04認知症コラム
80代になると認知症は進行してしまう?
早める要因と5つの対策
2024.11.29
認知症は80代から急激に進行する傾向にあります。80代を過ぎると身体機能の衰えが顕著となり、認知機能の低下に影響をおよぼすためです。この記事では、80代における認知症の発症率と進行スピード、進行を早めてしまう原因と進行を遅らせる対策についてご紹介します。
80代の認知症は進行が早い?
一般的に、認知症は80代を超えると進行スピードが加速するとされています。しかし、実際には個人差があり、必ずしも年齢だけで決まるわけではありません。認知症の発症は、生活習慣や環境・認知症の種類などさまざまな要因によって左右されます。
そのため、早期発見・早期対策によって進行を遅らせることが重要です。
80代の認知症の発症率
認知症の発症率は加齢とともに高まる傾向にあり、とくに65歳以上からの増加が顕著です。80代においても例外ではなく、上記のとおり80代後半の発症率は80代前半の倍以上となっています。高齢者人口の増加にともなって認知症患者は今後も増加すると見込まれており、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると予測されています。
年齢 | 男性の発症率 | 女性の発症率 |
---|---|---|
80~84 | 16.8% | 24.2% |
85~89 | 35.0% | 43.9% |
出典:内閣官邸ホームページ「認知症年齢別有病率の推移等について」
認知症の進行は4段階に分けられる
認知症の進行はおもに4段階に分けられます。ここでは、それぞれの段階であらわれる症状について解説します。
軽度認知障害(MCI) | 認知症の前兆とされる、健常な状態と認知症の間にあたる段階 |
---|---|
初期(軽度) | 認知症の発症から1年〜3年ほど経過した段階 |
中期(中等度) | 認知症の発症から2年〜10年ほど経過した段階 |
末期(重度) | 認知症の発症から8〜12年ほど経過した段階 |
軽度認知障害(MCI)
軽度認知障害(MCI)とは認知症の前段階で、健常な状態と認知症の間にあたる時期です。もの忘れによる記憶障害が生じるものの日常生活に支障をきたすほどではないため、認知症の前兆と気づかないケースも少なくありません。発見が遅れると高い確率で認知症を発症します。
初期(軽度)
初期(軽度)の段階になると、記憶障害の度合いが大きくなります。直前の出来事を忘れたり、同じことを何度も聞き返したりするようになり、日常生活に支障が生じ始めます。また、ものを頻繁になくしたり、どこかへ置き忘れたりするなど判断力の低下も顕著です。
中期(中等度)
中期(中等度)の段階に入ると、さらに記憶障害の症状が進行します。忘れないようにメモ書きなどをしていても、その存在自体を忘れてしまうようになり日常生活に支障が生じます。記憶をとどめておけなくなるため自立した生活は困難で、専門家の指導のもと家族や周囲のサポートが必要です。
末期(重度)
末期(重度)になると、家族を家族だと認識できなくなり、コミュニケーションが困難になります。また、自発性や意欲が低下するため、生活のすべてにおいて介助が必要です。歩行障害や運動障害が見られることも多く、ほぼ寝たきりの状態になる場合もあります。
認知症の種類によっても
進行スピードは異なる
認知症が進行するスピードは認知症の種類によって異なります。認知症の進行を遅らせる対策を行うためには、どの認知症を発症しているか適切な把握が必要です。
種類 | 特徴 | スピード |
---|---|---|
アルツ ハイマー型 認知症 |
もの忘れから始まり、判断力の 低下・理解力の低下などが生じる |
比較的ゆるやかに進行 |
脳血管性 認知症 |
脳卒中によって発症し、記憶障害・運動障害などの症状がある | 急に発症し段階的に進行 |
レビー小体型 認知症 |
幻視・幻聴などの初期症状から パーキンソン症状などを生じる |
調子の良いときと悪いときを繰り返しながら進行 |
前頭側頭葉型 認知症 |
社会のルールに反する言動などが目立ち、感情の抑制が効かなくなる | 比較的ゆるやかに進行 |
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症とは、脳に蓄積したアミロイドβと呼ばれるタンパク質によって脳の神経細胞が破壊されることで発症する認知症です。もの忘れから始まり、見当識障害や判断力の低下が見られるようになり、時間経過とともにゆっくり症状が進行します。年代を問わず最も発症数が多い認知症です。
脳血管性認知症
脳血管性認知症とは、脳出血・脳梗塞といった脳卒中が原因となって引き起こされる認知症です。代表的な症状としてもの忘れや手足のしびれ、失語や失認などが挙げられますが、脳卒中を起こした脳の部位によって症状が異なります。突然発症し、症状が段階的に進行するのが特徴です。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症とは、脳に「レビー小体」と呼ばれる特殊なタンパク質が蓄積し、脳に損傷を与えることで発症する認知症です。初期症状として幻視の症状が見られ、中期になるとパーキンソン病のような症状が現れて歩行が難しくなります。調子のよいときと悪いときを波のように繰り返しながら進行するのが特徴です。
前頭側頭葉型認知症
