04認知症コラム
認知症ケアで大切なことは?
知っておきたい接し方のポイントを解説
2024.06.24
認知症の方のケアは大変、というイメージを持っている方も多いでしょう。上手にケアできれば、問題行動を減らせるかもしれません。認知症の方に接するうえで、本人の意思を尊重することが何よりも大切です。この記事では、身近な方が認知症になられた場合など、ケアするうえで基本的に押さえておきたいポイントを紹介します。
認知症ケアとは?
認知症ケアとは、認知症の方の尊厳や個性、希望を守りながら、その人らしい人生を過ごせるようサポートすることです。これは、認知症の方が自分らしく生活できるように、その人のニーズに合わせたケアを提供することを目指しています。
厚生労働省は、認知症のケアの基本として「尊厳の保持」を強調しています。認知症の方一人ひとりが人間として尊重され、その人らしさを大切にすることが認知症ケアには欠かせないのです。
厚生労働省では、「認知症ケアの基本的考え方」において、「尊厳の保持」のための認知症ケアの基本として下記の4つを挙げています。
身体のケアと 心のケア |
本人のペースに合わせた対応と 一定の生活リズム |
---|---|
関係性の重視 | なじみの人間関係、なじみの居住空間 |
継続性と専門性の重要性 | 状態変化に対応した専門的ケア(医療との適時・適切な連携) |
権利擁護の必要性 | 高齢者本人の意思の代弁 |
また、認知症ケアの有名な概念として「パーソン・センタード・ケア」があります。これは、1980年代に、イギリスの心理学者であるトム・キッドウッドが提唱しました。パーソン・センタード・ケアも、認知症のある方が「個人」として尊重されるケアを目指しています。
認知症とは
脳機能の障害により、認知機能(記憶力・判断力など)が低下し、社会生活に支障をきたす状態のこと
認知症とは、複合的な要因で脳の機能が障害されてしまい、認知機能が低下して社会生活に支障をきたす病気です。認知症の症状は主に「中核症状」と「周辺症状」の二つにわけられます。
中核症状 | 周辺症状 | |
---|---|---|
発症者 | 全ての患者にみられる (程度の差はあり) |
症状がみられない 患者もいる |
進行 | 疾患の進行とともに 悪化する |
必ずしも疾患の進行と 比例しない |
症状例 | 記憶障害・失語・失行・ 失認・ 実行機能障害 |
暴力・暴言・徘徊・幻覚・ せん妄・うつ状態・ 無気力・ 不眠・過食 |
中核症状は、認知症に伴う主要な症状のことです。具体的には、記憶障害や思考力の低下が挙げられます。一方で周辺症状は、中核症状に付随して引き起こされる症状です。周辺症状は、とくに認知症の方の心理的状態が症状に大きく表れます。そのため、認知症の方がおかれている環境を整えることや、安心感を持って過ごせるようなケアが重要です。
認知症ケアがなぜ必要か
認知症の症状は、患者の心理状態が
大きく影響するからです
認知症ケアが必要な理由は、抑うつ状態や攻撃的な言動、不眠や介護への抵抗といった周辺症状が、環境やケアに影響を受けるためです。
認知症になると、記憶障害により不安や焦燥感を覚えることも少なくありません。以前は可能だったことができなくなる経験を通じて、気持ちが沈んだり、ミスを指摘されて落ち込んだりすることもあるでしょう。場合によっては、人格が変わって感情的になり、以前の性格からは想像できないような行動がみられることもあります。
認知症の方の心理状態は、症状を大きく左右する要因の一つです。そのため、認知症ケアにおいて、適切な環境やケアを提供することは非常に重要といえます。
認知症ケアで行うこと
ここでは、認知症ケアで介護者が行うべき内容を詳しく紹介します。記憶力の低下に伴うさまざまな問題に対処する方法をみていきましょう。
日常生活での安全確保・見守り
日常生活での安全確保と見守りは、ケアにおいて重要なことの一つです。
認知症の高齢者の多くは、記憶障害などの中核症状により、不安や焦燥感を覚えて徘徊などの行動障害を起こすことがあります。さらに判断力の低下により、日常生活で危険に遭遇することも少なくありません。
そのため、日常生活を全体的に見守り、観察し、認知症の方が置かれている精神状態を理解することが大切です。
体調と健康の管理
体調と健康の管理は、認知症ケアにおいて大切な課題です。
認知症の方のなかには、心身の不調を適切に伝えたり、自分自身の健康や体調を管理したりすることが難しい方もいます。そのため、体調管理を全て本人に任せるのではなく、周囲の人間が適度に体調の良し悪しを気にかけることが大切です。
具体的には、食事や水分の摂取状況、排泄の状況、顔色や皮膚の状態の観察、薬の管理などが含まれます。あまりやりすぎると尊厳を傷つける可能性があるため、本人ができることは任せるようにしましょう。
