04認知症コラム
【認知症介護の基本】
心構えや注意すべき言動と対応について解説
2025.10.08

高齢化が進み、認知症患者の方が年々増加するなか、認知症患者の家族や介護者も増加しています。認知症を介護する可能性は誰にもあるからこそ、介護者としての心構えや注意すべき言動を知っておくことは大切です。この記事では、認知症介護について知っておきたい事柄をまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
基礎知識認知症の概要
認知症とは、脳の神経細胞の働きが変化し、記憶力や判断力といった認知機能が低下して社会生活に支障が生じた状態のことです。認知症の前段階とされる軽度認知障害も含めると、65歳以上の約3人に1人は認知機能にかかわる症状があると考えられます。
認知症の根本的な治療はまだ確立されていません。しかし、適切な治療や生活の見直しにより、進行を遅らせたり症状を緩和したりすることは可能です。そのためにも、家族や周囲のサポートが欠かせません。
また、認知症は早期発見が重要です。軽度認知障害の時点で適切な対応をすれば、健康な状態に戻ることも可能とされています。
認知症介護における6つの心構え
認知症の介護期間は6~7年といわれていますが、個人差があり10年を超えることも珍しくありません。介護が長期化することも想定し、精神的・身体的に備えておくことが大切です。
一人で抱え込まない 言動の背景を考える 周りと比べない 弱音を吐き出す 認知症の方を中心にしたケアを行う 外部のサービスを積極的に活用する

一人で抱え込まない
認知症の介護は、精神的・身体的に負担が大きいとされています。家族や親族と話し合い、複数人でサポートすることが必要です。周囲に協力できる人がいないときは、外部のサポートサービスに相談しましょう。一人で抱え込まないことが、介護を続けるためのコツでもあります。
言動の背景を考える
認知症には、判断力の低下や失語といったほとんどのケースで見られる中核症状だけでなく、徘徊や暴力、暴言といった個人差の大きい周辺症状があります。
認知症の方の言動に注目し、理由や背景を探ってみましょう。何か改善できるアイデアが見つかるかもしれません。また、認知症への理解を深め、冷静に対応することも大切です。
周りと比べない
認知症を発症する年齢や進行速度には、個人差があります。「あの人はうちの母親よりも年上なのに、自分のことは自分でできている」「まだ〇歳なのに寝たきりなんて……」と比較するのは無意味です。
また、介護についても同様です。各家庭で状況は異なるため、「あの家ではお嫁さんが介護を一人で引き受けている」「介護施設に預けっぱなしで、会いにも行っていないようだ」のように比較してはなりません。周囲を気にせず、自分が無理なく取り組める介護を目指すようにしましょう。
弱音を吐き出す
介護が長期化すると、辛いことも増えてきます。また、今までの健康な姿を知っているからこそ、記憶力や判断力の低下など対して悲しみを感じることもあるでしょう。
すべて一人で解決しようとするのではなく、辛いことや悲しいことをこまめに吐き出すことが大切です。家族や友人、認知症を介護している人々と話す機会を設けましょう。
認知症の方を中心にしたケアを行う
認知症の方の「その人らしさ」や「尊厳」を重視するケアを行うことが、認知症介護では重要です。
近年、身体的・感覚的なアプローチが中心のユマニチュードや心理的・社会的な理解に重きを置くパーソンセンタードケアなどといったケアの方法が注目されています。そういった認知症の方に寄り添ったケアの方法を知り、実践してみるとよいでしょう。
外部のサービスを積極的に活用する
介護者が我慢し続けることが「よい介護」ではありません。介護者自身の精神的・身体的健康を第一に考え、介護の限界が訪れる前に外部サービスや行政サポートに相談するようにしましょう。
在宅介護のサポートサービスから施設入所まで、さまざまな選択肢があります。適切なサービスを利用し、介護の負担軽減を図りましょう。
認知症介護で大切にすべきこと
認知症の症状や認知症の方本人の性格は、一人ひとり異なります。「認知症介護はこうあらねばならない」と決めつけるのではなく、本人の尊厳を傷つけないようにしつつ、よい感情を大切にしながらペースに合わせて介護を進めていきましょう。
また、認知症の周辺症状には、徘徊や抑うつ状態のように一人にしては危険な症状もあります。本人が孤独な状態にならないように見守ることも大切といえるでしょう。
そして何より大切なのが、介護者が介護や悩みを一人で抱え込まないことです。家族や親族、地域のサービスなどに頼り、無理のない介護を目指しましょう。
