2024最新「NNB10キートレンド」でトレンド間の関連をつかむ!【後編】

2006年から毎年発行され、実践的な業界経験とサイエンスに裏付けられた、健康食品産業のためのトレンドレポート「NNB10キートレンド2024」(発刊 NNB、New Nutrition Business)が発刊されました。キーワード自体は昨年度版と大差なく見えるものの、トレンドの盛衰や、トレンド同士のつながりが見えてくるのは定点観測ならではのメリットです。
今回も2023年版に続き、株式会社グローバルニュートリショングループ 代表取締役 武田 猛氏に、各トレンドの推進要因や避けるべきリスク、国内外の相違を踏まえた活用方法についてうかがいました。後編では、「10キートレンド」について、失敗例も交えて詳しく解説いただきます。

「10のキートレンド」それぞれの推進要因と避けるべきリスク、トレンド同士の関連を深堀り!

キートレンド1の「多様化する腸のウェルネス」についてご解説ください。

いま、世界人口の3分の1は消化系疾患を抱えているというWHO(世界保健機構)の発表を裏付けるかのように、腸のウェルネスを掲げる市場は非常に混み合っています。もはや、“高ファイバー(食物繊維が豊富)”や“消化”を謳うだけでは差別化できません。

また、脳腸相関のようなサイエンスに基づく情報は、これまでほとんど業界のなかだけで取り扱われてきました。これが現在は、体感しやすいことを最大の理由として、一般の消費者にも非常に受け入れやすくなっています。

2023年から変化し、今後3年から5年間にわたって需要があると見られている要因の1つは、この腸脳相関について商業的利用の可能性が出てきたということでしょう。プロバイオティクス乳製品の市場が成熟した今、腸脳相関を信頼できる形で提供する方法を見つけ出すことが次のステップです。

腸のウェルネスを求める消費者から信頼を集め、 “安心ラベル”を印象付けるような言葉はありますか?

例えば、プロバイオティクスは現代においてスタンダードな安心ラベルといえるでしょう。わが国でも馴染み深いヤクルト社の乳飲料「Yakult1000®」とダノン社のヨーグルト「Activia®(日本ではビオ®)」は、両ブランドを合わせて年間の小売り売上高が50億ドルを超える、プロバイオティクス乳製品のパイオニアとも呼べる存在です。

また、グルテンフリーも25年前にはニッチな単語でしたが、今ではスーパーマーケットで一般的な安心ラベルの1つとして定着しています。

反対に食物繊維が豊富というラベルは日々使われるようになり、ある意味、当たり前として消費者には響きません。プラントミルクも市場ではビッグニッチとして成熟しつつも、そのラベルは「飲みたくなるほど味が優れている訳ではない」という印象を与えています。
対して乳糖フリーのラベルは、「天然で美味しくて成分リストが短いバター」という印象を与え、プラントミルクが持つラベルの対称的な位置付けです。

腸のウェルネスに関する主な消費者層と戦略、失敗例などについて教えていただけますか?

この分野における主な消費者層は女性と高齢者、40代以上の3つのグループです。女性では便秘やホルモンバランスなどとの関連が深く、高齢者では加齢に伴って腸の機能が衰えることもあって訴求しやすい。そして40代以上では、加齢も実感し始める世代として注目されやすい層となります。
戦略としては8つあり、以前まで取り挙げられていたFODMAP食は2024年版では外れました。これは、医療的なニーズの高い人々に対しては有効でニッチな地位を獲得していたものの、一般の消費者にとっては複雑で分かりづらく製品も少なかったことが要因です。

戦略のひとつ、プロバイオティクスは乳製品と関連付けられてから既に20年以上が経ちました。その結果、日本を含むほとんどの国で、サプリメントなど乳製品以外のカテゴリーにおける成功は限定的です。さらに、海外におけるプロバイオティクスは日常的なメッセージにしかなりません。ただし、日本やアジアでは菌株の名称を添えることで、成長の好機はまだ残されています。また、欧米ではプロバイオティクスと一緒に「ムード&マインド」といった、消化や免疫以外のベネフィットを添えて提供するところが増えています。

失敗例では、朝食用シリアルにプロバイオティクスを添加した商品は例外なく失敗に終わり、野菜やフルーツと関連付けた商品は成功しています。

一方、食物繊維の戦略で押さえておくべき失敗例は、Kellog社(英国)のオールブランの例です。2022年の売上は減少し、2023年には発売中止となりました。同様にGeneral Mills社(英国)のスナックバーの売上も減少しました。