リハビリテーション
認知症ケアにおけるリハビリテーションは、認知症の進行を遅らせる効果があるといわれています。
作業療法や理学療法などの専門的なリハビリテーションが必要と判断される場合には、介護保険によるサービス(訪問リハビリテーション、通所リハビリテーションなど)が受けられます。担当のケアマネジャーに相談して、利用が可能かどうか検討してみましょう。
作業療法と理学療法では下記右記のような内容を実施します。
リハビリの種類 | 内容 |
---|---|
作業療法 |
|
理学療法 |
|
ストレスなく生活できる環境づくり
認知症の方にとって、ストレスなく安心して過ごせる環境をつくることにも着目しましょう。
認知症の方のなかには、認知症状の出現や肉体的な衰えにより日々ストレスや不安を感じている方も少なくありません。安心して過ごせる環境づくりの例として、住宅内の段差を減らす工事を行ったり、手すりなどの転倒やけがの危険を減らす福祉用具を活用したりするなどが挙げられます。
ただし、急激に居住環境を変化させると変化に適応できず、かえってストレスを感じてしまう場合もあります。状況を見ながら環境づくりを進めましょう。
認知症ケアで大切な6つのこと
認知症のケアでは、認知症の方の尊厳を保つことが欠かせません。では、具体的にどのような点に気をつけるのがよいのでしょうか。ここでは、認知症ケアにおいて大切な6つことを紹介します。
失敗や間違いを責めない
「できる」を奪わない
わかりやすく言葉を
工夫して簡潔に話す
スキンシップを
頻繁に取る
環境を急に変化させない
孤独にならないよう見守る
失敗や間違いを責めない
失敗や間違いがあっても受け入れることは、認知症の方を尊重するうえで重要です。
認知症の方は認知症状の低下により、失敗や間違いをすることもあるでしょう。だからといって認知症の方が失敗や間違いをした際に指摘したり、叱ったりすると、その人の尊厳が傷つく可能性があります。プライドや尊厳を保つことは、認知症の進行を防ぎ、精神的安定を保つために必要です。
たびたび繰り返される失敗にイライラしたり、子ども扱いしたりしてしまいそうになることもあるかもしれません。それでも本人の話にしっかりと耳を傾け、相手を尊重する接し方を心がけましょう。
「できる」を奪わない
認知症の方が自分でできることまで奪ってしまわないよう注意しましょう。
失敗やトラブルを恐れてなんでも周囲が世話をしてしまうと、身の回りのことを自分で行う機会が奪われてしまいます。かえって、本人の生活能力の大幅な低下につながりかねません。
認知症の方の主体性を尊重して、着替えや家事、趣味など、本人が可能そうなことは見守りつつ、一緒に行うなどの工夫が大切です。見守る際には、たとえ動作が遅くても急かさないように心がけましょう。
わかりやすく言葉を工夫して簡潔に話す
認知症の方とコミュニケーションをとる際は、わかりやすい言葉で簡潔に話すことが大切です。
認知症の方は、認知機能低下の症状により、話や言葉を理解することが困難です。そのため、早口で話したり、一気に複数の内容を話したりすると、混乱させる場合があるでしょう。
話すときは誰が話しているのかがわかるよう、まず相手の視野に入ることを心がけてください。それからゆっくりと、理解しやすい言葉で、簡潔に話しかけると理解しやすいでしょう。表情をしっかりと読み取り、理解度や心情を汲み取りながら話すのがポイントです。
スキンシップを頻繁に取る
スキンシップを頻繁に行うことで、認知症の方の孤独感を解消するよう心がけることも重要です。
スキンシップによる触れ合いは、幸せホルモンと呼ばれる「オキシトシン」の分泌を促し、ストレスや関節の痛みを軽減する効果があるといわれています。ただし、人によってはスキンシップを嫌がる方もいます。そのような場合には、無理をして触れようとしないことが大切です。
環境を急に変化させない
環境を急に変えて、認知症の方を混乱させないよう配慮しましょう。
前述のように、認知症の方は周囲の状況を理解することが難しくなります。環境が急に変化することで不安や混乱を招き、ストレスを感じる原因につながることも少なくありません。たとえば、老人ホームや介護施設に入居すると、認知症が悪化する場合もあります。
環境を変化させる場合は、少しずつ変化に慣れるように配慮をしましょう。
孤独にならないよう見守る
認知症の方が孤独にならないよう、コミュニケーションを保つことを心がけるのも大切です。
家族や友人との交流がないと孤独感や不安感を覚え、認知症の症状が悪化する可能性があります。また、コミュニケーションは脳の活性化につながり認知症の悪化予防にも役立ちます。
同居していたり近くに住んでいたり場合は声をかける、遠方の場合は定期的に電話をするなどするようにしましょう。
