ドラッグストア業界は変化のとき。業界誌編集長に聞く、“これからのドラッグストア”とは?

コロナ禍で見直されつつある健康志向。生活者にとって身近な「ドラッグストア」は、近年の健康志向の中でどのような変化を迎えているのでしょうか? 今回は、ドラッグストア業界に精通した『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌の小木田泰弘編集長に、業界の現状についてお聞きしました。

コロナ禍で変化した生活者の意識とドラッグストアの強み

はじめに、小木田編集長の活動やご経歴を教えてください。

もともと、チェーンストア業界の専門誌である『ダイヤモンド・チェーンストア』の記者でした。当誌は、小売業の総合専門誌として古い歴史を持ち、スーパーマーケットを中心にコンビニエンスストアやアパレル、家電など多方面におよぶ小売業のイノベーションやマーケティングのヒントを模索するメディアです。2020年からは、そこで培ったネットワークをもとに、ドラッグストア業界にセグメントされた『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌の編集長をつとめています。

ドラッグストア業界は、ここ数年、大きな変化を迎えています。根底にあるのは、生活者の意識変化。古くからヘルスケアやウェルネス市場は、小売業にとって注目のテーマでしたが、新型コロナウィルスの流行によって人々が自身の健康を見直した結果、ますますマーケットはより活気付いています。性別や年齢に関係なく、さまざまな人々が、健康に関する知識を能動的に蓄積する時代になったといってよいかもしれません。

実際に、ドラッグストア業界全体の売上高は、人々が外出を控えた2020年から現在まで増加の一途です。生活者の“健康でありたい”とか、“より美しくありたい”というニーズの受け皿になるのは、多種多様な商品を扱うドラッグストアがもっとも適任ですから。

たしかに、ドラッグストアに一歩足を踏み入れると、商品バリエーションの豊かさに目を奪われます。
洗剤を買いにきたのに、化粧品や冷凍食品もカゴに入れることもしばしばです。

そうですよね。しかもスーパーマーケットとも一味異なります。ドラッグストアの強みは、店舗に常駐する“専門家”の存在。例えば、薬剤師や医薬品登録販売者、管理栄養士や化粧品担当者がそれにあたります。こういったプロがいるからこそ、生活者の悩みにフィットした細やかなカウンセリングや商品の提案ができるのです。

一方でドラッグストアの課題といえるのが、これらの専門性を有するスタッフの活用がうまく進んでいないこと。店舗に専門家を配置しても、生活者にその認識がなければ相談に行き着きません。実はこの「相談機能」が、ヘルスケアおよびウェルネス市場を活性化させる機会になると考えています。

小売の問題、メーカーの問題。共通項は、コミュニケーションの不一致?

国内のドラッグストア市場における最近の動向や課題は?

顕著なのは、ドラッグストアの業界団体である日本チェーンドラッグストア協会が主導する、機能性表示食品や特定保健用食品(トクホ)などの保健機能食品における「食品の機能に基づく売り場づくり」。具体的には、同協会が食と健康の販売マニュアルを作成し、販売員がマニュアルを基に現場で販売を重ね、実証実験なども行なっています。

特に実証実験は、今年の3月から6月上旬にかけ、6企業、16店舗で実施。いずれも食品の機能による売り場づくりによって、生活者の購買行動の変化やカウンセリング手法を検証することを目的に行われました。保健機能食品を免疫や睡眠、ストレスと複数のジャンルにわけ、それぞれのPI値※を比較すると、意外な事実が見えてきたんです。

実験の結果、保健機能食品は全般的にPI値の増加傾向があることがわかりましたが、注目度が高いだろうと予想された免疫ジャンルの商品は、思いのほか増加幅が狭かったんです。これらのことから、日本チェーンドラッグストア協会は、社会の変化によって顕在化しているマーケットよりも、生活者に“気づき“を与えた市場のほうが、PI値の上昇を牽引したと分析しています。

なるほど。新たなマーケット創造のヒントになるかもしれませんね。一方で、保健機能食品が売り上げにつながりにくいというメーカーサイドの課題も聞こえてきます。

たしかに現状はそのような傾向があるかもしれません。ですが保健機能食品とは、国が定めた健康に基づく基準や、事業会社による一定の保健機能や生理機能を科学的に立証できた商品です。問題点は、そのエビデンスや安全性、そして活用のメリットが生活者に届いていないということ。生活者も食品の加工度が上がるほど安全性を重視するものなので、よりわかりやすく、そして伝わりやすいよう、情報発信していく必要性はあると思います。

安全性の発信においては、メーカーの役割がやはり大きいのでしょうか?

