04認知症コラム

認知症マフとは―活用の注意点や
作成時のポイントについても解説―

2024.09.24

認知症マフとは―活用の注意点や作成時のポイントについても解説―イメージ

認知症マフとは、認知症の方の不安や落ち着きのなさを軽減するための、柔らかくカラフルな筒状のニット製品です。身体拘束具を解除にもつながり、注目を集めています。この記事では、認知症マフの効果や活用時のポイント、注意点などを解説します。きっと認知症の方を介護する際のヒントとなるでしょう。

認知症マフとは

認知症マフとは、認知症の人の落ち着かない手を穏やかに温かく保つためのニット製品を指します。筒状で両端から手を入れられるデザインで、柔らかくカラフルな本体が特徴です。筒の中には、握って安心できるようなアクセサリーを固定させられます。

認知症の方は自分に起きている変化に不安を感じ、近くにあるものを握ったり触ったりして落ち着かせようとする傾向があります。そのため認知症マフは、触覚や視覚の面でケアの助けになるでしょう。

パーソンセンタードケアとはイメージ

認知症マフの起源

認知症マフの起源は、中世イギリスやフランスで貴族が使用していた防寒具「マフ」にあります。手袋と比較して筒状のデザインのため、筒の中で手が自由に動かせるのが特徴です。

この特性を活かし、筒の中で手を自由に動かしアクセサリーを握り触れることから「Twiddle Muff」として認知症患者の不安を和らげるものになりました。2018年ごろから日本で「認知症マフ」として普及が進んでいます。

認知症マフに期待される効果

認知症マフの効果は先述した通り、不安感や落ち着きのなさを軽減できる可能性があります。それ以外にも期待できる効果がいくつかあるので、詳しく解説します。

ストレス軽減の助けになる

認知症マフは、手触りや手に馴染みやすいアクセサリーによってストレス軽減の助けになります。認知症患者は自分に起きている変化に不安を感じやすく、記憶が失われる一方で感情が強く残りやすいです。落ち着ける素材のマフによって、不安や恐怖などの強い感情を軽減できる可能性があります。

介助の助けになる場合がある

認知症の方の意識や、手でいじる対象がマフに落ち着くことで、介助がスムーズになる場合があります。認知症の方の行動が治療や身体に差し障るレベルに達すると、やむを得ずミトンなどで身体拘束を行う場合もあるでしょう。しかし、マフを使用すれば拘束することなく、点滴やおむつを勝手に外してしまう行動を抑えられるケースがあります。

認知機能の支援にもなりえる

認知症マフは、触覚や視覚への刺激を通じて認知機能の支援にもつながります。マフの中のアクセサリーを握ったり、自分の趣味や職業に関連したデザインを見たりすることで、過去を思い出すきっかけになることもあるでしょう。また、これらの刺激が脳の活性化を促し、認知機能の維持や改善に寄与する可能性もあります。

パーソンセンタードケアの理念にもつながる

パーソンセンタードケアの理念に基づき、認知症患者のニーズを満たす助けにもなるでしょう。パーソンセンタードケアとは、患者や利用者一人ひとりの個性やニーズに焦点を当てた医療およびケアのアプローチのことです。認知症マフの使用によって、パーソンセンタードケアで提唱している「5つの心理的ニーズ」を満たせる可能性があります。

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認知症マフ活用の判断基準

認知症マフには嬉しい効果が期待できますが、すべての人に対して大きな効果をもたらすわけではありません。ここでは、認知症マフの活用における判断基準を解説します。

認知症マフを活用できる人の基準 認知症マフの活用を開始する基準 認知症マフの活用を中止する基準

認知症マフ活用の判断基準イメージ

認知症マフを活用できる人の基準

認知症マフは、触ることによる心地よい刺激を好む人や、視力の低下などで外部からの感覚刺激が少ない人に適しています。また、高次機能障害で掴んだものを離さない、介助のための指示にあわせた動作が困難な人にも有効です。さらに、ミトンによる身体拘束を使用している人にとっても、認知症マフは代替手段として役立つ可能性があります。

