04認知症コラム
認知症の人にやってはいけない11のこと
―接し方のポイントや症状別の対応法を解説―
2024.09.24
認知症の人に接する際に、やってはいけないことがあるのをご存じでしょうか。もし、やってはいけないことを続けていると、症状の悪化を招きかねないため注意が必要です。この記事では、やってはいけない11のことや、認知症が疑われた場合の対応などを解説します。身の回りに認知症の人がいる方は、適切なケアのためにも最後までご覧ください。
認知症の人とのコミュニケーションの難しさ
認知症の人とのコミュニケーションは難しく、認知症による言動の変化は支える人にとっても大きな負担となるでしょう。
認知症は、記憶力、理解力、判断力、言語能力などの認知機能が低下することで、日常的な会話や情報処理が難しくなります。また、感情のコントロールが難しくなり、予期せぬ反応を示すことも少なくありません。
認知機能の低下は本人にとっても恐ろしい経験であり、焦りや恥ずかしさを抱くこともあります。そのため、認知症の人と接する際は、本人の気持ちに寄り添うことが大切です。
認知症の人にやってはいけない11のこと
認知症の方と接する際に、気をつけなければならない言動がいくつかあります。いずれも、本人の意思を尊重し、一人の人間として接することが大切です。
1大声で𠮟る 2失敗を責める 3間違いを細かく指摘する 4役割を取り上げる 5子ども扱いする 6命令する 7行動を急かす 8行動を制限する 9生活環境を急に変える 10家に閉じ込める 11過度に励ます
1大声で𠮟る
認知症の人を大声で叱ることは避けてください。認知症患者は叱られても「なぜ叱られたのか」が理解できないため、ただ怖かった体験として記憶されてしまいます。そのため、患者の不安や混乱が増すことがあるでしょう。大きな声を出したくなったら、一度その場を離れるなどして落ち着くことが大切です。
2失敗を責める
認知症の人が失敗しても責めないようにしましょう。認知症になると誤った行動や失敗が増えますが、本人にとっては理由があり、正しい行動をしているつもりです。失敗を責められると、恥ずかしさから日常的な行動に対して消極的になってしまう可能性があります。理解と共感をもって接しましょう。
3間違いを細かく指摘する
認知症の人に間違いを細かく指摘しないよう注意が必要です。話の内容に言葉や記憶の誤りがあっても、一度受け止めるようにしましょう。本人は事実だと思って話しているため、間違いを細かく指摘するとパニックを招く恐れがあります。指摘する際は、さりげなく伝えるのがポイントです。
4役割を取り上げる
認知症の人から役割を取り上げることは避けましょう。「できない」と決めつけて役割を取り上げてしまうと、うつ状態を招きかねません。可能なかぎり、家事などの役割は続けてもらうことが大切です。家事や趣味などに取り組む中で得られる成功体験は、本人の自信にもつながります。
5子ども扱いする
認知症の人を子ども扱いすることは、やってはいけない行動の一つです。子ども扱いは認知症の人の自尊心を傷つけることがあります。認知症になることで子ども返りをする場合もありますが、周囲でサポートする人は、一人の大人として敬意をもって接することが大切です。
6命令する
命令口調で行動などを指示する行為は、高圧的で相手にストレスを与える可能性があるため避けてください。命令口調で強く言っても、認知症患者の行動を思い通りには変えられません。恐怖心から余計に混乱を招く可能性もあります。穏やかで優しい口調で話しかけましょう。
7行動を急かす
認知症の人は認知機能の低下により行動や判断が遅くなりますが、急かさないよう気をつけましょう。サポートする側はイライラする場面も多々あるかもしれませんが、急かしても本人を焦らせるだけで行動は早まりません。焦ってパニックになる可能性もあります。穏やかに見守り、ゆっくりとしたペースで接することが大切です。
8行動を制限する
認知症の人の行動を制限することは避けるべきです。行動を制限されると脳への刺激が弱まり、認知症が悪化する恐れがあります。周囲でサポートしながら、今できていることは可能なかぎり継続することが大切です。ただし、車の運転などは安全のために制限が必要な場合もあります。
9生活環境を急に変える
介護者の都合で、急に生活環境や習慣を変えないようにしましょう。環境や習慣が急激に変化してしまうと、認知症の人が戸惑い、混乱を招く可能性があります。施設への入居などで変化が避けられない場合は、これまでと同じヘルパーに継続して来てもらうなど、人間関係を維持することが大切です。
10家に閉じ込める
徘徊などを心配して、認知症の人を家や部屋の中に閉じ込めてはなりません。閉じ込めると、外部との接触が減り、脳への刺激も減少して認知症が悪化する可能性があります。また、二度と閉じ込められないように、より遠くへ徘徊してしまうかもしれません。適切な見守りと安全対策を講じることが重要です。
