04認知症コラム
認知症の方が叫ぶ原因は?
対処法や家族が知っておくべきことを解説
2025.11.28
認知症の方の中には、叫んだり、奇声を発したりする症状がみられる方がいらっしゃいます。この記事では、認知症の「叫ぶ」症状の原因や、やってはいけないこと、対処法などについてご紹介します。認知症の「叫ぶ」症状への対応に悩まれている方は、ぜひ参考にしてください。
「叫ぶ」は認知症の症状?
「叫ぶ」は認知症の周辺症状
叫ぶ行為は、認知症の周辺症状のひとつだといわれています。周辺症状とは、認知症により脳細胞が損傷を受けることで直接起こる中核症状に付随して、二次的に発生する症状のことです。
周辺症状の発生には、本人の性格や環境など、さまざまな要素が絡んでおり、症状には個人差が見られます。したがって、認知症の方が「叫ぶ」のには背景があることを理解しておく必要があるでしょう。
認知症の方が叫ぶ3つの原因
認知症の方が叫ぶのには、大きく分けて3つの原因があり、以下に解説します。原因を理解することで、対策につなげましょう。
何かを伝えたいが言葉にできず気づいてほしいから 自分の気持ちが上手く伝えれないストレスを発散したいから 幻覚や妄想の症状などにより不安や恐怖を感じているから
何かを伝えたいが言葉にできず気づいてほしいから
認知症の方が叫ぶのは、伝えたいことがあるものの、言葉にできないときに周囲に気づいてほしいサインである場合があります。
とくに、言語障害を発症している方は、伝えたいことがあっても、言葉が上手く発せないことがあるでしょう。言葉で伝える代わりに、叫ぶことで気づいてもらおうとしているのかもしれません。
自分の気持ちが上手く伝えれないストレスを発散したいから
認知症の方は、感情を言葉でうまく表現することが難しくなり、言いたいことが伝わらないもどかしさからストレスを感じ叫んでしまうことがあります。
認知症が進行すると、大脳の前頭葉の機能が低下し、感情のコントロールが難しくなる場合があります。その結果、イライラした気持ちをうまく落ち着けられず、衝動的に声を荒げてしまうこともあるでしょう。ストレスを発散する手段のひとつとして叫ぶという行動を取っている可能性も考えられます。
幻覚や妄想の症状などにより不安や恐怖を感じているから
認知症の方が突然叫ぶのは、幻覚や妄想による強い不安や恐怖が原因となっている場合があります。「虫がいる」「誰かに狙われている」といった症状は、本人にとって現実のように感じられ、恐怖を感じる場合があります。
さらに、見当識障害によって自分の居場所や時間、周囲の状況が理解できなくなると、不安が募り混乱し、叫ぶという行動に至ることもあります。
認知症の方が叫んでいるときにやってはいけないこと
認知症の方が叫んでいるとき、対応を誤ると不安や混乱をさらに強めてしまうことがあります。ここでは、認知症の方に叫ぶ症状が見られる場合に避けるべき対応について解説します。
𠮟りつける
四六時中叫び続けられていると、叱りつけたくなることもあるでしょう。しかし、認知症の方を叱ると、恐怖や混乱が増し、叫びが悪化する可能性があります。「うるさい!」と怒鳴ることで、本人は攻撃されたと感じてさらに興奮してしまうかもしれません。
話を否定する
認知症の方の話を否定すると、本人は混乱し、さらに叫びで感情を表すことがあります。認知症の方の訴えは、現実には起こっていなくとも、幻覚や妄想で本人が実際に体験していることです。否定することで自尊心が傷つき、理解されないという孤独感や怒り、混乱を招いてしまいます。
無理やり眠らせるために睡眠薬を常用させる
認知症の方が叫んでばかりでいると、睡眠薬で眠らせてしまおうと考えることもあるでしょう。しかし、薬に頼りすぎると、副作用や更なる認知機能の低下を招くことがあります。とくに、夜間の叫びに対して薬で無理に眠らせると、昼夜逆転や転倒のリスクが高まるため注意が必要です。
認知症の方が叫ぶときの4つの対処法
認知症の方が叫んでいる場面では、周囲が適切に対応することで本人の不安や混乱を和らげることができます。ここでは、落ち着いて対処するための具体的な方法をご紹介します。
叫ぶタイミングに規則性がないかを確かめる
まずは、認知症の方が叫ぶタイミングを観察してみましょう。もしも、同じような時間帯や似たような状況で叫んでいる場合は、なにか自分の意思を伝えようとしていることが考えられます。
どのようなパターンで叫んでいるのか傾向を理解することで、原因が見つけられる可能性があります。身体の痛みやトイレに行きたいなど、原因が分かれば対処できるかもしれません。
ゆっくり話を聞く
認知症の方が叫んでいる際には、落ち着いた態度と口調で、話を聞く姿勢を保つことが大切です。否定せずにゆっくり話を聞いてあげることで、徐々に実際の環境に目を向けられるようになる可能性があります。
