【注目書籍】恋愛も嫉妬も“別腹”も、全て「脳」の仕業だった!?

好き、嫌い、嫉妬、憎いといった感情は「心」の問題。でも、心ってどこにあるの?と思ったことはありませんか?心に関することが全て脳の中で起こっている現象に起因するのだとしたら……?『世界最先端の研究が教える すごい脳科学』(坂上雅道監修/総合法令出版)は、「心」と「体」の中間のような脳のふるまいを知ることで、心を健康にできる一冊です。

脳科学の発展によって次々と生まれている治療法

「英会話を始めたけど、3日坊主で……」「ダイエットを始めても、すぐに挫折する」そんな経験は誰にでもあるもの。しかし、本書によると、何かをやり始めて続けられる人と、すぐに飽きてしまう人は、実は脳の構造がそもそも違うということが明らかになったのだとか。

それでは飽きっぽい人は、何をやっても続かないのかといえば、そうではありません。脳内にはニューロンと呼ばれる神経細胞がシナプスを介して繋がっていて、ネットワークをつくって情報を伝達しています。シナプスは、さまざまな経験や学習したことを記憶し、大きくなったり、小さくなったりしながら情報の伝わりやすさを操作します。これをシナプス可塑性と呼びます。

このシナプス可塑性を刺激すれば、使われていない回路を減らし、使う回路を強化して継続する力を伸ばしてくれます。その刺激とは、小さい目標ごとに達成感が得られるように工夫すること。

このように刺激することによって発生するという作用を利用し、近年、薬が効かないうつ病への新しい治療法として、脳に磁気刺激を与え、シナプス可塑性を促して、抗うつ効果を実現させる治療法も生まれたそうです。

また「磁気共鳴機能画像法(fMRI)」の発明によって、脳の機能活動がどの部位で起きたかを画像化できるようになりました。例えば、匂いを嗅ぎ分ける「嗅内皮質」は、脳内で記憶を司っている「海馬」のすぐ近くにあるため、嗅覚機能の低下は、認知症の発症率や死亡率、言語記憶、知覚速度、エピソード記憶の低下の指標となるとして注目されているとか。「みかんの匂いを嗅ぎ分けられなくなったら要注意」です。

さらに、以前より脳内神経伝達物質の一つであるオキシトシンが、信頼感を増す作用があるとされていますが、それを証明する実験も行われています。2008年に行われた研究では、オキシトシンの点鼻スプレーと、オキシトシンではない偽のスプレーを投与し、47組のカップルにお互いの対立ポイントについて議論させたそうです。

そうすると、オキシトシンを投与したカップルはストレスが減ったのに対し、偽の薬を投与したカップルはストレスが高まり、喧嘩になってしまったとか。このオキシトシン点鼻薬を世界中に撒いたら戦争がなくなるかもしれません。

ノーベル賞を受賞した論文もわかりやすく解説

脳という難解な臓器も、この本ではわかりやすく説明されています。その工夫の一つは、脳内の部位ごとに章を分けて説明しているところ。

例えば、『第1章 心と脳の関係がわかる脳科学研究』では、主に海馬や扁桃体、尾状核を中心に説明。「脳は恋愛をすると、どうなるのか?」「なぜ人はストーカーになってしまうのか?」「なぜお腹いっぱいなのに、デザートは食べられるのか?」といった身近な事象を例に、脳のどの部分が、どのように、どんな神経伝達物質によって活性化されるのかを紹介しています。

『第2章 感覚の不思議がわかる脳科学研究』では、主に前頭前野、視覚野、海馬、眼窩前頭前皮質を中心に説明。「天才アインシュタインの脳と私たちの脳は何が違うのか?」「母親の匂いで子どもの気持ちが落ち着く」「失った腕を感じる脳」というように、脳の働きによって私たちが感じることなどを紹介。

『第3章 「え? 本当?」意外な脳科学研究』では、主に帯状回、前頭前野、眼窩前頭皮質、視床、脳幹を中心に説明。「バイリンガルの脳の構造はどうなっているのか」「脳内には本当に“地図”がある」「思春期にうつ病になったり、薬物に依存したりするのは脳のせい?」など、そんなことも脳が原因だったの? という内容を紹介。

また『第4章 ちょっと怖い脳科学研究』では、主に前頭前野、大脳基底核を中心に説明。「相手に罰を与えたい人は、尾状核が大きい」「死の直前に見る“走馬灯”は本当に存在する」「食べ過ぎと薬物依存はとても似ている」など少し怖いが脳科学によって解明されつつある事象を紹介しています。

最終の『第5章 こんなことまでわかる脳科学研究』では、主に前頭前野と海馬を中心に説明。「多様性に富んだ食生活が脳の萎縮を減らす」「昼寝をすると認知症の機能低下リスクが減る?」「それなりの筋トレをするとニューロンが再生する」といったように、さまざまな分野にわたって進められている脳科学の成果を紹介。人間の脳を真似て進化しているAIの未来についても触れています。

世界中の脳科学者たちの研究が網羅され、その中にはノーベル賞を受賞した論文もいくつか含まれています。しかし、決して難解ではなく、私たちが関心を持てる身近な例をあげ、脳科学という研究分野を分かりやすく解説している本書。脳科学の進化が明るい未来を照らしているように感じられる一冊です。

【書籍情報】
『世界最先端の研究が教える すごい脳科学』(坂上 雅道監修/総合法令出版)


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