
日本人に多い「ブラウティア菌」、新機能発見が切り開く「次世代の腸活」とは
ブラウティア菌は、日本人の多くが保有する腸内細菌の一種で、近年、抗肥満などの健康効果が期待されています。「次世代の腸活」の鍵ともいえるこのブラウティア菌。独自のデータを用いた解析から、ブラウティア菌と健康との関係やその機能を明らかにした国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 副所長の國澤純先生に、ブラウティア菌と健康リスクの関係や菌を増やす食事、腸内環境の検査、そして一人ひとりの腸内環境に合わせた「次世代の腸活」について伺いました。
日本人の腸内環境データから見出された、「ブラウティア菌」との出会い

國澤先生がブラウティア菌に注目され、その新たな機能を発見されたご研究の背景について教えていただけますでしょうか?
私が所属する国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所では、日本各地にお住まいの方を対象に、腸内細菌や食事などの情報と、健康状態に関する情報を紐づけた大規模なデータベース(NIBN JMD)の構築を進めています。

※國澤純先生の講演スライドより
その中で、BMIや糖尿病と関連する腸内細菌の解析をきっかけに、浮かび上がってきたのがブラウティア菌でした。
解析の結果、肥満ではない人に多く見られる菌として、「ビフィズス菌」「フィーカリバクテリウム」、そして「ブラウティア菌」の3つが挙がってきました。有用な菌としてよく知られている「ビフィズス菌」、さらに近年、健康効果が注目されている酪酸産生菌の代表格である「フェカリバクテリウム」と並んで、「ブラウティア菌」が出てきたことに興味を持ちました。

※國澤純先生の講演スライドより
そこで、ブラウティア菌についてさらに詳しく解析したところ、肥満だけでなく、2型糖尿病ではない人にも多いことが分かりました。ブラウティア菌の一種であるBlautia wexlerae(ブラウティア・ウェクセレラエ。以降、ブラウティア菌)を用いてマウスで検証したところ、高脂肪食による体重増加や脂肪の蓄積が抑えられ、糖代謝も改善することが確認できました。

※國澤純先生の講演スライドより
もともと、ブラウティア属の菌が内臓脂肪と逆相関することは先行研究でも示されていましたが、因果関係や具体的なメカニズムまでは解明されていませんでした。そこで私たちは、ヒトのデータ解析と動物実験、さらに代謝物の解析などを組み合わせて検証を進めました。その結果、ブラウティア菌が肥満や糖代謝に影響を与えることに加え、菌が作り出す代謝物や抗炎症作用など、そのメカニズムの一端も明らかにすることができました。
これまで「ブラウティア菌は肥満と何らかの関連がありそう」と示唆されていたところから一歩踏み込み、実験的にその機能とメカニズムを示したことが、私たちの大きな研究成果の1つだと考えています。
なぜ今、世界中で「ブラウティア菌」が注目を集めているのでしょうか?
世間では「やせ菌」や「デブ菌」といった言葉が聞かれるようになりました。その背景には、肥満の人の糞便を腸内細菌のいないマウスに移植するとマウスが太るという研究が大きなインパクトを与え、腸内細菌と肥満との関係が世界的に注目されるようになりました。
世の中のニーズとしては、「デブ菌」よりも「やせ菌」のほうが高いという背景があります。これに関連して、ヨーロッパで「アッカーマンシア菌」が「やせ菌」の代表格として注目され、世界的に研究が進んでいます。現在では、食品などへの応用に加え、糖尿病などの代謝性疾患への応用を目指した研究開発も進行中のようです。
一方、私たちの日本人の腸内細菌データを調べてみると、アッカーマンシア菌は欧米人を対象にしたデータと比べて少ないことが分かりました。そこで、「アッカーマンシア菌が比較的少ないのにも関わらず、なぜ日本人には肥満が少ないのだろう?」という疑問が生まれました。

※國澤純先生の講演スライドより
そこで、私たちの腸内細菌データを解析して見出してきたのがブラウティア菌だったというわけです。欧米で注目されてきたアッカーマンシア菌とは異なる、日本人に多く存在する有用な腸内細菌として、ブラウティア菌の機能をさらに明らかにしていくことには大きな意味があると考えています。
私たちの報告後、海外の研究グループからも「ブラウティア菌」のさまざまな有用性が報告されるようになってきました。ヒトでの臨床応用を目指した研究開発も世界的に進んでいるようで、今後さらに注目される菌の一つだと考えています。
「ブラウティア菌」が日本人に多い理由には、どのようなものが考えられるのか教えていただけますか?
明確な答えが出ているわけではありませんが、私は食生活が関わっているのではないかと考えています。というのも、遺伝的背景が異なるスウェーデンの方でも、ブラウティアに属する菌を多く保有している人が見られるからです。こうしたことから、遺伝的な背景だけではなく、食生活が関係しているのではないかと考えています。
その候補の一つとして注目しているのが「大麦」です。大麦の摂取とブラウティア菌の増加との関連を示す報告があり、その成分であるβ-グルカンと呼ばれる食物繊維が関係している可能性も考えられています。
日本では麦ご飯、スウェーデンではライ麦パンなど、穀物由来の食物繊維を摂取する食文化があります。こうした食習慣がブラウティア属細菌の保有と関連している可能性がありますが、大麦だけがその要因であるとは限りません。ブラウティア属細菌が好む他の食品や、増加を助ける細菌が存在する可能性もあると考えています。

