信号を渡りきれなかった25歳。挫折という“ギフト”から始まった――ヨガティーチャー・梅澤友里香さんが語る、心と身体を“つなぐ”というウェルネスの循環

ヨガ(Yoga)の語源は、サンスクリット語の語根「yuj(ユジュ)」。「結ぶ」「つなぐ」「結びつける」といった意味を持ち、心と身体、自分と他者、そして自分自身とのつながりを大切にするヨガの思想にも通じています。ダンサーとして活動していた25歳のとき、ケガによる挫折をきっかけにヨガの道へ進んだヨガティーチャーの梅澤友里香さん。

自分を救うために始めたヨガが、やがて誰かの力になっていく。そんな実体験を軸に、梅澤さんが日々実践し、多くの人へ届けようとしているウェルネスのかたちを伺いました。

「ありのままの自分でいい」——挫折の先に見つけた、心と身体のつながり

梅澤さんが初めてヨガに出会ったのは、ホットヨガが流行り始めた高校生のとき。当時熱中していたダンスの柔軟性を高められそうと興味を持ったのがきっかけでした。
汗をかいてスッキリする感覚や伸びの良さを感じつつも、料金面から「たまに行く」程度でしたが、途切れる事はなく続け、20歳過ぎた頃には1つ資格も取得していました。
本格的にヨガと向き合ったのは、25歳のころ。突然訪れた身体の不調がきっかけでした。
「ケガしてしまって、うまく歩くことができなくなりました。25歳の若者が普通の長さの横断歩道を青信号のうちに渡りきれなかったのです」
短大卒業後は、プロのダンサーを夢見て活動していた梅澤さん。少しずつ仕事が増えてきた矢先の出来事でした。検査をしても骨に異常はなく、原因不明のまま日常生活すら困難な状態に追い込まれたといいます。
「ダンサーの仕事を受けることができなくなり、強制的に夢を手放さなくてはいけない環境におかれました。その時は、心身ともにボロボロでしたね。それでも『自分でどうにかしなければ』と思い、ヨガを本格的に学ぶことにしたのです」

ヨガを始めたころの梅澤さん。現在は「強く美しくしなやかに」をテーマに内側から健康に輝く生活に馴染むヨガライフを伝えている

そうして通い始めたレッスンで、ヨガの先生から掛けられた言葉が、梅澤さんの人生の転機となります。
「先生から、『そのままのあなたでいいんだよ』と言っていただいた瞬間に、涙が止まらなくなりました。その時に初めて『私はもう十分に頑張った。もう頑張らなくていい』と思うことができたんです。スッと肩の力が抜けた感覚でした。
『ダンサーになる』という夢への執着を手放したことよりももっと深く、生きることに対して、『そこまで必死に頑張らなくてもいいんだ』と思うことができました。
そのおかげで、いまの自分が元気でいることにフォーカスできるようになり、色々なことを許せるようになったのです。そこから身体も素直にいうことを聞いてくれるように。ヨガに出会い、心と身体がつながっていることを身をもって知りました」
ヨガへの造詣を深める中で、その繋がりをより具体的に実感する体験もありました。
「理学療法士としても活動するヨガの先生に身体を見てもらったとき、『こういう姿勢になるのに思い当たることはない?』と言われました。日常生活の癖だけではなく心の癖まで見透かされたようで少し恥ずかしいような気持ちになりましたが、身体を見るということは心の状態を見る事にもなるんだな、と気づかされました」

世間や他者から与えられた価値観を手放すことで生きやすくなった

Summer Evening Yoga|8月毎週土曜18:30~19:30を東京・表参道の青山ファーマーズマーケットで開催

もともとは、ボロボロになった自分自身を立て直すために始めたヨガ。ですが、いつしかそれは、悩みを抱えた誰かの心に寄り添う力へと変わっていきました。
「ヨガのレッスンに来てくださる生徒さんは、何かしら悩みや不安を抱えて来られる方がほとんどです。私自身も過去に辛い経験をしたからこそ、そういった方々の気持ちに共感し、寄り添うことができるのだと思います。
そう考えると、当時は『なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないんだ』と思ったこともありましたが、今となっては、あの経験はギフトだったと思えます。
ヨガを始めるきっかけになり、自身の経験を通して人を元気づけることができる。ヨガの先生になってから、ありがとうと言ってもらえる機会がすごく増えました。こういう機会を与えてもらったと思っているので、使命感をもって日々向き合っています」
ヨガは、他者とのつながりをもたらしてくれただけでなく、梅澤さん自身の生き方をも変えていきました。

