「お店に行く価値」を創造する――オカムラ「みせいくラボ」が共創で描く、人が主役の未来店舗

株式会社オカムラ お店のみらいを創造する研究所(みせいくラボ) 所長 大西功人さん(コマースソリューション事業本部)/古賀麻衣さん(コマースソリューション事業本部)

人手不足、高齢化、地域の過疎化、深まる孤独、そして高まる健康意識――。小売業を取り巻く社会課題は複雑になる一方です。そこにECの普及やAI・ロボットの進化が重なり、「わざわざお店に行く意味」そのものが変化してきています。
こうした変化に店舗という「場」の側から向き合うのが、株式会社オカムラが2024年4月に立ち上げた「お店のみらいを創造する研究所(愛称:みせいくラボ)」です。独自の調査研究と共創で10年先の店舗像を描き、実際の店づくりへ落とし込むことを目指します。ここでは、買い物という日常の場が、人の健康や幸せにどう関われるのか。所長の大西功人さんと、メンバーの古賀麻衣さんに聞きました。

「店行く」と「店育」――10年先の店舗像を、社会との共創で描く

オカムラの創業は1945年。オフィスづくり、店舗づくり、物流拠点づくりの3領域で事業を展開しています。みせいくラボは、店舗づくりや什器・冷凍冷蔵ショーケースの製造を担うコマースソリューション事業本部に属しています。
同事業本部は、コーポレートメッセージである「人を想い、場を創る。」のもと、「作る人」「働く人」「訪れる人」「地域社会」を想う4つの場づくりを探究してきました。その延長線上で、社外との共創によって未来店舗のあり方を描き出すのがみせいくラボです。名称は「店行く」と「店育」を掛け合わせた愛称。顧客とともに「お店に行く価値」を考え、みんなで「お店を育てる」という思いが込められています。
「消費行動や価値観が変化し、働き手が減る一方で、ECが普及し、AIやロボットも発展しています。小売業を取り巻く環境が大きく変わる中、目の前の課題だけでなく、バックキャストで未来の店舗像を描き、そこに近づける店舗をつくっていきましょう、というのが発足の背景です」(大西さん)

「未来を予測しながら、みんなで一緒に実現していきたい」(大西さん)

ラボのメンバーは、設計、製品の企画開発、営業と、異なるバックグラウンドを持つ4人です。大西さんは2004年入社の一級建築士で、スーパーマーケットやドラッグストアなど幅広い業態の商空間設計を手掛けてきました。古賀さんは2009年入社。同じく設計出身で、フードロス削減をテーマにした社内企画なども担当してきました。
「会社はどうしても部署ごとの縦割りになりやすい。みせいくラボは、そこに横串を刺すような役割を担う組織です。同じ会社でも事業や部署によって文化は違いますから、異なる視点を持ち寄る意味は大きいと考えています」(古賀さん)

5つのメガトレンドから、未来店舗を洞察する

活動は大きく二つの段階に分かれます。まずラボ内では、「お買い物体験の進化」「みんなでお店をつくる」「テクノロジーと人の役割分担」「AI時代の時間の使い方」「人と地球にやさしいお店づくり」という5つの探究テーマを置き、4~5年のサイクルを想定しながら、メガトレンドの抽出、未来洞察、コンセプトづくりを進めます。調査研究を独自にまとめた「お店のみらいレポート2025」では、「生活・街づくりの進化と健康推進」「多様な価値観に応える」「ヒトの価値の向上」「時間の価値の変化」「働く環境と地球環境」という5つのメガトレンドを抽出しました。
アイデアは4人だけで考えるわけではありません。ドラッグストアの未来なら社内の担当デザイナーを集めるなど、テーマごとにメンバーを変えてワークショップを開き、出てきたアイデアを店舗像に落とし込んでいきます。
レポートには、イラストレーターが描いた未来店舗像のスケッチが収められ、驚くほど多くのアイデアが描き込まれています。そこから抜き出してつくられたのが「お店のみらいアイデアカルタ」です。
「カルタって、一瞬でたくさんアイデアがあるとわかるじゃないですか。50音分ありますし、イラストをつけて、読み札でも端的に説明できます」(古賀さん)
読み札の文言は、古賀さんが通勤電車の中でスマートフォンに書きためたもの。生成AIが普及する前に、一つひとつ考えたそうです。

「ワークショップでは、カルタがあるとイメージがわきやすいんです」(古賀さん)

