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【Opinionインタビュー後編】認知症予防実践の場「健脳カフェ」で完結する最先端医療

認知症は医学的な裏付けと最新の医療機器をもって、早期から予防できる時代に。産学共同で形づくる“認知症予防カフェ”では、エビデンスのある予防プログラムで脳の健康寿命を延ばすことができます。
認知症の専門医がなぜ認知症予防のための場を作り、医療従事者だけではなく、企業や企業団体などと連携をしながら活動を展開しているのか。その理由を、日本の認知症治療における第一人者であり、アルツクリニック東京院長の新井平伊医師に伺いました。

「認知症は人生の終わりではない」先制医療を実践の場へ!

新井先生には前回、認知症における検査機器や最新医療でおこなう“先制医療“の必要性について、ご解説いただきました。それを実践される、「健脳カフェ」の創設にいたった経緯について教えていただけますか?

これまで、診断後の認知症に対する課題は、「薬を飲むほかに進行を予防する方法が分からない」「家族や周囲は悪化するのを見守るだけ」という先の暗いものでした。そもそも認知症の経過は、SCD※の段階から周囲が気付かないままMCI※へと移行し、ゆっくりと認知症を発症します。そして薬を飲み始め、重度となれば介護サービスを利用することになります。しかし、早期の診断ほど、患者さんとそのご家族には早くから絶望を与えてしまうようなものだったのかもしれません。
しかし今では、発症や進行を遅らせることができるようになりました。また、認知症に移行する前なら、元の状態に回復することもありえます。
ただし、基礎研究や疫学調査エビデンスを基にした有効とされる認知症予防対策も、一般のひとが広く実践できなければ意味がありません。そこで2021年4月、これらの予防対策を医学的知見のもと実践する場として「健脳カフェ」を開業しました。今までにないタイプの予防カフェで、脳の健康寿命を延ばし人間らしく生きつづけることを目指す、“認知症の先制医療的拠点”です。

※MCI:軽度認知障害。認知症の一歩手前の状態を指す。
※SCD:主観的認知機能の低下。自分だけが気づく変化が現れる。

「健脳カフェ」でおこなう予防対策について、基盤としていることはどんなことでしょうか?

私たちの将来的な目標は、認知症にならない一次予防をおこなうことですが、現段階ではまだ不可能です。一方で、発症のリスクを下げたり発症を遅らせたりする二次予防は、確実にできます。これからは、発症リスクを早期に予見して予防を始めることが当たり前の時代になるでしょう。
「健脳カフェ」では、脳の老化は4種類あることをふまえて、予防プログラムをおこないます。その4つとは、身体全体と脳の血管、脳の神経細胞、そしてメンタルです。これらの老化を少しでも防ぐことが脳の老化を遅らせて、いくつになっても健康な状態を維持し、認知症を予防することにつながります。
注意したいのは、認知症は症状が進むほど自分の状態の理解がむずかしくなるということ。そうなると、治療に取り組もうという意思を維持しにくくなるため、早めの予防開始が欠かせません。

医学的知見では、どのような手段があるのでしょうか?

我々の目指すところは、3つの要素で構成されています。ひとつ目は、認知症の早期発見や治療をおこなう「アルツクリニック東京」です。2つ目は、最新医療機器で発症リスクを予測などができる「健脳ドック」。そして3つ目は、発症を遅らせるための予防プログラムを実践する「健脳カフェ」です。
このなかで、アルツクリニック東京は“治療医療”にあたり、症状や個別のライフスタイルにあった薬の処方や治療の評価をおこないます。対して、あとのふたつが“先制医療”です。
「健脳ドック」では、アミロイドPET検査でどのくらいアミロイドβが溜まっているかを検査し、発症リスクを予測します。加えて、血液検査や認知機能の評価に重要な神経心理検査、ほかの認知症タイプの有無を調べる頭部MRI検査もわずか半日で実施。ここでおこなう検査は、いわゆる“脳ドック”とは比較できないほど核心に迫る内容です。
そして「健脳カフェ」では、これらの医学的な検査から得られた情報と医師の知見をもと、予防プログラムへと取り組むことになります。

予防に特化した「健脳カフェ」の特徴と実態に迫る!

既存の“認知症カフェ”と、「健脳カフェ」との違いについて教えていただけますでしょうか?

まず、 “認知症カフェ”のもとになったのは、1990年代から始まったオランダのアルツハイマーカフェです。その目的は、それぞれが社会から孤立してしまうのを防ぐこと。参加者は、認知症を発症したひとやそのご家族および関係者などです。そこでは、経験したことや悩みを共有したり、会話や飲食、イベントなどを楽しんだりすることで同じような境遇の人たちと交流します。運営しているのは、社会福祉法人や自治体、NPO団体などが多いようです。
対して、認知症予防を目指した「健脳カフェ」の目的は、脳の健康寿命を延ばすこと。参加者は、現在の脳の状態を医学的に知り、エビデンスのある予防対策に取り組みます。また、運営には最先端の検査機器が整った医療機関のほか、老年心理学を専門とする大学の研究室や、予防と啓発活動に関わる各団体などが携わっています。こうした幅広い産学連携によって認知症予防・リスク低減に役立つ情報や実践をサポートする場という点でも、“認知症カフェ”と「健脳カフェ」は大きく異なると言えるでしょう。

「健脳カフェ」の特徴について、教えていただけますか?

