外食に求める生活者の健康感とは?
ファストフード利用者に向けたスマートミールの可能性

2023年9月1日(金)~3日(日)、「すべての人の幸福を目指した実践栄養学の発信-ソーシャルインクルージョンの実現に栄養学を取り入れる-」をテーマに第70回日本栄養改善学会学術総会が開催されました。その中で9月3日(日)に開かれたランチョンセミナー「外⾷に求める⽣活者の健康感とは?〜ファストフード利⽤者に向けたスマートミールの可能性〜」において、ウェルネス総研と吉野家ホールディングスが共同で行った「生活者と外食利用における関係性」に関する調査を発表しました。

このセミナーで提供された吉野家の新メニュー「牛丼ON野菜」は、ウェルネス総合研究所が2021年から発表している「ウェルネストレンド白書」を参考に開発したもので、今注目が高まっているスマートミール®の認証を取得していることから、セミナー後半では、外食産業における「スマートミール®」の普及の現状と動向についても語られました。これらの内容をレポートします。

約6割の人が、現状の健康状態に不満を持っている

「生活者と外食利用における関係性」を紐解いていくにあたり、はじめに、ウェルネス総合研究所の主席アナリストである白井俊行氏から、現代における生活者の健康意識の調査・分析について紹介がありました。

「ウェルネストレンド白書」では、分類した7つの健康セグメントを、健康意識の高い順から「健康ストイック層」「健康コンシャス層」「コツコツ健康層」「ラクして健康層」「まだ大丈夫層」「トレーニング大好き層」「健康無関心層」と名付け、それぞれの特徴を分析しています。例えば年代別で見てみると、「コツコツ健康層」「健康ストイック層」は50代以降に増えている一方、「まだ大丈夫層」「健康無関心層」は60代から減ってくることなどが分かりました。

「ウェルネストレンド白書」健康セグメント一覧より

ここで白井氏が注目したのが、各セグメント別の健康状態の現状認識です。
「まだ大丈夫層」「健康無関心層」の人たちも、じつは約6割の人が、現状の健康状態に不満を持っていたのです。「健康状態を改善したい」という意識も、どのセグメントも約6割の人が持っていることが分かりました。健康状態の改善意向は「健康コンシャス層」が最も高く82.3%。「まだ大丈夫層」も62.1%の人が改善意向を持っていることが分かりました。

第70回日本栄養改善学会学術総会 共催ランチョンセミナー講演資料より

「関心はあるけど行動につながらない」という人が多数を占める

どのセグメントも、健康改善意識を持っていることが分かった一方、実際に対策をしているかという点については、セグメントによって差がありました。例えば、「まだ大丈夫層」は「健康ストイック層」と比べると、関心はあっても行動が伴っていない人が多いことが分かりました。また、栄養補給や栄養バランスについての調査結果を見ると、「健康コンシャス層」は75.3%の人から関心を持っていながら、実際に対策をしている人は22.4%に留まるなど大きな差がありました。

第70回日本栄養改善学会学術総会 共催ランチョンセミナー講演資料より

第70回日本栄養改善学会学術総会 共催ランチョンセミナー講演資料より

上の図は栄養補給・栄養バランスにおける関心と対策の状況、下の図は栄養補給・栄養バランスにおける予防・対策の状況です。20代、30代は、サプリメントを活用する人が相対的に多く、「健康ストイック層」や「コツコツ健康層」は食事で改善したいと思う人が多いなど、細かい健康意識も見えてきました。

このように、生活者の健康意識を、年代、性別だけでなく、7つの健康セグメントを用いて分析したことで、生活者が抱く様々な意識や実際の行動の実態が見えてきたのです。
「『健康状態に不満はあるけれどいますぐ改善したいわけではない』『栄養バランスが大事なのはわかるけど、食習慣や生活習慣を改善するのは無理』『気になったらサプリメントを摂ればいいや』……など、こういう人たちがいる中で、私たちは生活者に対し、どんな提案をすれば一人でも多くの人が健康的な生活が送れるようになれるのか。その先にあるウェルビーイングにつなげることができるのかを改めて考えていかねばならないと感じています」と白井氏は強調していました。