11過度に励ます
過度な励ましは本人へのプレッシャーとなる可能性があるので避けましょう。励ましによって「できていない」現状を突きつけることにもなりかねません。結果として、認知症の人の自信を失わせる可能性があります。できなかったことを励ますのではなく、できたことを褒めるようにしましょう。
誤った接し方を続けるとどうなる
前述したようなやってはいけないことを一度や二度したことがあるかもしれません。しかし、そのような言動を続けていると、思わぬトラブルを招くでしょう。
介護拒否につながる
誤った接し方は、介護拒否につながる可能性があるでしょう。認知症の人の場合、物事の経緯を理解できないことが多いため、叱ったり責めたりすると介護者に対して嫌なイメージだけが残ります。
結果として、マイナスな感情を抱き、信頼関係が崩れて介護拒否を招きかねません。適切な接し方を心がけることが重要です。
認知症が悪化する場合がある
誤った接し方を続けると、認知症が悪化する場合があります。たとえば、行動を制限することは脳への刺激の減少につながります。また、叱られたり責められたりすることで、自信がなくなり、あらゆる行動に消極的になることもあるでしょう。
外部との接触や行動への積極性が減少することで、認知症の悪化を招く可能性が高まります。本人の意思を尊重し、消極的にならないよう接しましょう。
認知症の人と接するときに注意すべき3つのポイント
認知症の人と接する際、どのような点に注意するとよいのでしょうか。ポイントを押さえて、普段のコミュニケーションに活かしましょう。
自尊心を傷つけない
認知症の人と接するときは、自尊心を傷つけないように注意しましょう。認知機能が低下しても感情は残ります。子ども扱いや「なんでできないの?」といった言動は、相手の自尊心を傷つけ、自信を喪失させます。
できないことより「できたこと」に目を向け、相手の自尊心を高めることを心がけましょう。認知症の人との間に安心感と信頼感を築けます。
驚かせない
認知症患者を驚かせるような行動は、パニック状態を引き起こしかねないため注意が必要です。急に大きな声を出したり、後ろから突然触ったりする行為は避けるべきです。
認知症の発症により視野が狭まるケースもあるため、話しかける際は本人の正面に回り、ゆっくりと話しかけることが大切です。安心感を与えられるでしょう。
急かさない
認知症の人と接する際は、前述の通り急かさないことが重要です。急かすと、混乱したり不安を感じたりする可能性があります。
食事、着替え、会話など、あらゆる場面で本人のペースを尊重し、ゆっくりと時間をかけて接しましょう。常に相手のペースを尊重し、急かさずに接することで、認知症の人の安心感と自尊心を守れます。
家族が認知症かも?と思ったらやるべきこと
身の回りの方に認知症の兆候が見られた場合は、落ち着いて対応する必要があります。ここでは、家族に認知症が疑われたときにすることを解説します。
医療機関を受診する 認知症について理解する 利用できるサービスを調べる 生活面のサポート体制を整える 金銭・資産管理の方法を検討する
医療機関を受診する
家族に認知症の疑いがある場合、早めに医療機関を受診することが重要です。少しでも言動に異変が見られたら、かかりつけ医や認知症専門の医療機関に相談しましょう。認知症は治療が難しい疾患ですが、軽度認知症であれば治る可能性があります。
専門医療機関では、より詳しい検査や診察を受けられます。まずは安心して相談できるかかりつけ医に相談し、必要に応じて専門医療機関も調べておくとよいでしょう。
認知症について理解する
認知症に伴う症状などについて、調べて理解しておくとよいでしょう。とくに認知症の中核症状と周辺症状について理解することで、患者の言動の理由を知ることが可能です。サポートする側の精神的負担を減らすきっかけにもなります。
インターネットなどを活用して、できる範囲で調べてみましょう。下記のリンクより認知症について詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
利用できるサービスを調べる
利用できる介護サービスや行政のサポートを調べておくことが大切です。介護サービスを上手く利用することで、介護者の負担を大きく減らせます。まだ患者本人との意思疎通が可能な場合は、希望や方針などを相談しましょう。
さらに、地域包括支援センターや認知症サポートセンターなどの専門機関に相談することもおすすめです。認知症に関する情報提供や相談、支援サービスの紹介などが受けられます。
生活面のサポート体制を整える
認知症の人の進行度合いに応じて、生活環境を整えましょう。本人が大切にしているものやいつも使うものは目に届く範囲に置いておくと安心です。刃物やライターなど危険物は回収し、物の置き場やトイレの場所は貼り紙などに書いて、わかりやすくしておきましょう。