話を聞くことで認知症の方が困っている原因を理解し、落ち着きを取り戻せるような状況を整えられるかもしれません。また、じっくり話を聞いてもらえることで「認めてもらえている」と安心感を持ってもらえるでしょう。
体調や周辺環境の確認をする
何かを訴えようとして叫んでいるようにみえる場合は、本人の体調や周辺環境を確認すると手がかりがつかめるかもしれません。
認知症の方は、感じている不快な状況をうまく言語化できていない可能性があります。「痛い?」など短い質問で体調確認をしたり、不快な場所をたずねて指さしをしたりしてもらうなどの工夫をすることで、状況把握につながるでしょう。
不安や恐怖を和らげる
認知症の方の叫ぶ原因が体調や周辺環境でない場合は、ストレスに目を向けすぎず気を紛らわせることも効果的な方法です。
若い頃好んで聞いていた音楽などの娯楽や、好きな作業など、気を紛らわせそうなレクリエーションをいくつか用意しておき、不安が強まったタイミングで利用するとよいでしょう。 叫ぶことばかりに注目してしまいがちですが、時には気持ちを切り替えやすくする工夫も大切になります。
認知症による叫びを予防する環境作りのポイント
認知症の方が叫ぶ背景には、環境から受ける不安や混乱が大きく関係しています。静かな空間や、見慣れた物の配置など、日常の空間を少し工夫するだけで本人の安心感が高まります。
また、生活動線を整えることでイライラする機会が減り、穏やかな時間が増えていくことでしょう。
ただし、環境が変わることに不安を覚える方もいらっしゃいます。そのため、様子を見ながら少しずつ環境を整えていくなどの注意が必要です。
- 静かで落ち着いた空間を保つ
- 見慣れた物や写真を配置する
- 生活動線をシンプルにする
- 時計やカレンダーを見やすくする
- 香りや音で安心感を演出する
- 日中の活動と夜間の休息を整える
- 認知症マフを用いて不安を軽減する
認知症の方に叫ぶ症状が見られる場合に
家族が知っておくべきこと
認知症の方に叫ぶ症状が見られると、家族は驚きや不安を感じることが多いものです。ここでは、叫びの背景にある原因や、家庭でできる適切な対応についてわかりやすく解説します。
認知症の方に寄り添う姿勢を見せる
認知症の方は無意味に叫んでいるのではなく、恐怖や不安、不満、不快なことがあるからこそ叫んでいます。そのため、そのような方に対しては、「どうしたの?」「何があったの?」など、やさしく声をかけて寄り添う姿勢が求められます。
「叫ぶ」問題は、認知症の方の不安が和らぐことで解決する可能性もあります。そのためには、ユマニチュードというケア技法も活用するとよいでしょう。ユマニチュードとは、認知症の方の尊厳を大切にするケア技法です。以下のリンク先で詳しく解説していますので、ご興味のある方はぜひご一読ください。
薬を処方してもらうなどの治療法がある
リハビリや介護スタッフによる活動を通して改善を図る「非薬物療法」がある一方で、「薬物療法」も有効な治療法です。また、「非薬物療法」と「薬物療法」を併用するケースもたびたびあります。
薬物療法では、本人の状況に合わせて症状を抑える薬を処方することになります。とくに、叫ぶ症状が目立つ方は、抗精神病薬の処方により精神状態を安定させることで介護がしやすくなることもあります。その場合、医師や専門家の指示のもと薬物を処方してもらうことが必要です。
参考:厚生労働省「かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する
向精神薬使用ガイドライン」
介護施設への入居が拒否されることがある
叫び声や奇声が頻繁に見られる認知症の方は、専門的なケアを希望しても、他の入居者への影響や職員の対応の難しさから、施設側が入居を断るケースがあります。とはいえ、こうした症状がある場合、ご家族や介護者の精神的・身体的な負担は大きく、介護施設への入居を検討する方も少なくないでしょう。
入居を希望する際は、地域包括支援センターやケアマネージャーと十分に相談し、症状に理解のある施設を慎重に選ぶことが重要です。
叫ぶ理由を探り本人の気持ちに寄り添おう
認知症の方が叫ぶ背景には、幻覚や妄想、不安、混乱、感情のコントロールの難しさなど、さまざまな理由が隠されています。まずは日々の様子を丁寧に観察し、何が原因となっているのかを探ることが大切です。そして、やってはいけない対応や注意点を理解したうえで、本人の気持ちに寄り添う姿勢を持つことが、安心につながります。
なお、「認知機能ケアプロジェクト」では、ガンマ波に関する最新の研究情報も配信されています。認知症への理解を深めるためにも、ぜひチェックしてみてください。