本人のペースに合わせる 本人の尊厳を傷つけない よい感情を大切にする 孤独にならないように見守る 一人で抱え込まない
認知症介護でNGな接し方
認知症の症状が進行しても、本人の尊厳が失われるわけではありません。大声で叱ったり、失敗を責めたり、間違いを細かく指摘したりすることは、本人の尊厳を傷つける行為のため、避けるようにしましょう。
認知症や加齢により、身体の動きや思考速度が遅くなることがあります。行動を急かしたり、極端に制限したりすることも避けるようにしてください。
また、同じ発言を繰り返したり、介護者について回ったりすることもあります。いずれも認知症による変化と考えられるため、無視・放置をするのではなく、適切な声がけや対応が必要です。
大声で叱る 失敗を責める 間違いを細かく指摘する 行動を急かす・制限する 無視・放置する
認知症介護でとくに注意すべき言動と対応
認知症が進行すると、さまざまな症状が見られるようになります。なかには介護を難しくする症状もあるため、どのように対応することが望ましいか理解しておくことが必要です。

暴力・暴言
認知症により感情のコントロールが難しくなると、暴言や暴力などの周辺症状が見られることがあります。否定したり無視したりせず、まずは本人の気持ちを受け止め、共感しながら理解するようにしましょう。
また、本人が落ち着いてから暴言・暴力の原因を探ることも大切です。睡眠不足が続いている、不安を感じているなどの原因が見つかることもあります。原因が見つかったときはなるべく取り除くように働きかけ、精神的に安定した状態で暮らせるようにサポートしましょう。
- 対応例
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- 共感を示す相槌を打ちながら、本人の話を丁寧に聞く
- 暴言・暴力の原因を探り、生活の中から取り除くようにサポートする
妄想・幻覚
物を盗られた、存在しない人が見えるなど、認知症により妄想や幻覚が生じることがあります。周りから見ればあり得ないことでも、本人にとっては現実の感覚です。頭ごなしに否定せず、なおかつ本人の妄想・幻覚に巻き込まれないように注意するようにしましょう。
事実かどうかは別にして、本人が困っているときには同情を寄せることが必要です。まずは本人の気持ちに寄り添い、安心できるように配慮しましょう。
- 対応例
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- 物を盗られたと訴えているときは一緒に探す
- 幻覚を訴えるときは部屋を明るくし、患者さんの話を聞く
徘徊
認知症の周辺症状の一つとして、徘徊が見られることもあります。誰にも行先を告げずに外を出歩いたり、自宅への帰り道がわからなくなってしまったりすることも少なくありません。
本人が外に出たいような素振りを見せたときは、「どこに行くのですか?」「一緒に出掛けましょうか?」と声をかけることができるでしょう。また、洋服や持ち物に名前と住所を記載し、万が一に備えることも大切です。
- 対応例
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- こまめに声がけを実施し、本人が困った状況に陥らないようにする
- 家の中や周辺に段差をなくし、先が尖ったものなどを置かないようにする
異食
認知症が進行すると、食べ物と食べ物以外を識別できなくなったり、食欲を抑制できなくなったりすることがあり、食べ物ではないものを口に入れる「異食」が見られることもあります。
異食は寂しさにより生じることもあるため、本人に寄り添い、話しかける機会を増やすようにしましょう。また、危険なものを口に入れないよう、あらかじめ手の届かない場所に置いておくことも大切です。
- 対応例
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- 洗剤や医薬品などの口に入れてはいけないものは、鍵がかかる場所などに片付ける
- 食べ物以外を口にしようとしたときは、お菓子やフルーツなどに誘導する
不潔行為
お風呂に入らない、下着を替えないといった不潔行為が見られることもあります。また、失禁が増え、便を手で触れる弄便(ろうべん)も認知症の周辺症状の一つです。
臭いが充満するだけでなく、掃除も増えるため、介護者の負担が増大します。トイレに行くように声をかけたり、おむつをこまめに交換したりすることで、弄便しにくい環境を構築しましょう。
- 対応例