前頭側頭葉型認知症とは、脳の前頭葉と側頭葉が何らかの原因によって萎縮し、脳の機能が正常に働かなくなることで発症する認知症です。行動や人格が大きく変わってしまい、社会性や他者への配慮に欠けた言動が目立つようになります。ほかの認知症と比べてもの忘れなど記憶障害の症状は少ないのが特徴です
80代の認知症の進行を早めてしまう5つの要因
80代で認知症の進行を早めてしまう要因はさまざまです。とくに影響が大きい5つの要因をみていきましょう。
過剰なサポート
80代になると身体能力が多く低下し、生活における多くの場面で介助が必要になります。しかし、本人がひとりでできるようなことまで手伝ってしまうと、自分で考えて動く機会が奪われて脳への刺激が低下し、認知症の進行を早める恐れがあります。本人ができる範囲のことは極力任せるようにしましょう。
ストレス過多
過度なストレスも認知症の進行を早める原因の一つです。80代ではストレスによる心身反応が顕著で、とくに認知症の方は今までできていたことができなくなるという心理的ストレスも加わり影響が大きくなります。また、ストレスの蓄積はうつ病や高血圧など、認知症に関わる疾患の引き金にもなるため注意が必要です。
失敗を責められた経験
認知症を発症すると、同じことを何度も聞き返す、トイレで失敗するなど日常生活での失敗が増えてきます。こうした失敗を周囲から責められることも、認知症の進行を早める原因の一つです。結果として治療に後ろ向きになったり、意欲を失うことで趣味をやめたりする可能性もあります。ミスに対して感情的にならず、本人の自尊心に配慮した精神的なサポートが大事です。
生活習慣の乱れ
食生活の乱れや運動不足、睡眠の質の低下など不規則な生活習慣も認知症に悪影響をおよぼします。また、過度なアルコール摂取や喫煙なども注意が必要です。生活習慣病は脳血管障害を引き起こす原因となり、認知症の症状が一気に進行してしまう恐れがあります。生活リズムを整え、身体の健康を維持することが重要です。
急激な環境の変化
認知症になると適応能力が低下するため、生活環境の変化に対応できなくなるケースも少なくありません。80代ではほかの病気で入院する可能性も高く、急激な生活習慣の変化による混乱や不安が認知機能の低下を招き、認知症の進行を早める恐れがあります。介護施設の入居や引っ越しなども環境が大きく変わるため、同様に注意が必要です。
認知症が進行する原因については、以下の記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
認知症の進行を遅らせるためには?
認知症の進行を遅らせるためには、適度な運動と規則正しい生活を心がけることが重要です。また、日常生活にゲームや音楽鑑賞を取り入れたり、他者との交流を増やしたりして脳を刺激すると認知機能の向上につながります。
有酸素運動 規則正しい生活 聴力低下への対策 認知機能向上のためのトレーニング 他者との交流の増加
さらに、認知症の危険因子である難聴の改善も症状を遅らせることができるとされています。医師の指導のもと、薬による治療や補聴器の使用などによって聴力低下の対策を行うとよいでしょう。
認知症の進行を遅らせるための対策については、以下の記事でも詳しく解説しています。
80代の認知症対策は「自分らしくあること」が大切
認知症対策を行ううえで大切なことは、本人の「自分らしさ」を尊重し守ることです。
80代になると身体機能の低下は避けられず、脳への刺激が減少してしまう傾向にあり、何かしらのサポートを受ける必要があります。できないことが増える申し訳なさからふさぎ込んだり、落ち込んでしまったりすることもあるかもしれません。
そのような状況下でも、人の手を借りながらでも自分らしく生きられる暮らしを実現してあげることが大切です。
80代の認知症の進行に関するよくある質問
80代の認知症は、本人にとっても介護する家族にとっても不安や負担が大きいものです。80代の認知症の進行に関するよくある質問をまとめましたので参考にしてください。
Q80代の認知症は進行が早い?
認知症を発症する割合は、80代前半から後半にかけて大きく増加する傾向にあります。ただし、認知症の進行スピードには個人差があり、必ずしも年齢が関係しているとは限りません。日常生活や元々抱えている病気などが原因になる場合もあります。
Q認知症は平均何年くらい進行が続く?
認知症発症後の平均寿命(余命)は5年〜12年といわれています。ただし、症状の進行は個人差が大きく、20年以上かけてゆっくり進行するケースもあります。年齢や性別、身長、病状によって進行の度合いは大きく変わるため、あくまで目安として捉えておきましょう。
Q認知症は急に進行する?
認知症の種類によって進行スピードは異なります。アルツハイマー型認知症や前頭側頭葉型認知症は、比較的ゆっくり進行する認知症です。一方、脳梗塞・脳出血など脳卒中によって引き起こされる脳血管型認知症は、発症の前後で急激な認知機能の低下が見られます。
80代の認知症は適切な対策で進行を遅らせることが可能
80代では身体機能が低下し、自発性や意欲の喪失によって脳の刺激が少なくなるため、認知症の進行が一気に進んでしまう恐れがあります。認知症の進行スピードは認知症の種類や普段の生活習慣などによって変わってきます。正しい病状を把握し、医師の指導のもと認知症の進行を遅らせるための対策を行っていくことが必要です。
認知症には依然として有効な治療法が見つかっておらず、普段からの予防・ケアが肝心です。しかし、認知機能を維持するための研究は進んでおり、症状の進行を遅らせられる可能性のある方法が明らかになってきています。
以下の記事では認知症治療に関する最新の研究ついて解説していますので、ぜひチェックしてみてください。