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04認知症コラム

認知症の治療方法は?
3つのアプローチや
薬の種類、疑われる際の対応を解説

2024.12.26

認知症の治療方法は?3つのアプローチや薬の種類、疑われる際の対応を解説イメージ

認知症の治療は可能なのか、どのような方法が有効なのか知りたいという方は多いのではないでしょうか。認知症の治療には主に3つのアプローチがあり、症状にあわせた選択が必要です。この記事では、認知症に効果的な治療法や、認知症が疑われる際の適切な対応、治療を始める前に知っておくべきポイントを解説します。

認知症は治療が可能なのか?

認知症の完全な治療法は現状存在しませんが、一部症状の治療や、早期発見による症状の緩和は可能です。

認知症は脳の神経細胞が徐々に損傷されていく進行性の病気です。現在の医学では、一度損傷を受けた神経細胞を完全に修復する技術はまだ確立されておらず、認知症の根本的な治療法の開発にはまだ時間がかかるとされています。

現状では、症状の進行を遅らせる治療法や、生活の質を向上させるケア方法について日々研究が進められている状況です。

MMSEとはイメージ

認知症の種類によっては治療できるケースがある

認知症の原因となる病気が判明し、治療によってその原因を取り除ける場合、認知症の治療や改善が可能です。たとえば、脳腫瘍や慢性硬膜下血腫を起因とした認知症は外科手術で治療が見込めます。また、薬の副作用による認知症も治療できるでしょう。

また、軽度認知障害(MCI)の段階であれば、1年で約16~41%の人が健常な状態に戻ることが報告されています。

早期発見によって症状の進行を遅らせることは可能

認知症の進行を遅らせるためには、早期発見と早期治療が重要です。初期段階で適切な治療を始めることで、患者の生活の質を維持できる可能性が高まります。そのためにも、定期的な健康チェックや、軽度なもの忘れなど認知症の兆候を見逃さないことが大切です。

認知症を遅らせる対策について詳しくはこちら

認知症の基本情報

認知症の種類や症状は多岐にわたります。症状の改善や進行を抑制するためには、それぞれの特徴を理解し、適切な治療を施すことが重要です。

認知症の主な種類

認知症には複数の種類があり、最も一般的なのがアルツハイマー型認知症です。そのほかにもレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症などがあります。それぞれ異なる症状や進行パターンを持つため、専門的な知識を持った医師による適切な診断と治療が必要です。

認知症の各種類について詳しくはこちら

認知症の種類 特徴
アルツハイマー型
認知症
最も一般的な認知症の形態で、記憶障害がおもな症状。脳内にアミロイドβタンパク質が蓄積し、徐々に認知機能が低下する。
レビー小体型認知症 認知機能の変動、幻視、パーキンソン症状が特徴。脳内にレビー小体と呼ばれる異常なタンパク質が蓄積し、症状の日内変動が顕著に見られる。
前頭側頭型認知症 性格や行動の変化が初期から現れる認知症。脳の前頭葉や側頭葉が萎縮し、社会性の低下や言語障害が見られるのが特徴。
血管性認知症 脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因で起こる認知症。症状は段階的に進行し、手足の麻痺やしびれなど身体症状をともなうことが多い。

認知症による症状

認知症の初期段階では、短期記憶が低下したり、新しい情報を記憶できなくなったりするケースが一般的です。病気が進行すると、判断力や計画力、言語能力や理解力の低下といった症状が現れます。

さらに、行動や感情の変化、不安やうつ状態、幻覚などの症状が出ることもあり、日常生活や社会生活に大きな支障が生じるでしょう。

認知症の初期症状について詳しくはこちら

認知症の治療には3つのアプローチがある

認知症の治療には、主に3つのアプローチがあります。薬物療法は、薬剤を使用して中核症状や周辺症状を緩和する治療法です。非薬物療法は、薬は使用せず、リハビリテーション、心理療法、回想法、運動療法などによって認知機能の維持や生活の質の向上を目指します。正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫によって認知症が引き起こされている場合など、特定のケースでは手術による治療が必要です。

専門医の指導のもと、個々の患者の状態に応じた適切な治療法を選択することが認知症ケアの鍵となります。

認知症治療の種類 特徴
薬物療法 認知症の症状を改善したり進行を遅らせたりする薬剤を使用する治療法。おもにコリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬が用いられる。
非薬物療法 薬を使わず、脳トレや運動療法、音楽療法などを通じて脳を活性化し、認知機能や生活能力を引き出す治療法。中核症状の進行抑制だけでなく、周辺症状の改善も期待できる。
手術 正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫などが認知症の原因となっている場合に行われる。根本的な治療は困難だが、認知症の原因を取り除くことによって症状の改善を図る。

