01認知症予防8つの対策

認知症予防・治療の第一人者が監修 認知症予防のために
知っておくべき8つの対策(実践編)

脳の老化防止は、身体の老化防止と
同時に進めることが重要

脳の神経細胞は使わずにいると機能が低下します。筋肉を使わなければ、筋細胞が衰え筋肉が委縮してしまうのと同じです。脳に沈着するタンパク質アミロイドβは、神経細胞を壊し、アルツハイマー病の原因になりますが、さまざまな要因でアミロイドβは増加します。脳の老化防止は、身体の老化防止と同時に進めることが重要で、ここでは具体的な対策について話していきます。

運動をしなくなっていませんか?

方法01
少し汗をかく程度の有酸素運動を週に3回、
30分くらいずつ行う

呼吸しながらゆっくり行う有酸素運動がお勧めです。理想的には、少し汗をかく程度で週に3回、30分くらいずつ行います。でも、「継続」がより大切なので、より短い時間で5分でもいいので毎日続けることが重要ともいえます。

少し汗をかく程度の有酸素運動

「ながら作業」が難しいと
感じていませんか?

方法02
運動しながら頭も働かせる。
「ながら作業」には一層の効果がある

認知症の予防策として、デュアルタスク(二重課題)の効果が注目されています。たとえば、体操しながら頭では計算をする、散歩しながら景色を題材に俳句を作るのもいいでしょう。運動機能と一緒に頭を使うと、脳の別々の場所を同時に働かせることができるのです。 好きなことを運動にプラスして、楽しくやれれば意欲が湧くし、相乗効果も上がります。

ながら作業

質の良い睡眠がとれていますか?

方法03
質が高く良い睡眠は脳の健康に不可欠

① 最適な睡眠時間は6.5~7時間

一晩の寝不足でアミロイドβの蓄積が増えるというデータがあります。アミロイドβは寝ている間に代謝、分解されて、脳の外へ洗い流されますが、睡眠時間が短いと排泄が遅れるのです。
疫学的なデータから、6時間半~7時間眠る人が最も認知症になりづらいことがわかっています。6時間未満と8時間以上はどちらも2倍認知症になりやすいのです。

② 昼間の覚醒と夜間の睡眠のリズムを整える

脳の休息に欠かせない睡眠が、加齢とともに浅くなり、質が低下します。トイレに起きやすくなるのは、眠りが浅くなるせいです。昼間、なるべく太陽光線を浴び、運動して身体を疲れさせるなど、夜眠りにつきやすい環境を整えましょう。昼間に眠くなるような時には、昼食後に机に伏せて30分でも眠ること。午睡と呼ばれますがこれも認知症予防に役立ちます(ただし、寝過ぎないように)。

③ 寝具や空調などの環境を作る

眠気が訪れるのは、身体がいったん温まってから冷めるとき。寝る前に入浴すれば、湯上りから冷めてベッドに入るタイミングで眠気がやってきます。
室温は、冬は暑すぎず、夏は涼しすぎず、身体に風が直接当たらない間接空調が心地よいでしょう。

質の良い睡眠

④ 時間と気持ちの余裕を持つ

時間と気持ちの余裕をもって、なるべく楽しいことを思い浮かべながら眠りにつきましょう。例えば寝る前の5分間ストレッチなど、一定のルーティーンを作っておくと、脳が「これから眠りにつくんだな」と学習してくれます。

⑤ 医師の処方で薬の服用も検討する

生活のリズムを整えても熟睡できない人は、薬の服用を検討するのもいいでしょう。今は安全な睡眠導入剤がたくさん出ています。医師の処方にしたがって、適切に使ってください。

⑥ 寝酒はお勧めできない

毎晩の飲酒を睡眠薬代わりにされている方も多いと思いますが、逆効果です。浅くて短い睡眠となり、脳の老化が進みます。

眠っている間に
呼吸が止まっていませんか?

方法04
睡眠時無呼吸症候群は必ずしかるべき処置をする

脳の健康を極端に妨げるのが、睡眠時無呼吸症候群です。睡眠中に時々呼吸が止まる病気で、気道の空気の流れが止まった状態が10秒以上あると無呼吸とされます。無呼吸といびきを繰り返すのが典型的な症状で、原因の多くは肥満です。
呼吸の停止で血液中の酸素が不足し、深い睡眠がとれなくなります。無呼吸状態で脳の酸素が一時的に少なくなると、アミロイドβの蓄積が進みます。

睡眠時無呼吸

聴こえが悪くなっていませんか?

