炭酸が生む「リカバリー」と「つながり」――100年ブランドのアサヒ飲料が解き明かす炭酸水の力

アサヒ飲料 研究開発本部 研究開発戦略部 研究企画グループ 小杉亘さん

オフィスでの眠気覚ましに。風呂上がりの一杯に。私たちはいつの間にか、無糖の炭酸水を当たり前のように飲むようになりました。けれど――対戦相手と炭酸水を飲み交わすと、笑顔が増え、心拍までもが同期しはじめる。そんな研究結果があると聞いたら、驚くでしょうか。
「スッキリしたい」「気分を切り替えたい」。何気ない体感の奥に眠る力を科学で可視化し、心身を整える「リカバリー効果」と、人と人をつなぐ「ウェルビーイング効果」を解き明かそうとしているのがアサヒ飲料です。研究開発本部 研究開発戦略部 研究企画グループの小杉亘さんに、その背景と最前線を聞きました。

「アサヒ炭酸ラボ」で炭酸の魅力を深掘り

炭酸水の効果から歴史まで、幅広いテーマで炭酸を深掘りするWebサイト「アサヒ炭酸ラボ」。アサヒ飲料が、炭酸研究の成果を分かりやすく社会へ届けるプラットフォームとして運営しています。

炭酸水の効果から歴史まで、幅広いテーマで炭酸水を深掘りする「アサヒ炭酸ラボ」。

同社には「三ツ矢」(1884年発売)や「ウィルキンソン」(1904年発売)など、100年以上続く炭酸ブランドがあります。長年培った炭酸の強みを生かし、飲料を通じて社会に貢献したいという考えが、研究の背景にあります。

無糖炭酸水をそのまま飲む習慣が広がったのは、比較的最近のことです。かつては酒類を割る商品が中心でしたが、小型ペットボトルが普及した2010年頃から直接飲用が定着しました。
「お客様に無糖炭酸を飲む理由を尋ねると、『スッキリしたい』『気分を切り替えたい』『眠気を覚ましたい』という声が寄せられました。感覚的に捉えていることを科学的に調べれば、好まれる理由や新しい価値が見えてくると考え、研究を始めました」(小杉さん、以下同)
小杉さんが考えるウェルビーイングは、身体的な健康だけではありません。精神的な健やかさや、人・社会と良い状態でつながることも含むといいます。身近な炭酸水がどこまで貢献できるかを探るのが、出発点でした。

大学との共同研究が示す「スカッと、リラックス」

初期の研究テーマは、オフィスワークなどに伴う精神的な疲労でした。アサヒ飲料は、抗疲労研究を専門とする大阪公立大学・理化学研究所の水野敬先生らと共同研究を実施。疲労が蓄積すると意欲が低下し、仕事のパフォーマンスや労働生産性にも影響することから、炭酸水の活用可能性を検証しました。
「水野先生らの知見をお借りし、成人就労者にパソコン上で90分間、徹底的に集中して作業してもらい、作業開始から45分の時点で強炭酸水、弱炭酸水、水のいずれかを摂取。さらに45分後の眠気や意欲、リラックス度などの変化を検証しました」
その結果、水を飲んだグループでは作業後に眠気が増し、意欲やリラックス度が低下した一方、強炭酸水を飲んだグループでは、こうした変化が抑えられる可能性が示されました。
「オフィスでリフレッシュしたい場合、コーヒーやエナジードリンクといったカフェイン入りの飲料はお馴染みでしょう。一方で炭酸水は無糖、ノンカロリー、ノンカフェインであることが特徴。普段飲むものの一部を置き換えるだけで、ウェルビーイングになりながら、手軽に気分転換できる選択肢になるわけです」

「精神的な疲労に強炭酸が役立ちます」

慶應義塾大学の満倉靖恵先生との研究では、炭酸水を飲んだときに「集中状態」と判定される脳波が多く検出され、タイピングの文字数と正確性もともに向上しました。炭酸の刺激がのどを通る際に脳幹などの神経系を刺激し、脳を覚醒・活性化させるというのがメカニズムの仮説です。暑さへの作用も確認されており、筑波大学との共同研究では、室温37℃・湿度50%の環境で強炭酸水を飲むと爽快感や意欲の向上、眠気の軽減が認められました。「暑い時に炭酸水が飲みたくなる」「風呂上がりに飲むと心地よい」という実感を裏づける手がかりです。
効果は身体の健康にも及びます。2026年5月に発表された論文では、炭酸水の継続飲用で腹部膨満感が生まれ、間食やアルコールの摂取が抑えられる可能性が示唆され、血液検査の一部の数値やBMIにも変化が見られたといいます。「ただし対象人数に限りがあり、現段階で一般化はできません。社員を対象とした長期的なコホート検証も視野に、さらなるデータの蓄積を進めています」
精神面の「スカッと」と、身体面の健康。炭酸水のリカバリー効果は、着実に輪郭を現しつつあります。