ただし、環境の変化はストレスとなりかねないため、静かで落ち着いた環境を少しずつ整えることも大切です。
金銭・資産管理の方法を検討する
本人と意思疎通ができる間に、金銭や資産管理における方法や方針などを決めておきましょう。認知症を発症すると、名義人の財産保護のため資産凍結が行われる場合があります。介護費用にも関わるため、早めに本人の意思確認をしておくことが重要です。
ほかにも、下記の物を確認しておくとよいでしょう。また、成年後見制度や家族信託などの法的手続きを検討することも有効です。
確認しておこう
預金口座 不動産 保険契約 有価証券
など
認知症の症状別の対応法
妄想
妄想が見られる場合でも、一度否定せずに聞いてあげることが大切です。聞いてもらえることで、不安が解消され落ち着く場合もあります。物盗られ妄想などが酷い場合は、ケアマネージャーや医師に相談しましょう。また、妄想が頻繁に起こる場合は、環境の見直しやストレスの軽減を図ることも有効です。
弄便
弄便は介護者にとってショックが大きい症状ですが、本人を叱らず落ち着いて対応することが大切です。排便リズムを把握することでトイレへ誘導しやすくなったり、おむつをこまめに変えたりすることで改善される場合もあります。
また、弄便の原因として、便秘や不快感が考えられるため、食事や水分摂取の見直しも有効です。専門家に相談し、適切な対策を講じましょう。
暴力
暴力が見られる場合は、まず患者から一旦離れることも選択できます。介護者だけで抱え込まず、医師やケアマネージャーに相談しましょう。投薬などによって落ち着く可能性や、介護者が一旦患者から離れる機会を提供してもらえる場合もあります。
また、暴力の原因を探り、環境の見直しやストレスの軽減を図ることも有効です。家族や介護者も適切なサポートを受けられれば、対応しやすくなるでしょう。
徘徊
徘徊が見られる場合、心当たりのある場所を探すだけでなく、警察に連絡しましょう。また、ケアマネージャーや地域包括支援センターにも連絡する必要があります。事前の対策として、家から出たことがわかるようセンサーを設置したり、靴やポケットにGPSを付けたりしておく方法も有効です。
さらに、徘徊の原因を探り、環境の見直しや日常生活の工夫も検討しましょう。たとえば、日中の活動量を増やすことで夜間の徘徊を減らせる場合もあります。
介護者が余裕をもつことも大切
認知症の人に対して適切な接し方をするためにも、介護者自身の心のゆとりも大切です。ついつい余裕がなくなりイライラしてしまうこともあるでしょう。しかし、認知症の人がその雰囲気を察知してストレスを感じることもあります。
デイサービスなどを利用し、介護者自身の時間をもつなどリフレッシュの時間が必要です。介護への疲れやイライラが増えたと感じたら、地域包括支援センターやケアマネージャーなどに遠慮なく相談してみましょう。
認知症の人にやってはいけないことに関してよくある質問
認知症の人に接しているなかで、「この場合はどうすればよい?」と悩むシーンに出くわすこともあるでしょう。ここでは、認知症の人と接するにあたってよくある質問に回答しています。
Q電話がひっきりなしにかかってくるときは
どうすればよいですか?
電話が繋がる日時を制限するのがおすすめです。電話がかかってくるのは、認知症からくる不安感や記憶障害が原因だと考えられます。全く電話が繋がらないと不安感を強めることもあるでしょう。本人の目の届く範囲に電話を繋ぐ時間を記載し、その時間になったら電話してあげると安心させられます。
Q病院に行くのを拒否したときは
どのように対応しますか?
まずは無理に説得せず、本人の言い分を受け止めましょう。無理に連れて行く、嘘をついて連れて行くと、かえって拒否されることになりかねません。説得する場合は、本人がおかしいからではなく、「家族のために受診してほしい」などのように伝えましょう。それでも拒否する場合は、専門機関に相談してください。
Q物盗られ妄想にはどのように
対応すべきですか?
物盗られ妄想には、まず否定せずに話を聞きましょう。「それは大変ですね」と共感し、一緒に探す姿勢を見せることが大切です。安心させられる言葉を選び、落ち着いた態度で対応してください。酷い場合は、ケアマネージャーや医師に相談しましょう。
認知症の人との接し方に悩んだら相談を
認知症の方と接する上で大切なのは、相手を尊重し、共感を持って接することです。接し方によって症状を抑えられることもあるでしょう。困ったときや悩んだときは、一人で抱え込まずに、専門機関や相談窓口に相談してください。地域包括支援センター、認知症医療センターをはじめさまざまな支援体制があります。
認知症は未だ克服すべき課題の多い疾患ではありますが、その治療と予防に向けた研究は着実に進展しています。最新の研究成果の中に、認知症の予防・改善につながるヒントが見つかるかもしれません。下記よりぜひご覧ください。