方法05
聴力低下を改善することは
脳の活動にとって極めて大事

加齢による聴こえの悪化は、聴力だけの問題に留まりません。会話についていけなくなり、人と関わるのが億劫になり、行動を自ら制限して、すべての活動が低下し、脳は老化していくのです。孤独感を高める原因でもあります。
聴力障害に対しては医学がかなり進んでいます。認知機能が落ちる前に適切な対策をとれば、対人コミュニケーションと社会性を維持することが可能です。

聴力低下

友だちとおしゃべりしていますか?

方法06
社会的に孤立しないように、本人も周囲も気をつける

社会的孤立は身体と脳の機能を衰えさせ、心理的に孤独感が増すなど、負のスパイラルになりやすくなります。男性においては、定年退職と同時に仕事も人付き合いもなくして孤独に陥りがちで、特に深刻な問題です。
社会的孤立に関連する病気として、うつ病があります。聴力低下、社会的孤立、うつ病は、互いにそれぞれを巻き込みながら脳の老化を進めます。

友だちとおしゃべり

知的コミュニケーションを
楽しんでいますか?

方法07
トランプ、囲碁、将棋、麻雀などの
対人ゲームは、脳の老化防止に効く!

脳を鍛えるゲームに適している条件は、現実世界で人と一緒に行う、繰り返しではない、楽しめることです。すなわち、トランプ、囲碁、将棋、チェス、麻雀、ウノなどの対人ゲームです。相手の手を予測し、それに合わせて自分の手を決め、いつも変化があり、決められた答えもありません。推察、思考、判断の連続は、大いに前頭葉を使います。コミュニケーションをとり、社会性を高めることもできるので、脳トレにうってつけです。

知的コミュニケーション

意欲的に活動していますか?

方法08
脳にとっては「意欲」が大事。
何事もデュアル、トリプルで楽しむ

意欲が盛んなことで感情と知能が働き、脳の健康と人間らしい生活が成り立っています。

① デュアルで楽しむことが大切

意欲は加齢に伴って衰えてくるものです。脳の老化防止には、意欲を維持し、前頭葉の活動を活性化させることが大切。2つの作業を同時に行うことで脳は活性化します。

② 旅行はトリプルで楽しい

旅行は、まず目的地とプランを練り、実際に行って楽しみ、帰った後はビデオや写真を見ながら思い出を振り返ります。一度の旅行で、三度の楽しみを味わうことが重要で、脳の活性化には大変効果的です。

意欲的に活動

③ 散歩の効果を3倍にする

日課の散歩も旅行と同じ工夫で、今日はどの道を歩くか地図を見てプランを立て、実際にそれに沿って歩くように心がけ、帰宅したらその通り歩けたか思い出しながら周りの景色を思い出してみる。このように散歩を利用することで、前頭葉を大いに刺激できます。

つまり、脳の健康は、何かひとつだけやっていれば維持できるものではありません。まず大事なのは、人生を楽しむこと、そのために自分にあったやり方で、体と頭を同時に使って楽しむようなものをぜひ見つけて、仲間と一緒に「毎日を楽しく」過ごしてください。

認知症予防の方法を紹介!よくあるトレーニングは効果ある?

文春新書『脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法』 (第2章)脳の健康寿命をいかに伸ばすか
新井 平伊(著) 2020年12月17日発刊より引用

COMMENT 監修医師のコメント

総論で述べた老化対策とそれに引き続く認知症予防のためのポイントを示しました。
これらのことに 40代から気をつけていくことが重要ですが、キーワードは「人生を楽しむ」ことです。

監修医師

新井 平伊(あらい へいい)

アルツクリニック東京院長、順天堂大学名誉教授、
公益財団法人 認知症予防財団会長、一般社団法人 生涯健康社会推進機構理事

1984年順天堂大学大学院修了。東京都精神医学総合研究所主任研究員、順天堂大学大学院精神・行動科学教授を経て、1999年、日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2018年、東京丸の内に「アルツクリニック東京」をオープンし、院長に就任(現職)。世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。アルツハイマー病の基礎と臨床を中心とした老年精神医学が専門。「アルツハイマー病研究者世界トップ100」の38位に選出された世界的権威でもある。 2021年、早期の認知症予防および認知症発症リスク低減のための治療的介入を行う拠点として、東京・四ツ谷に「健脳カフェ」を開設。