
【セミナーレポート】第2回『抗疲労∞抗老化』トータルリペアプロジェクト発足セミナー&記者発表会
【講演3】 腸と精密栄養学の視点で疲労と戦う「酪酸菌が主役の逆向きリレー」こそ真の腸活

国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 副所長/同ヘルス・メディカル微生物研究センター センター長の國澤純氏が登壇。「Precision Nutritionにより創造される近未来ヘルス」と題して発表を行いました。
疲労への対処法は大きく「睡眠」と「食事」に集約されますが、国澤氏は「食事」について、個人の体質や腸内環境に合わせる「精密栄養学(プレシジョンニュートリション)」の観点から解説します。食品の健康効果には個人差があり、その鍵を握るのが栄養の吸収や免疫調整を担う「腸」です。

元気な腸の条件は、①消化管として蠕動(ぜんどう)運動を行うこと、②免疫の教育機関として体全体の免疫バランスを整えること、の2点。この双方を支える鍵となるのが、食物繊維と腸内細菌の2つの組み合わせによって作られる短鎖脂肪酸の「酪酸」です。酪酸はミトコンドリアに取り込まれて腸のエネルギー源になると同時に、免疫の暴走を抑えて適切な状態に整える役割を果たします。

この酪酸の材料として近年注目を集めているのが「発酵性食物繊維」です。従来の水溶性・不溶性といった分類に対し、腸内細菌による発酵を受けて短鎖脂肪酸を作りやすいものを指し、日常のさまざまな食品に含まれています。

これらの視点を踏まえ、國澤氏は食物繊維から酪酸を生み出す「菌のリレー」という概念を紹介しました。
第1ステップは「糖化菌」で、納豆菌などが食物繊維を分解して糖を作ります。第2ステップは「乳酸菌・ビフィズス菌」で、糖を分解して乳酸や酢酸を作ります。そして第3ステップは「プロピオン酸・酪酸菌」で、乳酸や酢酸を材料にしてプロピオン酸や酪酸を作ります。この3つのステップがそろって初めて、食物繊維から酪酸までのリレーが完走となります。


実はこのリレー、最終目的である酪酸から遡る「逆向きリレー(ステップ3→2→1)」こそが、新時代における真の腸活であると強調します。
まず、第3ステップ(酪酸菌が主役)では、酪酸を作るには酪酸菌と同時にビタミンB1 が必要ですが、ここで酪酸菌はビタミンB1を自分で作れません。そのため、豚肉や大豆などからビタミンB1を摂取して、酪酸菌を補完する必要があります。
次に第2ステップ(ビフィズス菌が主役)では、日本人の平均的なビフィズス菌占有率は10~15%程度と言われるものの、実際には大きな個人差があることも分かっています。ビフィズス菌が少ない人では、この段階でリレーが止まってしまう可能性が高いのです。
そして第1ステップ(糖化菌が主役)では、糖から酢酸を作る菌が少ないと酢酸が作れません。その結果、糖だけが過剰になって太りやすくなるリスクが生じます。

これらの観点で腸内細菌を見ると、ヒトは大きく3つのグループに分かれます。
グループ1は、ビタミンB1が少ないために酪酸菌が少なく、酪酸も少ない方々です。発酵性食物繊維をたくさん摂取する前に豚肉や大豆、サプリメントなどからビタミンB1を摂り、まずは酪酸菌を増やすことが推奨されます。
グループ2は、ビタミンB1も酪酸菌も十分なため、酪酸も作れている方々です。いろいろな種類の発酵性食物繊維をしっかり摂取することで順調に酪酸を作れます。
グループ3は、ビタミンB1も十分で酪酸菌も多いのに、なぜか酪酸が作られていない方々です。第2ステップでビフィズス菌が不足していることが原因と考えられ、発酵性食物繊維を摂るときにビフィズス菌など酢酸を作る菌も一緒に摂ることで、食物繊維から酪酸までのリレーがうまく動く可能性があります。


これが精密栄養学(プレシジョンニュートリション)の一例で、腸内細菌のバランスを見極めて「今、あなたに必要な食材」を提案できる社会を目指していると説明します。現在、約12種類の腸内細菌を簡単に検査できる基本技術が確立しており、近い将来ドラッグストアなどを通じた社会実装が期待できると報告しました。
最後に國澤氏は、「腸を変えれば疲れにくく、リペア(修復)の早い体になる。入り口となる腸が喜ぶ食事を頑張らずに続けることこそが最高の腸活」と提言。具だくさんの味噌汁などを活用した日常的な工夫を紹介しました。
今後はデータ解析や動物実験によるメカニズム解明をさらに深めるとともに、ヘルスケア食品や創薬への展開に向けて多様な企業との共同研究を拡大していきたいと語り、講演を締めくくりました。

本セミナーを通じ、「腸と精密栄養学」に基づく日常的で無理のない腸活の継続が、抗疲労・抗老化において極めて重要であることを実感しました。引き続き、ミトコンドリアをはじめとする「リペア(修復)エネルギー」研究の進展に注目するとともに、今後創出されるトータルソリューションの開発から目が離せません。















