04認知症コラム

アルツハイマー病の基本知識│原因や症状、治療法・予防法

2024.05.17

アルツハイマー病の基本知識イメージ

近年、高齢化に伴いアルツハイマー病の患者数は増加しています。この記事では、アルツハイマー病の原因や症状、治療法、予防法といった基本知識を解説します。自分や家族がアルツハイマー病と診断された方や、予防したいと考えている方はぜひ参考にしてみてください。

アルツハイマー病とは *…アルツハイマー病とは、認知症の一種であり、記憶・思考・判断・学習能力など精神機能の低下が進行していく病気です

アルツハイマー病とは、認知症の種類のうち最も多い疾患で、認知症患者全体の60~80%を占めています。発病すると、記憶・思考・判断・学習能力など精神機能の低下が徐々に進行します。65歳以上で発症のリスクが大幅に増加し、男性より女性に多くみられます。

現在のところ完治できる治療法はありません。進行を遅らせる薬を服用するか、日常生活の維持を目標としたリハビリテーション療法の治療を選択する必要があります。診断後の平均的な生存期間は7年間で、その間症状は進行し続けるといわれています。

アルツハイマー病の原因

アルツハイマー病は、脳の中に発生する「アミロイドβ(ベータ)」という異常なタンパク質が原因の一つであると考えられています。アミロイドβが蓄積すると、神経細胞が破壊され神経細胞数が減ります。神経細胞数が減ると海馬が萎縮し、最終的には脳全体が萎縮してアルツハイマー病を発症するとされているのです。しかし、アミロイドβが脳内に蓄積する原因ははっきりとはわかっていません。

アルツハイマー病の原因イメージ

これらの脳内の変化は、アルツハイマー病の症状が出現する20年以上前から起きていると考えられています。原因の一つには遺伝的な要因も関与しており、約5~15%の症例から家族内での遺伝が認められるという報告もあるのです。また、高血圧や糖尿病、コレステロール高値、喫煙などの危険因子がアルツハイマー病のリスクを高めます。

アミロイドβについて詳しくはこちら

アルツハイマー病の診断

一般的に、以下右記の症状や状態がみられる場合にアルツハイマー病が疑われます。不安な方は確認してください。

アルツハイマー病が疑われる状態
  • 医師による認知症の診断が確定した場合
  • 最近の出来事を忘れることや、新しい記憶を形成できないことがある場合
  • 記憶やその他の精神機能が徐々に悪化している場合
  • 認知症が40歳以降(通常は65歳以降)に始まった場合
  • そのような問題を引き起こしうる他の脳疾患(脳腫瘍や脳卒中など)の可能性が
    否定されている場合

上記以外にも、記憶や思考などに関して普通と異なる感覚があり心配な場合は、医師に相談しましょう。簡易の記憶スクリーニング検査や認知機能検査を実施し、状態によっては精密検査を実施する場合があります。

CTやMRIの画像検査では、脳の萎縮と、アルツハイマー病の特徴である海馬の強い萎縮の有無を確認します。

アルツハイマー病の症状

ここでは、アルツハイマー病の各病期でよくみられる症状について紹介します。進行の速度は個人差が大きいため、期間に目安はありません。

早期症状および徴候

アルツハイマー病の早期には、記憶障害がみられることが多いです。アルツハイマー病初期の記憶障害の特徴として、昔のことはしっかりと覚えているのに、最近の出来事は忘れてしまうというものがあります。

少し前に聞いたばかりのことを覚えていられないため、同じことを何度も聞くのが主な症状です。ただし、症状の出方には個人差があり、人によってはこの時点ですでに言語能力の低下や思考力の低下が目立ってあらわれることもあります。

受診目安となるチェックポイント
最近の出来事を忘れやすくなっていないか、同じことを何度も聞くことはないか

軽度アルツハイマー型認知症

軽度アルツハイマー型認知症に当てはまると診断される状態では、記憶障害が明らかに悪化しています。加えて、判断力やその他の認知能力にもはっきりと変化があらわれるでしょう。それに伴い、不安感や怒りなど感情面での不安定さもみられるようになります。

多くの場合が、この段階でアルツハイマー病と診断されます。
また、アルツハイマー病の人には不眠が多くみられ、昼夜の区別がつかなくなる場合もあるので、該当する場合は専門機関を受診しましょう。

軽度アルツハイマー型認知症の症状例

普段、生活内で行う作業に
時間がかかるようになる
迷子になってしまう(慣れた道もわからなくなるなど) 物をなくす、不自然な場所に置き忘れる お金の扱いや請求書の支払い
などに問題が生じる
判断力が低下する 感情が不安定になる 人格が変化する

受診目安となるチェックポイント
記憶障害が目立っていないか、不自然な認知能力の変化はないか

中等度アルツハイマー型認知症

中等度まで病状が進行した時点では、言語の扱いや論理的思考、感覚の処理、思考の制御などに関わる脳の領域に障害が起こります。症状の進行により、着替えや入浴など普段の生活も一人では難しくなることが多く、周囲の人からのサポートが必要です。

ほかにも、感情の起伏が激しくなったり、言葉遣いが変化したりするなど、衝動的な行動が増え、錯乱が悪化する場合もあるでしょう。幻覚や妄想の症状がみられることもあります。

中等度アルツハイマー型認知症の症状例

記憶障害、錯乱が悪化する 新しいことを覚えられない 家族や友人を認識しにくくなる 状況の変化への対応が困難になる 幻覚や妄想などがみられる 衝動的な行動を起こすようになる 複数の手順をふくむ作業が困難になる

