
アミノ酸のリーディングカンパニーが挑むスキンケアの領域――味の素株式会社「JINO」30周年、築いてきた独自の価値
「味の素」と聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは食品や調味料ではないでしょうか。しかし味の素株式会社は、1972年から化粧品原料としてのアミノ酸を手掛け、1997年には自社スキンケアブランド「JINO(ジーノ)」を立ち上げました。2027年2月には30周年を迎えます。
100年以上にわたるアミノ酸研究の蓄積を、なぜスキンケアに生かしてきたのでしょうか。研究の最前線に立ち続けてきた味の素株式会社 バイオ・ファイン研究所 香粧品ソリューショングループの金子大介さんと、商品開発・PRを担う化成品部 JINOグループの久保祐美子さんに聞きました。
アミノサイエンス®を肌の健やかさへ
味の素株式会社は、うま味調味料「味の素」などを通じ、アミノ酸研究に長年取り組んできた企業です。その知見から生まれたのが、アミノ酸スキンケアブランド「JINO」。肌とアミノ酸の関係に着目し、保湿やエイジングケアを支えるブランドとして親しまれてきました。
味の素株式会社が化粧品領域に関わり始めたのは、「JINO」の誕生よりもさらに前のこと。1970年代から化粧品原料の開発・提供に取り組んできたと、金子さんは振り返ります。

「当社は1972年から化粧品原料の事業を始め、国内外の化粧品会社にアミノ酸系の原料を供給してきました。原料を開発し、用途を広げていく研究も続けてきたんです」(金子さん)
食品会社でありながら、なぜ化粧品原料に関わることになったのか。その背景にあるのが、味の素グループが掲げる「アミノサイエンス®」です。アミノ酸の働きを最大限に活用する研究プロセスや技術から生み出された素材、機能、サービスの総称であり、人・社会・地球のウェルビーイングに貢献することを目指しています。
久保さんは、肌とアミノ酸の関係をこう説明します。
「人の身体は、水分を除くと残りの半分がタンパク質でできていて、そのタンパク質はアミノ酸で構成されています。肌のうるおい成分にもアミノ酸が深く関わっているからこそ、肌を健やかに整えるうえでもアミノ酸は大切な存在だと考えています。そう考えると、私たちが化粧品原料の事業に関わるのは自然な流れでした」(久保さん)
食事やサプリメントのように、口から摂ることも重要です。一方で、スキンケアには肌表面から直接アプローチできる意味があります。2026年春、「JINO」はブランドコピーを「肌本来の力を、アミノサイエンス®で。」に刷新しました。
「アミノ酸には『肌にやさしい』というイメージがあります。ただ、やさしいだけではありません。忙しい日々で肌がゆらぐとき、アミノ酸でケアすることで、肌を整え、本来の力を引き出すお手伝いをしたいと考えています」(久保さん)
「JINO」はなぜ生まれたのか
「JINO」が誕生したのは1997年。当初は、味の素株式会社が自ら化粧品ブランドを持つことに慎重な声もありました。
それでもブランドを立ち上げたのは、アミノ酸の価値をより分かりやすく体現する必要があったからでした。
「化粧品原料を広げるにはどうすればよいかを考える中で、BtoC製品をやってみてはどうかという提案が出たんです。アミノ酸の一つのアプリケーションとして、自分たちが率先してスキンケア製品をつくったほうが、お客様にも分かりやすいのではないかという考えがありました」(金子さん)
久保さんも、「JINO」の出発点には「アミノ酸でもっと肌に役立てるのではないか」という思いがあったと話します。
「化粧品は、いろいろな原料や成分が組み合わさってできています。他社様の商品に味の素株式会社の原料が入ることもありますが、私たちからすると、アミノ酸は肌のもとでもあり、スキンケアの脇役ではなく主役となってお役立ちできるはずだという思いも。それを体現するには、自分たちでつくることが必要でした」(久保さん)
グループ内には、化粧品のOEM製造などを手掛ける味の素ヘルシーサプライ株式会社があり、工場や処方技術もそろっていました。基礎研究、原料開発、処方、製造をつなぐ体制があったからこそ、「JINO」は形になったのです。