青山ファーマーズマーケットで初めてヨガを行ったのは2018年。100人が集まる大規模イベントになったと話す梅澤さん

「私にとってヨガは、忘れていた自分を取り戻してくれるものです。ヨガに出会う前は、若かったこともあり『自分がどうありたいか』よりも、『こう見られたい』と他人の目ばかりを意識して、自分自身ときちんと向き合えていなかったように思います。
ヨガを通して世間や他者から与えられた価値観を手放していくことで、改めて自分が本当に好きなものも、手放したいものも、はっきり見えました。余計なものに振り回されなくなったおかげで、とても生きやすくなりましたね」

身体は「魂の祭壇」——生産者とつながることで見えてくるもの

梅澤さんのウェルネスを広める活動は、食とも深く結びついています。自身もベジタリアンの実践を10年以上続けており、さまざまなプロデュースやコラボ企画も手がけています。その背景を、梅澤さんはこう話してくれました。

農業高校出身で、畑などを見ることが好きだと話す梅澤さん。ソイプロビューティの企画で長野のほおずき畑を訪れたり、ファーマーズマーケットで買い物を楽しんでいる

「もともと虚弱体質で、胃腸もすごく弱いんです。子どものころは周りの大人に『食べないと元気にならない』といわれ、頑張って食べたら帰り道で気持ち悪くなって…ということもよくありました(笑)。だから、食べた次の日の自分をよく観察し、自分の身体に合うものを丁寧に探っていったら、ベジタリアンであることが自分にあっていて、心地よく過ごせることに気づけました」

ヨガを実践する人にベジタリアンが多いのも、こうした感覚と深く結びついています。ヨガの根本哲学には、他者も自分も身体的・精神的に傷つけないとする「アヒムサ(非暴力)」という教えがあります。

肉食を避ける背景には、命や世界に対して優しくあるという考えに加え、消化に負担のかかる食事を控えることで身体を慈しみ、瞑想に集中しやすい状態を保つという意味合いもあります。自分にとって健やかな食を選ぶ姿勢そのものが、ヨガの実践なのです。

ヤマ=禁戒・倫理的な自制

ヤマとは、他者や社会との関わりの中で守るべき、5つの倫理的な慎みです。
衝動や欲望に流されず、自分の言葉・行動・思考を整えるための約束といえます。

1.アヒムサ(非暴力・非加害)
他者や自分を傷つけないこと。
身体的な暴力だけでなく、言葉、態度、思考によって害を与えることも含みます。

2.サティヤ(真実・誠実)
嘘をつかず、誠実に生きること。
他者を欺くだけでなく、自分の本心をごまかしたり、事実を都合よく曲げたりすることも慎みます。

3.アステヤ(不盗)
与えられていないものを奪わないこと。
物だけでなく、他者の時間、功績、機会、信頼などを不当に奪うことも含みます。

4.ブラフマチャリヤ(節制・欲望の適切な管理)
欲望や快楽に支配されず、節度を保つこと。
性欲だけでなく、食欲、物欲、刺激への依存などをコントロールし、自分のエネルギーを適切に使います。

5.アパリグラハ(不貪・非所有・執着しない)
必要以上に求めたり、蓄えたり、しがみついたりしないこと。
物、地位、評価、人間関係、過去の経験などへの過度な執着を手放します。

そんな梅澤さんが、食への向き合い方を語るうえで今も大切にしているという言葉があります。
「『自分の身体は魂の祭壇だと思いなさい』と言われたことがあるんです。その祭壇にジャンクフードをわざわざ置く?って(笑)。果物とか、新鮮で身体が清められていくようなものを置くでしょうって。それぐらい自分の身体を大切に扱いなさいということですよね。その言葉がすごく印象に残っていて、食事を選ぶときの軸になっています。

青山ファーマーズマーケットは昔から頻繁に通っていると話す梅澤さん

だから、青山ファーマーズマーケットのように、作り手がどんな方なのかが見えて、直接話せる場所がとても好きです。
あるご夫婦は、自然栽培の畑をされているのですが、夫婦喧嘩をしたときには絶対畑に入らないようにしているそうです。土や微生物に悪い気が伝わってしまうからって。それぐらい愛情を込めてやっている人たちの野菜って、いいに決まってるじゃん!って思いませんか(笑)。そういう人たちとつながれるのは、人生にとって本当にいい経験だなと思っています」

日常のレッスンからリトリートまで。「いい体験」を届け続ける

現在の梅澤さんのヨガレッスンは、スタジオでのレギュラークラスからオンラインサロン「巡サイクルヨガ online」、国内各地でのイベント、そして奄美大島での年1回のリトリートまで多岐にわたります。

