04認知症コラム

認知症の方に寄り添うユマニチュードとは?ケアの技法と効果を解説

2024.09.24

認知症の方に寄り添うユマニチュードとは?ケアの技法と効果を解説イメージ

ユマニチュードは、認知症の方の尊厳を大切にし、人間らしい生活をサポートするケア技法です。この記事では、ユマニチュードを構成する「4つの柱」や「5つのステップ」はじめ、期待できる効果や注意点などをわかりやすく解説。認知症の方と接する際のヒントも満載です。

ユマニチュードとは

ユマニチュードは、「あなたを大切に思っている」というメッセージを相手に伝える認知症ケアの技法です。フランス語の造語で「人間らしくあること」を意味し、ケアを受ける側と行う側の双方が「よかった」と感じられる介護を目指します。

ユマニチュードのケアは、その人の能力を奪わないことに注力した方法です。立つ能力があるのにもかかわらず、寝たきりにさせると、本来の能力の低下にもつながりかねません。介護を受ける方の状態に応じた適切なケアを行います。

ユマニチュードとはイメージ

ユマニチュードの発祥

ユマニチュードは、フランス発祥のケア方法です。体育学の専門家であるイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏によって、40年間におよぶ病院や施設、家庭での経験から生まれました。

「生きている者は動く、動くものは生きる」という体育学の文化と思想のもと、寝たきりの人々へのケア改革に取り組んだ経験から生まれたケア方法です。2012年に日本にも導入されました。

ユマニチュードの3つのケアレベル

症状の進行度合いに応じて、ケアのアプローチが変わります。ここでは、3段階のケアレレベルについて詳しく解説します。

回復を目指すためのケアレベル 機能を保つためのケアレベル 最期まで寄り添うためのケアレベル

回復を目指すためのケアレベル

ユマニチュードではケアの第一目標として、まずは可能な範囲で心身共に回復を目指します。過剰なサポートはその人自身の能力を奪ってしまう可能性があるため、自立を促すことが重要です。

たとえば、足腰の機能回復を目指す場合、少しでも立てるのであれば立ったまま身体を拭けないかアプローチします。本人ができる活動を行うことで、能力の回復を促すという考え方です。

機能を保つためのケアレベル

回復が難しい場合は、今ある機能を少しでも維持することを目指します。ケアを行う側の都合で判断するのではなく、本人が「できる」と思っていることを尊重し、自立を支援します。

たとえば、足腰の機能維持を目指す場合、本人が歩ける距離を安全に配慮しながら一緒に歩くなどします。できる範囲での活動を促し、機能低下を防ぐのです。

最期まで寄り添うためのケアレベル

回復・維持が困難になったとしても最期まで本人の尊厳を重んじ、その人らしく過ごせるように目指します。どんな状況であっても、「人間らしくあること」を重視することが大切です。

認知症やその他の末期の病状であっても、まずは本人がやりたいこと・できそうなことがあるか意思を確認します。そして、その意思に沿って行動してもらったり、手伝いながら一緒に行ったりなど、最後まで寄り添い続けます。

ユマニチュードによるケアの「4つの柱」

ユマニチュードを実践する際の基本技能となる「4つの柱」について解説します。認知症の方と接する際のヒントにもなるので、押さえておきましょう。

見る技術

「見る技術」は、相手との関係性や信頼の構築に必要な技術です。基本的には、水平な高さ、近い距離で、正面からなるべく長い時間をとって相手を見ます。

この技術によって、相手に安心感を与え、信頼関係を築けるでしょう。また、視線を合わせることで、相手に対する関心や尊重を示せるため、コミュニケーションが円滑になります。視線を避けず、穏やかな表情で接することも大切です。

「見る」際のポイント
  • 水平な高さ…相手と同じ目の高さで見ることで、平等な存在であることを伝える

  • 近い距離…近くから見ることで、親しい関係であることを示す

  • 正面から…正面から見ることで、相手に対して正直であることを示す

  • 長い時間…なるべく長い時間見ることで、相手に関心を持っていることを示す

話す技術

「話す技術」は、相手に安心感を与えるための話す技術です。基本的には、声のトーンを優しく、穏やかに語りかけます。

話せない方を対象にケアする場合には「オートフィードバック」という技法を使います。オートフィードバックとは、自分が行うケアについて、実況中継するような形で声かけを行いながら相手の反応を見て接する方法です。相手に安心感を与え、信頼関係の構築に寄与するでしょう。