「トレンドやお客様の声と、アミノ酸の力をもっと発揮するという観点とを融合させて一つのものを作っていくという感じです」(久保さん)
「化粧品業界には、ファブレスで工場を持たない企業も多くあります。一方、味の素グループには基礎研究から処方、製造までの知見があります。それを活用しない手はなかったのだと思います」(久保さん)
「JINO」は、単なる新規事業として生まれたブランドではないということです。アミノ酸の研究、化粧品原料の開発、グループ内にある製造・処方技術をつなぎ、味の素株式会社ならではのスキンケアを形にする取り組みとして始まりました。
研究と企画が連携する商品開発
金子さんは1991年に味の素株式会社へ入社。学生時代に界面化学を学んでいた金子さんは、入社当初「マヨネーズのような食品の研究に携わるのでは」と思っていたそうです。しかし配属されたのは、化粧品原料の応用研究部門でした。以来、基礎研究、高崎工場での処方開発、本社での販売、味の素ヘルシーサプライ株式会社の研究部門などを経験し、再び研究所へ。金子さんのキャリアは、「JINO」の歩みそのものとも重なります。
「基礎研究をやって、工場を経験し、本社で販売にも関わり、処方開発を経て、また研究所に戻ってきました。振り返ると、ずっと『JINO』の近くにいましたね」(金子さん)

「グルタミン酸を研究していく中で、『こういう機能を持たせられるのではないか』というアイデアから、化学的な加工をしてできたのが『アミソフト®』というアミノ酸系洗浄剤です。日々の研究から商品が生まれていきます」(金子さん)
「アミソフト®」について詳しい内容はこちらから読むことができます
一方、久保さんは2007年に入社後、家庭用営業、健康食品のマーケティング、レシピサイト「AJINOMOTO PARK」でのコンテンツ開発やSNS運用などを経験。「JINO」に関わるようになったのは4年前で、現在は商品企画とPRを担当しています。
「食品部門からきて化粧品の右も左も分からず、開発も通販事業も未経験。社内で転職したような気分でした(笑)」(久保さん)
日本化粧品検定などを通じて学び、研究所や味の素ヘルシーサプライ株式会社のメンバーとコミュニケーションができる土台をつくったそうです。
「こういうコンセプトの商品をつくりたい、こういう容器にしたいといったことを、研究所や味の素ヘルシーサプライ株式会社のメンバーと議論しながら形にしていきます」(久保さん)
久保さんが担当した代表的な商品が、ジーノ モイストシリーズのリニューアルです。顧客の声や市場の変化を踏まえ、保湿に加えてエイジングケアへの期待にも応える設計へと進化させました。
「お客様の美容に求めるものは変わっていきます。化粧水や美容乳液にも、もっと保湿力がほしい、エイジングケア成分が入っていてほしい、でもべたつきたくない。そうした声をコンセプトに反映し、リニューアルに生かしました」(久保さん)
アミノ酸を知り尽くした企業だからできること
「JINO」の特徴は、味の素株式会社が長年研究してきたアミノ酸を、スキンケアに贅沢に活用している点にあります。
「一番大きいのは、アミノ酸を研究してきた私たちが、そのアミノ酸をよく知り、贅沢に使っていることだと思います。アミノ酸は原料として扱いが難しく、ただ、たくさん入れればよいというものでもありません。バランスや配合の仕方も大事だからこそ、原料から処方、製造まで知見を持っていることが強みになります」(金子さん)
象徴的な商品が、アミノシューティカル クリームです。同商品には、アミノ酸やアミノ酸誘導体を含むアミノ酸系成分が23種類配合されています。

