【サイエンス】口腔と腸の繋がりはヒトの健康にとって「極めて重要な要素」

炎症性腸疾患(IBD)などの症状発症に、口腔と腸の細菌叢が大きく関わる可能性が、アラブ首長国連邦のレビュー研究で示唆された。

クローン病(CD)や潰瘍性大腸炎(UC)などのIBDは、消化器系の炎症を繰り返すという特徴を持ち、下痢、腹痛、消化器官からの出血といった症状がある。IBDや肥満、糖尿病などの疾患に、ディスバイオシス(腸内細菌叢のバランス異常)が関連するというエビデンスが続々示されており、口腔を含む消化器官の細菌叢と疾患との関連性に、以前にも増してスポットライトが当たっている。

アラブ首長国連邦大学研究チームによると、口腔の衛生改善など、口腔の細菌叢に的を絞るアプローチにより、腸内細菌叢を調節してIBD症状を改善できるという。ただ、IBDの正確な原因はかなり 複雑なため、細菌叢の関与やその作用についてはまだ確定的ではない。

IBDと口腔・腸細菌叢の関係を深く理解することで、一人ひとりに適したアプローチを形成すること が可能となる。さらに、ラクトバチルス、ビフィドバクテリウムなどのプロバイオティクスや、短鎖脂肪酸 (SCFA)を含むポストバイオティクスが、口腔や腸内細菌叢の調節を通して、IBD管理の有効な対策となることが考えられるとしている。

研究チームは、IBD患者の腸生検でフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum) を含む病原性口腔内細菌が同定されたことから、腸内細菌叢と口腔内細菌叢のディスバイオシスが IBDの発症の原因のひとつとして重要な役割を果たしている可能性を強調するエビデンスに注目した。IBD患者の唾液サンプルで、総合的な細菌叢の多様性が低下していることも報告されている。また、プロバイオティクスが炎症誘発性サイトカインの発現を低下させ、ポストバイオティクスである短鎖脂肪酸(SCFA)の生成を促して症状が改善したという報告もある。

研究者は「SCFAは、IBDの最も有望な補助治療で、UCの治療においても、SFCAの酢酸、プロピオン酸、酪酸が単独または混合で使用されている。IBDの予防戦略として、歯周病治療など口腔の衛生管理に力を入れ、腸内細菌叢のバランスを保つことが推奨される」と語った。本レビューはNutrientsに掲載されている。

「GNGグローバルニュース 2023年8月25日号」より

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