「健脳カフェ」には、幅広い産学連携によりかなえることのできるプログラムのほかにも、3つの特徴があります。
ひとつ目は、専門医が常駐し最新医療の裏付けがあること。併設する「健脳ドック」では、最先端の検査機器を用いて確定診断をおこないます。この検査で、発症する20年以上も前から増え始めているアミロイドβを画像で確認し、未病の段階をさらに細分化することが可能です。参加者は、アプローチする術がないと思われてきた未病の段階で発症リスクの裏付けがなされることにより、予防に対して前向きに取り組めるようになるでしょう。
2つ目は、未病の段階でおこなう二次予防を対象としていること。「健脳カフェ」では、脳の老化予防に加えて生活習慣病など身体の老化予防もおこないます。なぜなら、人間の意欲を左右する前頭葉は、認知症によって真っ先に機能的ダメージを受けてしまうからです。
そして3つ目は、エビデンスの発信。アルコール多飲傾向や社会的孤立を回避するといった非薬物的なアプローチにより、どのくらい認知機能が改善したのか。さまざまな予防プログラムをおこなった結果を、エビデンスとして創生していければと思っています。

「健脳カフェ」では具体的に、どのようなプログラムをおこなっていますか? 

おもに脳機能改善にエビデンスのある運動や、学生たちとの談話、対人ゲーム、カラオケ、家族会相談などをおこなっています。
たとえば、有酸素運動をしながら計算やしりとりをする“デュアルタスク(二重課題)”のプログラムは、若い学生たちでもむずかしいようです。参加者同士で「むずかしいよね」と、互いに声をかけあいながら楽しんでいますね。こうした、いわゆる「ながら作業」により、MCIの段階から認知機能が低下するのを抑えることができるとも言われているのです。
また、「好きこそものの上手なれ」といいますが、楽しければ続くし、上達を感じられたりする。楽しくなければ意欲は薄れてしまい、長続きしません。つまり、予防をしようとする意欲を支えるキーワードは「楽しい」という感情なのです。

いわゆる、“脳トレ”のようなものもあるのでしょうか?

脳を鍛えるゲームもありますが、書店などで見かける計算ドリルや漢字パズルのようなものはありません。その理由は、集中力の改善には役立つかもしれませんが、脳の一定の部分しか使わないことが分かっているからです。脳トレに適しているゲームの条件とは、リアルな世界の中で人と一緒におこない、コミュニケーションするツールになること。さらに、単調な繰り返しではなく、意欲をもって楽しめることです。おすすめは囲碁や将棋、トランプや麻雀などの対人ゲームですね。
とくに対人ゲームは、相手の手を予測してどう出るかを考える「推察」と、自分の手を決める「判断」の繰り返し。この作業の連続は、前頭葉を活性化し、勝ちたいという意欲や感情も豊かになります。さらに、相手とコミュニケーションをとることで社会性を高めることもできるため、認知症予防にうってつけなのです。

チャレンジし続ける、「健脳カフェ」の展望と期待

「健脳カフェ」はどのような方が参加できますか?

認知症の予防に興味がある方や、もの忘れが気になり始めた方、交流を希望されている方など、どなたでも参加できます。まずは、この「健脳カフェ」について世間一般に広く周知されるということが必要でしょう。
前述のとおり、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβは、発症する20年以上も前から溜まり始めています。年齢にはとくにこだわらずに、「脳の健康寿命を延ばして人生を楽しもう」「認知症になるリスクを減らそう」と考える方の参加をお待ちしています。

課題や取り組んでいることなどがあれば、教えていただけますか?

予防プログラムは画一的なものではむずかしいと考えています。本来は、診断や治療のように個別のオーダーメイドがよいのでしょうが、現段階ではまだそこまで構築できていません。今後はAIにも期待できるかもしれませんが、まずは今できることを粛々とやっていく構えです。最近では、遠方からでもオンラインで気軽に参加できるように動画を作成したりもしています。
筋肉とちがい部分的に鍛えることができない脳にとって、意欲をいかに引き上げられるかどうかが課題です。「健脳カフェ」では、意欲の低下を防ぐために身体の調子を整えるような要素も交えて取り組んでいます。

さいごに、「健脳カフェ」参画を考える企業や団体へ向けたメッセージをお願いします。

繰り返しになりますが、認知症になっても人生は終わりではありません。この「健脳カフェ」は、「世界に先駆けて最先端医療を提供したい」という思いで実践を始めました。そして、これまでの基礎実験から臨床での実証研究を経て、着実にそのエビデンスは積み上げられています。
わかってきたことは、認知症予防やリスクの低減を担うのは、食や運動をはじめとする生活習慣の改善や、楽しみの提供など、医療以外の要素がほとんどであるということです。各分野に関わる企業や団体の方々と一緒に産学連携で世界最先端の認知症予防の場を盛り上げ、認知症を心配している人々が過度に恐れることなく認知症リスクの早期把握、そして認知症の予防ができる社会にしていけたらと願っています。多くの方々のご参画をお待ちしております。

「健脳カフェ」Webサイトはこちら

<インタビュー前編はこちら>

新井平伊医師 プロフィール

東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員を経て、1990年順天堂大学医学部講師。
1997年順天堂大学医学部精神医学講座教授を経て、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学名誉教授。 順天堂大学医学部附属順天堂医院メンタルクリニック科長、順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院院長代行等を歴任。2019年よりアルツクリニック東京院長。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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