04認知症コラム
嗜銀(しぎん)顆粒性認知症とは?
症状や認知症との違いなどを解説
2025.10.08

嗜銀(しぎん)顆粒性認知症とは、脳内に異常タウ蛋白の一種である「嗜銀顆粒」が蓄積することで起こる「嗜銀顆粒病」により、認知症の症状が表れたものを指します。認知症患者の約5%は嗜銀顆粒性認知症ともいわれ、決して珍しい病気ではありません。嗜銀顆粒性認知症とはどのような病気か、症状や治療法、日常生活への影響を解説します。
嗜銀顆粒性認知症とは?
嗜銀顆粒病とは、脳の神経細胞に「嗜銀顆粒(しぎんかりゅう)」と呼ばれる異常タウ蛋白が蓄積することで生じる病気です。嗜銀顆粒病を発症した高齢者のうち、認知症の症状が見られるときは「嗜銀顆粒性認知症」と診断されます。
嗜銀顆粒病は高齢者の約5~9%に見られます。また、認知症患者の約5%は嗜銀顆粒性認知症とも報告されていることからも、決して珍しい病気ではありません。とくに80歳以上に多く、アルツハイマー型認知症と似た症状が見られますが、性格の変化が目立つ点が異なります。
- 嗜銀顆粒とは…
- 脳神経細胞に異常に蓄積される微細な構造物のこと。ドイツのブラーク(Braak)夫妻により1987年に発見された物質。銀染色法と呼ばれる金属銀の性質を利用して微細な構造や微量タンパク質を可視化する染色技術で紡錘形やコンマ状に染まって見えることから名付けられた。

嗜銀顆粒性認知症とアルツハイマー型認知症との違い
認知症のなかでも、最も罹患者数が多いアルツハイマー型認知症の主な症状としては、記憶力の低下が挙げられます。とくに、新しい情報を覚えることが難しくなり、変化に対して順応することが困難になるケースも少なくありません。
一方、嗜銀顆粒性認知症は進行が緩やかで、記憶力の著しい低下が見られることは少なく、軽度認知障害の状態に留まることが多いです。
アルツハイマー型認知症の発症年齢は65歳以上であることが多いのに対し、嗜銀顆粒性認知症は75歳以上、とくに80歳以上になってから発症する傾向があります。また、嗜銀顆粒性認知症では性格の変化が見られ、感情の制御が難しくなる方も多いです。
嗜銀顆粒性認知症 | アルツハイマー型認知症 | |
---|---|---|
発症時期 | 75歳以上、とくに 80歳以上に多い |
65歳以上 |
症状の進行 | 緩やか | 年単位でゆっくり |
特徴 | 性格の変化がある | 記憶障害 |
嗜銀顆粒性認知症の基本的な症状
嗜銀顆粒性認知症の初期症状としては、軽度の記憶障害が見られます。とくに短期記憶の低下が見られ、朝食に食べたものや会話の内容などを忘れてしまうことも少なくありません。
症状が進行すると、性格の変化が現れることがあります。些細なことで興奮したり怒りっぽくなったりするときは、嗜銀顆粒性認知症の可能性が考えられるでしょう。また、感情が不安定になるだけでなく、抑うつ状態や被害妄想などの認知症の周辺症状が見られることもあります。
記憶障害(初期から見られる) | 性格の変化(中期以降に見られる) |
---|---|
|
|
嗜銀顆粒性認知症の診断方法