eスポーツが明かした「つながり」のウェルビーイング

そして近年、研究はもう一つの地平を切り開きました。炭酸水の価値が、自分一人の回復にとどまらず、人と人との「つながり」=社会的なウェルビーイングにまで及ぶ可能性です。その入り口は、eスポーツでした。
現代人はデジタル情報に囲まれ、画面への集中や瞬時の判断など、日常的に脳を酷使しています。eスポーツ中の脳活動や判断力の変化を調べることは、オフィスワーカーの生産性向上や疲労対策を考えるうえでも参考になるといいます。
ここでは、筑波大学の松井崇先生と、eスポーツを切り口にした共同研究を行いました。
「eスポーツのプレー経験がある筑波大学の学生15人を対象に、プレー前後とプレー中に強炭酸水または水を飲んでもらい、3時間のプレーにおける判断力、空腹感、認知疲労からの回復などを検証しました。炭酸水を飲んだ場合には、疲労感の高まりが抑えられ、認知課題の正確性が維持されるなどの結果が得られました」

ですが、本当に興味深いのはここから先、人との関係性に関する研究成果です。同じく筑波大学との共同研究では、eスポーツの対戦中に炭酸水を飲んだ場合、水を飲んだ場合よりも、AIによって笑顔と判定された時間が長くなり、対戦相手との一体感が高まる結果が得られました。離れた場所から参加するオンライン対戦においても、双方が炭酸水を飲みながらプレーすることで、一体感が高まる可能性が示されています。

強炭酸水の効果について書かれている「アサヒ炭酸ラボ」のリーフレット

「お互いの心拍を測定したところ、炭酸水を飲みながら対戦した場合のほうが、心拍が同期する現象が認められました。強い炭酸の刺激を一緒に味わう共通体験が、心理的な距離や一体感に何らかの影響を与えている可能性があります」
眠気や集中といった個人の状態から始まった炭酸水の研究ですが、eスポーツを通じて、笑顔や一体感といった社会的なウェルビーイングにもつながる可能性が出てきました。現在は、この知見をスポーツ観戦などにも広げて検証しており、家族や友人と炭酸水を飲みながら応援することで、一体感が促進するかもしれません。将来的には音楽イベントやオンライン会議など、多様な場への応用も考えられます。

人と人をつなぐ飲料といえばアルコールが思い浮かびますが、無糖炭酸もその役割を担えるのでしょうか。

「ビールで盛り上がり、肩を組んで応援する文化は素晴らしいもの。しかし日中のオフィスや家族でのスポーツ観戦など、アルコールやカフェインを摂りにくい場面もあります。無糖炭酸水なら、時間や場所、年齢を問わずコミュニケーションのきっかけになり、社会的ウェルビーイングを後押しできるかもしれません。ただ未解明な点も多く、丁寧な検証を重ねたいと考えています」

この発想は地域とも結びついています。ウィルキンソン発祥の地・兵庫県宝塚市とは歴史を踏まえた情報発信を、大分県別府市とは温泉入浴後の炭酸水飲用研究を実施。eスポーツによるまちづくりを進める神奈川県横須賀市とは連携し、部活動に励む生徒への活用法紹介や大会での炭酸水提供を行っています。

大分県別府市と地域の健康増進を目的とした包括連携協定を2023年11月27日に締結

「部活動中にスナック菓子や甘い飲料の代わりに炭酸水を飲めば、帰宅後に家族と栄養バランスの良い夕食を摂りやすくなる。生活習慣と家族とのコミュニケーションの両面で、健康的なアプローチになり得ると考えています」

炭酸が支える、心・体・社会

今後は大きく二つの方向を見据えています。一つは身体的な健康。炭酸水の継続飲用が、間食やアルコールの摂取行動、体重、健康診断の指標にどう影響するかを検証していきます。もう一つは人とのつながり。eスポーツで確認された一体感が、家族の食卓や職場、スポーツの場でも生まれるのか。共通体験としての炭酸水がコミュニケーションを後押しできれば、その価値は大きく広がります。

「炭酸には人と社会のウェルビーイングに役立てることが潜んでいると思うんです」

「ベースは一人ひとりの健康。そのうえで笑顔や一体感、人や社会との良いつながりといったウェルビーイングに炭酸水が貢献し、QOLが高まる文化を実現したい」

これらの知見は「アサヒ炭酸ラボ」を起点に発信されていきます。「炭酸水を飲む文化を育てることが、長い歴史を持つアサヒ飲料の使命です」と小杉さんは強調します。

喉を潤す身近な飲み物から、心・体・社会的なつながりを支える存在へ。炭酸の「リカバリー効果」と「ウェルビーイング効果」――その両輪を科学で可視化するアサヒ飲料の炭酸研究は、大きなポテンシャルを秘めています。

取材・文/大正谷成晴 撮影/関大介


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