【セミナーレポート】「PoA度チェックリスト」で“老け見えor若見え”を確認!30代から始めるべき食習慣

老化は一定の速度で進むのではなく、30代から3段階で進むことが最新のエイジング研究で明らかとなり、アンチエイジングの概念はこれまでの「抗老化」から「ペース・オブ・エイジング(PoA:老化速度)」をコントロールする考え方へと進化しました。いま、世界で論文報告が急増するPoA研究で注目すべき内容や、PoAを意識した食習慣のポイント、自身のPoA度(老化時計タイプ)を評価する13のチェックリスト(石原新菜医師 監修)について、一般社団法人ウェルネス総合研究所の主催するPoA普及プロジェクト「30代からの意識で老化速度が変わる~海外の研究から紐解くペース・オブ・エイジング~」をレポートします。

世界が注目するペース・オブ・エイジング(PoA)研究の動向とポイント

はじめに、主催する一般社団法人ウェルネス総合研究所の司会者からペース・オブ・エイジング(PoA)の簡単な概略と、研究の論文発表数が2000年以降で顕著に増えていることについて紹介がありました。現代のエイジングケアはこれまでのいわゆるアンチエイジングと異なり、新たな潮流としてPoAが世界中から注目を集めていると話します。

続いて、石原 新菜 医師(イシハラクリニック副院長)による講演「30代からのバランス栄養習慣で始めるペース・オブ・エイジング」に移り、最初にPoA研究の中で特に注目すべき3つの内容とその捉え方について解説しました。

研究① 老化の第1波は34歳!段階的に進む「老化タンパクドミノ」

2019年12月に国際学会誌のNature Medicine(英国)で発表されたスタンフォード大学(米国)の研究では、ヒトの老化が時間とともに一様に進むのではなく、3段階で進んでいくことが示されました。この研究の対象者は18歳から95歳までの4,263人、検査対象としたのは血液中の2,925種類に及ぶタンパク質です。その結果、タンパク質は3つの暦年齢において急な増減のピークがあることを発見しました。

タンパク質は私たちの体内で細胞の成長や修復、機能維持などあらゆる面で重要な役割を担い、ヒトが老いる過程においても中心的に働くことで生物学的年齢にも大きく関与していると考えられています。このタンパク質が急劇に変わる34歳、60歳、78歳の3つのピークは、ドミノ倒しのように段階的に起こることが分かりました。最初のピークが到来する34歳は多くの人にとって働き盛りで多少の無理もきく世代なだけに、衝撃的な発表だと語ります。

研究② 10年後の生物学的年齢は、最大で約20歳差に!「ダニーデン研究」

続いて紹介されたのは2021年3月に国際的オンライン研究ジャーナルのNature Agingで発表された、デューク大学(米国)のダニーデン研究です。これはニュージーランドのダニーデン地方において1972年から1973年に生まれた1,037人を、26歳から45歳になるまでの20年間にわたり追跡した研究です。この研究によって老化速度には個人差があり、365日で一律に1歳ずつ歳を重ねる暦年齢とは異なる、生物学的年齢と老化時計(エイジングクロック)の実態が明らかになりました。

この老化時計が遅く進む人(PoAが遅い人)は1年間に0.4歳しか歳をとらないのに対し、速く進む人(PoAが速い人)では1年間に2.44歳も歳をとり、その差は1年間で2歳以上です。さらに、見た目はPoAが速い人ほど老けて見えます。このように1年間で6倍も差が出るということは、これがさらに10年、20年と経過したときの差は歴然です。例えば、今30歳の人でPoAが遅いと40歳の時点における生物学的年齢は34歳、反対にPoAが速いと40歳でも54.4歳という計算になります。

研究③ 遺伝子背景が同じ双子でも「若見え」の方が長生きする!

