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04認知症コラム

認知症に効果的な音楽療法とは?
曲選びの
ポイントと4つの実践ポイントを解説

2025.07.31

認知症に効果的な音楽療法とは?曲選びのポイントと4つの実践ポイントを解説イメージ

認知症の方への音楽療法は、効果的な非薬物療法の一つです。認知症の進行や周辺症状の緩和、脳の活性化、運動機能や社会性の向上など、多様な効果が期待できます。本記事では、認知症治療における音楽療法の効果、やり方、ポイントなどを解説。また、音楽療法とあわせて知っておきたいほかの非薬物療法についてもご紹介します。

認知症治療の「音楽療法」とは?

音楽療法とは、音楽を聴いたり演奏したりすることで、心身の機能を維持・改善する非薬物療法の一つです。認知症治療においては、BPSD(周辺症状)の改善や身体機能の維持に効果があるとされています。実際に病院や介護施設などでも取り入れられており、家庭でも実践することが可能です。

音楽療法自体は古くから存在していましたが、第一次世界大戦後のアメリカで退役軍人のリハビリテーションに活用されたことで効用が認められ、再評価されるようになりました。

認知症の周辺症状について詳しくはこちら

認知症治療の「音楽療法」とは?イメージ

認知症治療における音楽療法の5つの効果

音楽療法は、単なる癒しにとどまらず、心身の健康や生活の質向上に多面的な効果をもたらします。ここでは、音楽療法が認知症の方にもたらす代表的な5つの効果についてみていきましょう。

周辺症状(BPSD)を緩和する 脳を活性化させる 運動機能を向上させる 社会性をはぐくむ 生活の質を高める

周辺症状(BPSD)を緩和する

音楽療法は、認知症の周辺症状(BPSD)である徘徊・暴力・睡眠障害・抑うつ・不安などを緩和する効果が期待されます。音楽を聴いたり歌ったりすることでリラックス効果が得られ、精神的な安定やストレス軽減につながるためです。患者の表情が明るくなる、自発性が高まるなどの変化も報告されています。

脳を活性化させる

音楽を聴いたり歌ったりすることで、過去の記憶が自然に呼び起こされることがあります。音楽が脳の複数の領域を同時に刺激し、認知機能の維持や低下防止に寄与するためです。また、懐かしい曲を思い出し、昔の感情や出来事を語ることで、自信や自己肯定感を取り戻すきっかけにもなります。

運動機能を向上させる

音楽に合わせて身体を動かすことで、普段使わない筋肉を刺激できるため、運動機能の向上にも効果的です。歌唱活動は口周りの筋肉を鍛えられるため、嚥下力が向上し、誤嚥予防にもつながるといわれています。また、リズムに合わせた動作は脳と身体の協調性を高め、身体機能の維持にも役立ちます。

社会性をはぐくむ

音楽療法は、言葉によるコミュニケーションが難しい方との交流の橋渡しにもなります。音楽を通じた共同作業や体験は、他者とのつながりを実感しやすく、孤独感の軽減や社会参加意欲の向上という面でも有用です。グループで行うことで、より社会性を育む効果が期待できます。

生活の質を高める

音楽療法は、認知症の方にとって「楽しい」「懐かしい」といったポジティブな感情を引き出し、日々の生活に彩りや意義を与えます。治療や介護の場面が「我慢や苦痛」ではなく「楽しみな時間」に変われば、本人の満足度や幸福感は高まるでしょう。生活に楽しみが増えることで、全体的な生活の質の向上にもつながります。

認知症に役立つ音楽療法の種類とやり方

認知症の音楽療法には、おもに受動的に音楽を聴く方法と、能動的に自ら音楽に参加する方法があります。それぞれの特徴と実践方法を理解することで、より効果的なケアが可能です。

認知症に役立つ音楽療法の種類とやり方イメージ

受動的音楽療法

受動的音楽療法は、「受け身で音楽を聴く」ことで心身に働きかける方法です。CDを流す、楽器演奏を行うなどの方法で、本人がリラックスできる環境を作ります。1回15〜20分程度を目安に、好きな曲や思い出の音楽を選ぶことで、不安や焦りの軽減が期待できます。

