04認知症コラム
言語障害とは?種類やリハビリの内容、
認知症との関係性を解説
2024.08.23
言語障害とは、言葉の理解や表現が困難な状態のことです。脳梗塞などの病気やストレスなど、さまざまな原因によって引き起こされます。大人はもちろん子どもが発症することも少なくありません。この記事では、言語障害の種類や認知症との関係性、リハビリの内容など詳しく解説します。
言語障害とは?
言語障害は、「うまく発音できない」「言葉が出てこない」など、言語の使用に困難を伴う状態です。大きく「構音障害」と「失語症」に分けられ、認知症や脳損傷、難聴、発達障害など、原因は多岐にわたります。
言語障害があると、日常生活でのコミュニケーションが円滑に進まず、本人が会話に引け目を感じてしまうことも少なくありません。そのため、周囲の理解とサポートが、本人にとって大きな支えとなるでしょう。
構音障害
構音障害とは、唇や舌、喉などの発声発語器官に異常が生じることで、うまく発声や発音ができない状態を指します。「ろれつが回らない」「声が出ない」「はっきりと発音できない」といった症状を示すのが特徴です。
発する言葉の内容や言葉の理解は正常に行えるので、読み書きには問題ありません。構音障害はさらに、「運動性構音障害」「機能性構音障害」「器質性構音障害」の3つに分類されます。
- 症状
- ・声が出ない ・はっきりと発音できない ・特定の音(バ行・パ行)が発音できない ・ろれつが回らない ・舌がもつれる
失語症
失語症とは、脳の言語領域の損傷により言葉の理解や発話が困難になる状態を指します。「話す」だけでなく、「読む」「書く」「聞く」に障害が出る場合もあるでしょう。損傷された部位の違いにより、障害の程度や障害の重複に差が出ます。
失語症は、主に言葉を出せなくなる「運動性失語」や言葉を理解できなくなる「感覚性失語」などに分類されます。
- 症状
- ・言葉が出てこない ・適切な言葉選びができない ・言い間違いが多い ・文字が読めない ・文字は読めるが内容を理解できない ・文字がかけない ・声は聞こえるが、話の内容を理解できない
言語障害の原因
言語障害の原因はさまざまです。たとえば、脳卒中、脳腫瘍、外傷性脳損傷といった脳の損傷のほか、パーキンソン病などの神経変性疾患が挙げられます。ほかにも、精神疾患や発達障害、難聴などが原因となる場合もあります。
なかでも、高齢者の言語障害の原因として多いのは、脳卒中や認知症です。いずれも脳にダメージを与えるため、言語障害以外の症状も発症する可能性があります。
もし言語障害の症状が急に現れた場合は、脳血管障害を起こしている可能性があるため、早急に医療機関を受診しましょう。
- 構音障害で考えられる原因
- ・パーキンソン病 ・筋萎縮性側索硬化症 ・進行性筋ジストロフィ
- 失語症で考えられる原因
- ・脳卒中 ・脳腫瘍 ・脳損傷
言語障害の種類
一口に言語障害と言っても、損傷した脳の箇所によって「言語機能障害」と「音声機能障害」に大別されます。それぞれどのような症状があるか、詳しくみていきましょう。
感覚性失語(ウェルニッケ失語)
感覚性失語(ウェルニッケ失語)は、話された言葉や書かれた言葉の意味を理解することが困難になる失語です。言語理解の役割を担うウェルニッケ野に損傷が生じることで障害が起こります。
滑らかに話せるが、言い間違いや錯誤が多くみられるようになるのが特徴です。自分が失語症であることに気づいていないケースも多く、多弁になる傾向があります。
運動性失語(ブローカ失語)
運動性失語(ブローカ失語)は、話されている言葉は理解できるものの、自分の話したいことを言葉にすることが困難になる失語症です。滑らかに話すことが難しく、ぎこちない話し方になったり、言葉がなかなか出てこなかったりします。
また、ひどい場合は復唱(聞いた言葉をそのまま繰り返すこと)も困難になるでしょう。
機能性構音障害
機能性構音障害は、口や舌の使い方に問題があり、特定の音が正しく発音できない障害です。たとえば、「さしすせそ」が「たちつてと」に聞こえたり、「かきくけこ」が「たきくけこ」に聞こえたりします。しかし、発語・発声器官や聴覚には問題はありません。
機能性構音障害は、主に幼児期に発症し、成長とともに自然に治癒するでしょう。
運動性構音障害
運動性構音障害は、発語・発声器官の麻痺や機能の低下により、うまく発音や発声ができない障害です。口や舌の動きをコントロールできず、不明瞭な発音になってしまいます。
脳卒中、脳腫瘍、外傷性脳損傷などの脳の損傷が原因で起こることが多いですが、先天性の原因の場合もあるでしょう。
器質性構音障害
器質性構音障害は、口蓋や舌などの発音に必要な器官の欠損や形の変化により、発音が正確にできず発話が不明瞭になる状態です。たとえば、口蓋裂や舌小帯短縮症などの先天的なものや、舌癌の切除手術後などによって起こることがあります。