健康セグメントと外食利用の関係性

続いて、白井俊行氏と同じウェルネス総合研究所主席アナリストである青木健氏より、白井氏が紹介した7つの健康セグメントデータを用いた外食利用の関係性についての調査・分析の紹介がありました。

健康セグメントによってファストフードの利用率が変わる

ファストフードの利用率を7つのセグメント別に調べたところ、「健康ストイック層」「健康コンシャス層」「コツコツ健康層」の利用率が比較的高く、「ラクして健康層」「まだ大丈夫層」「トレーニング大好き層」「健康無関心層」の順で少しずつ低くなっていくことが分かりました。

さらに、マクドナルドと丸亀製麺、吉野家の利用率を調べたところ、健康意識が高いセグメントほど、外食店の利用率が下がっていることが分かりました。「健康コンシャス層」の利用率が比較的高い理由について、青木氏は「控えたいとは思っているものの、結果として控えることができないという方が多いのかもしれません」と推察していました。また、「トレーニング大好き層」の人の吉野家の利用率が高い理由の一つとして、タンパク質摂取へのニーズが高い人が一定数いるのではがという仮説を挙げました。

健康セグメントごとの外食利用率

第70回日本栄養改善学会学術総会 共催ランチョンセミナー講演資料より

外食理由については「手軽に食事を摂りたい」という理由が圧倒的に高く、「家で食事の準備をするのが面倒くさい」「家で食事の準備をする時間がない・余裕がない」という理由が多いことが分かりました。一方で、栄養を摂りたいとき、健康に配慮した食事を摂りたいというニーズを満たすために、外食店を選ぶ人が少ないことも見えてきました。

「ここで我々が注目したのは『生活者のみなさんは、外食をする時に、本当に栄養とか健康を求めてないのだろうか』という視点です」と青木氏。この点を考えていくために紹介されたのが、脳内にある2つのシステムです。

人は無意識のうちに脳内にある2つのシステムを使い分けている

日常生活の中で、私たちには、何かを考え意思決定をするシーンがたくさんあります。そのとき、「深く考えず、瞬時に答えを出す」場合と、「熟考して答えを出す」場合があるといわれ、心理学では「二重課程理論」といわれています。

では、「今日、何を食べよう」という思考はどちらになるか。これはシーンによって変わってきます。例えば、大事なお客様との食事、記念日のディナー、旅先でのランチなどは、いろいろな事を想定してじっくり考えることが多い一方、忙しい日の夕食や、お腹が空いてしょうがない時の夕食などは、あまり時間をかけずに決めてしまうのです。今回は、ファストフード店の利用について調べていることから、後者の、「何を食べるか直感的に決める時の脳の状態」をベースに考えていきます。

第70回日本栄養改善学会学術総会 共催ランチョンセミナー講演資料より

例えば、一人暮らしの男性が、仕事終わりに「お腹がすいたが作るのは面倒だし、どこかで食べて帰ろう」と考えた時、候補先に吉野家が出てくるとします。そして「吉野家に行こう」と決めかけた頃に、ふと「最近太ってきているなぁ」という思考が紛れ込むと、直感的に「やっぱり吉野家はやめておこう」と、非選択に至ってしまうのではないか。つまり、「直感で健康的だと認識できる健康メニュー」が脳内に浮かぶか浮かばないかというレベルでは、外食店にも健康や栄養を求めており、それによって外食先や外食利用率が変わってくるのではと青木氏は分析していました。

牛丼から考察する、生活者が外食に求める健康感とは

これらの背景を踏まえて、今、生活者が求める外食メニューとはどんなものか。ウェルネス総研では吉野家の新メニューを共同開発するにあたり、吉野家の看板メニュー「牛丼」に対するイメージを生活者により詳しく調査しました。