3つ目に紹介されたのは2009年12月に医学誌のBMJジャーナル(英国)で発表された、南デンマーク大学(デンマーク)の双子に関する研究です。この研究では、70歳以上の双子、計1826人(913組)を対象に見た目と寿命の関係を明らかにしました。方法としては
研究に参加した双子の写真を41人の男女に見てもらい、何歳に見えるかを判定します。その結果、双子のうち老けて見える方が先に亡くなり、若く見える方が長生きしていることが分かったのです。さらに、身体機能や認知機能は若く見える方で高く、双子では遺伝的背景が同じはずなのに細胞分裂に関わるテロメアの長さにも差が出ることが分かりました。

この研究結果は、寿命の差が遺伝による影響よりも生活習慣による影響の方が大きいということを示しています。さらに、若く見えるということは体内も若く、老けて見えるということは体内も老けているということ。言い換えると、老けて見える場合は長生きも難しいということです。

PoAに取り組むための3つのポイント

石原氏は3つの研究について解説した上で、PoAに7割から8割と大きく関わる環境要因について対処することが必要だと説明します。ここでいう環境要因とは腹八分目といった食事のとり方を含めた食習慣や栄養バランス、筋トレなどの運動、睡眠、紫外線、前向きな思考など日常にあふれる様々な要因です。これらを踏まえ、PoAに取り組むためには3つのポイントが大切だと続けます。

ポイント1つ目の「30代の今、始める!」では、30代で起こりやすい周辺環境について触れました。多くの人で仕事や責任の量が増え始める世代であることに加え、結婚によるライフスタイルの変化、女性の場合は妊娠や出産も大きな変化のひとつです。前述のように老化タンパク質における第1回目のピークも34歳で、30代はほかの世代に比べて最もPoAに取り組むべき世代と言っても過言ではありません。
ただし、30代を超えると意味がないという訳ではなく、40代以上でもPoAを緩やかにして老化の進むスピードを自分でコントロールしていく構えが大切です。30代に限らず、日常的に忙しいと美容や健康への配慮が厳かになりがち。理想は30代からのスタートではあるものの、何歳でも気付いた瞬間からPoAを緩やかにする4つの柱(食事・栄養習慣、睡眠習慣、運動習慣、周辺環境)について対策していきましょう。

そして2つ目の「栄養バランスが大事!」は、PoAを緩やかにするために最も意識してほしいポイントだと話します(詳しい内容は後述)。さらに3つ目のポイントは「できることから始める!」で、一度に多くの取り組みはかえってストレスを招く可能性も考慮し、出来るところから始めていくということを推奨しました。

知らないうちに「栄養負債」30代男女の実態調査

30代では比較的、体力もあってすこしくらい無理をしても何とかなるという人が多いのかもしれません。また、働き盛りで忙しいために運動不足や偏食にもなりがちで、体型を維持しようと無理なダイエットをおこなう人も。これを裏付けるかのように、国民健康栄養調査(2019年度)では日本人の30代で男女ともに栄養が不足しているという実態が明らかになっています。鉄分やカルシウムといったミネラルやビタミン類などについて女性では14成分、男性でも13成分が不足しているのです。こうした栄養負債の状況について気になる人は、専門の医療機関で血液検査によって調べることが出来ます(保険適応外)。

さらに、朝の欠食は全世代で30代が最も多く、およそ4人に1人が必要な栄養補給をしないまま、その日の活動を始めているという実態も。1日3食バランスよく食べないと活動に必要なエネルギーが不足するだけでなく、集中力や体力の維持、肌の再生も上手く行えません。そして栄養をバランスよく摂取するには、3大栄養素(たんぱく質、炭水化物、脂質)にビタミンとミネラルを加えた5大栄養素をしっかりと摂ることが重要です。

チェックリストで「若見え・歳相応・老け見え」を確認

食習慣と栄養バランスの重要性について触れた上で、これを振り返るために13項目で構成された「PoA度(老化時計タイプ)チェックリスト」(監修:石原新菜医師)について解説しました。このチェックリストを通じて伝えたかったことは2つ。「自分の“食”が欧米食に偏っていないか」と「揚げ物やファーストフードの割合が食物繊維や発酵食品、野菜や果物、魚よりも多くなり過ぎていないか」の2点について気付きを与えるのが目的です。