音楽を聴くだけでよいため、日常生活の一部として手軽に取り入れられます。会話ができる程度の音量に設定し、聴いている間の表情や反応を丁寧に観察することがポイントです。好みの曲をリストアップすることで、より効果的なプログラムを構築できるでしょう。

能動的音楽療法

能動的音楽療法は、本人が歌ったり楽器を演奏したりして積極的に音楽に関わる方法です。タンバリンやマラカスなど扱いやすい楽器を使い、なじみのある曲のリズムに合わせて一緒に演奏することで、脳の活性化や運動機能の維持・向上が期待できます。

複数人で行えば、周囲との一体感や社会性も高められます。家族や介護者も一緒に参加し、拍手や笑顔で肯定的な反応を示しながら進めると、本人のやる気や自信も引き出せるでしょう。

音楽療法を行うときの5つのポイント

音楽療法は、ただ音楽を流す・演奏するだけでなく、いくつかのポイントを押さえて実施することでより高い効果が期待できます。ここでは、認知症の方に音楽療法を実践する際に押さえておきたい5つのポイントをご紹介します。

参加者の聴力を把握しておく 好みに合わせた曲を選ぶ 静かな空間で行う 適切な実施時間と休憩をとる 専門家のサポートを受ける

音楽療法を行うときの5つのポイントイメージ

参加者の聴力を把握しておく

音楽療法の効果を最大限に引き出すためには、まず参加者の聴力や体力の状態を事前に確認・把握しておくことが大切です。高齢者は加齢による聴力低下のほか、高音域が聞こえにくくなるなど個人差が大きいため、音量や音質の調整が求められます。聴力に配慮した環境設定が、安心して音楽を楽しむための第一条件です。

実践時のポイント
普段のテレビの音量設定や会話の様子から聴力の状態を確認し、必要に応じて補聴器の使用を検討する

好みに合わせた曲を選ぶ

音楽療法の効果を高めるには、本人にとって心地よい曲やなじみのある曲を選ぶことが重要です。世代や経験によって好みの音楽は異なるため、同じ認知症の方でも興味を示すジャンルや曲はさまざまです。不適切な曲を選ぶとストレスやつらい記憶を呼び起こすこともあるため、過去の体験やエピソードを参考にしながら丁寧に選曲しましょう。

実践時のポイント
若い頃に好きだった音楽や思い出の曲について情報を集め、本人の反応を観察しながら選曲する

静かな空間で行う

静かで落ち着いた空間を用意することで、音楽療法の効果は大きく高まります。騒がしい環境では音楽に集中できず、混乱や不安を引き起こすこともあるため、適切な音響環境を整えることが重要です。とくに認知症の方は環境の変化に敏感なため、リラックスできる場所での実施が望ましいでしょう。

実践時のポイント
普段から過ごしているなじみのある場所で、雑音の少ない時間帯を選んで実施する

適切な実施時間と休憩をとる

認知症の方に対する音楽療法は、短時間かつ無理のない範囲での実施が基本です。長時間続けて実施すると、疲労や集中力の低下を招きます。音楽療法の本来の効果が得られないばかりか、逆にストレスや興奮の原因にもなりうるため注意が必要です。疲労が蓄積しないよう適度な休憩を挟み、区切りをつけて実施しましょう。

実践時のポイント
最初は15分程度の短い時間から始め、表情や態度を観察しながら徐々に時間を延ばしていく

専門家のサポートを受ける

音楽療法の質を高めるには、音楽療法士などの専門家のアドバイスやサポートが不可欠です。音楽療法士は、個人の症状や好みに合わせたプログラム設計の専門知識と経験を持っています。こうした医療や介護の専門家と連携することで、より安全かつ効果的な音楽療法を実践できるでしょう。

実践時のポイント
地域の音楽療法士会や音楽療法を提供している施設に問い合わせ、定期的なアドバイスを受ける

音楽療法の専門家
「音楽療法士」とは?

