04認知症コラム
認知症の帰宅願望とは?
原因から家族ができる対応法までを解説
2026.02.27
認知症の方に見られる帰宅願望はご家族を悩ませる周辺症状の一つで、「家に帰りたい」という訴えに対してどう対応すべきか戸惑う方も多いでしょう。この記事では、認知症の帰宅願望が起こる原因を解説します。あわせて、ご家族が実践できる声掛けや効果的な対処法を具体的にご紹介しますので、参考にしてみてください。
認知症による帰宅願望とは?
◎「家に帰りたい」と繰り返し訴える行動
◎周辺症状(BPSD)の一つ
認知症による帰宅願望とは、介護施設に入居している方が「家に帰りたい」と繰り返し訴えたり、自宅にいるにもかかわらず「帰りたい」と言ったりする状態を指します。帰りたい場所は現在の住まいに限らず、故郷や実家など、本人にとって安心感のある場所を指す場合もあります。
特別養護老人ホームを対象としたある調査では、BPSD(周辺症状)の内容として帰宅願望は22.1%を占めており、決して珍しいものではありません。単なる問題行動ではなく、環境への不安や混乱、安心できる居場所を求める心理の表れとして理解することが重要です。
認知症による帰宅願望が起こる原因
認知症による帰宅願望は、本人の性格やわがままによって生じるものではなく、病気の進行や心身の状態が複雑に影響して現れる症状です。なぜ「帰りたい」という気持ちが強くなるのか、おもな原因について解説します。
記憶障害や見当識障害による混乱 環境の変化や慣れない場所での不安 夕暮れ症候群の発症 役割の喪失感や孤独感の出現 空腹や疲労などの身体的不快
記憶障害や見当識障害による混乱
認知症が進行すると、記憶障害や見当識障害によって現在の状況を正しく理解することが難しくなり、「ここは自分の家ではない」と感じやすくなります。時間や場所の認識が曖昧になることで、「早く帰らなければならない」といった思い込みが生じる場合も少なくありません。
こうした認識の不安定さが「帰宅したい」という行動欲求として表れることがあります。
環境の変化や慣れない場所での不安
認知症の方は状況を正確に理解する力が低下しているため、新しい環境や慣れない場所に置かれると強い不安を感じやすくなります。
周囲の音や人、生活リズムの変化が重なると「ここは自分の居場所ではない」という感覚が生じ、安心できる場所として記憶している自宅へ戻ろうとする気持ちが高まります。この不安が、帰宅願望として行動に表れるのです。
夕暮れ症候群の発症
夕暮れ症候群とは、夕方から夜にかけて認知症の症状が強まり、混乱や不安が増す状態を指します。この時間帯は「そろそろ帰宅の時間だ」と誤認しやすく、帰宅願望が表れやすくなります。
日没にともなう光の変化や影の濃さといった環境要因が、本人の中で「帰宅のタイミング」と結びつきやすいことも一因です。また、1日の疲労や緊張が積み重なる時間帯でもあるため、「休みたい」「家に戻りたい」という欲求が行動として表れやすくなります。
役割の喪失感や孤独感の出現
認知症が進行すると、仕事や家事、地域での役割など、これまで当たり前に担ってきた役割を果たせなくなる場面が増えます。その結果、「自分は必要とされていない」「何をすればいいかわからない」といった喪失感や孤独感が生じるケースは少なくありません。
こうした心理的な不安定さから、役割を持ち安心感を得られていた過去の生活や自宅を求める気持ちが強まり、帰宅願望として表れることがあります。
空腹や疲労などの身体的不快
空腹や疲労、体の痛みといった身体的な不快感は、認知症のある方の心の安定を乱し、「今の環境から離れたい」という欲求につながりやすくなります。心身の負担が積み重なると、結果として安心できる場所=自宅を求める気持ちが強まる傾向にあります。
こうした不快感を解消したいという自然な欲求も、帰宅願望を引き起こす要因の一つです。
認知症による帰宅願望への効果的な対応法6選
認知症による帰宅願望に直面すると、家族や介護者は戸惑いや負担を感じやすいものですが、対応の仕方次第で本人の不安を和らげられます。感情や状況に寄り添いながら、無理のない関わり方を実践するためのポイントを、具体例とともにみていきましょう。
本人の話をじっくり聞く 帰りたい理由を探り不安を解消する 話題を変える・興味を別に向ける 散歩などで気分転換を図る 役割や居場所を作る 環境を整える
本人の話をじっくり聞く
「帰りたい」という訴えを否定せず、まずは本人の話をじっくり聞くことが大切です。思いを受け止めてもらえるとわかれば本人の不安や焦りが和らぎ、感情が落ち着きやすくなります。
また、共感的な姿勢は介護者との信頼関係の維持につながります。頭ごなしに否定しない対応は、本人の気持ちや尊厳を守るうえでも重要です。
- 具体的な方法
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- 「どこに帰りたいのですか?」と優しく尋ねる