活用できる基準
  • 触ることによる心地よい刺激を好む人
  • 外部からの感覚刺激が少ない人(視力の低下などを含む)
  • 高次機能障害などの行為障害がある人(掴んだものを離さない、介助のための指示にあわせた動作が困難など)
  • ミトンによる身体拘束の使用がある人

認知症マフの活用を開始する基準

認知症マフの活用を開始する際の基準として、落ち着きのない様子があり、本人がその理由を説明できない場合や、点滴チューブを気にして外してしまう場合が挙げられます。また、何かを常に握っている様子が見られる場合や、ミトンによる身体拘束をしている、または検討している場合にも、認知症マフの活用が適しているでしょう。

活用開始の基準
  • 落ち着きのない様子があり、本人が落ち着けない理由を説明できない
  • 点滴チューブを気にする様子がある、外してしまう
  • 何かを常に握っている様子が見られる
  • ミトンによる身体拘束をしている/検討している

認知症マフの活用を中止する基準

認知症マフの使用を中止する基準として、マフを口に入れてしまう異食傾向が見られる場合や、マフの活用でかえって落ち着きがなくなってしまった場合が挙げられます。また、血液などによる汚染が著しい場合も中止を検討しますが、洗濯して使用を継続できるかどうかも考慮しましょう。

使用中止の基準
  • マフを口に入れてしまう、異食傾向がみられる
  • マフの活用でかえって落ち着きがなくなってしまった
  • 血液などによる汚染が著しい(洗濯して使用を継続できるかを検討)

認知症マフ活用時の注意点

認知症マフを活用する場合、いくつか注意したい点があります。しっかり押さえて、快適に認知症マフを活用できるようにしましょう。

点滴部の保護を徹底してから使用する 無理に使用しない 各個人に合わせて配慮したマフを使用する 装飾類はしっかりと本体に
固定する
感染症対策を徹底する

点滴部の保護を徹底してから使用する

点滴をしている人に認知症マフを活用する場合、点滴が外れないように固定が必要です。点滴部の保護を徹底し、マフの使用中に点滴が外れたり、損傷したりしないように注意しましょう。また、アクセサリーなどに引っかからないか、筒の両端にゆとりがあるかを確認することも大切です。

無理に使用しない

認知症マフに興味を示さない、または拒否感がある場合には使用を中止しましょう。無理に使用することでストレスや不安が増し、かえって逆効果になることがあります。本人の意向を尊重し、無理に使用しないことが重要です。本人が言い出せない場合も考慮して、反応をよく観察し、適切な対応を心がけましょう。

各個人に合わせて配慮したマフを使用する

各個人に合わせて配慮したマフを使用することが重要です。たとえば、物を口に入れてしまう動作の多い人には、装飾の少ないマフを選びましょう。また、触り方によって糸がほどけやすい場合は、手触りの良い布製のマフに作り替えることを検討できます。さらに、本人の好みに応じた色やデザインを選ぶことも大切です。

装飾類はしっかりと本体に固定する

装飾が外れてしまうと誤って飲み込む危険もあるため、安全面からも、アクセサリー装飾類の固定はしっかりと行いましょう。また、糸の始末にも気を配り、ほつれを起こさないよう工夫することも大切です。定期的に装飾や糸の状態を確認し、必要に応じて修理や交換を行いましょう。

感染症対策を徹底する

感染症対策を徹底するためには、複数人の間でマフを共有しないことが重要です。また、まめに洗濯を行いましょう。洗濯時には30度以下のぬる湯で10分以内の手洗いを心がけると、変形や縮みを防げます。さらに、マフを使用する前後には手洗いや消毒を行い、清潔を保つことが大切です。