これらの失敗は、食物繊維との関連付けだけでプロバイオティクス商品の売上を維持することが難しい時代だということを物語っています。現在は、食物繊維により多くのベネフィットが得られるプロバイオティクス商品が登場しているため、ニッチで前向きな消費者をキメ細かくターゲットとすることがチャンスにつながるでしょう。

そして、プラントベース乳代替品の戦略では2022年、オーツミルクを除くほぼすべてのプラントミルクの売上が落ち込みました。さらに2023年には、オーツミルクの販売量さえも減少し始めています。
失敗例の代表格は、Oatly社で2016年度の黒字を最後に赤字へ転落し、2023年の営業損失額は1.47億ドルにも達しました。また、Nestle社の商品においても2021年から4カ国で発売されたものの、現在は全ての市場から撤廃しています。加えて、Amazon創業者の支援を受け、AIによって作られた冷凍エンドウ豆ミルクも失敗に終わりました。

キートレンド2の「炭水化物:より良く、より少なく」についてご解説ください。

炭水化物を減らす傾向については安定しています。この分野で成功に導く最大のポイントは、材料の組み合わせが斬新なイノベーションを満たし、いかに罪悪感なく食べられるかをかなえることです。
例えば、ここ1年間でサステナビリティとこのトレンドを併せた取り組みが加速し、大量販売の朝食用シリアルでさえも再生型農業をテーマに掲げ、ビールの醸造廃棄物を使ったスナックなども登場しています。サステナビリティはまもなく、差別化要因ではなく日常的な炭水化物のメッセージとなるでしょう。

炭水化物を罪悪感なく食べられるという点では、ボリュームを絞るのも有効です。より薄く、よりグリーン(植物成分が含まれた)な商品は、その成分の割合に関わらず成功を収めています。なかでも、穀物を原材料にして野菜を加えるといったコンセプトは、かなり上手いと感じます。

炭水化物は各国の食文化に直結するため、いかにそれを良い物に変えていくかが戦略として重要です。日本は例外ですが、精製された穀物を減らして全粒粉を選ぶ方向へ確実にシフトしています。
そして、消費者は質が高いと思える穀物に関心を示し、その背景にあるストーリーも大好きです。これに天然の機能性も兼ね備えることで強く動機付けられ、チアやキヌア、古代からの穀物、伝統的な背景をもつ穀物を進んで取り入れています。

一方で、戦略のひとつとして今年から加わった、「スポーツとエネルギーのための炭水化物と砂糖」も軽視できません。目標とするパフォーマンスを得るため、原材料がクリーンで加工度の少ない商品は多くのスポーツブランドで注目を集め、日常でも受け入れられるような設計なら一般の消費者にも広まるチャンスが十分にあります。

キートレンド3の「植物を便利に」についてご解説ください。

いま、この「植物を便利に」というトレンドには追い風が吹いています。技術の進化により、プラントベースやスナックといった色々な形態へ利用できるようになったのが要因のひとつです。例えば、“ブロッコリーライス”で新しい体験を求める人も増え、ハーブやスパイスを指すボタニカルはエビデンスも出てきたことで非常に注目されています。

実際に、私が2023年3月に米国で視察した世界最大規模の展示会「Natural Products Expo West2023」でも、植物を便利な形で摂れるようにしたドリンクやグミなどが多く見られました。この分野では、植物をヒーローとして全面に出すのが効果的です。
とくに、でんぷんを野菜に置き換えるような商品が成功しています。また、サステナビリティを押すよりも利便性を重要した方が、消費者にとってライフスタイルを考える上で大きなメリットを感じさせることになるでしょう。

「植物を便利に」のトレンドで、失敗例はどのようなものでしょうか?

近年、とくに欧米でプラントベースという用語の乱用により、警戒心を持つ消費者が出現しているため注意が必要です。ポジティブに受け取る人ばかりではなく、味の悪さを連想する人もいます。
失敗例として世界各国600店舗以上を展開する飲食店Pret a Manger(英国)では、2016年にロンドンにある多くの店舗をヴィーガンまたはベジタリアン専用のメニューに変更したものの、2023年にはそのほとんどを閉店、もしくは一般向けの旧メニューに戻しました。結論としては、時と場合、瞬間、信念や好みに対応できる選択肢を備えることが失敗しないポイントと言えるでしょう。

ウェルネス総研レポートonline編集部

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