- 本人が話している間は、遮らずに最後まで聞く
- 「そうなんですね」と共感の言葉をかける
帰りたい理由を探り不安を解消する
帰宅願望の背後には、子どものことや家事、ペットの世話など具体的な不安が隠れている場合があります。その理由を丁寧に探ることで、不安の原因が明確になり、適切な対応が可能です。
心配事に対処できれば、帰宅願望が落ち着くことも少なくありません。根本的な不安に寄り添う姿勢が、本人の心を軽くします。
- 具体的な方法
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- 不安の中身を特定して、確認・解決する
- 「今すぐ帰る」をいったん延期して、安心できる行動に切り替える
話題を変える・興味を別に向ける
帰宅願望が強まっているときは、無理に説得せず話題を変えたり、興味を別のことに向けたりする方法も有効です。本人の好きな話題や活動に意識を向けることで、帰宅への執着が一時的に薄れ、気持ちが穏やかになりやすくなります。
また、記憶障害の影響で、話題が変わると帰宅願望自体を忘れる場合もあります。
- 具体的な方法
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- 「お茶を飲みませんか?」と別の行動に誘う
- 昔の仕事や趣味の話題に切り替える
散歩などで気分転換を図る
散歩に出て外の空気や景色に触れることは良い気分転換となり、「外に出たい」という行動欲求も満たされ、帰宅願望を和らげる効果が期待できます。また、日中に適度に身体を動かせば夜間の睡眠の質が向上するため、夕暮れ症候群の予防につながることも多いです。
- 具体的な方法
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- 「一緒に散歩に行きましょう」と外に出る
- 無理に引き止めず、本人のペースに合わせて歩く
役割や居場所を作る
簡単な家事や手伝いなどで構わないので、何か役割を作ることも大切です。本人のなかに「ここにいる理由」が生まれ、居場所を感じられるようになるだけでなく、役割を果たす経験が自己肯定感を高め、孤独感や喪失感の軽減にもつながります。
また、作業に集中する時間が増えれば、帰宅願望への意識や執着が自然と薄れる効果も期待できます。
- 具体的な方法
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- 「そうですか、家に帰りたいんですね」と受け止め、目を見てうなずきながら最後まで聞く
- 「心配なんですね」と共感する
環境を整える
生活空間に本人にとって見慣れた物や馴染みのある配置を取り入れるなど、環境を整えることも有効です。自宅にいる実感が湧きやすくなり、「帰る必要がない」と感じられるようになります。
見当識障害による混乱も起こりにくくなり、帰宅願望の頻度も下がる可能性があります。
- 具体的な方法
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- 家族写真や愛用品を部屋に置く
- リビングに専用の座る場所を作る
認知症による帰宅願望を悪化させるやってはいけない対応
帰宅願望への対応を誤ると、本人の不安や混乱が強まり、症状をかえって悪化させてしまうことがあります。気持ちに寄り添うためにも、避けるべき関わり方をあらかじめ押さえておきましょう。
否定する・説得する・叱る
本人の認識では「ここは自分の家ではない」と感じているため、「家ですよ」「帰る必要はありません」と否定や説得をしても理解は得られません。
むしろ、気持ちを否定されることで「わかってもらえない」という不信感が募って不安や混乱がさらに強まり、興奮や攻撃的な言動につながることもあります。介護者への信頼関係が崩れると、その後の対応がさらに難しくなる点にも注意が必要です。
嘘をつく・曖昧な返事でごまかす
その場を収めたいがために嘘をついたり曖昧な返事でごまかしたりすることも避けましょう。認知症の方であっても不自然さに気づき、「騙されている」「信用できない」といった不信感を抱きやすくなります。
こうした対応は介護者への信頼を損ない、猜疑心や被害妄想を強める要因にもなります。一時的にしのげたとしても、結果として帰宅願望をさらに強めてしまう可能性があるため注意しましょう。
無視する・話を聞かない
帰宅願望は本人にとって切実な訴えです。そのため、無視されたり話を聞いてもらえなかったりすると、「誰も自分の気持ちをわかってくれない」という孤独感や見捨てられたという不安が強まります。
その結果、帰宅願望がさらに強まるだけでなく、大声で叫ぶなど訴えがエスカレートすることもあります。無断で外出してしまうリスクも高まり、徘徊や行方不明といった重大な危険につながる可能性もあるため要注意です。
無理に引き止める・身体拘束する
