健康食品をヒット予測!『日経トレンディ』編集長が考える、“これから売れる商品”とは?

ヒットする商品にはワケがあります。数多ある商品の中で、消費者に選ばれる品を生み出すためには、どのような視点が必要なのでしょうか? 今回は、国内マーケットのトレンドに精通した「日経トレンディ」編集長の澤原昇氏に、今後のヘルスケア商品の傾向について、お聞きしました。

商品の体験談がヒットに結びつく! 2022年の振り返り

先だって、貴誌では恒例のヒット商品ランキング2022年版を発表されましたが、「Yakult1000/
Y1000」が1位だったのが印象的です。今年の健康食品市場の振り返りをお願いできますか?

睡眠をキーワードにした商品は以前から需要がありましたが、今年は爆発したといってもいいと思います。その代表的な例が「ヤクルト1000」ではないでしょうか。

トレンドの素地があったところに、プレイヤーが揃ったということでしょうか?

今年はコロナによる外出制限がなくなりましたが、まだまだコロナ疲れをはじめとした精神的な疲労も残るなかで身体的な疲労度も増したように思います。そんな中、せめて疲れだけでも改善したいと考える方が多かったのかもしれません。
「Yakult1000/Y1000」だけでなく睡眠中の髪への摩擦を軽減すると謳う「YOLU」、耳をじんわり温める「耳ほぐタイム」などの睡眠関連の商品に注目が集まりましたし、今年はこれらの商品を体験した方々が、感想をSNSに投稿したことで話題になりました。睡眠がエンタメ化した年だったと思います。

今っぽい流行り方ですね。「Yakult1000/Y1000」はテレビ番組でも取り上げられました。

もちろん、テレビ放送も話題を提供しました。その一方でSNSでは、商品を飲むと“悪夢を見ることができる”という声が自然発生的に増加。悪夢が見られるほど熟睡できるなら飲んでみようと、消費者心理が動いていったのかなと思います。

悪夢という言葉は一見ネガティブですが、消費者の実感と合ってバズったのかもしれませんね。

商品を取り入れることで、何かが改善する・よくなるといった実感を求める傾向が顕著になったのかもしれません。

たんぱく質フードがアツい!コンビニは健康食品の主戦場へ

その他の健康食品については、どのような傾向がありますか?

素材系チップスがきています。いわしのスナック菓子やしいたけスナックも話題になりました。これも健康志向の一連の流れかと。
個人的な視点かもしれませんが、僕は身体を鍛えているので、たんぱく質系フードは気になりますね。特に最近はコンビニの棚がおもしろい。サラダチキンの横に豆腐バーが置かれたり、商品が多様になりました。クッキーのようなバータイプのものもありましたが、豆腐バーはチルド棚に置くことができるので、サラダチキンを買う方の目にも止まります。あとはたんぱく質フードの派生商品も元気です。サラダチキンを使って作るサムゲタンなど、飽きずに長く食べ続けることに配慮した商品が増えました。

トレーニング目的だけでなく、免疫強化やフレイル予防など身体全体のためにもたんぱく質が必要だ
という考え方にシフトしてきたと思いますが、たんぱく質ニーズの裾野は広がっていると思いますか?

そうですね。特にトレーニングをしていない一般層の方々も“たんぱく質買い”する時代だと思います。
例えばセブンイレブンのお弁当にも、たんぱく質量やカロリーが大きく表示されているものが増えました。糖質やカロリーを抑えながらたんぱく質をとる流れは、続いていますね。焼肉弁当さえもたんぱく質を得ようとしてシニア層が購入するようになったという話も聞きますし、良質なたんぱく質をいかに食事で取り入れるかは、老若男女の感心の高い問題なのでしょう。

ドリンクはどうでしょうか?

勢いがあるのは、「ザバス」のプロテイン飲料。特に最近はたんぱく質の高濃度化に注目しています。1本で20mgのたんぱく質を摂取できるのはすごい。たんぱく質がコンビニで手軽にチャージできる時代になりました。

豆乳は一時より元気がない気がしますが…。

たしかに。代替乳でいえば、オーツミルクが伸びています。理由は、味わいが良く“違和感なく生活に取り入れられる”からでしょうか。豆乳は以前からありますが、味が苦手な人がいたりと、牛乳の代替品としてはハードルが高い。オーツミルクは22年に市場を拡大させましたが、まだまだ勢いがあります。生活を変えずに健康なものを取り入れるという流れが、ここ1〜2年できたように思います。

ライフスタイルを変えずに健康になるという流れは、食以外にも感じますか?