もちろんです。安全性やエビデンスに関する情報は、的確に発信していくことが求められます。また、各種専門誌やメディアが積極的に情報発信していくことも重要ですね。最近では、商品の開発段階からメーカーと小売業でタッグを組む例も増えています。販売のプロであるドラッグストアと組めば、どういった売り方やコミュニケーションを介せば生活者からの支持を得られるのか、わかるはず。

ドラッグストアでどういった商品が支持されているのか、メーカーに共有するルートはないのでしょうか?

大手のドラッグストアはID-POSやPOSデータをメーカーに公開しているので、メーカーはデータ上で売れ筋の把握はしているはずです。しかし、顕在化しているニーズはある程度データで把握できたとしても、隠れたニーズまでは掘り起こせません。それだけに、メーカー・小売業双方のコミュニケーションが重要だと感じています。

新しいマーケットの創設に必要な、3つのこと

お話を聞くと、ドラッグストアには「街の健康ハブステーション」のような役割があるのだと思います。
保健機能食品の販売や各種専門家の活用などは、それらの土台かと。

そのとおり。それこそが、本来ドラッグストア業界が目指していた姿なんです。
先ほど挙げたドラッグストアにおける「相談機能」の最終段階には、“受診勧奨”があります。受診勧奨とは、生活者の健康の悩みを受け、状態に応じて適切に受診を勧めること。これには高いスキルが求められます。

大手を中心に、専門職スタッフの教育やカウンセリングスキルの向上に力を入れていますが、物販を担う医薬品登録販売者の中でそのようなレベルに至るのには、ある程度の時間が必要かもしれません。

メーカーと小売が連携した商品開発・販売による対生活者へのコミュニケーション方法については、各ドラッグストアのアプリなども有用なツールになるのでは?

そうですね。コロナ禍で人の流れが途絶えたことで、メーカーや小売の間も情報が断絶されました。メーカーが本当に伝えたいコアな情報やアピールポイントが小売業のバイヤーに届かなくなると、当然生活者にも届きません。

ここに改めてメーカーや小売業がとるべきヒントがあると思います。商品の開発秘話などは1つの読み物として発信していくことで、売り上げに影響を与えることができますし、コンテンツ発信による生活者へのコミュニケーションは、今後ますます重要視されるはずです。メーカーと力強い協力関係にあれば、商品のアピールポイントや開発の難所などの理解も深まっているはずなので、コンテンツメイクもうまく進むではないでしょうか。

最後に読者へのメッセージをお願いします。

ドラッグストア企業の多くは、ヘルスケア・ウェルネス分野における新しいマーケットの創造に前向きです。既存の商品も然り、新たな市場の創造につながるような画期的な商品の開発にもチャレンジしていただきたいと思います。メーカーの挑戦をドラッグストア業界は小売業のプロとして支えていけるはず。メーカーと小売業の双方が今一度、コミュニケーションを取り合うことで、多くの生活者に支持される革新的な商品のヒントを掴むことができるかもしれません。

※パーチェス・インデックスの略で、来店客1,000人当たりの購買指数を指す

小木田 泰弘 氏 プロフィール

雑誌『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌編集長。1979年生まれ。2009年6月に株式会社ダイヤモンド・フリードマン社(現・株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア)に入社。『ダイヤモンド・チェーンストア』誌の記者を経て、2016年1月からドラッグストア業界の専門誌『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌の副編集長に就任。2020年10月より同誌編集長。
ドラッグストアの経営層や商品部、各店舗のトップなどが主要読者である『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌は、ドラッグストア業界のトレンドを読み解く国内唯一のメディア。取材のかたわら、業界の重鎮を中心にした講演会、座談会等にも指南役として参加している。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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