次が共創のフェーズです。パートナー企業とワークショップを重ねてアイデアを出し合い、実現性が見えてきたものは具現化へ進みます。
「5つの探究テーマを極めるというより、根底にあるもの、という位置づけです。大きく外れなければ、そこまでこだわらなくてもよいのかなと。ただ、テクノロジーだけに偏るようなことがないなど、バランスは意識しています」(古賀さん)
発足から2年余りで、小売企業10社ほどと共創。ワークショップは月1回程度のペースで、大小合わせて約20回を数えます。
「ワークショップの形も毎回変えています。コワーキングスペース『point 0 marunouchi』でのイベントでは、異業種の方々にレポートの未来洞察を示し、『あなたなら続きをどう考えますか』と問いかけました」

主役は「人」――4つの視点から「お店とは何か」を探究する

未来店舗を考える際に重視しているのが、「作る人」「働く人」「訪れる人」「地域社会」という4つの視点です。それぞれにコンセプトも設定しました。地域社会にとっては「暮らしを創造する場」、作る人にとっては「商品への想いとストーリーを表現するフィールド」、訪れる人にとっては「私のお気に入りのお店」、働く人にとっては「誰もが輝ける舞台」です。
「主役は人で、人のために場を創るのが私たちの仕事という考え方は変わらずにあります。では、その人とは誰か。商業空間に関わるのは、商品を作る人、その場で働く人、そこを訪れる人、そして店舗を取り巻く地域社会。テクノロジーは発展するけれど、それは人のためにあるよねというところで、テクノロジー推しではなく、人の生活がどう良くなるかを描くようにしています」(古賀さん)
たとえば、お店に通うことで友人や生きがいが見つかる、地域の情報を得られる、消費者と作り手が一緒に商品を開発するといった未来です。

「お店通いで友達や健康、生きがいまで見つかる未来を目指しています」(古賀さん)

地域社会の視点でいえば、コミュニティ、環境、健康、情報、防災という5つの切り口で仮説を立てています。背景にあるのは、いずれも足元の社会課題です。内閣府の調査では日本人の約4割が孤独を感じているとされ、健康意識調査では20~60代の約7割が健康への意識を持つといいます。
そこから導かれたのが、「お店に通えば、友達や生きがいが見つかるかもしれない」「地元のことはお店が一番詳しいかもしれない」といった仮説です。健康については、家を出る時点から帰宅するまでを“買い物活動”と捉えれば、健康になるチャンスは増えるのではないか、という発想があります。地域の食を担う店舗が、住民と従業員の健康を支える存在になる。ウェルビーイングと重なる未来像が、すでに仮説に織り込まれています。

三者の「推しスーパー」――MY FAV ICHIBA

これらを統合した未来店舗像の一つが「MY FAV ICHIBA」です。作り手が「このお店に卸したい」、働く人が「このお店で働きたい」、消費者が「このお店に行きたい」と思える、三者の「推しスーパー」。三者の関係も、どちらかが優位に立つものではありません。働く人と作り手は「お店づくりバディ」、働く人と消費者は「くらしの提案・実践パートナー」、作り手と消費者は「気持ちのトレード」。互いに高め合うパートナーとして関係を結び直すことが、前提になっています。

未来店舗像「MY FAV ICHIBA」。買う人・売る人・つくる人が推す未来のスーパー

「絵に描いた未来」で終わらせない

共創相手は小売企業だけではありません。テクノロジー企業とも接点を持ち、実証を重ねてアイデアを具体化していきます。
「アイデアだけ出して終わってしまっては実効性がありません。実現するにはどんな技術が必要かを考え、それを持つ会社と一緒に形にしていく。そこまで取り組むことが大切です」(大西さん)
具現化・検証事例の一つが、オリィ研究所の分身ロボット「OriHime※」を使った会話型カート。外出が難しい「移動困難者」の社会参加を支えるロボットで、カルタから生まれたアイデアの実用性を検証しました。もう一つが、(株)MUSEのストアロボット「Armo」を使ったキャラクター販促什器。店舗業務支援に対応するロボットで、展示会「SMTS2025」では自社ブースにおいて実際に稼働させながら来場者への訴求を行いました。
「タイムセールで賑やかなパレードが始まるといいよね、というアイデアをどう実現しようとなったときに、Armoに出会いました。売場運営を支援するロボットですが、店長のパネルを載せて、おすすめ商品を持って売り場を練り歩いたら新しい購買体験を提供できるのではないかと」(大西さん)
「私たちの考えを押しつけずに、ヒアリングしてディスカッションして、求めているものにアジャストしていく。お客さまごとに描きたい未来も全然違いますから」(古賀さん)

※OriHimeは株式会社オリィ研究所の登録商標です。

効率とゆとりは対立しない――「もう頑張らない」時代に残る価値

店舗の居心地や余白、交流といった価値は、効率や回転率と相反するようにも見えます。両立の鍵として大西さんが挙げたのは、有人と無人、フィジカルとテクノロジー、効率とゆとり――という「対立概念のバランス」です。