音楽療法士は、音楽療法を専門とする民間資格です。大きく分けて、日本音楽療法学会の「学会認定音楽療法士」と、全国音楽療法士養成協議会の「音楽療法士(専修・1種・2種)」の2種類があります。

音楽療法士は、音楽を用いてクライアントの心身の健康や生活の質の向上をサポートします。医療・福祉・教育など幅広い現場で活躍しており、個人の状態に合わせたプログラム作成や、効果的な実施が主な役割です。

実際に音楽療法を受ける際に知っておきたいこと

音楽療法を始める前に、どのような場で受けられるのか、どの程度効果が持続するのかについて理解しておくと安心です。
ここでは、実際に音楽療法を受けるにあたって知っておきたいポイントをご紹介します。

音楽療法を受けられる施設とサービス 音楽療法の効果持続性と
継続することの重要性
音楽療法における限界

音実際に音楽療法を受ける際に知っておきたいことイメージ

音楽療法を受けられる施設とサービス

音楽療法は、医療機関や高齢者向け施設、地域包括支援センターなどさまざまな場所で受けることができます。近年はオンラインで参加できる民間サービスや、自宅に訪問してくれる専門家によるサービスも増えています。とくに、身体が不自由な方や寝たきりの方にとっては、自宅でリラックスしながら音楽療法を受けられる訪問型サービスは非常に便利です。

認知症の方が入所できる施設の詳細はこちら

音楽療法の効果持続性と継続することの重要性

音楽療法は、一度受けただけでは一時的な効果にとどまる場合が多く、定期的に続けることが重要です。一般的に週に2〜3回程度の頻度で実施すると、効果が持続しやすくなるとされています。

ただし、効果の現れ方には個人差があるため、継続的な観察と柔軟な評価が必要です。本人の様子や反応を見ながらプログラムを調整していくことが、音楽療法の効果を最大限に引き出すポイントといえます。

音楽療法における限界

音楽療法は認知症を完治させるものではなく、あくまで症状の緩和や進行の遅延を目的とした治療法です。加えて、すべての認知症の方に同じような効果が得られるわけではなく、効果の現れ方には個人差があります。

また、音楽療法に特化した個別対応や訪問型サービスは、認知症のケアの一環として行うものに比べて費用がかかります。音楽療法士などの専門家の不足により実施が難しい地域もあるのが現状です。

このように音楽療法には期待できる効果とともに、現実的な限界があることも理解しておきましょう。無理なく活用し、本人や家族の負担も考慮しながら継続することが重要です。

認知症に効果的な音楽療法以外の非薬物療法

音楽療法以外にも、認知症の方の心身の健康や生活の質を高める非薬物療法は数多く存在します。本人の興味や状況に合わせて、より効果が期待できるアプローチを選択することが大切です。

絵画や工作で創造性を引き出す 植物との触れ合いで五感を刺激する 思い出を語ることで脳を活性化させる

絵画や工作で創造性を引き出す

絵画や工作などの芸術療法は、感情表現や脳の活性化を促す非薬物療法の一つです。「アートセラピー」とも呼ばれ、言葉で表現しにくい感情を形にする方法として活用されています。

作品を完成させる達成感は自信につながり、認知機能の維持や精神的な安定にも寄与します。日常生活に創造的な時間を取り入れることで、生きがいや楽しみが増す効果も期待できるでしょう。

植物との触れ合いで五感を刺激する

園芸療法は、植物を育てたり鑑賞したりする活動を通じて五感を刺激する非薬物療法です。医療や心理学的な知識と、植物の持つ癒し効果を組み合わせた総合的なアプローチとして実施されています。

自然と触れ合うことで、脳の異なる部位を活性化させることが狙いです。認知症の進行を遅らせる効果が期待できるほか、精神的な安定や生活意欲の向上にもつながります。

思い出を語ることで脳を活性化させる

回想療法は、写真や懐かしい品、音楽などを用いて過去の記憶を呼び起こし、それを語り合うことで脳を活性化させる非薬物療法です。個人やグループで行うことができ、特別な道具がなくても家庭で気軽に実践できます。

過去の思い出を語ることで脳が活性化され、認知機能の改善が期待できます。自己肯定感の向上や、社会的交流の促進としても効果的です。

音楽療法は本人の好みを尊重しながら
継続することが大切

音楽療法は、曲選びや環境づくり、実施時間、専門家のサポートといった実践ポイントを押さえれば、脳の活性化や精神の安定、社会性の向上など多面的な効果が期待できます。家庭でも手軽に実践できるアプローチの一つですが、効果を高めるためには本人の気持ちや体調に寄り添いながら無理なく続ける姿勢が重要です。

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