吉野家の現在利用者と、過去利用者に分けて調べたところ、現在利用者においては、比較的、「健康に良さそう」というイメージを持っていることが分かった一方、過去利用者についてはそのイメージが低い結果になりました。

「牛丼のイメージがなぜ下がったのか。その理由を考えることが、新メニュー開発の鍵になる」と青木氏。吉野家現在利用者に対して行った「これがあればもっと利用したくなる」というメニュー要素について、各セグメント別に調査した結果が紹介されました。

「糖質・塩分・カロリー」は抑えたいが、野菜や栄養素はプラスしたい

「糖質を控えたメニュー」「塩分を控えたメニュー」「カロリーを控えたメニュー」「野菜が多く摂れるメニュー」「健康に良い効果のある成分や栄養素を含んだメニュー」、「おいしく食べられるメニュー」などの要素で調べたところ、「健康ストイック層」「健康コンシャス層」「コツコツ健康層」は、求めている要素が多いのに対し、健康無関心層はあまり求めていないことが分かりました。

また、吉野家の過去利用者に対して「これがあれば、再利用してみたくなる」というメニューの要素を質問し、現在利用者と比較したところ、「健康ストイック層」「健康コンシャス層」「コツコツ健康層」に関しては、「糖質を控えたメニュー」「カロリーを抑えたメニュー」「野菜が多く摂れるメニュー」があれば、また吉野家を利用したいと思っている人が多いことが分かりました。

不摂生への罪悪感回避意識も働いている

ウェルネス総研では、生活者の外食に求める意識について、社内でヒアリング調査も実施。外食店に求める健康メニューの背景にあるインサイトを考察したところ、「どうせ食べるなら体に良いものを食べた方が良い」といった不摂生への罪悪感回避意識があることが分かりました。

生活者が、今、外食に求めるニーズを整理すると、しっかり食べても罪悪感がない。低糖質、低カロリー、塩分控えめ。タンパク質・野菜をしっかり摂れて栄養バランスが整うこと。美味しさや食事への満足感も満たしていること。そして、好きなメニューをリーズナブルに食べられる、ということになり、さらに、それらのイメージが直感的に脳内に浮かぶ必要性があることが分かりました。

生活者が外食に求めるニーズ

第70回日本栄養改善学会学術総会 共催ランチョンセミナー講演資料より

ただし、これらのニーズを全てそのまま新メニューに生かし、生活者にアピールすれば、外食先に選んでくれるかといえば、そうではないと青木氏。
「『糖質や塩分、カロリーは抑えていますよ』ということを伝えることで、『美味しくなさそう』と思われてしまっては、そもそも選択肢に入らない可能性が高い。どう伝えるかが重要なポイントです。その点をふまえ、吉野家の新メニューを開発する時には〈慣れ親しんだ味で手軽に、かつ、気軽に食べられることを価値として提供する〉ということを特に意識しました」。

吉野家が提供するスマートミール®「牛丼ON野菜」

そして生まれた吉野家の新メニューが「牛丼ON野菜」です。牛丼がもともと持っている「美味しくて、ボリュームもある」というイメージを保ちながら、必要な栄養素もしっかり摂れると感じてもらえる見た目にもこだわっています。

第70回日本栄養改善学会学術総会 共催ランチョンセミナー講演資料より

※参考:一食における温野菜の量は145g。栄養監修は女子栄養大学栄養学部の浅尾貴子専任講師が行った。
※価格は講演当時のもの

この「牛丼ON野菜」については、吉野家ホールディングスグループ商品本部 素材開発部の梶原伸子氏が解説しました。

食べて健康を実現するための「牛丼」

「牛丼ON野菜」は、現在、注目が高まっている「スマートミール®」の認証を今年8月に取得しています。スマートミール®とは、「健康作りに役立つ栄養バランスの摂れた食事のことで、一食の中で主食・主菜・副菜が揃い、野菜がたっぷりで食塩の摂り過ぎにも配慮した食事」のこと。厚生労働省の「生活習慣病予防その他の健康増進を目的として提供する食事の目安」(平成27年9月)を基準とし、食事摂取や健康な食事に関する研究結果(エビデンス)を参考にしています。