コンビニジムもトレンドです。5分だけでも行って運動するということができる設計になっていますね。子どもの送り迎えのちょっとした時間に、立ち寄る方もいると聞きます。

“何もしないで健康”が、消費者心理を動かす

たんぱく質フードに話題を戻すと、動物性と植物性のどちらが健康的かといった議論もあります。

世間は植物性たんぱく質優勢ですよね。その流れで代替商品が増えましたが、どうでしょうか。健康面だけでいえば、植物性たんぱく質だから動物性たんぱく質より健康だと一口で言える問題でもありません。また、代替肉ですらまだ普及しているとは言い難い気がします。向かう先には食物危機といった環境問題の解消という目的がありますが、とはいえ、国内の市場ではまだまだ健康志向で売るしかないかもしれません。環境問題といっても、消費者には実感が湧かないのではと。

実感や体感は健康食品でも重視するべきだと思いますか?

売るコツとしては、大事だと思います。前述の睡眠関連商品も体感によって盛り上がりましたし。体感に加えて結果が目に見えてついてくるというのも重要ですよね?パーソナルトレーニングのライザップのように、結果にコミットするような、そして手軽に結果が出るものが一番ではないでしょうか。
少し前に糖質制限が流行ったのは、短期間でわかりやすく体重が落ち始めるからだと思います。

たしかに、体重や便秘、睡眠などは改善を実感しやすいと思いますが、疾病予防とか長い時間をかけないと結果が出ないようなものは、なかなか手が出しにくいかもしれません。実感が伴わない領域では、いかに継続させるかが関係者の目下の悩みでもあると思います。

健康とベネフィットを結びつかせていくのも1つの手かも。住友生命の健康増進型保険「バイタリティ」のように健康にエンターテイメントやゲーム性を付加した商品もあります。

減った体重分、それに相当する料金を返還するジムもありましたね。

手軽にベネフィットを得られる仕掛けができるといいです。ライザップはパーソナルトレーナーで継続のモチベーションを維持させましたし、話題のコンビニジムはスマートデバイスなどを無料で配布するなど、デジタルツールで代替しています。そういった取り組みが健康食品にあってもよいのではないでしょうか。

継続化の仕掛けが重要ですね。人生100年時代を迎え、老若男女の健康意識が高まった今だからこそ、
取り組むべきかもしれません。

そうですね。今後は、どのような属性の人々も無理なく健康が実現できるという商品設計が必要になると思います。もともと健康意識の高い層は、放っておいても自分に合った商品を発掘することができますが、何もしなくても健康を実現したい層は、そうはいきません。さらには健康になるためのハードルが高ければ継続も不可能です。
これらの方々に向けた商品こそ、“生活を変えずに摂っていればそのまま健康になれるもの”が必要なはずです。

“何もしていなくても健康”というように、健康自体を意識させない商品という視点もありそうです。

同感です。敢えて“行動変容させない”やり方ですね。
例えば、日清の「完全メシ」は、近いところまで攻めてきていると思います。
技術革新が進んだおかげで、何も捨てないけれど健康が叶うという商品が増えたのも良いきっかけでしょう。これらは消費者コミュニケーションの視点からも魅力的な条件だと思います。かつては健康になろうと思ったら、味やコクなど何かを失うものだと思われてきましたから。日清の「完全メシ」のように、しっかりジャンクな味わいなのに健康だとか、健康と味・見た目の関係性が、従来とは変化していくかもしれませんね。

澤原 昇 氏 プロフィール

雑誌「日経トレンディ」編集長。工業系出版社の編集部、モノ雑誌や書籍の編集者を経て「日経トレンディ」編集部へ。2022年1月より編集長。仕事柄、保険や投資、金融系全般などの情報や家電日用品など、幅広い情報に精通している。最近では、情報番組で情報番組でのトレンド解説などでも活躍。趣味は格闘技。身体づくりを意識して、種々様々な健康食品やツールを日々チェックしている。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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