妄が改善する場合もあります。
そのため、薬の変化などによってせん妄が現れた場合には、すみやかに医師に相談しましょう。
これまで不調がなく服用し続けていた薬でも、身体状態の悪化によって薬の代謝・排出ができなくなりせん妄の原因となることもあります。
せん妄に関するよくある質問
ここでは、せん妄に関するよくある質問を集めました。
ぜひ周囲の方のケアにお役立てください。
Qせん妄とうつ病はどのように見分けたらよいですか?
せん妄の場合は発症が突然ですが、うつ病の場合は徐々に発症します。また、せん妄は一日の中で精神状態が元に戻ることもあり、症状の変化が大きいのが特徴です。ただし、せん妄のなかにはうつ病の特徴に似た症状が出る人もいるため、見分ける際には医師に相談しましょう。
Qせん妄になりやすい性格はありますか?
一般的に、ストレスに弱い性格はせん妄の準備因子と言われています。研究によると、物事をネガティブに考えやすく、我慢強く、その思いを表出できない性格「タイプD」と呼ばれる性格では、心臓外科手術後にせん妄・昏迷期間が長引くことが分かっています。
Qせん妄の発症にタイプや違いはありますか?
大きく分けて3つのタイプがあります。「過活動型」は興奮、過活動、夜間徘徊などの症状が目立つタイプです。「低活動型」は活動性が低く物静かになるタイプですが精神的な症状は持続しています。「混合型」は過活動型と低活動型の両方の特徴を併せ持つタイプです。
Qせん妄の治療法はありますか?
治療法としては、せん妄の直接的な原因となっている身体的な疾患の治療や、薬剤の調整をします。加えて、心理的な不安を和らげるよう環境調整を行います。原因として考えられる疾患の治療をしてもせん妄が改善しない場合は、抗精神病薬による治療をします。
せん妄について知っておくことで心構えを
せん妄はよく知られている病気ではありませんが、とくに高齢者は発症する可能性が少なくありません。突然発症するため周囲の人は驚くことでしょう。せん妄を発症した背景には重大な病気が隠れていることがあるため、普段から注意深く様子を観察し、兆候が見られたら早期に医師に相談することが大切です。
せん妄と認知症は異なる疾患ですが、併発する可能性もあります。せん妄は早期の治療で回復が見込めますが、認知症は一度発症したら症状を抑えるほかありません。そのため、普段からの予防やケアが肝心です。
早期から取り組むことで認知機能をできるだけ維持するための方法もいくつかあります。興味のある方は以下の最新研究をチェックしてみてください。