PRISMA2020準拠を支援
公益財団法人 日本健康・栄養食品協会 機能性食品部長 菊地 範昭 氏

消費者庁は昨年9月末に「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」および「機能性表示食品に関する質疑応答集」の一部改正を行った。今回の主な改正点は、①システマティックレビュー(SR)の「PRISMA声明(2020年)」への更新 ②届出内容の責任の所在の明確化等が盛り込まれた。そこで、機能性表示食品に関する様々な支援事業を進めている日本健康・栄養食品協会は、「PRISMA声明2020年版」に関する特別勉強会を業界に先立ち一昨年から開催しており、関連する支援事業を推進している。今回は昨年6月末の措置命令事案の影響も含めて、ガイドライン改正への対応について、同協会機能性食品部の菊地範昭部長にお話を伺った。

届出に用いるSRを精査するのは届出事業者の責任

当協会では年間100件ほどの相談を受けています。昨年は6月30日の措置命令以降、これに関係する問い合わせが増えています。自社商品や原料素材への影響を気にしているようです。届出事業者は原料メーカーから提供されたSRを使用している場合が多いのですが、これをきちんと見直さなくてはいけない時期に来ました。届出に用いるSRを精査するのは届出事業者の責任であって、原料メーカーの責任ではないのですが、そこを理解していない事業者が多いのが残念です。

届出ガイドラインに沿った論文を

昨年は機能性表示食品について3件の措置命令が出ましたが、理由は事後チェック指針にある広告・科学的根拠の何れか又は両方です。科学的根拠については、例えば、さくらフォレストの例では、一日摂取目安量が挙げられます。EPA・DHAの採用論文には、機能性関与成分として、最小では133mg、最大では6gに至るものがあります。私もエビデンスとなった37報の論文を精査しました。今回指導を受けたのは、EPA・DHA量として400mgと500mgであり、中性脂肪の減少に関して、400mgでは肯定的・否定的な論文が各々2報ずつ、500mgでは肯定的な論文が2報、否定的な論文が3報ありました。研究レビューとして、トータリティー・オブ・エビデンスの観点から、本来半分以上が肯定的な論文であるべきです。EPA・DHA量が、860mgになると肯定的論文の数が否定的論文の数を上回ります。また、試験対象を日本人に限定した論文に絞り込むと3報となり、有効性の見込める量は860mg以上になります。EPA・DHAは論文数が多いので、研究レビューの仕方によって採用する論文が大きく変わります。しかし、自分たちにとって都合の良い論文だけを選ぶと恣意的になってしまうので、良くありません。

制度発足初期の頃の中性脂肪に関するSRでは、被験者の試験前の測定値が病者域の人を含む論文が含まれている場合があります。ガイドライン上、そういった論文は除かなければならないのですが、そこが本制度の基礎となった2011年度の消費者庁委託事業で構築した評価モデルとの大きな違いになります。欧米の制度では、試験対象に病者が入っている論文でも科学的根拠に使用できる場合があります。日本で機能性表示食品制度が出来たとき、採用論文の被験者は健常者のみを対象とすることになりました。そうなると採用できる論文は一挙に減ります。特に、トクホでは使えた論文が機能性表示食品では使えないということがしばしば起こりました。さらに、病者と健常者を分ける基準値が欧米と日本で異なるため、日本の基準では病者を含む論文となり使えなくなる場合も多いので注意が必要です。

PRIMA2020準拠に関する取組みについて

PRISMA2020の特別勉強会では、基礎編と実践編の2回に分けて、勘どころなどを横浜市立大の五十嵐先生に解説いただきました。参加者の感想から、実務担当者に向けて、個別具体的にアドバイスが必要と感じたので、特別勉強会「実務者編」を企画し、既に12月に1回開催しました。お蔭様で好評をいただき、1月、2月の回も既に満席となりました。3月からも定期的に開催しますので、是非ご参加いただければと思います。2020年版準拠においてアドバイスする内容はケースバイケースで、採用論文1報の場合と10報の場合では書き方が違ってきます。そうした場合のポイントを少人数制のワークショップの中で、納得するまでしっかりご理解いただいております。

また、日健栄協ではPRISMA2020準拠に取り組む事業者の皆様へ、次のような支援もご提供しています。

PRISMA2020の新たな支援事業を始める

日健栄協では、新たな「PRISMA2020対応支援」事業として、次の3つのコースを用意しています。

①PRISMA2020準拠版研究レビュー作成
②研究レビューPRISMA2020対応確認(事業者が作成したPRISMA2020準拠版研究レビューを確認)
③PRISMA2020なんでも相談

併せて、届出支援の事業体系や料金の一部を改正しました。主な改正点として、「届出資料事前点検」を届出資料の量と種類により料金が変わる料金体系へと改定しました。「分野別専門相談」は、名称を「届出・広告相談」に変えました。研究レビューの作成を代行する「機能性支援(研究レビュー)」は、名称を「研究レビュー作成」に変えました。基礎調査を行い、受託可能であれば、業務委託契約を締結してPRISMA2020に準拠した研究レビューを作成します。

さらに、消費者庁での資料確認期間が短縮される、いわゆる30日ルールはなくなりましたが、引き続き届出資料の事前点検も行っています。届出資料の形式確認に留めず、中身へのアドバイスも行っていますので、確実に事前の差し戻しや事後チェックによる指導が減ると考えます。これら事前点検やPRISMA2020対応支援等を通じて、機能性表示食品全体のレベルアップに寄与していきたいと考えています。届出の古いものは、見直しや精査が不十分であるものが散見されます。個々に対応したほうが良いと思われますので、何かお困りのことがありましたら、是非日健栄協にご相談ください。

おわりに、本年4月には「機能性表示食品 ─ 届出資料作成の手引書 ─2024」(電子版)も発刊予定ですので、ご期待ください。

菊池 範 昭(きくち・のりあき)氏 /Noriaki Kikuchi

公益財団法人 日本健康・栄養食品協会 機能性食品部長

1985年 大塚製薬株式会社に入社。
機能性食品の研究に従事した後、医薬品の開発に携わる。
その後、栄養領域に戻り、研究所長、開発部長として新製品開発に従事。
2017年から日本健康・栄養食品協会に出向し、2022年から当協会職員となり、現在に至る。

「FOOD STYLE 21」2024年1月号 この人に聞くより

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