認知症治療のアプローチ①薬物療法

薬物療法は認知症治療の主要なアプローチの一つです。記憶障害や見当識障害などの中核症状と、うつや不安、幻覚妄想といった周辺症状ではそれぞれ異なる薬剤が用いられます。

認知症治療のアプローチ①薬物療法イメージ

中核症状に処方される薬

認知症の中核症状に対して用いられる薬剤は、おもにコリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬の2種類です。これらの薬は、もの忘れや見当識障害、理解力・判断力の低下などの症状を緩和し、進行を遅らせる効果があります。

ただし、抗認知症薬は副作用のリスクがともなうため、医師の厳重な管理のもとで投薬を行うことが必要です。

認知症の中核症状について詳しくはこちら

周辺症状に処方される薬

睡眠障害、不安・興奮、幻想・幻覚といった周辺症状に対しては、主に睡眠導入剤や抗精神病薬、漢方薬などが使用されます。高齢の認知症患者はほかの疾患の薬も服用しているケースが多いため、服薬中の薬をすべて医師に伝え、飲み合わせに十分注意しなければなりません。

認知症の周辺症状について詳しくはこちら

認知症の薬について詳しくはこちら

認知症治療のアプローチ②
非薬物療法:認知症の方の能力を引き出す

非薬物療法は、薬を使わずに症状の改善を図り、生活の質を向上させる方法です。アプローチの仕方はさまざまで、個々の状況に応じて選択する必要があります。

リハビリテーション 心理療法 回想法 運動療法 その他の治療法

認知症治療のアプローチ②非薬物療法:認知症の方の能力を引き出すイメージ

リハビリテーション

リハビリテーションは、認知症の方が日常生活をできるだけ自立して送るための支援方法です。記憶力や注意力を高める訓練、日常生活における動作の向上を目指したトレーニングが中心で、身体機能の維持・改善、転倒リスクを軽減する効果があります。

リハビリテーションは、個々の状態に合わせたプログラムを作成し、継続的に実施することが重要です。

認知症予防のゲームについて詳しくはこちら

心理療法

心理療法は、認知症患者の精神的健康をサポートするための方法です。カウンセリングや認知行動療法(CBT)などが用いられ、認知症の方が抱える不安やストレスの軽減、ポジティブな気持ちの醸成を促します。

心理療法は、医師や専門家と相談しながら、認知症の方の感情や思考パターンを理解したうえで行うことが重要です。

回想法

回想法は、昔見た映画や好きな音楽、写真など思い出の品に触れ、過去の出来事を語り合うことで認知機能を刺激する心理療法の一つです。認知症の方は、近い記憶を思い出しづらくなる一方で、昔の記憶はしっかりと残っているケースが多いです。そのため、回想法は脳を活発化させるきっかけになります。

社会的なつながりを持つ機会として、グループセッションで行われることが多い治療法です。

運動療法

運動療法は、身体を動かすことで認知機能の維持・向上を図る方法です。ウォーキング、ヨガ、軽いエクササイズなど適度な運動を行い、脳の血流改善や神経細胞の活性化を促進します。

定期的な運動は、認知機能だけでなく身体機能の維持や気分の向上にも効果があり、総合的な健康増進を図るうえでも重要です。

認知症予防のトレーニングについて詳しくはこちら

その他の治療法

ほかにも、右記下記のように音楽療法や園芸療法など非薬物療法にはさまざまなアプローチがあります。これらの療法は、認知機能の改善のみならず生活の質の向上にも影響するため、専門医と相談しながら、患者の好みや症状に応じて最適な方法を選択することが重要です。

治療法 特徴
音楽療法 音楽を聴いたり演奏したりすることで認知機能を刺激し、症状の軽減や生活の質の向上を図る方法。懐かしい曲を聴くことで回想効果も期待でき、リラックスやストレス軽減にも有効。
園芸療法 植物の栽培や手入れを通じて認知機能や身体機能の維持・改善を目指す療法。自然とのふれあいによるストレス軽減や、達成感を得ることで自尊心の向上にも効果がある。
リアリティ・
オリエンテーション
現実認識を強化するために時間、場所、人物などの情報を繰り返し伝える方法。見当識障害の改善や現実との接点を保つことを目的とする。
バリデーション療法 認知症の人の感情や行動を否定せず、その人の立場に立って共感的に接する方法。感情の安定や自尊心の維持に効果がある。
パーソンセンタードケア 認知症の方を一人の人格を持った個人として尊重し、相手の視点に立ってケアを行うアプローチ。その人らしさを大切にし、尊厳を保つことを重視する。

認知症治療のアプローチ③手術による治療

正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫に起因する認知症と診断された場合、脳外科手術が必要です。認知症の原因になっている脳腫瘍を取り除くことで、脳機能が回復する可能性があります。