第70回日本栄養改善学会学術総会 共催ランチョンセミナー講演資料より

※注 スマートミール®の基準には「ちゃんと」と「しっかり」の二基準があり、吉野家の「牛丼ON野菜」は「しっかり」の基準に基づいて栄養バランスを計算している。

2023年8月現在、スマートミール®の認証事業者は518。中食、給食、外食において提供されています。今回吉野家の一部店舗(クッキング&コンフォート店舗)でのスマートミール牛丼「牛丼ON野菜」が加わったことで都道府県の網羅率は97.9%、外食店舗によるカバー率も89.4%と高くなっています。

第70回日本栄養改善学会学術総会 共催ランチョンセミナー講演資料より

「吉野家では、日常食の提供だからこそ、人々の健康に責任を持ちたいという想いから、今回、スマートミール®の認証取得に向け、新メニューの開発に至りました」と梶原氏。メニュー開発にあたり、まず検証されたのが、「牛丼はそもそも健康食と言えるのか」ということです。

牛丼のタンパク質は理想数値。野菜をどう増やすかが鍵

牛丼の栄養バランスを、「日本人の食事摂取基準2020年版」に基づいて算出すると、成人男性(30〜49歳)が牛丼並盛を食べた場合、炭水化物、脂質、タンパク質ともに、1日に必要な量の4分の1ほどが摂れることが分かっており、タンパク質の含有量は約20gで、筋肉合成にちょうどいい量でした。ただし、野菜は玉ねぎのみを使用しているため、野菜は大幅に増やす必要がありました。

「ここで工夫したのが野菜の調理法です。炒め物や和え物などにすると、どうしても塩分が増えてしまいます。温野菜にすることで塩分を抑え、ガーリックを利かせた胡麻油を絡めることで野菜の旨みを生かせるレシピにしました。『牛丼ON野菜』には、成人が1日に必要とする野菜量(350g)の4割超を摂れるようになっています」

青木氏が強調していた「美味しさと食事の満足感」という点も取り入れ、緑黄色野菜のブロッコリー、カボチャ、赤ピーマンと、食物繊維が摂れるレンコン、ヤングコーンなど様々な野菜を入れることで、食感や味、見た目、ボリュームも満足できる品になっています。

吉野家の新スタイル店舗に注目

吉野家では、従来の吉野家とは違うスタイルの「クッキング&コンフォート」店舗の展開に力を注いでおり、「牛丼ON野菜」はそのスタイルの店舗のみで提供しているそうです。「クッキング&コンフォート」店舗は、カフェのような雰囲気で、お子様連れにも安心のベンチシートや電源を備えた席があり、一人でも家族でも、ゆったりと食事ができます。現在、283店舗あり、数年のうちに500店舗を改装予定ということです。

セミナーの最後には、「牛丼ON野菜」が完成するまでに、苦労した点や解決策について参加者から質問がありました。梶原氏は、「予約なしで提供可能にするためには、店頭での野菜の安定供給ができることが一番の課題でした」と回答。美味しさや食事の満足感、健康や栄養バランスを考慮する他に、外食店ならではの課題として、商品ロスを生じさせないための工夫が必要だったことなども知ることができました。

ウェルネス総研の今回の調査・分析で明らかになった生活者の外食における健康感や、吉野家の新メニューの誕生までの背景を知ることで、今後、外食に求められる生活者のニーズを理解することができた本セミナー。スマートミール®の普及も含め、ウェルネス・健康業界ではどのような商品やサービスが必要か、様々な観点からのヒントが見つかったのではないでしょうか。

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ウェルネス総研レポートonline編集部

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