高度アルツハイマー型認知症

高度アルツハイマー型認知症まで進行すると、ほとんどコミュニケーションがとれなくなり、身の回りの世話を完全に人に任せなければならなくなります。身体機能も低下してくるため、ベッドの上で過ごし寝たきりになってしまうことも多いでしょう。

記憶力の面では、最近の出来事だけでなく、過去の出来事も思い出しにくくなり、家族や友人の名前や顔もわからなくなります。進行がさらに進むと、最終的に記憶が完全に失われる場合もあるのです。

高度アルツハイマー型認知症の症状例

コミュニケーション能力を喪失する 体重が減少する 痙攣や発作が起きる 下困難 皮膚感染症 うめき声をあげる 睡眠時間が増える(意識が混濁する) 排便や排尿障害を起こす

時間と場所の感覚は失われ、徘徊や興奮、身体的な攻撃など不適切な行動も多くなります。
身体機能は低下し、「飲み込む」「食べる」などが難しくなり、誤嚥性肺炎や低栄養、床ずれから皮膚感染症などのリスクが高まります。意識の混濁症状も出現し、悪化すると最終的に昏睡から死に至ります。

アルツハイマー病の治療 *…現時点で、アルツハイマー病の根本的な治療法はありません

現在、世界各国でアルツハイマー病の根治薬の開発・研究が進められており、脳の萎縮を起こす前の段階でアミロイドβの蓄積を防ぐ治療法を開発中です。

現在できるアルツハイマー病の治療法
  • 1.進行をある程度の期間遅らせる薬を服用する方法
  • 2.リハビリなどの日常的なケアで支える方法

現在は、上記の二つの方法でなるべく進行を遅らせ、できる限り日常生活に支障をきたさないように治療することが可能です。一方でアルツハイマー病の治療の難しさとして、患者が、他人や同居していない家族などの前では一時的にきちんとした受け答えをできることもあるため、周囲の人に症状が伝わりにくい点があります。

また、物の配置や一日のスケジュールを定型化すると安心感を与え、記憶の保持や睡眠の質の改善に役立つ場合があります。日常生活の中でも進行を抑える工夫が大切です。

アルツハイマー病の予防

現在のところ、アルツハイマー病を完全に予防する方法はありません。しかし、生活習慣に気を付けることで、ある程度発症を遅らせる効果が期待できます。

食事の管理 運動による認知機能の向上 知的活動による認知機能の向上

食事の管理

食事面では、コレステロール値の管理が重要です。コレステロール値の上昇がアルツハイマー病に関与していることを示唆する報告があります。飽和脂肪の少ない食事を摂り、必要に応じて脂質を減らす薬の使用が有益な場合もあるでしょう。

また、高血圧の管理も重要で、塩分の摂りすぎには注意が必要です。血圧が高いと、脳に血液を送っている血管が損傷し、脳への酸素供給量が減少して神経細胞同士の接続が遮断されることがあります。

運動による認知機能の向上

運動は心肺機能の改善につながるほか、脳の働きをよくする可能性があるので、なるべく取り入れるとよいでしょう。認知機能に問題のない4,615名の高齢者を5年間追跡調査した研究で、ウォーキングよりも高強度の運動を週3回以上行っていた高齢者は、運動習慣のない高齢者より認知症の発症リスクが低かったという報告があります。

運動の内容については、単一の運動内容よりも、ウォーキングやサイクリング、水泳、ゴルフなど、複数の運動を組み合わせた方が認知症の予防効果が高いことも明らかになっています。

知的活動による認知機能の向上

新しい技術を学ぶ、クロスワードパズルをする、ボードゲームをする、新聞や本を読むなど、頭を使う活動を続けることが推奨されています。頭と同時に手先や体を動かす種類の活動がより効果的です。

また、二人以上で行う活動では交流が生まれ、さらに脳への刺激が増えます。こうした知的活動は、神経細胞の間で新しい接続(シナプス)が形成されるのを促し、認知症の進行を遅らせる可能性があります。

アルツハイマー病に関するよくある質問

アルツハイマー病に関して、よく聞かれる質問とその回答を下記にまとめています。ぜひ参考にしてみてください。

Qアルツハイマー病の名称の由来は?

アルツハイマー病の名称の由来は、1906年にこの病気を発見し、発表した医師のアロイス・アルツハイマー博士の名前から由来しています。博士は、記憶障害の症状があり死亡した女性の脳組織に変化があることに気が付きました。

Qアルツハイマー病と認知症の違いは?

認知症は、あらゆる認知機能の低下をきたす病気の総称です。アルツハイマー病は認知症の状態を引き起こす原因となる疾患の一つで、原因疾患の中で最も割合の大きい疾患です。ほかにも認知症には、血管性認知症やレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などの種類があります。

Q若年性アルツハイマー病とは?

認知症のうち、65歳未満で発症したものを「若年性認知症」といいます。中でも、原因疾患がアルツハイマー病のものを「若年性アルツハイマー病」と呼びます。働き盛りの世代のため、症状が出ても認知症と気づかれにくく、診断が遅れることがあります。

アルツハイマー病の予防は日常生活の見直しから

アルツハイマー病は認知症の原因疾患の中で最も割合が多く、患者数も多い疾患です。症状が進行するにつれて、記憶障害だけでなく行動や情緒面の障害も大きくなります。現代の医学では根本的な治療方法はまだありませんが、少しでも進行を遅らせたり、機能を維持したりする治療法があります。アルツハイマー病の予防のためには、健康的な食事や運動習慣、知的活動を取り入れることが重要です。

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