
【セミナーレポート】第2回『抗疲労∞抗老化』トータルリペアプロジェクト発足セミナー&記者発表会
【講演2】老化したミトコンドリアが若返る!製品化目前の新規物質「マイトルビン」とは

学習院大学理学部生命科学科 教授/株式会社マイトジェニック 取締役の柳茂氏が「ミトコンドリア品質管理機構の制御による抗老化・健康寿命延伸への展開」と題して発表を行いました。
柳氏は冒頭、若いマウスと老化したマウスのミトコンドリアの顕著な違いを提示。若いマウスの心臓組織ではミトコンドリア内部の「クリステ」が密に詰まっているのに対し、老化したマウスではミトコンドリア自体が小さくなり、クリステもスカスカになっています。老化したミトコンドリアはエネルギー産生能が低下して疲労を引き起こす一方、壊れたクリステから無理にエネルギーを作ろうとすると活性酸素が発生し、さらなる老化を誘発すると解説しました。

内科医でもある柳氏がミトコンドリア研究に着手したきっかけは、神経変性疾患であるパーキンソン病の診療でした。神経変性疾患には「不要なタンパク質が神経細胞内に蓄積する」という共通点があり、その異常なタンパク質を排除・修復する鍵がミトコンドリアにあると考えたと語ります。
神経細胞内では、壊れたタンパク質にミトコンドリアが集積し、「ユビキチン」というシグナルを介して分解を促します。柳氏は、このユビキチンを結合させる酵素(ユビキチンリガーゼ)がミトコンドリア外膜に存在することを発見し、「マイトル(MITOL)」と名付けました。


このマイトルこそが、ミトコンドリアの品質管理を担う中心的な酵素です。
マイトルは、異常タンパク質や細胞内の老廃物を分解するほか、エネルギー産生時にミトコンドリアを「分裂状態」から「融合状態」へと導く役割も果たします。さらに、ミトコンドリアは単独では機能できないため、マイトルが小胞体との接触部位(MAM、マム)を形成・維持し、小胞体から必要な物質を受け取る構造を支えていることも明らかになりました。
最近、柳氏はマイトルがMAMを介して小胞体からミトコンドリアへ鉄を輸送する仕組みに関与していることも報告しました。ミトコンドリアのエネルギー産生に不可欠な鉄を取り出させることで、持続的なエネルギー産生を支えていると考えられています。

そして重要なのは、マイトルが加齢に伴い減少するという事実です。
老化させた皮膚細胞(ミトコンドリアが分裂・断片化した状態)にマイトルを過剰発現させる実験を行ったところ、ミトコンドリアが融合状態を取り戻してエネルギー産生量が増加。さらに、細胞老化分泌減少(SASP)に関わる物質も消失し、細胞全体が劇的に若返るような変化が確認されました。
この「マイトルを増やせば細胞全体が若返る」という衝撃的な発見を受け、研究は基礎から創薬へと大きく展開したと話します。

創薬アプローチの第一歩となったのが「漢方薬ライブラリー」のスクリーニングです。マイトルのRNAを増やす成分を探索した結果、ベルベリンの代謝物である「ベルベルビン」に着目。ベルベリン自体には顕著な作用が見られないものの、メチル基が1つ外れた「ベルベルビン」にはミトコンドリアの活性化作用があることを見出しました。
この「ベルベルビン」をベースに改変を加え、ミトコンドリア増加作用を高めた新規誘導体が「マイトルビン」です。


細胞実験では、マイトルビンを添加すると細胞自体はやや大きくなり、ミトコンドリアは大幅に増殖しました。酸素消費量を測定したところ、添加からわずか1~2日で約3倍、1週間には約10倍ものエネルギーを産生していることが確認されました。
さらにマウスを用いた経口投与試験では、腸管吸収率がほぼ100%であることを立証。マイトルビンを1ヶ月間飲ませたマウスでは、精子中のミトコンドリアが2週間で2倍以上に増え活性化しました。これは、マイトルビンが腸管から吸収され、全身の組織で作用している証拠と言えます。

また、マイトルビンは血液脳関門(BBB)を通過して脳に到達することも確認されており、現在はアルツハイマー病やパーキンソン病の治療薬としての研究も進行中です。ほかにも、骨格筋・心機能の改善、糖尿病、難聴、認知症といった多様な組織・病態に対する改善データが相次いで寄せられていると語りました。

マイトルビンがミトコンドリアを効率的に増やせる理由は、「ミトコンドリアDNAの複製メカニズム」のスイッチを入れる点にあります。投与から約12時間でミトコンドリアDNAの複製と転写が急速に活性化しますが、このスイッチを阻害するとマイトルもミトコンドリアも増加しません。
通常、ミトコンドリアDNAには過剰な複製・転写を防ぐ「グアニン4重鎖(G4)」と呼ばれるストッパーが存在します。マイトルビンはこのG4構造に働きかけてストッパーを解除するためのスイッチを押し、複製と転写を一気に駆動させるメカニズムを持つことが判明しました。

柳氏は現在、スイッチONの後に作動する詳細な「ミトコンドリア増加シグナル」や、生理的なG4構造の解除メカニズムの解明に取り組んでいます。ミトコンドリアから核へのシグナルに関する研究も進行中で、これらを標的としたスクリーニング手法についても特許出願を進めていると言います。
こうした「高品質なミトコンドリアを増やせる」という研究成果を社会実装するため、大学発ベンチャーである株式会社マイトジェニックでの事業展開も開始。天然由来のマイトルビンを高濃度で含む食品の開発に成功し、現在は安全性(毒性)試験の段階に入っていると報告しました。

最後に柳氏は、筋力低下や代謝低下、認知機能の衰えといった症状とミトコンドリア機能低下との因果関係について、まだ社会的な認識が十分に形成されていない現状を指摘しました。
とりわけ日本においては、ミトコンドリア研究における若手育成や研究基盤・資金面での課題が多く残されています。こうした現状を踏まえ、特許技術に基づくミトコンドリア活性化スクリーニングシステムを活用した共同研究への積極的な参画を広く呼びかけ、講演を締めくくりました。