結果、チェックが0~2個の人は「若見え」、3~4個なら「歳相応」、5個以上では「老け見え」の可能性が高いという評価です。このうち5個以上の人では近い将来、急に見た目や体調の変化を来たすリスクが高いため、そうなる前に食習慣や栄養バランスの改善に取り組んでほしいと話します。こうしたチェックリストなどを用いて日常を振り返り、欧米型に見られるような動物性中心の食事や無理なダイエットのほか欠食、多様性の乏しい偏った食事、栄養不足などPoAを速めている誘因に自ら気付くことが大切です。

PoAを緩やかにする“食”と、加速する“食”の特徴

PoAを緩やかにするような“食”の代表例は、世界で長寿の人が多い「ブルーゾーン」と呼ばれる地域の食事が参考になります。例えば、昔ながらの沖縄食やギリシャ料理、地中海食など。これらの地域では、ゴーヤーやもずく、アオサ、オリーブオイル、魚介類、野菜、果物、ナッツ類といったビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富な食材を多く使っているのが特徴です。

ただし、“食”の嗜好を変えるということではなく、普段の食事の中でビタミンやミネラル、発酵食品、食物繊維を意識して摂取し続けることが大事だと石原氏は話します。朝にはジューサーで野菜と果物を使ってジュースを作るのもよいし、味噌汁や炒め物など馴染みのある献立にプラスするなど、ストレスなく取り入れていくのがおすすめです。

反対にPoAを加速する“食”の代表例は、リノール酸のように脂肪酸の中でも酸化しやすい特徴をもったオメガ6(n-6)脂肪酸が多く含まれる揚げ物やファーストフード、栄養価が少ないのに摂取カロリーはゆうに1食分を超えてしまうようなドリンクなど。あと、何も食べないか、食事に値する栄養素が含まれていないような欠食もPoAを加速します。菓子やドリンクなどで相当のカロリーを取れば空腹は抑えられるものの、栄養負債は蓄積し続けて見た目にもいずれそれが現れてくるでしょう。

サプリメントなども上手く活用し、まずは意識改革から!

とはいえ、忙しくて帰宅も夜遅いとなると、なかなか難しいといった声も。そのような場合はマルチビタミンなどのサプリメントを活用するのもよいと石原氏は話します。ただし、あくまでも基本は食習慣を配慮すること。野菜ジュースやコラーゲンなどでの栄養補給も、バランスの取れた食習慣の土台があって成り立つものです。

また、間食をしたくなったらアーモンドなどのナッツ類やドライフルーツが、歯ごたえもあって満腹感を得られやすいことに加え、食物繊維とビタミンも取れるのでおすすめだと話します。

今回、セミナーの参加者から「サプリメントはハードルが高い」といった悩みも寄せられました。これに対し、厳密に摂取しようとするとストレスになるため、気軽な気持ちで意識するところから変えていってほしいと回答。例えば、抗酸化作用をもつビタミンの3種類(ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE)について、“ビタミンエース”と覚えてそれぞれのビタミンを含む食材を気にしつつ、不足しているものをサプリメントで摂るのも1つと語ります。

エイジングコントロールの切り口からつながる健康寿命の延伸

このような“食”をはじめ、適切な運動や過不足のない睡眠、精神の安定、自分の周りの環境について若いうちから意識し、老化のスピードをコントロールしていくことが大事です。引いてはそれが見た目だけでなく身体全体の健康にもつながるので、入口は美容への関心であっても、結果として健康寿命の延伸につながれば素晴らしいと、話を締めくくりました。

たとえ、自分の「PoA度チェックリスト」の該当数が少なかったとしてもそれに驕ることなく、若いうちから早くに取り組めばそれだけ成果が出るということを念頭に、日常の食習慣を見直し続けることが重要だと実感させられたセミナーでした。

ウェルネス総研レポートonline編集部

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