◎現地3000人参加し盛況に◎第22回抗加齢医学会総会 大阪で開催 「フェムテックとアンチエイジング」でシンポジウム

第22回抗加齢医学会総会が6月17~19日の3日間、大阪国際会議場(グランキューブ大阪)で開催された。阿部康二氏(国立精神・神経医療研究センター)を会長に現地会場とWEBによるハイブリッド形式で、健康長寿を共通のキーワードに、硬軟取り混ぜた広範なテーマで数々の講演・シンポ・セッションが行われた。総参加人数5600名、うち現地参加3000名と好天に恵まれた3日間、万全の感染対策のもと非常な盛況ぶりを示した。数々の見どころある講演のうち、会長企画シンポジウムとして開催された「フェムテックと人生100年時代のアンチエイジング」について紹介したい。

今回の第22回総会のテーマは「心身ともに若々しさを保つアンチエイジング科学とエビデンス」。阿部氏の会長講演では、脳のアンチエイジングと見た目のアンチエイジングについて、自身のAIを用いた研究を通じ明らかとなってきた相互の関係性を示した。特別講演では翻訳家の堤純子氏が、キリスト教の再洗礼派の一派であるアーミッシュの17世紀から変わらないライフスタイルと、一般の米国人に比べた健康寿命の長さに関する研究を紹介。また、東北大学大学院の出澤真理氏は、生体内に存在する腫瘍性を持たない修復多能性幹細胞「Muse細胞」が今後医療分野で果たし得るイノベーションについて講演を行った。招待講演は国立長寿医療研究センター大塚礼氏による老化に関する長期的縦断疫学研究(NILS-LSA)から得られた一般住民の認知機能や海馬容積の加齢変化と食との関係についての考察。BTRアーツ銀座クリニックの市橋正光氏による間葉系幹細胞を用いた再生医療や美容への応用可能性に関する講演が行われた。会期3日間の講演では、認知症・フレイル対策をはじめ免疫・腸内環境、サルコペニアなど多くのテーマで講演・シンポが行われた。このうち4つの会長企画シンポジウムでは①脳卒中、神経変性疾患、認知症への対策を提言した「専門医に聞く~脳のアンチエイジングはどうすれば実現できるのか?」。②医師のためのWEBツールや国産手術支援ロボット、スマホを使った治療用アプリ開発などを通じた「起業した医師の本音」。③美声と美肌、美脳に着目した再生医療や治療、抗酸化剤の活用を扱った「美肌と美声と美脳を目指すアンチエイジング」とユニークなテーマが揃った。

会長企画シンポジウム4「フェムテックと人生100年時代のアンチエイジング」

さらに④「フェムテックと人生100年時代のアンチエイジング」(座長:太田博明、森田敦子)では、急速に注目を集めるフェムテック、フェムケアについて、その基本的な考え方や国内外の動向、既存の抗加齢研究との関わり方など、今後日本社会においてどのようにフェムテックという概念を受容し、医療や食、デジタルデバイス、ケアサービスなどに落とし込んでいくべきかを包括的に考察・提言する場となった。

①「フェムテック概観・~その成り立ちと、今後の展望~」

フェムテック専門のオンラインストアなどを運営するfermataの中村寛子氏が、フェムテックの成り立ちや世界での動きなどについて紹介した。フェムテック(female+technology)という言葉は2012年にドイツの女性事業家・ida氏が、自身の経験から開発した月経管理アプリの立ち上げに際して投資家を説得するために生み出したもの。その後、フェムテック市場は欧米を中心に拡大し、2020年時点で世界に484社ものプレーヤーが存在するが、そのほとんどが日本市場に参入していない状況だ。中村氏は、国内外でフェムテックとして商品化・サービス化したものを紹介し、日本においてもこれまで可視化されていなかった生物学的女性としての生理機能と社会進出のギャップという健康課題を炙り出し、“タブーをワクワクに変える”ことが使命だと話した。

②「フェムテックとセクソロジー(性科学)」

フランス国立パリ13大学で植物薬理学を学び、フィトテラピーに造詣の深い森田敦子氏が講演。同大の医薬学部自然療法学科におけるSexology(性科学)では、外陰・膣の仕組みや働きなども含め、日本でタブー視されてきたセクシャリティーや性的欲求を人間のウェルネスに欠かせないものとして理解し、医学、心理学、心理分析学・民俗学・社会科学なども含め体系づけていることを紹介。さらに人生100年時代を迎えるなかでシニアのセクシャリティーがアンチエイジングに欠かせないとし、パートナーとの相互理解の重要性などに触れた。