ブラウティア菌が腸や全身の健康に果たす役割とメカニズム
ブラウティア菌が、腸の健康や全身の健康に果たす役割についてご解説いただけますでしょうか?
ブラウティア菌は、さまざまな代謝物を作り出します。私たちの研究では、その中でも「酢酸」と「オルニチン」に着目しました。これらの代謝物には脂肪の蓄積抑制や燃焼促進の作用などがあり、ブラウティア菌による抗肥満作用の一端を担っていることが分かりました。

※國澤純先生の講演スライドより
もう一つ重要なのが、ブラウティア菌が作る酢酸を起点とした、他の腸内細菌とのつながりです。酢酸はそれ自体がさまざまな健康に良い働きをするだけでなく、一部の酪酸産生菌が「酪酸」を作る際の材料としても利用されます。
酪酸は、腸の細胞の重要なエネルギー源となり、腸のバリア機能を維持するとともに、免疫バランスを整える働きを持っています。つまり、ブラウティア菌が作った酢酸が別の菌に利用され、酪酸へとつながっていくという、腸内細菌同士の「菌のリレー」が起こっているのです。
また、肥満の抑制以外で今、特に注目されている機能が「抗炎症」です。たとえば2型糖尿病を引き起こすメカニズムの一つとして、肥満によって引き起こされる炎症がインスリンの働きを悪くすることが知られています。そのため、たとえ太っていても2型糖尿病を発症しない人では、炎症がうまく抑えられている可能性があり、逆にやせていても発症してしまう人では、体内で炎症が抑えきれずにインスリンの働きを悪くしている可能性があります。つまり、肥満そのものだけでなく、肥満に伴う慢性炎症も2型糖尿病の発症に関わる重要な要因の一つなのです。
ブラウティア菌は「抗肥満」だけでなく「抗炎症」の作用も兼ね備えていることが、いま世界中から注目を集める大きな理由の一つと言えるでしょう。
先生が解明された、ブラウティア菌が全身の健康に寄与するメカニズムについてご教示いただけますでしょうか?
ブラウティア菌の健康への作用を考えるうえで、重要な視点が、他の腸内細菌との「菌のリレー」です。これは、ある菌が作った代謝物を別の菌が利用し、さらに別の有用な代謝物を作り出す。私はこうした腸内細菌同士のつながりを「菌のリレー」と提唱しています。
その代表的な例として注目しているのが、先ほども紹介した「酢酸」から「酪酸」へとつながる流れです。いま世間では、健康効果の面から「酪酸」が大きな注目を集めています。酪酸は腸管のエネルギー源となるほか、免疫バランスを整えるなどの働きを持っています。一方、腸内で酪酸が作られる際には、他の菌が作った酢酸が材料として利用される場合があります。つまり、酪酸が重要だからと言って酪酸を産生する菌だけを見るのではなく、その手前で酢酸などを供給する菌の存在も重要なのです。

※國澤純先生の講演スライドより
酢酸を作る代表格の菌が、ビフィズス菌やブラウティア菌です。ビフィズス菌も健康に良い働きをすることが良く知られている菌ですが、ブラウティア菌も、日本人が多く保有する菌であり、酢酸を作るだけでなく、健康効果をもたらすさまざまな代謝物を作り出すことから、新しい有用菌として期待しています。
日本人はブラウティア菌の保有率が高いとのことですが、肥満や2型糖尿病の発症リスクとの関係において目標とすべき数値などがあればご教示ください。
我々の解析データだと、1%以上ブラウティア菌を保有している人は多くの日本人で見られます。しかし、肥満や2型糖尿病のリスクとの関連を見ると、1%ではまだリスクが高く、5〜6%ほどになればリスクが下がることが分かりました。健康上の基準値として確立されているわけではありませんが、私たちのデータから考えると、5〜6%以上というあたりが一つの目安になる可能性があると考えています。
ブラウティア菌の保有率は、高ければ高いほど、健康効果をもたらしますか?
ブラウティア菌の保有率が増えれば増えるほどリスクが際限なく下がるというわけではなく、5〜6%を超えれば、リスクは下げ止まりになります。また、私たちのデータでは、ブラウティア菌が多い人でも、だいたい15〜20%程度ですので、5〜15%の範囲に収まるのが丁度いいバランスだと考えています。
これはブラウティア菌に限定した話ではないですが、特定の菌ばかりが増えすぎると、他の有用な菌が働くスペースを奪ってしまうことになります。どの菌でも、ある程度の量まで増えたら、そこからは「維持する」という視点も大切です。
