「オートフィードバック」の例
  • 食事介助時:「はい、スプーンです。おいしいスープですね。」

  • 着替え介助時:「今日は青いシャツですね。腕を通しますよ。」

  • 入浴介助時:「温かいお湯で気持ちいいですね。背中を流しますよ。泡で優しく洗いますね。」

  • 散歩中:「今日はいい天気ですね。鳥が鳴いています。あ、お花が咲いていますね。」

触れる技術

「触れる技術」は、ケアの際に触れることで安心感を生み出す技術です。ケアではほとんどが相手に触れて行う行為であり、広い面積でゆっくり優しく触れます。つかむ、ひっかく、つねるなどの触り方は絶対にしてはいけません。

また、顔・手・唇などの敏感な部位は、大脳に瞬時に情報が伝わりやすく、急に触ると驚いてしまいます。そのため、まずは背中や上腕などの感度の低い場所から触れましょう。

「触れる」際のポイント
  • 広い面積で優しく触れる
  • ゆっくりと手を動かす
  • つかまない・ひっかかない・つねらない

立つ技術

「立つ技術」は、身体の機能を維持するために「立つ」ことを取り入れる考え方です。1日合計20分立つ時間を作れば立つ能力は保たれ、寝たきりを防げるとジネストは提唱しています。

20分の起立状態は、トイレや食堂への歩行、洗面やシャワーを立って行うなど、ケアの際に少しずつ立つ時間を増やすことで実現可能です。立つこと自体が「人間らしさ」の表出でもあり、本人の自信と安心にもつながります。

「立つ」シーンを増やせるケアの例
  • トイレへの誘導時に立って歩く時間を増やす
  • 食事の際に立ってテーブルまで移動する
  • 洗面やシャワーを立って行う

ユマニチュードを実践する「5つのステップ」

ユマニチュードを実践するには、5つのステップを踏むことが大切です。技法だけでなく、その根底にある思想を理解するためにも、詳しく見ていきましょう。

出会いの準備

出会いの準備は、自分が訪れたことを告げ、相手の領域に入る許可を得る段階です。たとえば、部屋に入る際には、ノック後の反応をきちんと待ってから入ります。

認知症の人は、物事の理解や判断に時間を要するため、時間がかかるでしょう。だからといって相手の意思をないがしろにすると、傷ついた感情が強く記憶されることがあります。きちんと反応を待ち、相手のペースに合わせることが大切です。

ケアの準備

ケアの準備とは、相手のケアを行うことについての合意を得る段階です。ユマニチュードでは、ケアを実際に行う前に、コミュニケーションをとることを大切にします。

たとえば、会っていきなりケアに入るのではなく、まずは会えてうれしい気持ちを伝えます。そしてケアの前に、ユマニチュードの4つの柱を用いて、よい関係を築きながらケアに移行できるように合意を得ます。合意を得られなければ無理なケアは行いません。

知覚の連結

知覚の連結とは、ケアそれ自体を指す段階です。ケアの最中は、ユマニチュードの4つの柱のうち、常に「見る」「話す」「触れる」のうちの2つを行うことが重要とされています。ケアの際には、相手の五感に伝える情報が矛盾しないようにしましょう。

たとえば、笑顔なのに口調がきつい、口調が穏やかなのに腕をつかむ力が強いなど、矛盾した接し方は相手を混乱させ、ケアに対する信頼を失いかねません。常に一貫した態度で接することが求められます。

感情の固定

感情の固定とは、ケアを行ったあと、よい時間を共有できたことを振り返る段階です。ケアなどで共有した時間がよいものであったことを言葉で表現し、ケアを行う人に対する信頼感・安心感を持ってもらいます。

認知症の人は、情報を単純に記憶しておくことは難しいですが、感情を記憶することは得意です。たとえば、「今日のお風呂気持ちよかったですね」「〇〇のお話がとても楽しかったです」「〇〇ができていてすごかったですね」などと声を掛け、ケア自体にポジティブな感情を残してもらいましょう。

再会の約束

再会の約束とは、次のケアを受け入れてもらうための準備段階です。なるべく具体的に、次回の再会の約束を話しましょう。

認知機能が低下していても、楽しい時間を共有した記憶や感情は残りやすいものです。ポジティブな感情を残すことで、次回の訪問やケアをスムーズに進められます。また、訪問予定を記したメモなどを目につく場所に置いておくことも有効です。

ユマニチュードを実践する「5つのステップ」イメージ

ユマニチュードによる効果

ユマニチュードにはケアの受ける人だけでなく、ケアを行う人にもよい効果をもたらします。どのような効果があるか見ていきましょう。

ケアを受ける人に現れる効果

ユマニチュードは、ケアを受ける人の意思や尊厳を尊重し、心に寄り添うケア方法です。そのため、精神的な安定が改善され、攻撃性が落ち着くことが期待できるでしょう。

また、感情面が影響しやすい認知症の周辺症状や、中核症状自体にも効果が現れる可能性があります。さらに、身体機能の維持にも寄与し、総合的な生活の質の向上が期待されます。