認知症マフの作成の際のポイント

認知症マフは複雑な構造をしていないため、手作りすることも難しくないでしょう。ここでは、認知症マフを作成する際のポイントを解説します。

手触りの好みを把握して作成する 安全なサイズ感、糸の始末などを心がける その人たった一人のためのマフ作りを意識する

手触りの好みを把握して作成する

認知症マフを作成するのであれば、手触りの好みを把握して作成することが大切です。好みの質感にこだわりがあれば、それにあわせましょう。こだわりがなさそうな場合は、アクリルの毛糸を使用すると洗濯がしやすいです。また、使用する素材が肌に優しいかどうかも考慮するとよいでしょう。

安全なサイズ感、糸の始末などを心がける

認知症マフの作成時には、安全なサイズ感と糸の始末に注意しましょう。筒の両端は15㎝程度、横の長さは25~40㎝程度が理想です。サイズ感や糸の種類、装飾によっては外れやすく、ほつれやすい場合があるため、始末は丁寧に行う必要があります。縫い目が極力肌に当たらないように工夫することも大切です。

その人たった一人のためのマフ作りを意識する

その人のためのマフ作りになるよう意識しましょう。マフ作りはコミュニケーションの活性化にもつながります。なるべく本人が興味を示してくれる、その人にあわせたたった一つのマフになるよう心がけることが大切です。作成過程での対話を通じて、相手の好みやニーズをより深く理解することにもつながります。

認知症マフ活用の感想

認知症マフは使う方や介助者の方にもメリットをもたらすだけでなく、マフを作成する人にもポジティブな影響を与えます。それぞれの感想をみていきましょう。

マフを使う認知症の方の様子 介助者の方の声 マフを作成する方の声

マフを使う認知症の方の様子

認知症マフを活用したら、マフを触ったり中の小物で遊んだりすることで落ち着きが増し、不安や興奮が軽減されたという声が聞かれます。また、マフを握ったり小物をつまんだりすることで、手先の機能維持にも役立っているようです。さらに、マフがきっかけとなり、周囲の人とのコミュニケーションが活発になったという事例もあります。

介助者の方の声

認知症マフを通じたコミュニケーションが増え、認知症の方の笑顔が増えたという声が多く見られました。また、コミュニケーションの増加によって意欲が向上し、活動的になったケースもあります。一人での動き出しの減少や、転倒回数の減少にもつながり、ポジティブな効果を感じているそうです。

マフを作成する方の声

身体拘束具からの解放につながり、介護スタッフが興味・関心を持ってくれたのが嬉しいとの声がありました。また、認知症の方が喜んでくれて、人の役に立てて嬉しく思っている方も散見されます。なかには、認知症の方がマフを編むケースもあり、役割があることで居場所ができたという報告もあります。

認知症マフに関するよくある質問

「認知症マフ」の存在を最近知ったという方も少なくないでしょう。ここでは認知症マフに関してよく寄せられる質問に回答しているので、最後までチェックしてみてください。

Q認知症マフはどのように使用しますか?

認知症マフは、認知症の方が手で触ったり、筒の中に手を入れたりして使用します。マフの感触や中についているアクセサリーの効果で、安心感や落ち着きを得られるというメリットがあります。

Q認知症マフに最適なサイズ規格はありますか?

認知症マフの最適なサイズ規格は、筒の両端が15㎝程度、横の長さが25~40㎝程度です。このサイズは安全で、使用者が快適に使用できるよう設計されています。適切なサイズにすることで、手にフィットしやすく、安心感を与えられるでしょう。

認知症マフで日常生活を豊かに

認知症マフは、認知症の方の不安や落ち着きのなさを軽減し、生活の質を向上させる可能性を秘めたツールです。五感を刺激する要素が詰まっているため、認知症の方にとって安心感や喜びをもたらすだけではありません。介護者や家族とのコミュニケーションを促進するきっかけにもなるでしょう。

認知症は一度発症すると治療が難しい疾患です。認知機能を改善できる方法がないか、日々研究が行われています。現在介護している方も、認知症になるのではないかと不安に思っている方も、最新研究からヒントが得られるかもしれません。下記より、最新研究をご覧いただけますので、ぜひチェックしてみてください。

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