原因となる器官の手術や、人工口蓋などの補綴物(ほてつぶつ)の装着、言語聴覚士による発音訓練などで治療を行います。
発達性言語障害(DLD:Developmental Language Disorder)
発達性言語障害(DLD)とは、自閉症や知的障害といった特定の原因がないにもかかわらず、言語発達のみが遅れている状態を指します。非言語的コミュニケーションや運動発達には問題のない点が特徴です。
発達性言語障害には「表出性言語障害」と「受容性言語障害の」2つの種類があります。表出性言語障害は、言葉を発したり、文章を組み立てたりすることが難しい状態です。受容性言語障害は、相手の言葉を理解することが難しい状態を指します。
吃音
吃音は、言葉が出ずに間が空いてしまう、同じ音を繰り返す、言葉を引き伸ばすなどの症状がみられる話し方の障害です。ほとんどが幼児期から児童期に現れ、成長とともに消失したり症状が軽くなったりしますが、まれに青年期や大人になっても残る場合もあります。
その多くが体質的(遺伝的)要因だとされていますが、脳の損傷などの要因や、心的要因で発症するケースもあるようです。
痙攣性発声障害
痙攣性発声障害は、声帯をコントロールする筋肉が不意に収縮することで発声に異常が生じる障害です。発声そのものが困難になる場合や、ふるえ、かすれ、甲高くなるなどの症状がみられます。
原因は不明ですが、脳の機能異常が関係していると考えられています。とくに、30~50代の女性に多くみられる障害です。
早口言語症
早口言語症は、発話のスピードが速く不規則で、言葉の繰り返しや言い直しなどにより発話が不明瞭になる状態を指します。吃音と似た症状がみられるため誤診も多く、正確な診断には専門家の判断が必要です。
似た症状として、言葉がまとまらず不明瞭になる乱雑言語症や、単に話すスピードが速いだけの速話症などが挙げられます。
認知症による言語障害
言語障害は、認知症の中核症状の一つでもあります。認知症による言語障害で最も多くみられるのは失語症で、言葉の理解や表出が困難になります。認知症が原因の場合、完治は難しいですが、リハビリテーションによって症状の改善や進行を遅らせることは可能です。
発症後2週間以内であれば目に見える改善が期待できるため、早期発見と早期リハビリテーションが欠かせません。
子どもの言語障害
子どもの言語障害は、発音が不明瞭な構音障害や吃音、言語発達のみが遅れる発達性言語障害、全体的に言葉の発達が遅い言語発達遅滞など、さまざまな種類があります。吃音などの場合、心理的緊張が症状を悪化させる場合があるので、温かく見守りましょう。
子どもとのコミュニケーションにおいてうまく話を汲み取れない場合は、イラストや写真を用いて子どもに指し示してもらったり、文字に書き起こして内容を一緒に確認したりするなどで工夫できます。子どもの会話への意欲を削がないように気を配ることも大切です。
言語障害の治療とリハビリテーション
言語障害がみられたら、適切に対処する必要があります。言語能力の維持・向上のためにも、どのように治療・リハビリテーションが行われるのかをみていきましょう。
認知症による言語障害のリハビリテーション
認知症が原因の言語障害は、残念ながら完治することはできません。しかし、リハビリテーションを行うことである程度の改善が期待できるでしょう。リハビリテーションは言語聴覚士のもとで行われます。失語症や構音障害など、それぞれの症状に合わせたアプローチが必要です。
急性期のリハビリテーション
急性期のリハビリテーションでは、コミュニケーションを取ることが優先されます。この段階では、正しい文章の組み立て方や複雑な内容の理解よりも、患者さんが安心してリハビリに取り組める環境を作ることが重要です。
口の動きの練習や、挨拶などの簡単な声掛けを通して、患者さんの発話意欲を高め、コミュニケーション能力の維持・向上を目指します。
回復期のリハビリテーション
回復期のリハビリテーションでは、「聞く・読む・書く・話す」という4つの言語機能を中心に、症状や個別性に応じたプログラムが組まれます。この段階でのリハビリテーションでは、言語聴覚士を中心に行われるでしょう。
とはいえ、家族や友人など周りの人のサポートも重要です。本人の意欲を高め、リハビリテーションの効果を高めるために、積極的にコミュニケーションを取ることも欠かせません。
- 例:回復期のリハビリテーション
-
- 聞く: 短い文章を読み上げ、その内容について質問する
- 読む: 短い文章を読んでもらい、その内容について質問する
- 書く: 今日のできごとを日記に書いてもらう
- 話す: 絵の描かれたカードを見て、描かれてある物の名称を言ってもらう
家でできるリハビリテーション