しかし、手術には二次障害などのリスクもともなうため、患者の状態や予想される効果、合併症の可能性などを踏まえ、専門医と十分に相談したうえで判断することが大切です。

認知症の治療のポイント

認知症の治療において、それぞれの状態や症状に合わせて適切な選択が求められます。それぞれのアプローチにおいて、効果的な治療を行うためのポイントを押さえておきましょう。

薬物療法は「医師や薬剤師と連携する」

認知症の薬物療法では、医師や薬剤師など医療の専門家との連携が重要です。まずは、信頼できる医師や薬剤師を見つけ、薬に関する疑問や不安を気軽に相談できるようにしておくことが大切です。

認知症の薬で副作用が起こる可能性は比較的高いので注意が必要です。薬の副作用が認知症の症状と誤解され、見過ごされてしまうこともあります。万が一に備えて服用記録をつけ、医師や薬剤師と適切な情報共有を行えるようにしておきましょう。

非薬物療法は「本人が無理なく楽しめるものを」

非薬物療法では、認知症の方が楽しみながら取り組める方法を選択しましょう。決して無理強いせず、自尊心を尊重し、本人の興味や能力に合わせたものを取り入れることが大切です。

一方で、頑張りすぎて体調を崩してしまっては、逆効果になりかねません。しっかり様子を見ながらサポートしましょう。

認知症が疑われる場合の対応

認知症の早期発見と適切な対応は、認知症の方とその家族の負担を最小限に抑えるうえで非常に重要です。ここでは、認知症が疑われる場合に取るべき3つの対応方法を把握しておきましょう。

認知症が疑われる場合の対応イメージ

かかりつけ医に相談する

認知症が疑われる場合、まずはかかりつけ医に相談しましょう。かかりつけ医は患者の健康状態を熟知しているため、必要に応じて基本的な健康チェックや簡単な認知機能テストを行えます。適切な治療計画を立ててもらうためにも、初期段階で相談することが重要です。

かかりつけ医がいない場合は、認知症を専門とする精神科や心療内科、脳神経外科、老年科を受診しましょう。

もの忘れ外来などで専門医の診断を受ける

詳細な検査が必要な場合は、もの忘れ外来や認知症専門医の診断を受けることが重要です。専門医による診断は、認知症の種類や進行度を正確に把握するうえで欠かせません。適切な診断を受けられれば、症状に応じた最適な治療法を選択できます。

専門医は豊富な知識と経験を持っており、家族からの相談にも対応してくれる場合が多いので、少しでも気になることがあれば問い合わせてみましょう。

域包括支援センターに相談する

地域包括支援センターは、高齢者やその家族を支援するための総合窓口です。専門の相談員が個別の状況に応じたアドバイスを提供し、適切な医療機関の紹介も行います。さらに、介護保険の申請手続きや、地域のリソースを活用した支援プログラムの案内も行っています。

とくに、本人が受診を拒否する場合やかかりつけ医がいない場合には、地域包括支援センターへ相談するとよいでしょう。将来的な介護サービスの利用もスムーズに進められます。

認知症の治療を始める前にすべきこと

認知症と診断された場合、治療方針や家族のサポート体制を整えておく必要があります。効果的な治療と患者の生活の質を維持するためにも、認知症の治療を開始する前にすべきことを押さえておきましょう。

認知症治療の相場を把握する

認知症治療の費用は、治療方法によって大きく異なります。薬物療法は処方される薬の種類や量に応じて費用が変動し、非薬物療法ではリハビリテーションや心理療法などのセッション費用が必要です。手術が必要な場合はさらに高額になる可能性があります。

ただし、医療保険や公的支援制度を活用することで、費用負担を軽減できるケースが大半です。治療開始前に、予想される費用と利用可能な支援制度について医療機関や地域の相談窓口で確認しておくとよいでしょう。

認知症の検査費用について詳しくはこちら

家族や周囲のサポート体制を整える

認知症患者の治療では、家族や周囲のサポート体制を整えておくことが非常に重要です。適切なサポートがあれば、患者の精神的安定や生活の質の向上につながります。また、家族が積極的に関わることで、患者の孤立感が軽減され、症状の進行を遅らせられるかもしれません。

治療を始める前に、家族や介護者は認知症ケアにおける心構えや基本的な知識を学んでおくようにしましょう。

認知症のケアで大切なことについて詳しくはこちら

認知症への理解と適切な対応が治療成功の鍵

認知症の適切な治療法を選択するためには早期発見・早期治療が重要です。認知症の疑いがある場合は、初期の段階でかかりつけ医に相談しましょう。また、治療前には費用の把握やサポート体制の準備も欠かせません。認知症への理解と適切な対応が、症状進行の抑制や生活の質を維持することにつながります。

認知症の治療にはさまざまな方法がありますが、最新の研究ではさらに効果的なアプローチが見つかっています。ぜひ最新の知見を活用し、認知症予防に役立てましょう。認知 機能障害の改善に関する最新の研究成果や、より詳細な予防法については以下の記事をご覧ください。

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