帰宅しようとする本人を無理に引き止めたり身体拘束を行ったりするのも厳禁です。「閉じ込められている」「監禁されている」といった強い恐怖を感じさせてしまい、不安がパニックレベルに達すると、暴れたり攻撃的な行動に出たりする原因にもなります。
また、身体拘束は状況によっては虐待にあたる可能性があり、法的・倫理的にも許されない行為です。安全確保が必要な場合でも、別の支援の余地がないかをよく検討しましょう。
介護者が知っておきたい3つのセルフケア
認知症による帰宅願望への対応が続くと、介護者自身も心身に大きな負担を抱えやすくなります。無理を重ねず介護を続けるためにも、ここでご紹介するセルフケアの考え方を意識してみてください。
休むことに罪悪感を持たない
介護者が無理を重ねて心身を壊してしまうと、結果的に本人も介護者も共倒れになってしまいます。休息を取ることは「逃げ」や「サボり」ではなく、介護を長く続けるために欠かせない行動です。
「自分が休んではいけない」と自分を責める必要はありません。まずは自分自身の心と体を守ることが、安定した支援につながります。
介護サービスを使って一時的に離れる
訪問介護やデイサービス、ショートステイなどの介護サービスを利用し、数時間から数日間、介護から離れる時間を意識的に作ることも大切です。
一時的に距離を置くことは「本人を見捨てる」行為ではなく、介護者が心身のエネルギーを回復させるために必要な手段です。月に1回、週に1回など、定期的に休息の予定を組み、疲労が蓄積しないようにしましょう。
- 利用できる介護サービスの例
- ショートステイ デイサービス(通所介護) デイケア(通所リハビリテーション) 訪問介護
感情を誰かに話して孤独から抜け出す
認知症の介護では、つらさや不安を一人で抱え込みがちですが、認知症家族会や信頼できる友人に気持ちを話すだけでも心は軽くなります。日記を書いたり、SNSを使って匿名で思いを発信したりするなど、感情を言葉にして整理する方法も有効です。
完璧な解決策が得られなくても、「誰かに聞いてもらえた」という実感が孤独感の支えになります。
- 困った時の主な相談先
- 地域包括支援センター 認知症カフェ かかりつけ医 市区町村の高齢者福祉窓口 認知症家族会(家族会・支援団体)
認知症の帰宅願望に関するよくある質問
認知症による帰宅願望については、症状の見通しや対応方法、周囲の支援体制など、介護者が疑問や不安を抱きやすいケースが多くあります。ここでは、帰宅願望に関してよくある質問とその回答をまとめましたので参考にしてください。
Q帰宅願望はいつまで続きますか?
帰宅願望がどのくらい続くかは個人差が大きく、明確な期間の目安はありません。認知症の進行や不安・環境への適応状態によって変動し、数週間〜数か月、あるいはそれ以上にわたって継続するケースもあります。症状は一時的に落ち着くこともありますが、状況に応じた支援と対応が重要です。
Q施設入居後の帰宅願望にどう対応すればよいですか?
本人の気持ちを否定せず寄り添い、不安や混乱の原因を探りながら対応するのが基本です。理由を丁寧に聞き、安心感を与える環境や声かけを工夫することで症状の緩和が期待できます。無理な説得は避け、日常生活の中で安全かつ穏やかに過ごせる支援を考えていくことが大切です。
Q薬で帰宅願望を抑えられますか?
帰宅願望を直接抑える薬は一般的にはありません。抗精神病薬は一部の行動症状に効果が見られる場合もありますが、徘徊や帰宅願望に効果があるとは限らず、副作用やリスクもあります。そのため、非薬物療法で症状の緩和を図ることが推奨されます。
Q帰宅願望が強い場合、施設入所は難しいですか?
強い帰宅願望があるからといって、必ずしも施設入所が難しいわけではありません。ただし、帰宅願望を引き起こす不安や混乱への理解・対応は不可欠です。施設スタッフや家族が適切な支援や環境調整を行うことによって、施設生活に適応できるようになる可能性もあります。
認知症の帰宅願望は
「理解して支える」ことが重要
認知症による帰宅願望は、本人のわがままや問題行動ではなく、不安や混乱、安心できる居場所を求める心の表れです。対応を誤ると症状を強めてしまう一方、気持ちに寄り添い環境や関わり方を工夫することで、落ち着きを取り戻すケースも少なくありません。
また、介護者自身が無理をせず支援を受けることも、継続的なケアには欠かせない要素です。本人と介護者の双方が安心して過ごせる関係づくりを意識することが、帰宅願望と向き合ううえでの大切な第一歩となります。
帰宅願望への対応や介護者のセルフケアを続けていくなかで、「不安や混乱そのものを和らげる方法はないのか」と感じる方も多いのではないでしょうか。近年では、認知機能や精神的な安定に着目した新たなアプローチも注目されています。帰宅願望の背景にある脳の働きや最新の研究動向について知りたい方は、ぜひこちらの記事も参考にしてみてください。