各ペルソナに合わせたショートストーリーのパネル

「たとえば、効率化や省力化によって店舗スタッフの手が空き、可処分時間が増えれば、その時間を別の価値に振りわけられます。大切なのはバランスです。もちろん、安さや速さを求める店舗なら効率重視でよい。店のコンセプトやターゲットによって変わります」(大西さん)
省人化によって人を単純に減らすのではなく、生まれた時間を接客や会話、提案など、人が担うことで価値が高まる仕事に活かす。その先に、効率だけでは測れない店舗の魅力が生まれます。

いま力を入れているのが「未来のペルソナづくり」です。社内の有志が生成AIを使って10年後の自分を描く。その前段で、何がインフラ化して何に価値を感じるようになるのか、未来の自分は何を「もう頑張らない」のかを議論します。
探す、比較する、管理する、運転する、買い足す――。そうした手間はAIや自動化に委ねられ、「当たり前のインフラ」になっていく。一方で価値が高まるのは、人とのつながり、五感で感じる体験、偶然の発見、時間の余白、そして自分らしさだと整理しています。効率化が進むほど、「わざわざ行きたくなる理由」こそが店舗の価値になる。ウェルビーイングという言葉を使わずとも、議論の焦点はそこへ向かっています。

働く人にも、作り手にも開かれた場へ

人手不足が深刻な小売業では、働く人のウェルビーイングも欠かせません。

飛び出す絵本のように、見ているだけで楽しい未来店舗像「MY FAV ICHIBA」の模型

「危険な仕事や力仕事、単純作業は、今後さらにロボットやAIが担うようになると思います。一方、セルフレジが増えるからこそ、有人レジや、ゆっくり会話できるレジに価値が出ることもある。両者が共存していくのではないでしょうか」(古賀さん)
古賀さんは、店舗で働いた経験のある人から「自分で陳列を変え、その結果として売上が伸びるとうれしい」と聞いたことが印象に残っているといいます。
「単純作業や不得意な仕事が減ったら、一人ひとりが得意なことに時間を使えるかもしれません。声掛けが上手な人もいれば、陳列が得意な人もいる。それぞれの個性を生かせれば、もっと生き生きと働けると思います。だから『誰もが輝ける舞台』というコンセプトにしたのです」(古賀さん)
開かれるのは、働く人に対してだけではありません。未来の店舗は、メーカーにとっても単に商品を並べる場所ではなくなりそうです。
「商品を置いて終わりでは、お客さまからのフィードバックが得にくい。サイネージやロボットなどを活用して、評価やコメントを直接やり取りできる場になればよいと思います」(古賀さん)
生産者と売り場の消費者が画面越しに会話する未来像も描いています。大西さんは「作り手の顔が見えることは重要です。誰が作ったのかが分かれば、消費者の満足感だけでなく、生産者のモチベーションにもつながる」と話します。健康について知る、試す、相談する、感想を返す――。食品やヘルスケアの領域でも、リアル店舗は販売の場と生活者との接点を兼ねられるはずです。

店舗という社会インフラから、幸せな暮らしへ

みせいくラボは、自分たちのコンセプトそのものも議論し直しました。「未来のお店をこうしたい」という熱意のある人が、店舗という場づくり――社会のインフラ、ひいてはまちづくり――を通じて、より良い社会と幸せな暮らしをつくる。そのために「調査研究をもとに未来を予測し、共創でアイデアを実現する」ことを、自らの役割として位置づけたのです。発信も、展示会や講義、子ども向けのワークショップや絵本づくりにまで広がっています。

「HUMAN-ORIENTED COMPANY(ヒューマン オリエンテッド カンパニー)」(人を起点に考える企業)としてオカムラは2026年6月にリブランディング

「ネットで調べたり、オンラインで話したりするだけでは分からないことがあります。現場へ行って、お客さまの生の声を聞くことが大切です」(大西さん)
「未来のお店のファンづくりにも取り組みたい。子どもたちにもお店の魅力を伝え、『行きたい』だけでなく、『働きたい』『関わりたい』と思ってもらえるような活動を、小売企業の皆さんと一緒にできたらと思っています」(古賀さん)
買い物を早く、便利に済ませることは、これからも店舗に求められます。問われているのは、そこで生まれた時間を何に使うかです。孤独や人手不足、健康といった社会課題に日常の買い物の場から向き合うみせいくラボの試みは、「お店」が人々のウェルビーイングを支えるインフラになり得ることを示しています。

取材・文/大正谷成晴 撮影/関大介


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