認知症ケアにおける適切な接し方
介護者の接し方は、認知症の方の精神状態を大きく左右します。ここでは基本的な接し方のコツを紹介します。
耳元で聞こえやすいように話す
できたことを褒める
小さなことも感謝する
相槌をまめにはっきり打つ
言動だけでなく、表情を
よく見て精神状態を把握する
耳元で聞こえやすいように話す
耳元でゆっくり・はっきりと聞こえやすいように話すことを心がけましょう。
年齢を重ねると、聴力が衰えることは仕方のないことです。聴力の衰えに加えて認知症があると、ただ聞こえないのではなく、言葉が理解できなくなってしまったのだろうか、と勘違いしてしまうこともあるかもしれません。
聞こえないことで本人が不安に感じたり、ストレスに感じ精神状態が悪化したりする可能性があります。そのようなことがないよう、耳元でゆっくり聞こえやすい声で話しましょう。
できたことを褒める
できないことにではなく、できたことに着目しましょう。
記憶力や判断力の低下によってさまざまなことができなくなってしまうことや、忘れていってしまうことに最も不安を感じているのは認知症の方です。少しでも気持ちを前向きに持ってもらうためにも、「できたこと」に焦点を当てて、積極的に褒めてあげましょう。
その方の好きなことや得意なこと、人生の先輩としての貴重な経験談などを褒めるとコミュニケーションがうまくいきます。
小さなことも感謝する
どんなに小さなことであっても、感謝の気持ちを伝えることが大切です。
認知症の方のなかには、認知症になって迷惑をかけている、という思いが強い人も少なくありません。小さなことや、本人のできることをこまめに頼み、感謝の気持ちを伝えることで、「誰かの役に立っている」という実感を持ってもらえるようにするとよいでしょう。
「誰に何を感謝された」などの記憶は忘れてしまっても、「私は役に立てる」という感情の記憶が残り、心の安定につながります。
相槌をまめにはっきり打つ
気持ちを明るく健やかに保ってもらうためにも、認知症の方の言動をなるべく肯定してあげましょう。
なんとなく話を聞き流したり適当な相槌を打ったりすると、「伝わっていない」と思われかねません。「話を聞いてもらえた」「共感してもらえた」という気持ちを持ってもらうためにも、目線を合わせてはっきりと相手に伝わるように相槌を打つのがポイントです。
気持ちを共有できたと思ってもらえると、安心感につながります。
言動だけでなく、表情を
よく見て精神状態を把握する
不安そうな表情をしていないか、違和感はないか観察しましょう。
認知症は周囲にもショックや不安感をもたらしますが、誰よりも不安を抱いているのは本人です。かつての自分の姿とのギャップで感じる不安や悲しみなどを、周囲に伝えづらい場合もあります。
表面化する言動が攻撃的な場合は、内面で不安や悲しみを抱えているサインかもしれません。ふとした表情などに、表出しにくい感情を抱えたサインがないか、注意深く見守るようにしましょう。
認知症介護をする方へのケアも忘れずに
認知症のケアを続けていくためには、介護する方自身のケアも忘れないでください。
介護の合間に意識的に息抜きや気分転換したり、リラックスする時間をつくったり、疲れ切ってしまう前に適度にストレスを解消するようにしましょう。
悩んでいることを周囲へ相談したり、デイサービスやショートステイ、訪問介護サービスを利用したりするなど、負担を減らす手段を探してみましょう。精神的にも、肉体的にも一人で抱え込まないようにすることが重要です。
認知症ケアの専門士に頼るのもひとつの方法
ケアする側、される側の双方のためにも、認知症ケアのプロである認知症ケア専門士に頼ることを検討してみるのもよいでしょう。
認知症のケアは、周囲にとってショックな症状が表面化します。また本人にとっては、親や親せきなどのよく知っている人がまるで知らない人になっていくように感じるなど、戸惑いが多く伴うものです。
ケアを行う側の精神状態は、認知症患者本人との接し方に影響を及ぼすことがあります。ケアの過程で怒りや責任を感じると、患者本人が抱えるストレスも増大しかねません。悩んでいる場合は、認知症ケアのプロに頼ることは有効な手段といえるでしょう。プロのケアを見ることで、自分たちがどのように接すればよいかの参考になることもあります。
抱え込みすぎるまえに、相談してください。
- まずは相談を…
-
・地域包括支援センター
・認知症疾患医療センター など
認知症のケアの基本は安心感を持ってもらうこと
認知症のケアにとって大切なことは、本人の尊厳を保ちながら、記憶力が衰えゆく中でも安心感を持って生活してもらえるように支援することです。そうすることで精神の安定につながり、周辺症状によるトラブルが少なく過ごせるでしょう。まずはケアする側が心に余裕を持って接することから始めてください。