認知症の周辺症状について詳しくはこちら

期待できる効果の例
  • 攻撃性が落ち着く
  • 認知症の各症状の改善
  • 身体機能の維持

ケアを行う人に現れる効果

ユマニチュードは自分でできることはやってもらい、嫌がるケアはしないため、強引なケアを行わずにすみます。そのため、「〇〇しなければ」という強迫観念がなくなり、ゆとりを持ったケアが可能です。

また、相手に対して無理強いをする必要がなくなるため、罪悪感を生むシチュエーションも減らせるでしょう。結果として、介護がうまくいかないことへの精神的な負担が減り、理想的に接せられなかったことへの罪悪感も軽減されます。

期待できる効果の例
  • 介護がうまくいかないことへの精神的な負担が減る
  • 相手に理想的に接せられなかったことへの罪悪感が減る

ユマニチュード実践時の3つの注意点

ユマニチュードは認知症の方に寄り添ったケアの技法ですが、注意点を守らないと逆効果になってしまう可能性があります。実際前に押さえておきましょう。

時間的な余裕を確保して実践する 精神的な余裕をもって実践する 強制をしない

時間的な余裕を確保して実践する

ユマニチュードは、ケアを行うにあたって5つのステップを丁寧に行うことが効果的なため、時間のゆとりが必要です。時間がないと焦って対応しなければならなくなり、結果的にケアの態度にムラが出てしまったり、相手の反応を待つ余裕がなくなったりしてしまいます。時間の余裕がなくても短時間でできる方法でステップを踏み、焦らずに対応することが重要です。

精神的な余裕をもって実践する

ユマニチュードは、相手の尊厳を守るケア方法であるため、ケアを行う側に精神的な余裕が必要です。精神的余裕がないと、ユマニチュードの4つの柱に影響が出やすくなります。また、ケアの際の応対の雰囲気は、ケアされる側に簡単に伝わってしまうので注意が必要です。精神的な余裕がないと気づいたら、深呼吸や短い休憩を取り入れてみましょう。

強制をしない

本人の意思を尊重した上で行い、強制しないことが重要です。ユマニチュードは、寝たきりを防止し、機能維持のために「立つ」時間を設けることを目標としています。しかし、嫌がることを強制してしまうと、ユマニチュードの基本概念が崩れ、ケアに対するポジティブな感情を維持することが難しくなるでしょう。本人が嫌がる場合は、身体機能を維持する他の方法を検討してください。

ユマニチュードに対する批判と課題

ユマニチュードに対しては肯定的な意見が多い一方で、介護や医療現場からは批判も寄せられています。主な批判としては、「すでに現場で行われている」という意見や、「十分に実践できるほどの余裕がない」という意見があります。

ユマニチュードは技法に注目されがちですが、その根底にある考え方を理解することも重要です。課題を解決するために、効率よく効果的に実践するための研究が求められています。

  • 習得するのに最低でも数カ月が必要
  • すでにやっている/実践するほどの余裕がない
  • 効果を実感するのが難しい

マニチュードに関するよくある質問

ここでは、ユマニチュードに関してよくある質問に回答しています。認知症の方のケアに携わっている方はチェックしておきましょう。

Qユマニチュードはほかのケア方法と何が違いますか?

ユマニチュードは、患者や介護者の人間らしさを尊重し、人としての尊厳を保つことを重視しているのが特徴です。また、良好な関係を築くことを目的とし、感情面や精神面のケアにも重点を置いています。これにより、ケアの質が向上し、患者の生活の質も向上するでしょう。

Qユマニチュードのケアについて詳しく学ぶ方法はありますか?

ユマニチュードのケアについて詳しく学ぶには、日本ユマニチュード学会が提供するオンライン講座や研修プログラムを受講するのが効果的です。また、関連書籍や専門家の講演も参考になります。さらに、実際の現場での実践や、経験者との交流ができれば深く理解できるでしょう。

ユマニチュードでよりよい関係の構築を

認知症の方へのケアは、時に難しさを感じることもあるかもしれません。しかし、ユマニチュードの理念と技術を理解し、実践することで、認知症の方とのよりよい関係を築き、その人らしい生活をサポートできるはずです。ぜひ、この記事を参考に、ユマニチュードを学んでみてください。

認知症は、まだわかっていないこと多い疾患ですが、研究は日進月歩で進んでいます。もしかしたら、あなたの大切な人の笑顔を取り戻す鍵が、最新の研究成果の中に見つかるかもしれません。介護をされている方、そして将来への不安を抱えている方は、ぜひ最新の研究内容をご覧ください。

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