嗜銀顆粒性認知症と診断するためには、脳の神経細胞に嗜銀顆粒が蓄積されているかどうかを調べる必要があります。現時点では、死後に病理検査を実施すれば診断は可能ですが、生前に確定診断することは難しいといわれています。
そのため、嗜銀顆粒性認知症かどうかの判断は、まずCTやMRIなどによる画像診断を用いて、嗜銀顆粒性認知症と“推定する”のが一般的です。また、「高齢発症かつ性格の変化が見られ、なおかつ記憶障害がある」という嗜銀顆粒性認知症の条件を満たしているかを臨床的に判断するという方法も用いられています。
ただし、アルツハイマー型認知症などの他の認知症とも症状が似ているため、慎重な診断が求められます。
嗜銀顆粒性認知症の治療法
現在のところ、嗜銀顆粒性認知症に効果的とされる治療法は見つかっていません。また、確定診断が難しいこともあり、他の認知症である可能性も踏まえつつ治療を進めることが必要です。そのため、嗜銀顆粒性認知症が疑われる場合は、症状緩和と進行を遅らせることを目指してアルツハイマー型認知症の治療法を選択することがあります。
アルツハイマー型認知症の治療としては、薬物療法に加えて、適度な運動やバランスの取れた食事、ストレス管理といった生活習慣の改善も同時に進めていくことが一般的です。また、日常生活での支援やリハビリテーションも含めた包括的なケアが求められます。
アルツハイマー型認知症の新薬「レカネマブ」について
詳しくはこちら
認知症の薬について詳しくはこちら
認知症の治療方法は詳しくはこちら
嗜銀顆粒性認知症が日常生活へ及ぼす影響
影響領域 | 具体的な困りごと |
---|---|
対人関係 |
|
生活リズム |
|
感情表現 |
|
安全面 |
|
介護拒否 |
|
嗜銀顆粒性認知症が進行して性格の変化が見られると、本人だけでなく家族の日常生活にも影響を及ぼしかねません。安定した生活を送れるよう、認知症の方の行動を理解し、尊厳を保つ対応・ケアを心掛けることが大切です。
また、介護拒否が見られるときは、介護者の負担はさらに増大します。介護者の負担軽減のためにも、地域の支援サービスを積極的に利用するようにしましょう。
- 取れる対策の具体例
-
- 環境や生活リズムを整備する(例:落ち着ける環境の整備、毎日のスケジュールの固定化)
- 本人の尊厳を保つ適切な対応やケアを心掛ける(例:ユマニチュード、パーソンセンタードケア)
- 地域の支援サービスを積極的に利用する(例:認知症カフェ、デイサービス)
嗜銀顆粒性認知症の方を介護するための心構え
嗜銀顆粒性認知症に罹患すると頑固で怒りっぽい性格に変化することがあります。しかし、性格の変化も病気の一部のため、認知症の方本人が変わってしまったわけではありません。完璧に介護しようとするのではなく、できることを本人と一緒に見つけていく姿勢が大切です。
また、嗜銀顆粒性認知症の治療法はまだ見つかっていないため、介護は長期化する可能性もあることが考えられます。介護者自身が心身の健康を守るように努め、長期的にサポートできる状態を構築することが大切です。地域の支援サービスや専門職とのつながりを保ち、いつでも相談できる環境にしておきましょう。

嗜銀顆粒性認知症に関するよくある質問
嗜銀顆粒性認知症の診断は難しいですが、認知症患者の約5%を占めていることから、実際に罹患している方は多いと考えられます。よくある質問とその答えを参考に、嗜銀顆粒性認知症についての理解を深めておきましょう。
Q嗜銀顆粒性認知症の特徴は何ですか?
嗜銀顆粒性認知症は、75歳以上で発症することが多く、進行は緩やかなのが特徴です。軽度認知障害の状態で留まることも少なくありません。また、症状が進むと性格が変化し、怒りっぽくなったり、頑固さや抑うつ状態が見られるようになったりすることがあります。
Q嗜銀顆粒性認知症とアルツハイマー型認知症の違いは何ですか?
違いは平均発症年齢と、主な症状にあります。アルツハイマー型認知症は65歳以上で発症することが多く、記憶力の低下が見られます。一方で、嗜銀顆粒性認知症は75歳以上での発症が多く、記憶力の低下はあまり見られない傾向にあります。また、老人斑が現れることが少ないのも嗜銀顆粒性認知症の特徴です。
Q嗜銀顆粒とはどんな意味ですか?
嗜銀顆粒とは、Gallyas-Braak染色によりコンマ型や紡錘型に黒く染まるリン酸化タウで構成されるタンパク質です。嗜銀顆粒が脳の神経細胞に蓄積すると嗜銀顆粒病と診断され、さらに、嗜銀顆粒病患者に認知症の症状が見られるときは「嗜銀顆粒性認知症」と診断されます。
公的・民間の支援サービスを活用しよう
嗜銀顆粒性認知症は認知症の約5%を占めるとされる疾病です。記憶力の低下はあまり見られませんが、頑固さや怒りっぽさが目立つようになるため、介護者の負担が大きくなる傾向にあります。嗜銀顆粒性認知症の特徴を知り、備えておくことが大切といえるでしょう。
嗜銀顆粒性認知症に特異的な治療法は確立されていないため、長期的な介護が必要になることがあります。介護者自身が心身の健康を保てるように努めることも大切です。公的・民間の支援サービスを活用し、介護の負担軽減を図りましょう。
また、認知症の治療法についての研究は日進月歩です。最新研究に目を向け、介護に活かしていきましょう。