「『アミノシューティカル クリーム』の外箱に書いてある成分表示のこのあたりにアミノ酸系成分が集まっています」(久保さん)
「23種類のアミノ酸系成分を配合しようとすると、工場では材料を計量するだけでも1日近くかかることがあります。アミノ酸と一口に言っても、水に溶けやすいもの、混ざりにくいもの、入れるタイミングに工夫が必要なものがあります。そうした工業化の知見が味の素ヘルシーサプライ株式会社に蓄積されているからこそ、商品として成立させられるのです」(久保さん)
金子さんも、研究室で少量つくれることと、商品として安定的に製造できることは別だと語ります。
「アミノ酸系の成分をスキンケアに生かすには、原料の性質や配合の技術、製造の知見が必要です。そこを長年積み上げてきたことが、『JINO』の土台になっています」(金子さん)
「JINO」の土台には、肌のうるおいを支える天然保湿因子NMFや肌バリアに着目し、アミノ酸の力で肌を健やかに整える「アミノ美肌理論®」があります。エイジングケアというと、強い有効成分を思い浮かべる人もいるかもしれません。しかし、「JINO」が重視するのは、肌の土台ともいえるうるおいとバリア機能です。
「エイジングケアといっても、乾燥に由来する悩みは多くあります。目立つしわになる前の、まだ見えにくい段階から乾燥の影響は始まっています。だからこそ、早いうちから保湿をしっかり支え、肌を整えていくことが大切です」(久保さん)
金子さんは、アミノ酸の役割を「肌を本来の健やかな状態に近づけるサポート」と捉えています。
「乾燥したり、うるおいが不足したり、ハリが失われたりした状態を、健やかな状態に整える力をアミノ酸は持っていると考えています。肌にとって自然な成分だからこそ、やさしいだけでなく、しっかり支える存在でもあるのです」(金子さん)
使い方と体験をていねいに伝える
「JINO」ユーザーのボリュームゾーンは60代前後。ブランド初期から長く使い続ける人も多いそうです。
「もともと乾燥肌で若い頃から悩んでいて使い続けている方や、最近ではお母さんと一緒に使っていますという方もいらっしゃいます」(久保さん)
長く支持される理由の一つは、使用感と信頼感です。食品会社として知られる味の素株式会社が化粧品を手掛けることには意外性がありますが、同時に「研究開発や品質がしっかりしていそう」という期待にもつながっています。
「ウェブ広告などでもいろいろなテストをしていますが、『味の素株式会社の化粧品』という点に興味を持ってくださる方はいます。研究開発や品質がしっかりしているものなのだろうと、ポジティブに受け止めていただけるケースも多いようです」(久保さん)
一方で、使ってもらわなければ価値が伝わりにくいのも化粧品の難しさです。1日使ったときに感じることと、1週間続けたときに感じることは異なります。そのため「JINO」では、使用量や使い方も含めて、ていねいに伝えることを重視しています。

「30周年という節目で、改めてお客様目線に立ち返りたいと思っています」(久保さん)
そのために力を入れているのが、SNSなどを活用した情報発信です。Instagramでは製品の使い方や季節ごとの提案を広く発信し、トライアルセット購入者などには、より具体的な使い方やアンケートなどのコミュニケーションを行っています。
「忙しい生活の中で、肌がゆらいだり、今日は調子がよくないなと感じたりすることがあります。そういうときに、アミノ酸で肌を整えることが、毎日の小さなセルフケアになればいいと思っています」(久保さん)
スキンケアは、単に肌を整える行為にとどまりません。朝晩に自分の肌に触れ、状態を確認し、いたわる時間でもあります。肌の調子を整えることは、日々の気分や自分との向き合い方にもつながります。「JINO」が目指すウェルネスの広がりは、こうした日常の習慣の中にあります。
30周年、そしてアミノ酸ビューティーの可能性
2026年4月には、「JINO」からインナーケア食品「ジーノ ウェルビオ®」が発売されました。スティックタイプの顆粒食品で、グルコシルセラミド、ビタミンC、植物性乳酸菌、ポリグルタミン酸、ガラクトオリゴ糖などを配合。「JINO」は、外側からのスキンケアに加え、内側からのケアにも挑戦し始めています。

インナーケア食品「ジーノ ウェルビオ®」
「いろいろなチャレンジをしていきたいと思っていますが、直近ではまず『ジーノ ウェルビオ®』を育てていきたいです。スキンケアだけでなく、インナーケアも含めて、アミノ酸ビューティーの可能性を広げていくのが目標です」(久保さん)
そして、「JINO」は2027年2月に30周年を迎えます。
「『JINO』を長く使ってくださっているお客様に、改めて感謝を伝える一年にしたいです。30周年を一緒に歩んでいただいた感謝とともに、お客様の声に立ち返りながら、発信や商品づくりにつなげていきたいと思っています」(久保さん)
金子さんも、アミノ酸の価値をさらに広げていきたいと話します。
「アミノ酸の力を、もっと世の中に広めていきたい。その価値をお客様と共有し、お互いに幸せになることが目標です」(金子さん)
「JINO」は、食品会社が偶然始めた化粧品ブランドではありません。味の素株式会社が長年培ってきたアミノ酸研究、化粧品原料事業、グループ内の処方・製造技術が重なって生まれたブランドです。
外側からのスキンケアに加え、インナーケア食品へも領域を広げる「JINO」。2027年2月に30周年という節目を迎えるブランドは、これからもアミノ酸の力を軸に、肌と心身の健やかさに寄り添うウェルネスブランドとして進化していきそうです。
取材・文/大正谷成晴 撮影/関大介