リハビリテーションは専門機関で行われますが、家でも行うことが可能です。ここでは、家でできるリハビリテーションを解説します。
会話できる機会を増やそう
家でのリハビリテーションにおいて、会話の機会を増やすことが重要です。「理解してもらえない」という不安や言葉が出てこない焦りから、会話への意欲が低下してしまうことがあります。そのため、できるだけ静かで聞き取りやすい環境で、本人のペースに合わせてゆっくり話を聞いてあげましょう。
本人が言葉を発そうとしている時は、焦らずじっくり待ち、普段通りの言葉遣いで話しかけることが大切です。質問する際は、「はい/いいえ」で答えられるような形にするのもよいでしょう。
挨拶をするようにしよう
家の中で時間に合わせて「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」と挨拶をするようにしましょう。自分から言葉を出せない状況でも、相手の挨拶を真似することは可能です。
挨拶は単なる言葉のやり取りだけでなく、時間帯の認識を促し、生活リズムを整える効果もあります。とくに、時間や場所がわからなくなる見当識障害の改善に効果的です。
日記や手帳を活用しよう
毎日のできごとを日記に書いたり、手帳に今日のスケジュールを書いたりすることも、言語障害の重要なリハビリテーションの一つです。文字を書くのが難しい場合は模写から始めて、徐々に自分の名前や出来事を書けるように練習しましょう。長い文章を書く必要はありません。
日記や手帳をつけることは、日付や時間の経過を意識することにもつながります。
外出しよう
地域の集まりへの参加や近所への散歩など、外出の機会を増やすようにしましょう。言語障害により会話に恐怖心を抱くと、外出や人との交流が減ってしまうことがあります。しかし、認知症の改善には人との交流が欠かせません。
無理に連れ出すことは避け、散歩などの気軽な外出から始め、本人のペースに合わせて外出の機会を増やしていきましょう。
言語障害をもつ方との
コミュニケーションのポイント
言語障害をもつ方とのコミュニケーションでは、焦らずじっくり時間をかけて行うことが大切です。しかし、子どもを相手にするような言葉遣いは本人の自尊心を傷つける可能性があるので注意しましょう。
また、良かれと思って相手の答えを先回りして言ったり、次々に選択肢を挙げたりするのではなく、相手が自分の言葉で伝えるのを待つことが大切です。
ジェスチャーを使ったり、イラストや写真を見せて選択してもらったするなど、非言語的コミュニケーションも積極的に活用するのもよいでしょう。
- コミュニケーションのポイント
-
- ゆっくり会話をする
- 言葉遣いを変えない
- 急かすような言葉の先回りをしない
- ジェスチャーやイラストなどを活用する
言語障害に関するよくある質問
ここでは、言語障害に関してよく寄せられる質問に回答します。言語障害についての知識を身に着け、理解を深めましょう。
言語障害にはどんな種類がありますか? 脳梗塞の後遺症で言語障害になることはありますか? 聴覚障害と言語障害を併発することはありますか?
Q言語障害にはどんな種類がありますか?
言語障害には、言葉がうまく話せない吃音や構音障害、言葉の理解が難しい言語発達遅滞、脳の損傷による失語症など、さまざまな種類があります。原因や症状によって適切な対応が異なるため、専門家の診断が必要です。
Q脳梗塞の後遺症で言語障害になることはありますか?
あります。脳梗塞の後遺症として言語障害が現れることは少なくありません。脳の言語中枢が損傷を受けると、言葉の理解や発話が困難になる失語症や、発音しにくくなる構音障害などが起こることがあります。
Q聴覚障害と言語障害を併発することはありますか?
あります。聴覚障害が重度の場合、言語習得に影響が出て言語障害を併発するケースも少なくありません。また、脳の同じ領域が聴覚と言語に関わっているため、脳損傷などによって両方の障害が同時に起こることも考えられます。
言語障害には適切なコミュニケーションを
聴覚障害と言語障害を併発している方とのコミュニケーションは、工夫と忍耐が必要です。しかし、今回ご紹介した家庭でできるリハビリテーションを実践することで、言葉の壁を乗り越え、心を通わせるコミュニケーションを実現できる可能性があります。
大切なのは、焦らずゆっくりと、本人のペースに合わせてコミュニケーションを重ねることです。諦めずに根気強くリハビリテーションに取り組むことで、言葉の力は必ず育まれていくでしょう。
認知症による言語障害の場合は治療法がまだ見つかっていないため、進行を抑えることが大切です。現在、さまざまな機関で認知機能の維持・回復に有効な方法が研究されています。最新研究について下記よりご覧ください。
認知症機能障害の改善に関する最新研究について詳しくはこちら