③「One·Carbon·Metabolismを活用した新しい女性医療の提案」

東京労災病院産婦人科の太田邦明氏が、葉酸代謝とメチオニン代謝を含む代謝経路であるOne·Carbon·Metabolismは、その代謝経路を構成するメチオニンや葉酸、ビタミン B12 などの栄養素がエピジェネティクス制御機構へ作用し、遺伝子の発現などにも影響を与えることで、癌や慢性疾患などにも非常に重要な役割を果たすと説明。米国で1998年に主要な穀類への葉酸強化を法制化したことで、神経管閉鎖障害の発症率の有意な減少や、高齢女性の脳卒中死の劇的な減少などがみられたように葉酸の摂取は特に女性のアンチエイジングに有用である。さらに次世代の正しい遺伝子発現を誘導するほか、男性不妊に対する介入効果などもみられている。しかし日本人はOne Carbon Metabolismに存在する酵素MTHFR(メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素)の遺伝子多型のうち、酵素活性の低い遺伝子多型を持つ人が65%にのぼり、効率よく代謝させることが難しい。太田氏はMTHFR検査をフェムテックとして活用し、自分の遺伝子多型を知ることで葉酸摂取レベルをテーラーメイドすることを提案した。

④「メノポーズマネージメントに活かすフェムテック」

浜松町ハマサイトクリニックとグランドハイメディック倶楽部東京日本橋で女性医療に携わる吉形玲美氏は、メノポーズ(閉経)を境とした女性の健康マネジメントとGSM(閉経後泌尿生殖器症候群)対策などについて講演。女性の大きなライフイベントである閉経は、それまで煩わされていた月経を卒業し月経関連疾患から解放される一方、更年期障害や生活の質に関連する疾患リスクが顕在化する時期に入るサインとなる。特にGSMは女性のQOLに悪影響を与える一方、日本では屎尿生殖器周りを“デリケートゾーン”としてタブー視することで当の女性側が「年のせい」、「我慢すべきこと」として問題を顕在化させたがらず、医療者側も問題意識が低かった。しかしフェムテックとして米国でアプリを使用したオンラインの遠隔医療サービスを通じてGSM改善に向けた指導や介入が可能となり、また更年期障害や生活習慣病、骨粗しょう症に対するセルケアに活用されている。また、日本での取り組みとして吉形氏らによるラクトバチルス乳酸菌含有素材によるGSMおよび腟マイクロバイオームの改善効果についての研究内容を紹介。日本においても今後、セルフメディケーションとセルフチェック、遠隔アセスメント、遠隔診療を組み合わせたフェムテックの活用が女性のQOL向上に寄与すると述べた。

⑤「Aging·Societyに活かすフェムテックの現状と課題」

川崎医科大学および同総合医療センターで産婦人科に携わる太田博明氏は、これからの女性医療におけるフェムテック・フェムケアの重要性と当事者たる女性での認識向上、そのための産官学の連携の推進などシンポ全体を総括した。現在100歳越えの百寿者の88.4%は女性で、不健康期間は男性よりも長く、健康を損なって過ごす長生きリスクがある。特に女性の非感染性疾患では、エストロゲン低下による認知症や骨粗鬆症が顕著で、発症以前からの先制医療が重要となる。またGSMは近年の女性医療において大きく注目されている。GSMは性器への違和感や尿漏れ・頻尿のほか、性交痛など性的な機能関連症状を呈することから患者本人が過少申告しやすく、それが過少治療につながりやすい。医療的な対応に加え、包括的なフェムテックやフェムケアの必要性がある。『女性の健康を改善向上すること』を目的とするフェムテックでは安全性や有効性の検証が重要で、医師・研究者と事業者との産学共創が求められる。太田氏はフェムテックに医療者の立場からどのように関わり、貢献できるかは今後の課題であるとして、高齢化社会における女性の健全老化に関わる健康・性機能・QOLなどの向上にフェムテックが関与することに期待を示し、シンポジウムを締めくくった。

なお、今回の総会は7月31日までオンデマンド配信中。また、来年第23回総会は2023年6月9~11日に東京国際フォーラムで開催する。会長は大須賀穣氏(東京大学大学院医学系研究科産婦人科学)

「FOOD STYLE 21」2022年7月号 良食体健トピックスより


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