【後編】元ナチュラルローソンMDが語る!拡大する「食×健康」市場。商品開発や売り場づくりのヒントとは?

近年はコロナ禍の影響により、外食を控え、「これまでの食生活を見直して健康について考えることが多くなった」という人が増加しています。それにともない、体にいい食品へのニーズも高まっています。前編に続き、株式会社ローソンで「健康に寄与する商品」の開発やマーケティングに携わり、現在、株式会社エールズの代表取締役を務める山口英樹氏に、「食×健康」をキーワードに商品開発やマーケティングのポイントなどについてお話を伺いました。

健康・ウェルネス市場には大きな伸びしろがある

あらためて、現在の健康・ウェルネス市場をどのように見ていらっしゃるか、山口さんのお考えをお聞かせください。

健康・ウェルネス市場は、今後も大きく成長する市場だと睨んでいます。そのなかでもとくに私が注目しているのがやはり「食」の分野です。コロナ禍により内食(※家庭で食事をすること)の機会が増えたことで、「普段の食生活を見直し、健康について考えることが多くなった」という方も少なくないと思います。

いまは食品メーカーにとって、“健康”を軸に商品を展開する大きなチャンスだと思います。たとえば最近、キクラゲを加工している某メーカーさんの販売・流通支援を始めましたが、その栄養価の高さを知って驚きました。食物繊維はゴボウの8倍で、ビタミンDや鉄分も豊富に含んでいる。しかし、キクラゲは普段の食卓にはあまり上らない食材ですよね。そこで、栄養価の高さを訴求したうえで、日常的に食べやすいかたちで提供すれば売れるのではないかと考えて、キクラゲの佃煮やふりかけを開発しました。売れゆきは好調でリピートも高いと聞いています。

キクラゲのように、栄養豊富な食材であるにも関わらず、それが世の中に認知されていない食材というのは、まだまだたくさんあると思います。そうした食材を“健康”という軸で、再開発やリ・ブランディングするという手法があるのではないでしょうか。自社製品のテコ入れを考えているメーカーは、ぜひ“健康”という視点を取り入れてみてください。

では、健康を軸に、小売が売り場を作る際のヒントがあれば教えてください。

やはり消費者に健康の効果をわかりやすく伝え、購買意欲をかきたてることが大事だと思います。たとえば、ナチュラルローソン時代に女性のお悩みで多いと聞く便秘に効果があるということで「食物繊維を摂ろう」という販促キャンペーンを展開した際に、その食物繊維を含む成分の効果を特集した健康系の雑誌を近くに置いて販売しました。POPの役割を雑誌に担ってもらったわけです。その結果、食物繊維が多く摂取できる各商品と雑誌がセットでよく売れて、普段よりも多めに入荷した雑誌も完売しました。

薬事法順守の観点から、小売が独自に商品の健康効果を謳うポップを設置するのはためらわれますが、雑誌を活用するなどをすれば、消費者にきちんとしたエビデンスを問題なく伝えることができます。

ただ、売場のご担当者にお伝えしておきたいのは、健康系の商品が定着するまでには時間がかかるということです。時間をかけて育成する、という気持ちで続けなければ売場として残せません。消費者の方に実際に商品を手に取ってもらって、その良さを理解し、健康効果を実感してもらうには時間がかかるものです。
たとえば、私がナチュラルローソンで開発した低糖質の「ブランパン」は、販売開始した当初はまったく売れませんでした。しかし、製粉メーカーさんにも相談して、味の改良を重ねたところ、徐々に売れるようになりました。その後、通常のローソンでも販売されるようになり、人気商品のひとつとなりましたが、そこに至るまで4、5年はかかっています。

ですから、現時点で売り上げに貢献していない商品であっても、長期的な視点で付き合っていく必要があると思います。健康系の商品はその良さが認められればリピート購入が多く見込めるので、将来、十分に売り上げを挽回してくれるはずです。

注目は「大豆ミート」と「冷凍食品」

いま山口さんが注目している商品やカテゴリーがあれば教えてください。

ひとつは、大豆ミートです。食料問題の観点から、動物性タンパク質に代わる植物性タンパク質製品への期待は年々高まってきていまし、いまブームともいえるSDGsの文脈にも合致しています。最近ではさまざまなメーカーが参入して、商品ラインナップも充実しています。

もうひとつは、冷凍食品です。日本の冷凍食品の市場は10年前と比べて1.5倍程度に拡大しているものの、欧米と比べると、年間の購入額はまだ半分ほどにとどまっているというデータもあります。市場として勢いがあり、今後もさらに拡大していくと予想されます。ここまで冷凍食品が近年伸張している理由は冷凍技術の進歩でより美味しくなったからということもあります。

冷凍食品はその性質上、保存料をあまり使う必要がないので、健康志向の方にも実は好まれやすい商品だと思います。ただ冷凍食品というと「栄養が偏っている」というイメージもあるので、その点をクリアして、原料素材や成分など、健康を軸にした商品開発やマーケティングを行えば、さらに需要は増加するのではないでしょうか。

最後に、食品の流通に関わる人たちにメッセージをお願いします。

一般的に健康効果の高い商品は、相応の原料を使っているため製造コストが高くなりがちですが、エビデンスをしっかり証明するなどして、価格に見合った価値があることをバイヤーや消費者に伝えていくことが大切だと思います。

また、安全な原料をつかっていること、身体にいい栄養素を含んでいることは、ひと昔前よりも、消費者の心に響きやすい時代だと思います。健康という軸で、積極的に商品開発やマーケティングに取り組んでみてください。私も「健康×食」で、日本を元気にしてきたいと思います。

<インタビュー前編はこちら>

山口 英樹 氏 プロフィール

株式会社エールズ代表取締役。元 株式会社ローソン ホームコンビニエンス事業本部 本部長補佐。ローソン在籍時には、オリジナル商品(主に弁当・おにぎり・惣菜等)中食系の商品開発(マーチャンダイザー)を経験した後、ナチュラルローソンの事業責任者として、ストアコンセプトを立案・こだわりの商品を採用・販売することで現在のナチュラルローソンのストアブランディングの確立に貢献。また当時ローソンが資本出資していた株式会社大地を守る会(現:オイシックス・ラ・大地株式会社)に出向したことで、契約栽培農家 約800グループ(約2700軒)の農家さんと交流し農業(一次産業)に関する知見を得る。ローソン退社後、㈱エールズを設立し、主に食品メーカー・飲食業・食品素材メーカーにおける販路開拓のサポートや新規事業のコンサルティング・ローソンのマーチャンダイザー時代に全国の食品製造メーカー約300社以上の工場視察した経験を活かしクライアント様向け商品開発(原材料調達~OEM製造メーカー選定)のトータルアドバイザー業務を行う。また、自社でも製造工場を持たずに企画したオリジナル商品(加工食品)のOEM製造による食品卸売販売もすることで、実践型の経営を自ら実施中。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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