奄美大島ヨガリトリート2026は11月6日(金)~8日(日)に開催予定

「スタジオのレギュラークラスには、毎週積み重ねていきたいという方たちが集まっています。3年前に聞いた言葉と今聞いた言葉が同じでも違うふうに感じた、という変化や成長を何か持ち帰ってほしいと思っています。
でも、イベントなどで初めてヨガをする方には、まずとにかく楽しかったという体験を記憶に残してほしいと思っています。食べ物でも、美味しかったものは明日も食べようってなるけど、具合悪くなったらもう2度と食べないってなっちゃうじゃないですか。だから、ヨガでもなるべくいい体験を残していきたいなと思っています」
普段の忙しい生活の中では、なかなか自分自身を取り戻すことが難しいもの。だからこそ梅澤さんは、非日常の環境で強制的に心をニュートラルへ戻す場として「リトリート」を大切にしています。
「自然の中で瞑想をすると、心が深く静まり、本来の自分を取り戻しやすくなります。自分を変えたい時に一番効果的なのは、思い切って『環境を変えること』。数日間でも非日常の空間に身を置き、朝日とともにヨガをするような体験を通して、心身をしっかりとリセットしてもらえたらと思っています」
一方で、誰もがすぐにリトリートへ行けるわけではありません。梅澤さんは「遠出ができなくても、日常のささやかな変化から始めればいい」と優しく背中を押してくれます。
「小さなことから始めればいいんです。『週に1回ビールを休んでみる』『ファーマーズマーケットで良いお野菜を買って料理してみる』、そうした小さな一歩の積み重ねが日常の気づきとなり、新しい自分との出会いへとつながっていくと思います」

「好きに素直でいること」――それが、ウェルネスの入り口

私たちが心地よく、ウェルネスな状態で日々を生きていくために大切なことは、「自分の『好き』に素直になること」から始まると梅澤さんは話します。
「世間が良いと言ったものではなく、自分が心から好きと思えるものに気づいてあげること。『本当に自分が好きなのか、それとも誰かが良いと言ったから好きなのか』を見つめ直して、素直な気持ちに自信を持つことです。
私自身、子ども時代に身体が弱く室内で過ごすことが多かったこともあって、アニメや漫画、『ドラゴンボール』が大好きなんです。それは私の大切なアイデンティティですし、隠す必要も変える必要もありません。『寝るのが好き』『食べることが好き』何でもいいんです。自分の『好き』と丁寧に向き合い、心が素直に喜ぶ選択を生活の中にたくさん取り入れていくことが大切です」

「私は幸せになっていいんだ」というマインドを大切にしてほしいと話す梅澤さん

世間の正解や誰かの基準に頼るのではなく、自分の「好き」を満たして自分で自分をご機嫌にしてあげること。そうやって心を満たし、自分を愛してあげるプロセスこそが、ウェルネスの真髄なのだと梅澤さんは語ります。
「ヨガを始めた頃に『そのままでいいんだよ』と言われて救われたように、『今の自分のままでいいんだ』と認められた瞬間、人は日常の中にあるささやかな幸せを感じられるようになります。
もちろん、現実の日常や仕事とも向き合っていかなければいけません。完璧を目指すのではなく、日々の生活と自分自身との『良い折り合い』を見つけながら過ごしていく。自分にとって心地よいバランスを探していくことこそが、無理なく私らしく生きるための鍵なのだと思います」
心と身体、自分と他者、そして食と生き方。「つなぐ」という古代の言葉が示す通り、梅澤友里香さんは今日も、ヨガを通じてそのつながりを一人ひとりに届けています。

撮影協力/青山ファーマーズマーケット

取材・文/佐々木ひとみ 撮影/恒松弘匡

梅澤友里香 さん プロフィール

ヨガティーチャー・ウェルネスライフアドバイザー
ダンサーとして活動後、ケガを機にヨガの道へ。「強く美しくしなやかに」内側から輝く心と身体作りを軸に、ヨガ哲学・アーユルヴェーダ・機能解剖学の知識を取り入れた分かりやすい指導には定評があり、老若男女問わず支持される。身体と心に嘘をつかないアーサナで、それぞれの体質や心に寄り添い、人生そのものである「生きるヨガ」を提案。大規模イベントや全国各地でのWS・厚生労働省主催イベントでも講師を務めるほか、監修やプログラム開発、各メディアへの出演も多数。

HP:https://yurika-umezawa-yoga.com


ウェルネス総研レポートonline編集部

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