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- 手洗いやトイレなどを促すように声をかける
- おむつをこまめに交換する
介護拒否
物忘れが進んでいることや不安感の高まりにより、本人が介護を拒否するケースもあります。認知症の方が拒否するときは無理に介護をするのではなく、まずは話に耳を傾けるようにしましょう。
本人の気持ちを聞くことで、何が嫌なのか、どのような点に不安を感じているのか理解できることもあります。また、本人が興奮しているときは少し時間を置き、落ち着いたタイミングで介護を提供するようにするのも一つの方法です。
- 対応例
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- 可能な限り本人の希望を叶えるようにサポートする
- 気分を安定させる薬剤の処方について、医師に相談する
在宅認知症介護で頼れるサービス
在宅介護を続けるにあたり、利用できるサービスの種類を把握しておくことが大切です。主なサービスとサポート内容を紹介します。
訪問介護
訪問介護とは、被介護者が自立した生活を自宅で送るために利用できるサービスです。訪問介護員が自宅を訪問し、食事や入浴などの身体介護や、掃除や調理といった生活援助を提供します。要介護1~5の認定を受けた方なら、一定時間まで介護保険が適用されるため、介護費用を抑えることが可能です。
訪問看護
訪問看護とは、利用者の心身機能の維持回復を目的として、主治医の指示に基づき、看護師が自宅を訪問して世話や診療補助を提供するサービスです。血圧や体温の測定、入浴や排泄の介助、リハビリテーションなどを受けることがあります。なお、訪問看護は要介護者・要支援者ともに利用可能です。
デイサービス/デイケア
デイサービス(通所介護)は利用者の孤立感解消や心身機能の維持、介護負担の軽減などを目的として、通所介護施設に通って日常生活支援や機能訓練などを受けるサービスです。要介護認定を受けた方だけが利用できます。
一方、デイケア(通所リハビリテーション)は、老人保健施設や病院などで食事や入浴などの生活支援や、生活機能向上のための機能訓練などを受ける日帰りサービスです。要介護者・要支援者ともに利用できますが、事業所の規模や要介護度などによって負担額が異なります。
ショートステイ
ショートステイ(短期入所生活介護)は、利用者の孤立感解消や心身機能維持・回復、介護者の負担軽減を目的として、介護老人福祉施設などに短期間入所するサービスです。入浴や食事といった日常生活支援や絹訓練などを受けます。なお、要介護者・要支援者ともに利用でき、連続利用日数は30日までです。
入所認知症介護で頼れるサービス
認知症患者の介護を通所で受けることも可能ですが、施設に入所して受けることも可能です。主なサービスを紹介します。
特別養護老人ホーム
特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)とは、入所者に日常生活支援や機能訓練などを提供する施設です。ただし、要支援認定を受けた方は利用できません。また、要介護認定1、2の方も、やむを得ない事情がある場合以外は新たに入所することはできません。
介護付き有料老人ホーム
介護付き優良老人ホームとは、介護を受けられる高齢者向けの居住施設です。
介護には「一般型特定施設入居者生活介護」と「外部サービス利用型特定施設入居者生活介護」の2種類であります。施設内のスタッフから介護を受けられるのが「一般型特定施設入居者生活介護」です。「外部サービス利用型特定施設入居者生活介護」では、施設が決めた委託先の介護サービス事務所による介護を施設内で受けられます。
入居時の条件は、施設ごとに異なるため確認しておきましょう。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とは、高齢者単身世帯・夫婦世帯が入居できる賃貸住宅です。バリアフリーや一定の面積といったハード面の条件と、ケアの専門家による安否確認サービスや生活相談サービスといったソフト面の条件を満たしています。また、他のサービスや入居条件は住居ごとに異なるため、事前に確認しておくことが必要です。
利用できるサービスを確認しておこう
認知症の介護は長期化することも珍しくなく、介護者に大きな負担がかかります。心身ともに健康に介護をするためにも、在宅介護の支援サービスや通所・入所施設によるサービスを活用するようにしましょう。
また、認知症についての情報を更新することも大切です。認知症の研究は世界中で実施されています。常にアンテナを張り、認知症の介護に役立つ情報を入手するようにしましょう。