細胞再活性化にかかわる食品素材の注目トレンド

人生100年時代、細胞レベルでエイジングを遅らせ、老化という病を予防しようとする食品素材の市場は、一気に加速化しています。日本では緩やかな右肩上がりですが、世界では目まぐるしい勢いで展開しているのです。これまでのエイジングに、どのような要素と視点を加えたら、世界のトップ企業が追い求める食品素材となるのでしょうか? 
「細胞再活性化」をめぐる食品素材マーケットの海外と国内事情とのちがい、動向やトレンド、展望について、グローバルニュートリショングループ代表の武田猛氏に伺いました。

エイジングに関する国内外のトレンドについて

エイジングに関する食品素材の国内外のトレンドはどのような傾向にありますか?

人生100年時代は世界的に注目されているテーマであり、いかに健康でアクティブに過ごせるかどうかが、重要視されています。そして、そのテーマにエビデンスをもつ食品成分や素材が、次々と市場に登場しては研究と開発が積み重なり、進化しているのです。

2019年に世界保健機関(WHO)より発表された現代の平均寿命は、上位30ヶ国で80歳を超えています。日本は、世界で2番目の長寿国でもあり、エイジングに対し、ニーズの高い国といえるでしょう。生命が生き続けるために必要な生殖機能の域をはるかに超え、もはや、寿命という自然の摂理に逆らうことが必然的となりつつあるのかもしれません。

そこで今、細胞にアプローチする新しい食品素材が注目を集めています。医薬品のように、多くの時間とお金がかかる許認可プロセスを必要とするハードルの高いものではなく、食品素材であるというのがポイントです。日常生活で、消費者自らが気軽にとれる食品成分として、健康寿命の延伸につながるような商品開発をすることが、世界的にトレンドとなりつつあるのです。

日本国内と海外ではエイジングに対する考え方に違いがありますか?

食品成分における考え方は、日本と海外(主に欧米諸国)とでは少し違います。
日本で、健康食品やサプリメントというと、「シミをできにくくする」や「中性脂肪が高めのかたへ」といったような、避けたいトラブルに的をあてた商品を多く見かけませんか?これは、わが国の予防医療に対する取り組みの姿勢や、法律の在りかた、保健機能食品の表示規制からも説明がつきます。

対して、海外では、前向きなコンセプトのものが多いのです。
たとえばNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)の場合、「細胞のエネルギーを生み出す」というような、活発的な印象が目につきます。
つまり、日本は「アンチ(対抗する)」エイジング、欧米では「アクティブ(行動的な)」エイジングという考え方で消費者の目線も異なり、さらには市場の動向にも差が生じているといえるでしょう。

食品成分における動向やトレンドについて教えてください。

食品成分の市場は、新しい視点で目まぐるしく発展しています。なぜなら、これまで製品開発のターゲットとされてきた老化現象について、まったく新しいアプローチが可能になってきたからです。

これまで、シミやシワ、薄毛などの老化現象は、避けられないものという扱いでした。いかに予防するか、遅らせるかという個別にアプローチするしかなかったのです。ここで、予防や遅延を図ることが、無駄だといっている訳ではありません。ただ、個別に予防的素因にアプローチするには限界があります。

そこで、今、世界がこぞって力をいれているのが、オートファジーやサーチュイン遺伝子の活性化に着目した成分の開発です。細胞がダメージを受けたときに自ら治す力を、食品成分で摂れたら嬉しいですよね。
海外ではすでに、ウェルビーイングをいかに実現するかという視点で、食品成分の研究が進み、市場も盛んになりつつあるのです。

「細胞」へアプローチする食品素材や成分の市場化における可能性

細胞再活性化に注目した食品素材や成分にはどのようなものがありますか?

近年、市場の伸びているNMNやNAD、レスベラトロールなどは、オートファジーの概念をもつ「細胞再活性化」に注目した食品成分です。そして、新規成分のウロリチン(ザクロ由来の抽出成分)も、その商品化に大きな期待が寄せられている成分の一つ。

これらは、今までの「食事で不足する栄養素を補うもの」といった、食品成分の欠乏症対応的な役割を一新しました。
摂ってみて始めて感じることのできる有用性から、細胞や遺伝子レベルでのエビデンスをもち、あらかじめ機能性が期待できるものへと、進化しているのです。

食品成分の「細胞再活性化」における展望について教えてください。

食品を摂取することが、遺伝子にたいしてどのような影響を与えるのか、ニュートリゲノミクス(栄養ゲノム学)の解明は、まだ始まったばかりです。そこには、遺伝子多型(遺伝子を構成するDNAの配列における個体差)に依存することなく、各々の遺伝子そのものにアプローチすることが期待されています。まだ誰も知らない、無限大の可能性を秘めているともいえるのです。
ここで、細胞再活性化のキーワード「オートファジー」や「サーチュイン遺伝子」は、これからの食品成分の市場と、密接な関係にあるといっても過言ではありません。

また、腸のウェルネスは永遠に続く大きなトレンドの一つです。どんな食品素材も、必ず腸を通って代謝されてはじめて作用します。特定の腸内細菌の影響を受けて有用性を発揮する成分も発見されており、ウロリチンもその一つです。有用成分に一つひとつの細胞でしっかり働いて欲しいからこそ、食品成分を効率よく活用するために腸の重要性はますます高まると考えられます。

まとめ

食事は私たちのライフスタイルにとって、重要な要素のひとつです。誰しもが、生きている間は少しでも長く、好きなものを食べ、できるだけ薬は飲みたくないと思うでしょう。人が幸せに生きるためには、何よりも健康が第一です。

ですから、ウェルネスフード産業は、人々に幸せと希望を提供するようなものであってほしい。そして、消費者自らが、ウェルビーイングを考え、自分にあう素材を気軽に食品として取り入れることができる時代になれば、素晴らしいと思います。

しかし、今はまだ、消費者にとって判断できるだけの十分な情報があるとは言えません。これをお読みくださった方が、ご自身にとって活用できるものとして受け取っていただけたら嬉しい限りです。

武田 猛 氏 プロフィール

株式会社グローバルニュートリショングループ代表取締役。
18年間の実務経験と17年間のコンサルタント経験を積み、35年間一貫して健康食品業界でビジネスに携わり、国内外650以上のプロジェクトを実施。「世界全体の中で日本を位置付け、自らのビジネスを正確に位置付ける」という「グローバルセンス」に基づき、先行する欧米トレンドを取り入れたコンセプトメイキングに定評があり、数々のヒット商品の開発に関わる。


ウェルネス総研レポートonline編集部

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