【前編】元ナチュラルローソンMDが語る!関心が高まる「食×健康」市場。専門家が語る商品開発や売り場づくりのポイント

近年はコロナ禍の影響により、外食を控え、「これまでの食生活を見直して健康について考えることが多くなった」という人が増加しています。それにともない、体にいい食品へのニーズも高まっています。株式会社ローソンで「ナチュラルローソン全般」の開発やマーケティングに携わり、現在、株式会社エールズの代表取締役を務める山口英樹氏に、「食×健康」をキーワードに商品開発やマーケティングのポイントなどについてお話を伺いました。

他社に先駆けて中食商品のカロリー表示を実現

はじめに、山口さんのこれまでのご経歴を簡単に教えてください。

私は大学卒業後の1993年に、コンビニ大手の株式会社ローソンに入社しました。4年目にマーチャンダイザー(MD)としてお弁当やおにぎりなど、いわゆる「中食」の商品開発担当に。その後、2001年に自然食品を中心に扱い、新規事業の「ナチュラルローソン」をリブランディングするために2005年に発足された「株式会社ナチュラルローソン」の初期メンバーとし参画し、2007年より事業責任者となって、ストアコンセプトの立案から商品の採用決定までを取り仕切るようになりました。

2001年当時は自然食品を扱うコンビニ業態は珍しく、消費者の健康意識もそれほど高くはなかった時代です。ナチュラルローソンもなかなかお客様に認知されず、苦戦を強いられていました。そこで業績立て直しのために2005年から実行したのが、女性をターゲットにしたお店づくりです。当時のコンビニ利用者は男性7割、女性3割。女性の潜在層を獲得するために「health and beauty」というコンセプトを掲げ、中食商品のカロリー表示、レジ横へのドリップコーヒーマシンの設置など、女性客のハートをつかむための取り組みを始めました。どれも今は当たり前となりましたが、その頃はまだ珍しく、時代の先駆けだったと自負しています。

狙い通り、女性客の取り込みに成功したわけですね。その後は?

ナチュラルローソンが軌道に乗ったあと、2013年にローソンが出資した株式会社大地を守る会(現:オイシックス・ラ・大地株式会社)に出向しました。そこで契約栽培農家さん約800グループ(約2700軒)と交流できた経験は、大きな財産となっています。

その後、本社に戻って当時の新規事業として展開していたネットスーパーのような品揃えのネット宅配事業の責任者を務めたのち、2016年に独立して株式会社エールズを設立。食品メーカー・飲食業・食品素材メーカー様を対象に、新商品開発や販路開拓のアドバイザー事業を展開しています。加えて、数年前から協力工場の力を借りて、自社で企画した食品の卸販売も始めました。「食」を通じて世の中を笑顔にする。それが、エールズのミッションです。

メーカーはもっと積極的に原料素材の魅力を発信すべき

これまでの流通業時代の知見とネットワークを活かして、ご活躍されているんですね。アドバイザーという立場から見て、あらためて食品市場における課題があれば教えてください。

いくつか感じています。ひとつは業界の構造的な問題です。経済産業省の統計によると、現在日本には4万5000~5万社ほどの加工食品メーカーがあり、約30兆円弱を売り上げています。しかし、その売り上げの9割以上が一部の大企業によるものです。スケールメリットを生かして、いい商品を安定的に供給するという大手メーカーの役割は大きいものですが、その反面、家族経営で細々とやっている地方のメーカーなどは苦しい経営を強いられている。日本の多様な食文化を守るという意味でも、地方の中小零細規模のメーカーを応援するための政策や仕組みが必要ではないかと感じています。

私自身、2021年11月から「未来の食卓」という一般社団法人を立ち上げ、地方のメーカーさんと一緒に商品開発をしたり、販路開拓を支援したり、日本の食文化を守るための取り組みを始めました。

もうひとつ、流通現場の方々に接するなかで感じた課題があります。それは、小売のバイヤーさんが仕入れる商品について詳しく知る時間がないということです。詳しく現場をまわれなくなった最大の理由は新型コロナにより、バイヤーが地方の現場出張する機会が制限されてしまったことですが、その他として人材不足や業務の複雑化などにより、百貨店やスーパーをはじめ、小売のMDさん・バイヤーさんの業務負荷は、ひと昔前よりも格段に大きくなりました。そのため、仕入れる商品について実際に製造工場の現場を見たり、生産者さんに直接お会いする機会が少なくなっているのではないでしょうか?結果としてより詳しく勉強する時間がないように思われます。

私がローソンでMDを務めていた今から約15年前位は、自分が仕入れる商品に関しては、メーカー担当者に直接会って話を聞いたり、製造現場の視察に行ったり、原材料まで遡って徹底的に調べ上げるのが当たり前でした。しかし、いまの小売の担当者はそうした時間をつくる余裕が少なく、結果として商品を納品頂いている問屋さんからの情報に頼ったりして商品を仕入れているというケースも珍しくないと聞いています。
つまり、メーカーがせっかく素材や製法にこだわった商品をつくっても、その魅力がバイヤーさんに伝わりにくい状態になっている。メーカー側の視点から言えば、バイヤーさんに自社商品の魅力を、より積極的に発信していかなければいけない時代になっていると思います。

では、メーカーが小売りのバイヤーへ商品を売り込むためには、どんな方法が考えられますか?

メインの原材料メーカーさんとタッグを組んで、バイヤーさんに商品を提案するのが効果的だと思います。近年の健康意識の高まりにともない、体に良いとされる原材料に強い関心もつ消費者が増えています。例えば乳酸菌。体に良い原材料、安全な食材を使っていることは、それだけで商品PRの大きな武器になりますから、その点を原料メーカーさんの力を借りて、バイヤーさんに徹底的に訴求するわけです。

たとえば、原材料メーカーの担当者と一緒に商品の提案にしに行くというのはどうでしょうか。バイヤーさんからの質問に詳しく答えてもらえるし、そのやりとりを聞く過程で、最終製品をつくっているメーカー担当者の商品理解も深まるはずです。

食品である以上、商品の価値を決定づけるのはやはり原材料です。原材料を核として商品を訴求することで、小売に採用してもらえるチャンスはきっと広がるはずです。価格勝負では大手に太刀打ちできない中小メーカーの活路も、そこにあるのではないかと私は考えています。

<インタビュー後編はこちら>

山口 英樹 氏 プロフィール

株式会社エールズ代表取締役。元 株式会社ローソン ホームコンビニエンス事業本部 本部長補佐。ローソン在籍時には、オリジナル商品(主に弁当・おにぎり・惣菜等)中食系の商品開発(マーチャンダイザー)を経験した後、ナチュラルローソンの事業責任者として、ストアコンセプトを立案・こだわりの商品を採用・販売することで現在のナチュラルローソンのストアブランディングの確立に貢献。また当時ローソンが資本出資していた株式会社大地を守る会(現:オイシックス・ラ・大地株式会社)に出向したことで、契約栽培農家 約800グループ(約2700軒)の農家さんと交流し農業(一次産業)に関する知見を得る。ローソン退社後、㈱エールズを設立し、主に食品メーカー・飲食業・食品素材メーカーにおける販路開拓のサポートや新規事業のコンサルティング・ローソンのマーチャンダイザー時代に全国の食品製造メーカー約300社以上の工場視察した経験を活かしクライアント様向け商品開発(原材料調達~OEM製造メーカー選定)のトータルアドバイザー業務を行う。また、自社でも製造工場を持たずに企画したオリジナル商品(加工食品)のOEM製造による食品卸売販売もすることで、実践型の経営を自ら実施中。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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