【前編】「機能性OYATSU」が今、フレイルに対してできること

心身が弱ることを表す「フレイル」が社会問題になっています。特にコロナ禍においては高齢者だけでなく、運動不足による筋力の低下や、基礎代謝の低下、エネルギー消費の低下、ひいては慢性的な低栄養に至るなど、フレイルのスパイラルがさまざまな世代で引き起こされているといわれます。そんなフレイルに対する食品の機能性成分、中でも「機能性OYATSU」の有効性について、早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構規範科学総合研究所 ヘルスフード科学部門の矢澤一良教授に伺いました。

深刻化する低栄養がもたらす健康リスク

矢澤先生は長年、食品の機能性成分の予防医学的活用についてご研究なさっています。近年注目される健康寿命、フレイルに対して、食品機能が果たす役割をどのようにお考えでしょうか。

日本人の寿命の推移を見ていきますと、平均寿命と健康寿命共に延びています。しかし、健康寿命と平均寿命の差は縮まっていません。
この差はもはや“不健康寿命”と言っても過言ではありません。平均寿命が延びたのは医学の発達によるものですが、健康で幸福度の高い時間を長く過ごすためにも、健康寿命との差を縮めていくことが今後の課題です。
病気を予防し、健康寿命を延伸するためにフレイル対策は必要不可欠です。フレイル(虚弱)とは加齢によって心身が弱っている状態のことを言いますが、フレイルになる前の段階で早めに気づき、栄養・運動・休養などの生活習慣から改善していくことが肝となります。
意外に意識されていないのですが、フレイルのきっかけの1つとして見逃せないのが低栄養です。慢性的な低栄養が原因で筋力の低下を引き起こし、基礎代謝の低下、エネルギーの低下、食欲の低下と進んで行くとさらに低栄養になるといったフレイルスパイラルを引き起こします。
カロリーが低いから低栄養というわけではなく、カロリーが高くてもバランスが悪いと低栄養になる場合がありますし、痩せすぎだけでなく、食べ過ぎ飲み過ぎでも起こります。

こうした低栄養の影響は高齢者だけのことでしょうか。

フレイルはもはや高齢者だけの問題ではありません。全世代フレイル対策をする必要があると言えます。フレイルは赤ちゃんが産まれる前の、低栄養な母親から始まっている場合もあり、こうした母親から生まれた子供は病気になりやすくなるなど一生の健康に影響を与えることもあります。
特に近年では、身体的なフレイルだけでなく、さまざまなストレスに加えCOVID-19 の影響による社会交流の減少によりもたらされる社会的フレイルによって、メンタルヘルスに影響が出るケースも多くみられます。
そうしたフレイルの予防・改善策の1つとして、タンパク質やビタミン、ミネラルなどの栄養素を補う。また活性酸素対策のためにフィトケミカルをとるなど食事からのアプローチが有効です。

フレイルというと高齢者というイメージが強いため、現在高齢者をターゲットにしていない企業には響きにくいかもしれませんが、全世代がフレイルだと意識することで、それぞれの世代に適した機能性表示食品の提案を実現できるのではないでしょうか。

機能性OYATSUでフレイル対策

フレイルの予防と、矢澤先生が推進しておられる「OYATSU」との間にはどのような関係があるのでしょうか。

フレイル対策として私が着目したのが厚労省と農水省が提唱する「食事バランスガイド」のコマのヒモ部分です。
食事バランスガイドは、具体的な食生活の指針をコマの絵に例えて分かりやすくまとめたものですが、そのコマを回すためのヒモ(原動力)として「菓子・嗜好飲料は楽しく適度に」といった表現があります。

(出典:「食事バランスガイド」厚生労働省)

(出典:「食事バランスガイド」厚生労働省)ヒモ部分の拡大図

確かにおやつや嗜好飲料(お酒や清涼飲料)を楽しみにしている方は多いですよね。とり過ぎるといけませんが、適度ですと生きる原動力となります。
子供からお年寄りまでおやつが大好きな人は多いですし、リフレッシュになります。そこで、食事から摂りきれなかった栄養を補うという視点で食べ方を工夫しながら、自分に合った機能性成分を含む機能性OYATSUを取り入れることがフレイル対策となります。
また適度なおやつは食事の食べ過ぎ防止にもつながりますので、食生活を見直すきっかけの1つにもなるのではないでしょうか。

「機能性OYATSU」の現状と今後の可能性

健康付加価値を持った多様な「おやつ」が開発されています。こうした「機能性OYATSU」の現状について教えてください。

おやつの語源は、江戸時代に現在の午後2時から4時にあたる“八つ刻”(やつどき)で、この小腹が空く時間帯に軽食を食べていたことがルーツだと言われています。
これは、食習慣で健康を維持すると言う考え方が、江戸時代からあったということを物語っています。現代ではおやつというと、甘いお菓子のようなイメージかも知れませんが、本来は空腹を満たしたり、栄養を補給したりといった意味合いが強かったのかもしれません。
一方現代のおやつに関する1500人の調査によりますと、おやつを摂ることによってリフレッシュやストレス解消、リラックス、イライラ予防とプラスに作用している人が多くおり、おやつはまず“心の栄養”と捉えられていることがみてとれます。

しかし、健康のための「機能性OYATSU」を「意識して選んでいる人」は4.6%、「やや意識している人」24.5%を加えても30%に満たない状況です。

そのため、今後はそれぞれが「どんなものを」「いつのタイミングで」食べるのか、食を選ぶ力を身につけるための教育である「機能性OYATSU」の食育が必要です。

例えば、「機能性OYATSU」の選び方のポイントとして
・栄養素を維持するためにタンパク質を含むものを選ぶ
・食物繊維を多く含むものを選ぶ
・咀嚼に時間のかかる成分を加える
・おやつは200kcal以下にして食べ過ぎを防ぐ
などが挙げられます。こうしたポイントをしっかりと伝え、正しい「機能性OYATSU」の選び方を知らせることで、消費者はより自分に合った「機能性OYATSU」を取り入れるサポートができます。

おやつのメリットをより効果的にするためには「時間栄養学」の考えを元にした「機能性OYATSU」をとるタイミングや食べ方も重要です。
・早食いを防止するために、よく噛んで食べる
・糖分や脂肪分の多いものは脂肪を合成しにくい10~15時に取り入れるようにする
・就寝中に分泌される成長ホルモンを活用して効果を最大化できるよう、カルシウムは夕食で取り入れるようにする
・肥満の原因となるので朝食は欠食しない
など、「機能性OYATSU」を取り入れる上で大切な“食べ方”の情報も共有できると、より効果を発揮できるのではないでしょうか。

<インタビュー後編はこちら>

矢澤 一良 教授 プロフィール

早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構規範科学総合研究所 ヘルスフード科学部門 部門長 、(一社)ウェルネスフード推進協会 代表理事。予防医学、ヘルスフード科学、脂質栄養学、海洋微生物学、食品薬理学を専門とする。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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